タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第38回テーマ 税理士は事業承継の命運を握っている?

監 子 税太君、Help!


税 太 監子さんって最近、毎回僕に相談してきてくれますけど、今回はとりわけシンプルでわかりやすい一言ですね…。どうしたんですか?


監 子 今よりもずっと若かった頃は誰かに助けてもらおうなんて思ってなかったの。だけどそれは過去の話、今や私は自信がすっかりないから考えを改めて心の扉を開いた のよ~。


税 太 なんかどこかで聞いたことあるようなフレーズですね…。って、ビートルズの『Help!』の歌詞そのまんまじゃないですか!


監 子 あ、バレた?(笑) あのね、今回は子どものいる税太君に相談したかったの!ズバリ、子どもにも自分と同じ道を進んでもらいたいって思う?


税 太 ずいぶん唐突な質問ですね。うーん、僕が税理士に無事合格できたらの話ですけど、それは確かに僕が働く姿を見て、「税理士っておもしろそう!」って興味を持ってくれたらうれしいと思いますが、押し付けたりはしたくないです。例えば「ダンサーの道を究めたい!」って言われてもちゃんと応援してあげたいですね。


監 子 なるほどね。じゃあ税太君が独立開業して事務所の代表をしているとしましょう。自分は70歳、子どもが40歳だったら?


襟 糸 フフフ、それはやはり子どもに継がせたくなるな。


監 子 あの~、襟糸先輩に聞いてないんですけど…。


田久巣 まぁまぁ監子君、ただでさえ育児に悩みはつきものなんだ。税太君に遠い将来のことで悩ませてしまうのは少しばかりかわいそうだよ。子どもに好きなことをやらせてあげたい気持ちと、レールの引かれた安心できる道を歩んでほしいという気持ちの板挟みになったりするのが親ってものさ。「矛盾こそが人生」ってね、フフフ。


監 子 「フフフ」って、所長!“襟糸化”してますよ!私がこの質問をしたのは、お客様に事業承継に悩んでいる方がいたからなんです。監査先の社長が60代後半なんですが、総勘定元帳を見たら、親族内の事業承継を特集した記事が掲載されている雑誌の購入履歴があって。どうもお子さんがいらっしゃらないので、外部の会社で勤務している姪御さんを後継者として呼ぶかどうかで悩んでいるようなんですよね。ただ、本人から相談を受けたわけではないので、どうしたらいいものかと…。


税 太 なるほど…。あ、今の話で思ったんですけど、直接相談を受けずに社長が抱える悩みに気づいてあげられるって、資料から会社の状況を読み取るプロである公認会計士ならではかもしれませんね。


田久巣 そうなんだよ。日本企業の99%以上を占める中小企業の動向は国の経済にもかかわる。だから政府としても事業承継を大きな課題として認識しているんだが、私はこの課題解決のキーパーソンは税理士や公認会計士だと思っている。業務を通じて早期に問題を発見し社長に進言できるのだから、日本の「命運」を握っているといっても過言ではない。監子君もその社長の悩みを詳しく聞いてみたらどうだい?喜ばれると思うよ。


監 子 そうですね!まずは事情を詳しく聞いてみて、事業承継がうまくいくよう私なりに提案してみます。社長からの打診、「姪」も「うん」と言うといいなぁ!


【今回のポイント】

多くの税理士事務所では税務顧問として中小企業の社長や個人事業主へ税務的なアドバイスを行っている。その中で、お客様が50歳以上の場合に度々出くわすのが会社の事業承継問題だ。さて、金融機関から提案を受けたり、M&Aの会社から第三者承継を紹介するDMが届いたりする中で、経営者はなぜ税理士に事業承継の相談を持ちかけるのだろうか?それは先月号の『論語と税理士』でお伝えした通り、多くの税理士は自分の利益より相手の信頼に応えることを重視しているからだと思っている。もし相談を受けたら、社長の気持ちに寄り添ってしっかり話を聞いてみよう。そうすればさらに信頼度をアップできるし、そのまま株価の算定や相続税の試算など新しい仕事を請け負うこともあるだろう。日本の事業承継問題は税理士や公認会計士にかかっているのだ。


[『TACNEWS』 2021年10月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ副代表/代表社員パートナー。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ入社。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。

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