人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第59回 いちご株式会社

Profile

新保 郁恵氏(写真左)

人財本部 人財開発部
人財チーム ヴァイスプレジデント

メーカーの給与労務関連会社勤務を経て2013年8月、いちご株式会社に転職。従業員の給与、労務管理、採用研修まで幅広く担当。最近では新卒採用メインに従事している。

大井川 孝志氏(写真右)

上席執行役 人財本部担当
人財本部副本部長 人財開発部長

2011年10月にいちご株式会社入社。不動産事業部門に配属され、その後運用責任者として従事。2022年3月から人事系部門(人財本部)に異動、副本部長としてグループ全体の人事の統括を補佐する。


現存不動産に新しい価値を創造する「心築」、太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギーの創出、安心して投資できる金融商品を運用するアセットマネジメント事業。いちご株式会社は不動産の有効活用とエネルギー創出を軸に、サステナブルな社会の実現をめざしている。一人ひとりがプロフェッショナルの集団を標榜するいちごでは、どのような採用戦略と人材教育に取り組んでいるのか。人財本部副本部長・人財開発部長の大井川孝志氏と人財本部・人財チーム ヴァイスプレジデントの新保郁恵氏にうかがった。

不動産の新たな価値を創造する「サステナブルインフラ企業」

──いちご株式会社ではどのような事業を行っていますか。

新保 当社では、現存不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」、太陽光発電や風力発電などを行う「クリーンエネルギー事業」、J-REITやインフラファンドなど、上場している金融商品の運用を行う「アセットマネジメント事業」の3つを核として事業展開しています。
 「心築事業」とは、「心を込めて一つひとつの不動産の価値を向上する」という意味を込めた当社の造語です。日本では建物が古くなると建て替えるのが一般的ですが、当社は元々ある建物を大切にし、そこに新しい価値を加えていきます。立地や利用者様のニーズなどに合わせて、新しい価値を生み出す取り組みです。
 当社が取り組んでいる不動産事業や、不動産事業から発展したクリーンエネルギー事業は、社会や人々の暮らしや生活を支えています。私たちは、不動産を単なる建物としてとらえるのではなく、そこで住む・働く・泊まる・利用する人々を主役ととらえ、多様化するニーズに対応することで日本の豊かな暮らしに貢献し、サステナブルな社会を実現する「サステナブルインフラ企業」なのです。
 また社名の「いちご」は千利休の説いた茶の心構え「一期一会」に由来しています。企業の存在意義は社会貢献にあると考え、不動産とエネルギーのほか、観光、スポーツ、アニメなどのエンターテインメント、カルチャー、農業などの融合を通じて、日本の将来に豊かさをもたらすことをミッションに掲げています。
 今後も、日本全国に保有・運用する約300棟の不動産とそこを使う方たちを主役にし、様々なコンテンツと結びつけることで価値あるサステナブルインフラを増やしていきます。

数年前から新卒採用にも注力

──採用方針をお聞かせください。

大井川 新卒と中途採用で共通しているのは、当社の掲げる「日本を世界一豊かに」という理念への共感です。当社は、不動産・モノありきではなく「心で築く、心を築く」を信条として、一つひとつの不動産に心を込めた価値向上を図り、現存不動産に新しい価値を創造する心築事業を行っています。そこから生まれる街や人とのつながり、事業シナジーや新たな付加価値を、創造し、広げ、サステナブルインフラ企業として社会に貢献する。こうした事業内容と理念に共感し、共に実現をめざせることが最も大事だと考えています。
 また、私たちは「プロフェッショナル」「ベンチャー・スピリット&ダイバーシティ」「チームワーク」の3つを行動指針に掲げています。2015年に東証一部上場、2022年には東証プライム上場も果たしましたが、決して大企業病にはならずに、一人ひとりがプロフェッショナルとして常に新しい変化やチャレンジができるよう、多様性を生み出していくベンチャー・スピリット&ダイバーシティを大切にしています。さらに社内外を含めた様々なリレーションシップやパートナーシップといったチームワークも大切にできる人材を求めています。

──新卒と中途採用、どちらをメインにお考えですか。

大井川 実は新卒採用を本格的に始めたのはここ数年の話で、大半は中途採用です。中途採用では、その時々のニーズに応じた専門性やバックグラウンドをお持ちの方にジョインしてもらうことが多く、年間15~20名ほど採用しています。専門性を持ち、当社の理念や行動指針にもマッチする人材を求めています。

──メインは中途採用ということですが、2023年入社の新卒は何名でしたか。

大井川 計5名です。私たちは一般学生の新卒採用だけでなく、現役を引退し現在コーチを務めるウエイトリフティングの三宅宏実のようなアスリートに対するスポーツ支援も行っており、その分野の方も2名含んでいます。

丁寧なコミュニケーションで採用ミスマッチを防止

──入社前の内定者研修は実施していますか。

新保 新卒は全員入社前研修やeラーニングで入社の準備を促しています。
 とはいえ学生生活最後の年も満喫していただきたいので、過度な束縛はしていません。内定後は入社するまで月1回程度の頻度で、不動産現場に案内したり社員との懇親会のイベントを企画したりと、コミュニケーションを重視しています。

──入社後の新入社員研修はどのように実施されていますか。

大井川 基本的なビジネスマナー研修の実施後は、一定の教育とメンター制度はありますが、長期間の研修や短期ローテーションなどは行わず、入社と同時に一戦力として部門配属しOJTで取り組んでいただいています。

──2025年入社の新卒採用はどのように計画されていますか。

大井川 2023年度と同様、3~5名を想定しています。新卒は採用枠が少ないので、これまでも合同説明会や就職サイトへの掲載といった大々的なPR活動はしていません。それでも当社を何らかのきっかけで見つけて、当社をしっかりと調べ上げ、関心を持ってくださる方を歓迎しています。

──新卒採用の選考フローでミスマッチを防ぐための工夫はしていますか。

新保 当社と学生との間で時間をかけてコミュニケーションを取っていることが、ミスマッチ防止になっていると考えています。インターンシップを皮切りに、選考期間前までの半年間、月1回の頻度で座談会を開催してコミュニケーションを取っています。学生との関係をしっかりと構築し、当社の理念に共感していただける方に選考へ進んでいただきたいので、丁寧に時間をかけています。いろいろな社員と何回も会っていただくことが重要で、新卒・中途採用ともに最終面接は社長面接になっています。

大井川 面接自体は新卒で4回、中途で3回実施しています。新卒採用では、人事部門による一次面接、人事担当である私やコーポレート本部を管掌する役員との二次面接、そして取締役を兼任する副社長や人事管掌役員との三次面接を経て、最終面接は社長と1対1で行います。面接の過程で社長を始めとした経営メンバーと向き合い、しっかり話を聞くと共に意見や質問もぶつけ、当社に対する理解や共感を深めていただきます。入社後に活きる対話の場としての意味もあるので、社長との1対1の面接は、新卒・中途問わず、当社のポリシーとして必ず実施しています。
 中途採用では、事業部門と人事部門による一次面接、各執行役本部長またはグループ会社社長と人事部門責任者との二次面接、そして最後は社長との1対1面接になります。また時には募集部門の現役メンバー複数名とのカジュアル面談を途中で実施することもあります。

──中途採用は必要となる部門からニーズが上がってきた場合に採用するのですか。それとも年間事業計画に基づいて実施するのでしょうか。

大井川 両方です。基本的には予算計画の立案の際に、各事業部門責任者と人財本部で、現状や今後の事業運営方針を踏まえた上で、人材の配置や補充などの強化策を考えていきます。また、中長期的な事業計画や、ダイナミックな事業投資や拡大といった日々の動きに対する人的ポートフォリオの観点を持ち、期の途中でも機動的に異動や新規採用を実施します。

企業内大学やeラーニングで自由に学べる環境を用意

──新入社員研修後にも継続的に研修を実施していますか。

大井川 新卒・中途採用ともに、入社2~3ヵ月後と半年後、その後は1年単位などで定期的に研修を実施しフォローアップしています。所属部門の1on1面談と並行して人事部門との面談も実施し、定期的にコミュニケーションを取っています。
 それ以外にも「一期一会」という理念のもと、入社月や年齢等が異なる中途採用者同士でも「同期感」を持っていただけるように、同年度入社者を同期として集め、社長と対話する場や人事とのディスカッションの場を設けています。

──コミュニケーションをきちんと取るための配慮が行き届いていますね。

大井川 そうですね。社員同士の相性や仕事の難易度の感じ方が意欲に影響するので、しっかりとコミュニケーションを取りながらフォローしていくことが重要だと考えています。

──独自の教育研修制度などがあればお教えください。

新保 10年ほど前に始まった「いちご大学」と呼ばれる企業内大学があります。こちらは主に役職員が講師となって社員に教える学び合いの場として、不動産関連講座、マナー講座、IT講座、ヘルスケア講座と様々な内容で、年間20講座を社員が自由に選んで受講できます。社員が企画することもあれば、人事が企画して社員に打診する場合もあります。
 それ以外にもいちご大学の一環として、不動産関係はもちろん、ビジネスマナーや会計知識など幅広い分野でeラーニングを導入し、社員がいつでも自由にコンテンツを見られる環境を整えたり、いちご大学ライブラリーという図書コーナーで、自由に本を閲覧できるしくみを整えたりしています。
 これらはあくまで任意の参加になっているので参加や利用は自由です。eラーニングのコンテンツは非常に幅広く、どれを受講するか決めるだけでも一苦労のようですので、今後のキャリアアップやスキルアップを踏まえると、単なる任意や推奨に留まらず、一定の必修化も必要ではないかと考え、現在、人事部門でも社員一人ひとりのレイヤーに応じたコンテンツの提案やメニュー化を企画しています。

──社内制度や福利厚生で特徴的なものはありますか。

新保 当社の短時間勤務制度は、育児や介護以外の理由でも利用できます。お子さんが3歳から小学生まで利用できる育児による時短勤務制度がある企業は多いと思いますが、理由不問・期間制限もナシというのは、当社の時短制度の特徴です。「一期一会」、人を大切にする会社なので、社員の多様性を考慮して長く働けるように配慮しています。

大井川 リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッド型勤務や男性社員の育休など、一般的な制度もほぼ整っています。さらにユニークなのは、「70歳定年制」と「役職定年なし」でしょう。働きたい期間は個々人で決めるのがよいという考えから、一般的な企業より長めの設定にしています。

──65歳定年制導入の議論はあっても、明確に70歳定年制を謳う企業は珍しいですね。

大井川 いちごは以前からずっと70歳定年制ですし、70歳を越えてからも業務委託等で仕事を続けていただくケースもあるので、会社と本人のニーズが合致していれば基本的には長く務めてもらいたいというスタンスです。

約50の推奨資格に支援制度を適用

──不動産関連企業として、宅地建物取引士(以下、宅建士)資格の取得は推奨していますか。

大井川 はい。不動産業界で従事する以上、宅建士は避けて通れない資格の1つです。宅建業者には宅建士有資格者数の要件もありますので、資格の保有者は多ければ多いほど良いです。宅建士の知識範囲は非常に広い上、資格を持っていないとできない業務もあります。従事する業務にもよるため明確に義務づけてはいませんが、宅建士は取得を強く推奨している資格の1つです。

──推奨資格の支援制度として、何らかのサポートはありますか。

大井川 宅建士に限らず、資格規定によって奨励金が支給される制度は以前から用意されていて、資格は奨励資格とそうでない資格に分けられています。奨励金支給には宅建士を含め約50資格が該当し、難易度に応じて奨励金を定めています。
 会社としてプロフェッショナル人材を育成していこうという行動指針を掲げているので、自学自習や自助努力だけでなく、会社としてのサポートは時間面・金銭面ともにあるべきだと考えています。宅建士に関しては、2023年10月からスクールなどに通う際の費用補助も始めています。 このように資格の難易度や会社並びに本人の業務スキル向上に必要不可欠と判断したものに関しては補助を手厚くし、資格の取得をより強く奨励しています。ITパスポートなどの情報処理分野や簿記資格についても、その資格の難易度に応じて一定の補助をしています。

──スキルが求められる中途採用では、何らかの資格を募集要件にする場合もありますか。

大井川 不動産業界経験者の方であれば、やはり宅建士資格は持っていてほしいです。会社として宅建士が多いに越したことはないという理由もありますが、不動産業界での実務経験のみならず、宅建士資格を必要なものと認識して勉強してきたかどうかという姿勢も、評価するポイントのひとつになってきます。
 ただ、経理部門であれば日商簿記検定2級など、一定のポジションによるニーズはありますが、当社は学歴等による区別は一切しません。中途採用はこれまでの社会人生活でどれだけ専門スキルを上げてきたかが重要であり、資格取得もそうした成果の一環であるととらえています。

──不動産鑑定士資格についてはいかがでしょうか。

大井川 不動産鑑定士試験や鑑定士補にチャレンジして取得した方は、専門性が高い人材として評価をします。採用の現場でも、応募要件にはなくてもこの資格をお持ちの方が一定数応募してこられますし、社内にも複数の不動産鑑定士または鑑定士補が在籍しています。当社では、不動産の評価を常に行っています。例えば不動産を購入する際は、収益不動産として収益還元法を使った評価をしなければなりませんから、不動産価値が速やかに計算できる力や、収支等の構成理解力が必要です。

──新卒採用では応募者が学生時代に取得した資格をどのように評価していますか。

大井川 定量的な評価はしていませんが、資格を持っているということはその分野に強い関心や意欲があることの裏付けととらえます。業界に対する関心度を測るパラメーターにもなりますし、大学のカリキュラム以外で努力して取得をされたことは評価しています。

──最後に、資格取得やキャリアアップをめざす方々に向けてメッセージをお願いします。

新保 当社にも働きながら資格取得に挑戦して合格している同僚が大勢います。そんな仲間を見ると「自分もやってみようかな」と刺激になります。当社の行動指針の1つに「プロフェッショナル」があるので、それをめざし、体現している社員が多いのも当社の特徴です。資格取得は自分のキャリアを広げるきっかけにもなるので、ぜひがんばっていただきたいと思います。

大井川 資格取得の目的や理由は人それぞれですが、自分の望むものであれ、他者に義務づけられたものであれ、取得して無駄になるものは一つもないだろうと思います。それらをビジネスで活かすのか、人生で活かすのかは本人次第ですが、資格取得で培った知識と取得するために行った努力は、必ず何らかの形で活きてくるはずです。がんばってください。

[『TACNEWS 』2024年1月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     いちご株式会社
設立     2000年3月17日
代表者    代表執行役会長 スコット キャロン
       代表執行役社長 長谷川 拓磨
本社所在地  東京都千代田区内幸町一丁目1番1号
       帝国ホテルタワー
       (2024年1月5日より下記に移転予定)
       東京都千代田区丸の内二丁目6番1号
       丸の内パークビルディング20階

事業内容

心築、クリーンエネルギー、アセットマネジメント

従業員数

90名(単体)、462名(連結)(2023年2月末日現在)

URL

https://www.ichigo.gr.jp/