タックス ファンタスティック! 第91回テーマ デジタル遺言は日本人の死生観を変えるか?
Part.11 ファミリービジネス編

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。近年、ファミリービジネスへの支援が士業の間で活発になってきている。ファミリービジネスの定義は様々だが、以前であれば「同族企業」と呼ばれていた、ファミリーが経営・オーナーを担う企業を指すことが多い。もっとも、昨今のニュースを見ていると、ファミリービジネスのメリットだけでなく、デメリットや課題も目につきやすい。その結果、ガバナンス策定に関する支援ニーズが高まり、それと連動する形で「遺言を書く」相談も増えてきている。


監 子 あー、ユーウツ!もうすぐ繁忙期が来るのよねぇ。


襟 糸 フフフ、監子君、安心したまえ。取らぬ狸の皮算用だ。


監 子 先輩に対して失礼ですが、『何を言っているの?』


襟 糸 デートで予定が埋まりすぎて繁忙期になる、と言っているのだろう? 理由は言わないが、杞憂というやつだ。


監 子 今の社会は昭和・平成じゃないんですよ! その発言アウトです!


襟 糸 円滑なコミュニケーションというやつだ。その意味で配慮がある。


税 太 はいはい、おふたりともそこまで! 税務担当の僕はもう繁忙期に入っているんですから静かにしてください! 監子さん、今の空いている時期に内部統制監査を少しずつ進めたらどうですか?


監 子 あー、そうなのよね。いまいち数字の情報がそろっていないとやる気スイッチが入らなくて。


襟 糸 確か監子君の今見ているクライアントは上場準備前だったな?


監 子 はい。創業者が大きくした会社を息子さんが承継して社長をやっています。ご家族も役員に入っていますが、自社株はすべてお父様が持ったままなんです。それでも「上場したい」ということで、監査をお願いされていて。


襟 糸 内部統制で大事な点は、その家族経営のあたりなのか?


監 子 そうなんです。役員の人事や資産管理会社の問題だと思うんですが、数字の勘定より家族の感情が絡むぶん、監査上のリスク評価がすごく難しいんですよね。


税 太 あ、ということは相続とか遺言の話にもつながりそうですね。最近、ファミリービジネスの相談で遺言の話が増えているって聞きました。


監 子 そうそう。「上場したい」→「じゃあガバナンスを整えましょう」→「そもそも創業者に何かあったらどうするの?」って話になって、遺言の話が出てくるケースすごく多いです。


襟 糸 しかし…遺言なんてまだまだ縁起でもない、という経営者も多いのではないか?


田久巣 ほう、今日は珍しくまじめな話をしているじゃないか。


監 子 代表! ちょうどいいところに。ファミリービジネスの上場準備で、遺言の話がよく出るんですが、これって本当に書いたほうがいいんでしょうか?


田久巣 結論から言うとね。「上場を考え始めた瞬間が、遺言を書く一番いいタイミング」だ。


税 太 え、でも上場するかどうか、まだ決まってない段階ですよ?


田久巣 だから、だよ。上場する・しないに関わらず、「会社をどう残したいか」「誰に何を託すのか」を言葉にする必要がある。それを一番はっきり意識するのが、上場というイベントなんだ。


税 太 つまり遺言は、相続対策というより…。


田久巣 経営思想の整理だ。ファミリービジネスでは特にね。「AIユイゴンWell-B」のAIマスコット「まだない」君にも聞いてみよう。どうだい?


まだない ファミリービジネスでは、「平等に分ける」ことと「会社を続ける」ことが必ずしも一致しません。そのズレを、感情が荒れる前に言葉にしておくこと。それが、遺言の役割だと思います。


監 子 代表に対して失礼ですけど、AIの「まだない」君が言うなら確かですね!


田久巣 ハハハ。どうやら私の信用も「まだない」らしいなぁ。


監 子 いえいえ。最近は「まだない」うちに検討したい、というファミリービジネスの経営者からの相談が本当に増えていて…。これはもう、新しいタイプの「繁忙期」になりそうです。


田久巣 それはいい。「まだない」うちに考えるのが、一番静かに決められるからね。

【今回のポイント】

ファミリービジネスで検討する遺言は、単なる死後の手続書類ではない。経営者が、自分の人生観と会社観を初めて言語化する、いちばん静かでいちばん強いガバナンスだ。ファミリー憲章という予防の文書と、遺言という決着の文書をセットで考えることで、相続も経営も、ウェルビーイングにつながる。まだまだこの考えが浸透しきれていなくて、それこそ「まだない」に近いのだが、士業の枠を超えて連携して広めていきたい。


[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2026年2月|連載 ]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」、2025年8月にデジタル遺言アプリ『AIユイゴンWell-B』をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)『100億円相続事典』(2024年、日経BP)。2025年より中央経済社『税務弘報』にて「文学で学ぶ相続の知恵」毎月連載中。YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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