日本のプロフェッショナル 日本の会計人

松本 メル(まつもと める)氏
松本メル税理士事務所 代表
税理士
1992年、横浜市神奈川区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。在学中から税理士事務所でアルバイトを始め、その後、複数の税理士法人にて勤務。2021年6月、税理士登録し松本メル税理士事務所を設立。株式会社スリーウェイズ代表取締役、一般社団法人相続終活サポート協会理事、一般社団法人シニアライフカウンセラー協会監事。
28歳で独立開業。相続に特化した税理士だけでなく、
夫との不動産会社経営、そして子育てに全力で取り組んでいます。
神奈川県横浜市で28歳にして独立開業した税理士の松本メル氏。そのきっかけは夫の独立開業にあった。一緒に不動産会社を経営し、終活に関わる事業を行い、税理士として相続税に特化した展開をみせている。そのような松本氏に税理士になったきっかけから、受験時代、勤務時代、そして独立開業の経緯と今後の方向性、さらに実務と子育ての両立などについて詳しくうかがった。
彼氏の勧めで税理士をめざす
資格取得をめざすきっかけは人それぞれだ。神奈川県横浜市で税理士として活躍する松本メル氏が税理士をめざしたきっかけは、どのようなものだったのだろうか。
「大学2年生の冬、彼氏(今の夫)に『君のようなタイプは税理士をめざすといい』と言われたことがきっかけです。当時の大学3年生は就職活動の時期。漠然と自分が大企業に入るイメージが持てず、就職活動に違和感を覚えていました。そのころ、夫は積水ハウス株式会社に勤務しており、新卒採用に関わることもありました。仕事はTKC(会計事務所向けシステムを提供する団体・企業グループ)会員の税理士との連携部門。普段から税理士と一緒に仕事をする機会が多く、私が税理士に向いていると感じたようです」
早速、大学生協にあるTACなどのパンフレットを見ると、税理士試験は科目合格制度で5科目に合格すればいい、とある。何となく取得しやすいのではないかと思い、受験勉強をスタートした。
「簿記も知らないし、『貸借って何?』というところからでした。最初は日商簿記検定3級を勉強して、税理士試験の簿記論と財務諸表論の勉強を始めました。ただ、学生時代はアルバイトをしてお金を貯めては旅行に行くの繰り返しでしたので、受験しても不合格。振り返ってみると、よくわからないままに勉強していて、そこまで身が入っていませんでした」
実務と受験の両立、そこに育児が加わる
大学4年生の8月に結婚した松本氏は、会計事務所のパートタイマーを始め、大学卒業後もそのまま働いた。
「実際に会計事務所で働き、実務を経験すると興味とやる気が出て、基礎からもう一度勉強しました。そのおかげで大学を卒業した年に簿記論と財務諸表論に合格し、翌年は消費税法に合格しました。実は、消費税法を勉強していた卒業2年目の5月に娘を出産しています。妊娠中はずっと消費税法の勉強をしていました」
実務と受験を両立させていた松本氏の生活に、出産を機に育児が加わった。
「生まれてすぐの赤ちゃんは寝てばかりで動きませんので、受験勉強ができました。でも、だんだんと動くようになって、寝ている時間が減ってくるとこれ以上、受験勉強を続けるのはしばらく無理だと思い、1年間受験勉強をお休みしようと決めました。ですから消費税法に合格できたのは奇跡的です。直前期に出産、初めての育児、よく合格できましたね」
消費税法に合格したことは、松本氏のその後の受験方針に大きな影響を与えた。育児のため1年間のお休み後、松本氏は大学院に進学した。
「消費税法に合格していたからできた選択です。実際には法人税法と所得税法を勉強するつもりで、法人税法は少し勉強してみました。ただ、そのボリュームと年1回の本試験は、自分にはリスクが高いと思いました。5科目合格も大切ですが、私の場合は1日も早く税理士資格を取得することを目標にしており、潔く気持ちを切り換えました」

夫の独立とともに、28歳で税理士として独立開業
学生時代からパートタイマーとして働き始めた会計事務所に、1年間の産前産後・育児休業を経て復帰。復帰半年後には正社員となり、担当も持つようになった。
「勤務当初は申告書の印刷などの雑務から始めて、会計入力など基礎をひと通り学ばせてもらいました。この会計事務所には都合5年間勤務させてもらい、担当も持ちました。その間、大学院に通ったことで様々な税理士法人や会計事務所に勤務している方と知り合い、多様な法人や事務所があることを知りました。いずれは独立開業したいという思いもあり、他の事務所を見たほうがよいと思って退職し、いくつかの税理士法人に勤務しました」
勤務したのは法人顧問をメインとする事務所で、相続税申告は1件しか経験しなかったと、松本氏は勤務時代を振り返る。
「2020年6月、私がこのまま勤務を続けるかどうか悩んでいるとき、夫が積水ハウスをやめて自分で不動産会社を始めました。夫が会社を始めてみたら想像以上に忙しくなり、それなら覚悟を決めて一緒にやろうと、その年の10月から私も一緒に不動産会社の仕事を始めました」
不動産会社の仕事と同時に、松本氏は税理士登録の準備も行った。
「2021年6月に税理士登録を済ませ、28歳のとき、松本メル税理士事務所をスタートしました。実は夫が始めた不動産会社、株式会社スリーウェイズの代表取締役は私で、取締役社長が夫です。夫は宅地建物取引士、FP(ファイナンシャル・プランナー)、賃貸不動産経営管理士の資格を持っています。
私が代表取締役を務めているのは、代表が税理士という信頼感、そして、不動産はときに相続税や譲渡所得税が関わるからです。実際に相続税申告から相続不動産の売買、その後の譲渡所得税の申告など、不動産会社のお客様のサポートもしています」
終活をサポートする「めーぷる」を運営
松本氏の夫、松本直之氏は不動産会社設立にあたり、不動産取引だけでなく、終活や老い支度に関するコンサルティングを事業として考えていた。この内容は税理士である松本氏が相続に関する業務を担うことで大きな相乗効果を発揮する。
「当初は不動産会社の一部門だった終活に関わる部門を独立させ、一般社団法人相続終活サポート協会を設立し、高齢者の日常生活支援や身元保証、死後委任事務などの業務を行っております。また、『シニアライフ相談サロンめーぷる』反町店(税理士事務所)とMEGA ドン・キホーテ横浜元町店(不動産会社)の運営をしています。そして、『めーぷる』の運営元である一般社団法人シニアライフカウンセラー協会を、夫や私だけでなく、多くの士業、関連業の皆さんと設立しました。現在『めーぷる』は、北海道から沖縄まで約140店あり、その加盟店の運営を士業や不動産会社、関連業の皆さんが担っています」
「めーぷる」では、高齢者の身元保証の引き受けから入退院時の対応、財産管理、認知症などで判断力が低下した場合の後見人の受任、万一の場合のエンディングサポートなど、様々なシニアライフ・終活をサポートし、日常の買物代行などのサポートも行っている。
「先日、死後事務委任契約を結ばせていただいた方が亡くなり、ご家族がいませんので施設からうちに連絡が来て、生前に契約していた葬儀社でお葬式を挙げ、その後の手続きまで行いました。相談に来られるのは70〜80代でお元気な方がほとんどです。ただ、おひとりなのでいずれ入院、施設入居といった際、身元引受人となるご家族がいないと入れませんので、そのためにご契約いただくケースがほとんどです。また遺贈寄付をお考えで遺言作成をお手伝いした場合、当法人が遺言執行人になりますので、いろいろな手続きをこちらでやらせていただき、相続税の申告を私が行うようになります」

法人顧問から相続専門にシフト
現在は様々な展開を重ね活躍の場を広げている松本氏だが、税理士事務所はどのようにスタートしたのだろうか。
「夫の独立をきっかけに、私も独立しました。独立は40代でと思っていましたので、10年以上早かったですね。正直なところ、最初は右も左もわからずに、交流会に参加して集客をしていましたが、税理士になりたての若手税理士に依頼はほとんどありません。でも、少しずついただくご依頼に、きちんと取り組みました」
こうして松本氏は法人顧問をしながら、不動産会社で始めた「めーぷる」の展開に注力してきた。現在は、毎週のように「めーぷる」の相談会を実施している。
「老後に不安を抱える方からいろいろなご相談を受け、死後事務委任契約を結ぶ方、相続税の生前対策や相続税申告の依頼をいただくなど、相続税関連の仕事が増えてきました。自分でもこちらのほうが楽しいと思うようになり、独立当初の法人顧問からシフトしています。
また、女性税理士で相続をする方はまだ多くないと感じています。平均寿命は男性が短いので、一次相続はご主人が多い。するとお母さんが残されて娘さんと暮らしていると、そこに男性の税理士が来るのはちょっと抵抗がある、という方が少なくありません。そうした意味でも相続をする女性税理士は歓迎されます」
実は独立当初、夫と不動産会社をやっていることから、松本氏は「不動産に特化した税理士」と謳っており、不動産会社の顧問が少し多めだったという。不動産会社の特徴のひとつとして、不動産取引に必要な資金調達のため、金融機関から融資を受ける回数が他業種と比べ多く、そのためすぐに試算表が欲しいという依頼が頻繁にあった。
「相続関係は土日に動くことが多く、会社は平日に動いているので、私はいつ休めばいいのか、となってしまいます。仕事のサイクル、時間軸が異なる案件を同時進行で行うと、どうしても私と税理士事務所に負担がかかります。これではよいサービスを提供できないと感じ、2024年から資産税特化の税理士にシフトしています」
税理士事務所7割、不動産会社2割、「めーぷる」1割
松本メル税理士事務所のスタッフは松本氏以外に3名おり、相続をメインに行っている。現在、同じビル内に2フロアを賃貸し、1フロアが税理士事務所と「めーぷる」反町店、もう1フロアが「めーぷる」の運営元事務局の事務所として使用している。「めーぷる」には介護の初任者研修を終えた2名の専門スタッフが在籍。また、夫と経営している不動産会社には専任の宅地建物取引士がおり、YouTubeなどの広告媒体の編集なども行うWeb関係のスタッフ、そして「めーぷる」MEGA ドン・キホーテ横浜元町店の店舗運営スタッフも数名いる。
松本氏の活動は税理士事務所が7割、不動産会社が2割、「めーぷる」が1割の割合だという。
「不動産会社は不動産取引の扱い金額が大きいので、きちんと私自身が関わらなければならないと考えています。『めーぷる』の仕事では、知識としては広く浅く、お客様に安心を与える会話ができることが大切になります。そこに関しては専門スタッフにある程度の対応は任せることができています。 税理士や不動産は資格があっての業務なので、責任は資格を持つ人にかかってきます。ですから最後は、私が内容をきちんと把握している状態にしたいと考えており、ましてや申告書の内容を自分が把握できないのは嫌だと考えています」
業務の伸びを考えると、税理士法人化してスタッフを増やす方向性も考えられる。
「法人化も選択肢のひとつですが、今のところは自分が見られる範囲でやっていきたいと考えています。キャパシティが決まってしまうこともわかっていますが、AIなどを活用してできる限り効率化してやっていきたいですね」
娘との時間を優先したい
会計事務所、不動産会社、「めーぷる」とマルチに活躍する松本氏には、母としての顔、子育てという側面があることを忘れてはいけない。
「娘はいま小学校3年生です。実家がとても近くにあり、両親はリタイアしていますので、週1〜2回は手を借りています。土日のうち1日は相談会が入っていて、丸1日家にいられることは少ないんです。娘との時間はかなり貴重なので、優先すべきだと考えています。とはいえ、娘に安定した生活を届けるには、ある程度は仕事をして稼ぐことも必要です」
子育てとの両立の難しさを語る松本氏。自社開催の説明会の際、実家にサポートを頼めないときは、娘さんをバックヤードに連れてくることもあるという。
「そういった融通が利くことも自分が独立しているメリットだと思います。また、家事などで自分がやらなくていいことは、家事代行に依頼しています。優先順位としては、娘との時間。そして、ちゃんと仕事をして稼ぐことの2軸。その足かせになるところにはお金を支払って、時間を作るようにしています。
最近実感しているのは、誰でも1日は24時間しかないということ。自分がやりたいことに時間をいかに作るか、そこに集中しています」
税理士である私を売っていく
勤務時代、相続税申告の経験は1件だけという松本氏は、どのようにして相続の知識を身につけたのだろうか。
「TKCを始めとした資産税系の研修にはかなり時間とお金を使っていますし、今後も継続して研修を受けていきます。また、偶然親しくさせていただいた税務署資産税課OBの税理士が、とても信頼のおける方なので、顧問契約を結んでもらいました。毎月一定額をお支払いして、疑問や質問に答えてもらったり、取り決めた時間内であれば、相続税の実務をお願いしたり、スタッフ研修などもしていただいています。相続税の経験が少ない状態でスタートしたことは、自分がよくわかっていますので、自身で学ぶことはもちろん、リスクヘッジも必要で、そのための顧問契約です。同様に不動産の評価も専門知識と経験が必要な分野ですので、評価が難しいと感じる案件は、信頼できる不動産鑑定士や税理士に依頼しています」
松本氏自身、税理士であると同時に経営者である。経営者でありたいという思いも強いと本人は話している。
「税理士事務所も個人事業主とはいえ経営者ですから、利益はもちろん追求しなければなりません。今は個人としてできるところまでやっていく考えです。そのために税理士である私を売っていく展開が必要と考え、YouTubeでの発信に加え、新しくTikTokも始めます」
「めーぷる」で扱う死後事務委任契約、独身の高齢者のサポート、それに関連した遺言状の作成などの業務は、時間の関係で自身はあまりタッチできていないという。限られた時間を有効に活かすためだが、将来的には行政書士登録をして、遺言書の作成などに携わることも考えたいという。

税理士は女性にすごく向いている資格
夫の勧めで税理士を取得した松本氏は、税理士資格をどのように感じているのだろうか。
「取得してよかったと考えています。ただ、税理士だけでなくいろいろ幅広くやっているから、よかったと感じているのかもしれません。それに税理士は女性にとても向いている資格だと思います。先にお話ししたように女性相続人の依頼者は、やはり女性税理士だと安心とおっしゃる方が多いです。
また、独立して自由に働くことができます。SNSを見ても子育てと家庭、仕事を上手く両立している女性の税理士が増えている印象があります。例えば、ご自身の働く時間帯などを決めて集客すれば、それに合わせて来てくださるお客様はいると思います。プライベートとの両立はしやすい資格ですね」
プライベートでは娘さんの中学校受験がスタートする。塾の送り迎えや学習のサポートなど、今以上に時間を割かなければならないかもしれない。
「4年後、受験が終わり中学校に進めば、多分、土日は一緒に過ごしてくれなくなるだろうし、部活動を始めるかもしれません。それはそれでさみしいのですが、自分の時間が増えるかもしれないと思うと、楽しみでもあるんです。
私は仕事が好きなので精一杯仕事をしたいタイプなのですが、社会人1年目に妊娠をして2年目に出産し、産前産後・育児休業を経て、勤務時代は短縮勤務か定時退社でした。残業も含め、20代でフルタイムで仕事に打ち込んだ経験がほとんどないんです。なので、がむしゃらに好きなだけ仕事をしてみたいという気持ちもありますね。ただ、あのタイミングで出産をしたことは、結果的にとてもよかったと考えています」
最後に、税理士をめざす方にメッセージをいただいた。
「あきらめてほしくないですね。3科目、4科目であきらめたという話を聞くこともあります。大学院などの選択肢もありますから、あきらめずに続けてほしいです。税理士になると全然違う世界が見えてきますので、ぜひがんばってください」
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年1月 ]
















