タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第29回テーマ 見た目と中身、どっちが大事?

監 子 税太君、Web会議ツールのZoomに通称「美肌機能」があるの知ってる?


税 太 あ、ほんとだ!この補正機能をオンにすると画面上に映る自分の顔のお肌がつるつるになるんですね。ライトも当たるとは!


監 子 クライアントとZoomで会話するんだけど、やっぱり見た目の印象って大事だからね。この間も監査先の少し気になるイケメン経理部長さんに「監子さん、最近輝いてるね!」って言われたの。ふふふ。


襟 糸 『虹も十五分出ていると、もはや誰も眺める者はいない』byゲーテ。『いわんやZoomの機能で作られた虹においてをや』by襟糸。


監 子 毎回いきなりWeb会議に入ってきて!しかも先月号から文豪の名言ばかり引用してきて!しかも「by襟糸」の付け足し、ご自分ではいい出来だと思っているでしょうけど、世界中の女性を敵に回したことは間違いなし、大問題!


税 太 そうですよ、言いすぎです、襟糸先輩。それにしてもこの機能はいいですね。そういえば今度、租税回避行為に関するウェビナー(Web上で行うオンラインセミナー)をやる予定なんですが、講師の見た目は大事なので、実際に使ってみます。


襟 糸 確かにおふざけがすぎた。気分を害したことも謝る、申し訳ない。見た目の印象も場合によっては確かに大事。しかし君たちには重要なことを教えないといけない。税太君、そのウェビナーのテーマである租税回避行為についてだが、ポイントは何だと思う?


税 太 えっと、やはりその行為の目的として実際に経済的な合理性があるかどうか、という点ですよね。税金をなるべく取られたくないというのがその行為のメインの目的になっている場合は、租税回避行為とみなされる可能性が高いと思います。


襟 糸 うん、そうだ。つまり見た目は要件を充足していて節税が実現できていても、実際としては経済的な合理性がなく、税金を払いたくない理由で行った行為だとみなされると、租税回避行為として追徴課税や罰則を食らう可能性があるのだ。それに租税では『実質課税の原則』というのがある。名義人にかかわらず実質的な帰属者に課税されることからも、税務の世界では明らかに見た目より中身が大事なのだ。


監 子 確かにそれはよくわかるわ。会計監査だって見た目の粉飾を見逃さずに実態を明らかにするのが大事だから。でも、Zoomの美肌機能は一種のおしゃれよ。それに見た目を気にしなくなってしまったら恋はなかなか始まらないし、テレビドラマだっておもしろさが半減しちゃう!クリスマスプレゼントのキラキラしたラッピングは、税務の世界では取るに足らないもの?


税 太 僕は、前職は税務の世界にいなかったからわかりますけど、税務も結局は「人」ですよね。納税する人も、申告を代理する人も、納税をチェックする税務署も、みんな「人」が見ている。人ってどうしても感情が入るから、感情が動かされやすい見た目って、税務の世界でもやっぱり大事だと思います。僕としては、「見た目」も大事っていうの「が意見」(外見)です。


監 子 そのダジャレこそ、文字としての「見た目」がないと伝わりづらいかも(笑)。


【今回のポイント】

税務や会計監査の世界に限らず、「見た目」に騙されずに「実態(中身)」を究明することは大事だ。しかし、どちらが大事かというと結構悩むだろう。「中身」のほうが大事というのが従来の価値感だったように思うが、昨今のトレンドでは「見た目」の印象の重要性を説いているものが目立つ。税務の世界でさえ、税務職員の印象をよりよくするために申告書に添付する説明資料を念入りに作って「見た目」をよくすることは多いと言われている。さて、ここでひとつの小説を紹介しよう。イギリスの文豪ディケンズの『クリスマス・キャロル』は、守銭奴のスクルージが3人の幽霊に出会うことでクリスマス・イブに改心する話だ。お金だけにこだわっていた男が、人間性の重要性に気づくのは、まさに幽霊が超常的に見せる過去・現在・未来の「見た目」のため。その「見た目」で人生が変わったのだ。結論、両方大事。え、「きたねえ」って?そのダジャレも苦しいって?その場合は中身でご勘弁を!


[『TACNEWS』 2021年1月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。