タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第27回テーマ 税理士になるにはなぜ簿記の練習が大事なのか?

簿記美 襟糸先輩、Web会議で“用事”があるって何ですか?しかも“4時”からって。先月号の田久巣所長のダジャレの真似ですか?

襟 糸 おい、コラコラ。先月号みたいに田久巣所長がすでにWeb会議に潜入していたらどうするんだ。いやなに、簿記マニアの君に、実はこのクライアントの決算書を見てほしくてね。組織再編をしたあと連結納税を導入し、連結会計をして3期目なんだが、会計処理がどうやら間違っているようなんだ。

簿記美 久しぶりの登場かと思ったら、なーんだ、そんなことかぁ。それにしても襟糸先輩は税理士試験で簿記論も当然受験してますよね?そのとき勉強されませんでしたか?

税 太 ぼ、簿記美ちゃん、襟糸先輩は仮にも先輩だよ。言葉を慎もうね。でも確かに先輩、簿記論に合格して税理士になったんですから、自分で何とかしたらどうですか?

襟 糸 おっと税太、いつの間にかWeb会議に入りやがって。しかも「仮にも先輩」とはなんだ!?税太だって言葉を慎んでいないぞ!それに、なんでも自分でやらずに得意な人に任せるべきだと先々月号で力説していたのは君だろ!

簿記美 まあまあ、襟糸先輩、私がきちんと修正すべき会計処理をまとめておきますから。それにしても、税理士試験の簿記論ってなんであんなに練習問題を解かされるのかしら?会計士試験でもそうだって聞きますけど。私はまだ受験していないですが、税理士として実務をするのにそこまでの練習は必要ない気がするんですけど。

襟 糸 おっと、それは初歩的な質問だ。教えてやろう。根性を試しているのだ。1000本ノックに耐えられる者だけが、私のようなエリート税理士になれるのだ!

簿記美 根性が一番でしょうか?私は簿記マニアで簿記が好きですけど、簿記論の試験のように短時間で仕訳を書いて集計するような作業はどうも苦手で。仕訳なんてネットで調べればすぐにわかりますし、速く正確な集計はAIの得意分野な気がしますし。

襟 糸 フフフ、簿記美ちゃんだって小学生の頃、ひたすら漢字をこれでもかってドリルで練習したろ?あのドリルと一緒だ。そうすればドリルだけにドリトル先生になれるのだ!

税 太 …紙面に限りがあるので突っ込みは省略しますが、簿記論の試験は僕も少し厳しすぎる気がします。情報システムの資格試験でもプログラムの問題は出ますが、ここまで練習しなくても受かります。でも簿記論はめちゃくちゃ練習しないと受からない。

田久巣 おー、君たち、みんな集まって専門的な議論の“座談会”?それともまた仕事もしないで“雑談かい”?あ、これは先月号と同じダジャレなので突っ込みは省略で結構だ。

簿記美 やっぱり所長、いらしてたんですね。ぜひ所長のご意見も教えてほしいです!

田久巣 今のダジャレと一緒だと思うな。つまり会計や数字に関して即断ができる勘を養う必要があるということだ。あれだけ練習すれば細かいことは忘れても書籍を少し見ればすぐに思い出すし、勘は鈍らない。私もいまだに簿記論の講義の内容が脳裏に蘇るときがあるくらいだよ。それに、インプットしたあとの徹底した自主練の大切さは税理士試験だけの話でもない。外国に1人で修行に行ってみなさい。つらい語学の勉強をしないで付け焼刃で行くと、現地の言葉がすぐに出てこない。正直めちゃくちゃ不安で生きた心地がしないものだ。だからさっきの襟糸君の漢字の話はいい例えだと思うぞ。ドリトル先生は苦しいけどな!(笑)

【今回のポイント】

勉強はいつの世も、多くの人にとってつらいものだ。小学生の頃の漢字ドリルや計算ドリルの練習は今でも夢に出てこないだろうか?中学、高校、大学の受験勉強だって、いかにこの苦痛から逃れるかが課題であったに違いない。税理士・会計士を目指す者にも同様の試練が襲い掛かる。まずは簿記だ。なぜこんなにも多くの処理を覚えて電卓で計算しないといけないのだろうか?しかし、この簿記は単なる会計処理の小道具ではない。ドイツの文豪ゲーテがとある小説の登場人物に言わせている通り、複式簿記は経営に不可欠であり、人間精神が生んだ最高の発明の1つなのだ。ゆとり教育が悪いとは言っていない。しかし本当に人間が人間的になるには、修行というものは大事だ。フランス文学では男性名詞と女性名詞を徹底的に区別して覚えないと作品の本質には迫れない。プログラム言語の基礎を覚えないと世の中のITの仕組みを本当の意味では理解ができない。偉そうに聞こえるかもしれないが、簿記をこれから勉強する諸君には、ぜひドリルをがんばってこなして、それこそ動物の言葉を解するドリトル先生のようなプロになってほしい!


[『TACNEWS』 2020年11月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。また情報戦略本部長としてプラットフォームの構築も担当し、2019年7月の「Mochi-ya」に続き、2020年8月、業界初の非接触型相続サポートサービス「相続のせんせい」もリリース。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)