タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第37回テーマ 論語と税理士

監 子 税太君、久々の再会なのに突然で悪いけどちょっと聞いてくれない?


税 太 監子さんっ!1年以上画面越しでの会話だったので、なんだかリアルで話をしているのが新鮮ですね!


監 子 そうよね~。オンラインも便利だけど、リアルで会話ができるってやっぱりホッとするわ。あのね、この間久々に対面の合コンに行ってみたの!もちろんマスク着用で飲食なしなんだけど、流れの中で理想の男性像の話になって「お金を稼げる男がいいのか、それとも性格が良い男がいいのか?」って大議論になって。


税 太 お酒が入ってないのに、「酔った勢いでつい言い合いになっちゃいました」みたいな場面に持っていくとはさすが監子さん…。もしかして前者って言わなかったでしょうね?


監 子 え、そうだけど?もちろん「お金が大事よ!」って言ってやったわ。


税 太 えっ、そんなズバリ宣言しちゃったんですか!それじゃあまるで「私、お金を稼いでくれれば性格はどうでもいいです」って言ってるみたいじゃないですか!いくらお金が大好きでも「本音と建前」ってものがあるでしょう…。


監 子 あ、だからかぁ!実は相談したかったのはそこなのよ。私だけそのあと誰とも盛り上がらなかったんだけど、何が敗因だったのかわからなくて…。


襟 糸 フフフ、「論語より算盤」というわけだな。まあ経営者なんかには、正直にはっきり言う性格が好きって人もいるかもしれないな。つまりは「機会はどの場所にもある。釣針を垂れて常に……


監 子 「用意せよ」でしょ!その名言の引用、5月号と一緒じゃないの!まったく襟糸先輩はオンラインじゃなくても突然登場するんだから…。NHKの大河ドラマで話題の渋沢栄一の名著『論語と算盤』に掛けて得意になっているようですけど、引用文にもカブりが出るあたり、ネタ切れ気味になってきたんじゃないですか?


税 太 まぁまぁ、監子さん。そんなコラム筆者の天野さんをいじめるような発言はやめましょうよ。


監 子 なによ。私、そういう楽屋落ちというかメタフィクションみたいなのって嫌いなのよね、嘘っぽくて!


税 太 容赦ないですね!でも監子さんのそういう嘘が嫌いなところ、企業の不正会計をチェックする公認会計士にとって大事な素質ですよね。論語で言う「仁(思いやり)、義(正義)、礼(秩序)、智(智恵)、信(言行一致)」を指す「五常の徳」を持っている人っていうか。


田久巣 襟糸君に続き突然の登場失礼するよ。税太君の話だが、私も税理士には「徳」がないといけないと思っている。


監 子 でも税理士だって商売だし「徳」だけじゃ成り立たないじゃないですか。士業という公共の役に立つような仕事でも、利益を生み出さなければ生き残れないと思います。


田久巣 論語でも決して利益が悪だとは言っていない。経済的な利益の良さについても語っている。ただ私も、「利に放(よ)りて行えば、怨み多し(自分の利益ばかり考えて行動していると、怨まれることが多い)」という孔子の言葉を読んでから、お客様へサービスを案内するときに自問自答するようになった。「この提案は自分本位になっていないだろうか?」とね。


監 子 なるほど、確かに相手のことを真剣に考えてくれるような「徳」がある人にこそお客様は信頼を寄せてくれるし、次も依頼したいと思ってくれますよね。利益を追求するってよりは、「徳」を持っていることで自然と利益がついてくるというか。案外「徳」ってお「得」なのかも!

【今回のポイント】

税理士の使命とは何かご存じだろうか?税理士法第1条では、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定している。税理士は公務員ではなく、資本主義社会の中で生きるビジネスパーソンだというのに、この公的さを感じさせる使命は一見矛盾があるように思えるが、私はそうは思わない。納税義務者の信頼に応えよう、納税義務の適正な実現を図ろう、という思いがあれば、お客様は目の前でがんばってくれている税理士に対して自然と信頼を抱き、次も依頼しようと思ってくれるものだ。「徳」だけでは商売にならないが、「徳」があることで利益を生み出せているのだから、「論語」と「算盤」どちらを取るかで悩むことはない。論語の心によって算盤に貢献している税理士。こう見ると、良いとこ取りでなんとも魅力的な職業である。


[『TACNEWS』 2021年9月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ副代表/代表社員パートナー。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ入社。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。

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