LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #13

 
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Profile

堀 敬香(ほり けいこ)氏

特許事務所勤務 弁理士  

1985年6月生まれ。2008年、法政大学国際文化学部国際文化学科卒業。2010年、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了後、衆議院議員事務所に就職。その後、2011年に都内の国際特許事務所へ転職し、外国特許事務を担当した。育休中に弁理士資格の試験勉強に励み、2018年に合格。2019年3月から現職。2児の育児と家事に奮闘しながら、新人弁理士として研鑽を積む。

【堀氏の経歴】

2010年  24歳 大学院修了後、衆議院議員事務所に就職。
2011年  26歳 国際特許事務所(前職)に転職。
2015年  29歳 長女を出産
2016年  31歳 次女出産後、育休中に知的財産管理技能検定2級合格。弁理士資格取得をめざし勉強を始める。
~2017年
2018年  33歳 育休復帰後、弁理士の資格を取得。
2019年  34歳 特許事務所に転職し、弁理士としてのキャリアを歩み始める。

母親が輝くことが、子どもたちの幸せに。
弁理士資格に挑戦し、やりがいと働きやすさを手に入れた。

 理系大学出身者や元技術者の男性が多い弁理士の世界で、文系出身の女性は少数派です。2児の母である堀敬香さんは昨年、弁理士の資格を取得し、今年3月から都内の国際特許事務所で新たなキャリアをスタートしました。育児をしながら資格試験に挑戦するのは容易なことではありません。堀さんを支えてくれた言葉や、資格取得後の変化、今後の目標をうかがいました。

「勉強できることはありがたい」その一言に背中を押された

 弁理士は知的財産権(以下知財)のエキスパート。特許権や実用新案権、商標権、意匠権などの権利を取得したい人のために、特許庁への手続きを代理で行います。学生時代には語学留学の経験もあり、英語が得意な堀さんは、前職の国際特許事務所で弁理士のサポートをする外国特許事務を担当していました。約7年間在籍しましたが、合わせて3年ほど2人の子どもの妊娠・出産・育児のため休職していた期間があります。「周囲への申し訳なさと、復帰しても時短では任される仕事が限られ、ステップアップも望めないのではないかという不安が、弁理士の資格試験の勉強を始めようと思った理由の一つでした」

 受験の直接的なきっかけとなったのは、次女の育休中に知的財産管理技能検定2級に合格したことでした。「次は1級を受験しようかとも考えましたが、合格しても自己満足で終わってしまうかもしれない。それならいっそ弁理士を目指そうと思ったのです」。しかし、2人の育児をしながら試験に挑戦する自信がなく、迷っていた堀さんの背中を押してくれたのが、信頼しているインターネットで受講している英会話学校の米国人講師でした。「合格率が数パーセントと難しく、勉強する時間もない」と話すと、「数パーセントでも受かる可能性があるなら、やってみればいい」と諭され、できない理由を並べている自分に気づきました。「世界的に見れば、貧しい人の方が圧倒的に多い。そもそも『勉強したい』と思える環境にあるのは、ありがたいことなんだという先生の言葉が胸に響きました」

 家族の応援もあり、堀さんはTACのWeb通信講座に申し込みました。覚悟はしていたものの、子育てと勉強の両立はハードでした。夜、寝かしつけてから勉強しようとすると、娘は目を覚まして泣き出します。「どうして起きるの?ってイライラして、夜泣きをする娘をおぶってあやし、泣きながら過去問を解きました」

 5月、試験直前に育休を終え職場復帰した堀さんは、仕事と子育てをしながら勉強を続け、短答式試験に合格。「仕事をしながらもう1年勉強するのは厳しい。もう後はないという気持ちで臨みました」。その後、論文式試験、口述試験を乗り越え、11月に合格が発表されました。

 堀さんは、かねてから特許の分野で弁理士として活躍したいと考えていました。ところが、試験に合格したことを会社に報告し、異動を願い出たものの希望は通らず、将来的に叶う見通しも立ちません。落ち込んでいる中、弁理士試験合格者を集めた実務修習に参加した堀さん。帰り道に、文系出身ですでに商標の実務をしている女性に仕事のやりがいを聞いて、考えが変わりました。「商標は身近で面白いと話す彼女を見て、特許にこだわって異動のチャンスをただ待つより、今動いたほうが自分のためになるだろうと、帰宅してさっそく転職活動を始めました」

努力は裏切らない。資格取得で明るい未来が開けた

 2ヵ月後、堀さんは現在の特許事務所に転職。ウェブサイトで2児の母であり弁理士として活躍している女性が紹介されていたことが応募のきっかけでした。入社後は、意匠・商標部門に配属されました。堀さんを含めて女性ばかり5人の部署で、全員が弁理士です。「かっこいい先輩ばかりで、中でも20歳ほど年の離れた先輩は、知識が豊富でどんな質問にも的確に答えてくれて、女性としての魅力もある憧れの人です。目標とする人が近くにいるのは、ありがたいです」

 直接クライアントの対応をする機会はまだないものの、「前職のようなサポート役ではなく、自分で考えて提案できることがとても楽しく、やりがいがあります」と言います。「技術的に黒か白か明確に結果が分かれる特許と異なり、意匠や商標は弁理士が作成する意見書の書き方次第で全く違う結果になる可能性もある。そこに面白さを感じます」。理系大学の出身者や元研究者が多い弁理士の世界で、堀さんは英語力で勝負したいと言います。「知財の問題は国内で完結することはほとんどありません。世界でどう展開していくのか、先を見据えて分かりやすくアドバイスできる弁理士になりたいです」

 社内には子育てをしながら働く女性弁理士も多く、在宅勤務の制度も整っています。今は定時で退社し、帰宅後は家事と育児に追われる忙しい日々ですが、「とても充実している」と言います。「母親が楽しく仕事をして輝いていると、娘たちも幸せになれるんじゃないかな。私が明るい気持ちになれたことが、家族にもよい影響を与えていると信じています」

 スポーツ観戦が大好きだという堀さん。「勝敗は一瞬で決まりますが、見えないところで誰よりも練習し、努力したからこそ得た勝利なのだと思います。資格試験も同じ。私もつらかったけれど、資格を取ったことで可能性が開け、今は明るい方向に進んでいます。努力はきっと裏切らない。だから今、目標や夢に向かい、つらい思いをしながら懸命に取り組んでいる方には、未来を信じて、あきらめずに頑張っていただきたいです」

[TACNEWS 2019年9月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]