タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第51回テーマ 試験勉強は本当に実務で役立つのか?


監 子 「秋来ぬとぉ 松吹く風も知らせけりぃ かならず萩の上葉ならねどぉ」


税 太 監子先輩、いきなりどうしたんですか?ってあれ、そういえば先月号もこんな感じの和歌で始まったような…。


襟 糸 「放っておくがよい税太君。恋愛をこよなく愛する監子君のことだ、どうせ百人一首合コンか何かの練習だろう」。ん?なんだかデジャブを感じるな。そういえば先月も同じセリフを言ったような…。


監 子 あのぉ、おふたりとも「何よその百人一首合コンって!どうやって盛り上がるのよ!」って先月号で私がツッコんだのもう忘れたの?これも先月号の繰り返しだけど、この歌は「新古今和歌集には入っていても百人一首は入っていません」!


襟 糸 しまった!ようやく先月号で「しまった!エリートとして実に不覚だった。和歌になると“わか”らなくなるのだ」って言ったのを思い出した!記憶力が落ちたのだろうか。私ももう“わか”くはないな…。


監 子 あー、もう突っ込むのも面倒!セリフの使い回しはどうせ作者の怠慢でしょ。仕切り直して、税太君。今回こそ私が和歌を通して伝えたかった気持ち、“わか”ってくれたかな?


税 太 えーっと、この和歌の意味は、「秋の訪れを松風が教えてくれることだってあるだろう。荻の上葉に吹く風だけが知らせるとは限らないよ」ってところですよね。つまり監子さんが言いたいのは…。え、何を伝えたいんですか?全く“わか”りません!


襟 糸 フフフ。どうやら僕の出番だね。おそらく、“秋”は「王子様」、秋に生い茂る“荻”の上葉は「お姫様」、季節を問わず見られる“松”は「一般庶民」のメタファーだろう。王子様にふさわしいのはお姫様かもしれないが、ごくごく平凡で庶民的な監子君が王子様と結ばれることがあったっていいじゃないか――。こんなところだろう?


監 子 きぃー!わざわざそんな自虐を言うわけないじゃないですか!私は試験勉強をがんばる皆さんへの応援歌として引用したんです!


税 太 えっ、どういうことですか?


監 子 企業の経営者のことをイメージしてみて。きっと多くの経営者は、「経営資金を増やしたい」と思ったとき、資金調達を強みに活躍しているプロの経営コンサルタントに依頼するわよね。でも、税務顧問契約を結んでいつも経営者の側に寄り添っている税理士だって、深い税法理解に基づいた知識とノウハウで資金を増やすことができるでしょ?


襟 糸 つまり税理士は、いつでも側にいてくれる「松」のような存在だということか。受験生時代に愚直に勉強しあらゆる知識を身につけておくことで、合格後の実務において、いつもクライアントの側にいながら、いざというとき深い税法理解に基づくアドバイスができる心強い存在になれる。「こんな地道な勉強が実務で役立つの?」とモチベーション維持に悩む受験生へのエールというわけか。


監 子 その通り!公認会計士でも同じで、受験生時代にこれでもかっていうくらいに勉強した管理会計とか会社法の知識が意外と血肉となっているものよ。経営学の試験勉強で繰り返し叩き込んだ知識は実際の経営にも活きているって、作者もTwitterで言っていたわ!


税 太 ということは、まだ勉強中の僕への応援歌でもあるわけですね。会計事務所勤めの受験生としては、「仕事では調べながらやれるし、暗記って意味あるのかなぁ」って思うことも正直ありました。でも、地道に暗記した知識が深い税法理解につながり、実務に活かせる瞬間があると皆さんから聞いて、勉強のモチベーションが上がりました!


監 子 うん、よろしい!税太君が立派な「松」になるまでじっくり「待つ」わ!


【今回のポイント】

試験勉強には知的好奇心がくすぐられる楽しさもあるが、膨大な暗記量や難解な論点に打ちのめされる大変さもあるだろう。しかし、艱難汝を玉にすだ。勉強したことのすべてが実務に直結するわけではないが、実務で顧客から相談を受けたとき、最初に頭に浮かぶのは、きっと試験勉強で学んだ知識だろう。もちろん正確を期すために調べ直すことが多いだろうが、きちんと勉強していなければ、そもそもどこで何を調べていいのかすら見当がつかない。言い換えれば、“デジャブ(既視感)”を自分に与えてスムーズに実務を行うためにも、試験勉強は役立つのだ。公認会計士や税理士試験は秋に合格発表がある。松によって知らさせる秋の訪れが、合格の訪れとなることを祈っている。


[『TACNEWS』 2022年11月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版)、『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。
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