タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第49回テーマ 相続が得意な税理士ってどんな人?

監 子 8月の税理士試験や公認会計士試験も終わって、これから採用のシーズンね。うちの事務所にも素敵な人が入ってほしいわ~。


税 太 監子先輩、まさかとは思いますが、新人スタッフを恋愛相手として狙っていませんか?!


襟 糸 法律違反ではないし、今までの監子君の恋愛の失敗談を聞く限り成就の可能性は著しく低いことが歴然としているので、大目に見てもいいのではないか?


税 太 襟糸先輩、応援しているのか、喧嘩を売っているのか、わからなくなっていますよ!


監 子 どう考えても後者としか思えませんが?!まぁ、私は私の気持ちに寄り添ってくれるような人生経験豊富で安定感のある「オトナ」のほうがタイプなので、フレッシュな新人スタッフには手を出しませんから安心してください。


襟 糸 新人スタッフといえば、この間出展した受験指導校主催の就職説明会で、相続が得意な税理士をめざして勉強中だという若い男前から、「ロールモデルになりそうな相続特化の先輩税理士がいる事務所で働きたいんです」と言われたぞ。すぐさま「君の目の前にいる襟糸様がまさにそうだ。君は運がいい。私がビジバシ鍛えてあげるからぜひ入所したまえ」と応募を勧めたら、そのあと音沙汰がなくなってしまった。不器用でシャイなのだろうか?


監 子 え、襟糸先輩、お言葉ですがツッコませてもらいます。せっかくうちに興味持ってくれた受験生に何してくれんのよ!!「不器用でシャイ」なわけないでしょーが!


税 太 まあまあ監子先輩、襟糸先輩は先月号で取り上げたオシム監督の「リスクを冒して攻めろ」の言葉通り、彼に入所してもらうために果敢に攻めたわけでして…


襟 糸 税太君、私はリスクを冒したわけではない。ただ正直に答えたまでだ。


税 太 襟糸先輩は、相続の書類作成や申告などの実務の腕がいいのは確かですが…。相続の仕事では、正確な知識だけでなく、お客様の心に寄り添う姿勢が求められると思うんですよね。そういう意味では、「実務力」だけでなく「顧客対応力」も持ち合わせている田久巣所長のような人が、本当の意味で「相続が得意な税理士」と言えるのはないでしょうか。


監 子 税太君、よく本当のことをはっきりと言ってくれたわ!先輩を前によくぞ「リスクを冒して攻め」たわね!まさにそう、その受験生はきっと「僕の気持ちに寄り添ってくれない、そんな人が『相続が得意な税理士』だなんて、この事務所は大丈夫かな?」って、他の事務所に逃げてしまったのよ。


襟 糸 なぬ?ほんとか?しかし「気持ちに寄り添う」ってそんなに大事なことか?もちろん顧客のニーズを聞くことは大事だが、相手の話をただ聞くだけでは実効的な提案ができないのではないか?


税 太 「お客様の気持ちに寄り添う」って、必ずしもお客様の話を聞くことだけではないと思います。例えば、僕たちの都合やひとりよがりではなく、お客様の話の中から本質的な悩みを的確にとらえて積極的に提案を行うのも、お客様の気持ちに寄り添う方法のひとつかと。


監 子 その受験生の気持ちに寄り添うとしたら、家庭の内情にも入り込むようなナイーブな問題も適切に扱うことができる、経験豊富で人間性を感じさせる「オトナ」を紹介してほしかったのでしょうね。


襟 糸 確かにそうだな。今回は降参だ。監子君の恋人候補をまた失ってしまって謝罪する。


監 子 襟糸先輩のそうした素直さ、まさに私の感情に寄り添ってくれている気がするわ。私にはそういった本当の意味での「オトナ」を紹介してくださいね。


【今回のポイント】

相続分野は個人の問題を扱うため、対応が非常に難しく、経験がものをいうと言われている。所得税に関する相談も対個人の業務にはなるが、相続はより家庭の問題が色濃く、顧客には一言では表せない複雑な感情が渦巻いていることが珍しくない。「聞いてない・言われてないからやりませんでした」は、他の世界では通用しても相続では大きなトラブルにつながることがある。そのため、顧客の話す言葉はもちろん、言外の気持ちも読み取って丁寧に寄り添う姿勢が大事なのだ。相続が得意な税理士になれば、本当の意味で相手に寄り添うことができる「オトナ」になれるはずだろう。


[『TACNEWS』 2022年9月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版)、『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。
Twitterにてご感想をお待ちしております!