タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第46回テーマ 士業と一般企業、どう違うの?

監 子 うーん、わからない!


襟 糸 どうした監子君、相談に乗るぞ。仕事や恋愛、何でもどんと来たまえ!


監 子 前者はともかく、後者まで自信があるのはなぜ?ってツッコミたいけど、困っているのは前者だから遠慮しておくわ。実は、私が監査を担当している企業の、社員の役割分担について気になっていて…。


襟 糸  「遠慮しておくわ」と言いながらナチュラルに先輩にツッコんでいく度胸があれば、その問題も解決できるのでは?とツッコミたいが、ややこしくなるから言うまい。具体的には何が気になっているんだい?


監 子 いや言ってますけど!余計なことを言いすぎる襟糸先輩が恋愛相談に乗るのは絶対ムリです!とさらにツッコミたいけど、相談している身だし、先輩だし、今回はお口チャックね。えっと、そこはITサービス系の企業でして。ソフトウェア開発工数の配分に関する監査で、ある顧客企業のシステム開発・運用担当をしているSEが作成した社内稟議を見たんですが、その中に顧客からヒアリングした内容がいろいろ書いてあって。そういう顧客の希望をヒアリングするのってSEじゃなくて営業の仕事じゃないの?って気になったんです。


襟 糸 いや言うとるがな!でも「お口チャック」なんて、古めかしい表現がツボにはまったので許そう。うーんそうだな、そのSEは何でも自分でやりたいタイプの人だったんじゃないか?うちの業界でもなんでも自分でやりすぎて部下の仕事まで奪ってしまう人がいるだろう?


税 太 襟糸先輩、その推察は元SEとしてお口チャックできないので「割り込み」失礼します!あ、ちなみに「割り込み」とは、「今実行している処理を中断して別の処理を実行する」という意味のシステム用語です。


襟 糸  「お口チャック」という表現を再利用するだけでなく、専門用語を用いて先輩の意見に反論するとは税太君も度胸があるな。で、何なんだい?


税 太  ITサービスを扱うには専門知識が必要になるので、希望する要件や設計について、SEが直接お客様と話すことも多いんですよ。営業は、顧客とのコミュニケーションによる信頼関係の構築・維持や、SEや関係会社との連携など、もっと全体的な折衝を担っています。確かに営業とSEは、仕事を取ってくる側と請け負う側で割と違う性格だから、ぶつかることもありましたが、営業の人に助けられたことも多いですし、適材適所の分業体制が取れていたと思います。


監 子 それよ、私が知りたかったのは!そのSEは余計な仕事をやっていたわけではないのね。これでスッキリしたわ。


田久巣 君たちおもしろい話をしているな。僕もお口チャックしてられないぞ!


襟 糸 代表がそのフレーズを使うと年齢的にさむーく聞こえてしまうのですが、それは失礼なので言いません!


田久巣 言うとるがな!いやこれは大事な話だ。我々のクライアントが組織的な企業の場合、クライアントの組織体系や役割分担を理解しておくことは非常に大事だ。監査や税務、コンサルでも同様。しかし士業界では一般企業の勤務経験がない人も多い。だから税太君みたいに勤務経験のある人は貴重なんだ。でもこんなこと言うと税太君が舞い上がってしまうので言うまい。


税 太 代表、失礼を承知で…。言うとるがな!


監 子  「一般」企業経験者に「一本」取られたわ!でもこんなこと言うと、さむーく聞こえるから言うまい!



【今回のポイント】

士業の世界一筋で働いている人は、専門特化型で年数を重ねているから経験豊富で頼りがいのある人が多い。ただ、その道だけで生きていると、他の業界について知識はあっても経験しているわけではないので、その業界の事情や常識について理解できなかったり誤解したりしてしまうことがある。一方、一般企業への勤務経験がある人が士業の世界に来た場合、その道一筋の人に比べて最初は出遅れているように感じるかもしれないが、「一般」企業での経験は必ず自分の武器になるはずだ。異なる世界の経験を活かしてイノベーションが起こせるかもしれない。そんな風にして、「一本」取るだけでなく、「二本」、ゆくゆくは「日本」を制覇してほしいものだ。


[『TACNEWS』 2022年6月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。
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