LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #39

Profile

中島 悠太(なかじま ゆうた)氏

株式会社クラス
管理部 執行役員兼管理部長
公認会計士

1993年5月28日生まれ。埼玉県出身。高校3年の秋に日商簿記検定2級に合格したことで自信をつけ、大学3年次には公認会計士試験に合格。アルバイトで上場企業の経理の仕事に携わる。大学卒業後は、有限責任監査法人トーマツに所属。
2年9ヵ月勤めたあと、新しい環境に身を置き、自分をレベルアップさせるためスタートアップ企業に参画。資格と経験を糧に実績を積み重ね、企業の成長に貢献。現在は6名の部下を抱えて、管理部 執行役員兼管理部長として経理、財務、労務、法務、人事と幅広い業務をこなしている。

【中島氏の経歴】

2009年 15歳 埼玉県立春日部高等学校に入学。在学中に日商簿記検定2級に合格。
2012年 18歳 慶應義塾大学商学部入学。大学3年次に公認会計士資格取得。上場企業で経理職のアルバイトを始める。
2016年 22歳 慶應義塾大学商学部卒業。有限責任監査法人トーマツに入り、企業の監査業務とリクルート関連の業務を担当する。
2018年 24歳 久保裕丈氏と出会い、株式会社クラスに入社。公認会計士としてのスキルや経験を活かしながら活躍中。

資格で自分のステイタスを確立し、
さらに幅広い分野に可能性を見い出していく。
新しいことへ挑戦する勇気も実行力も
資格がもたらしてくれた。

 資格取得をめざす場合、「この仕事をやりたい」「今の仕事に活かしたい」という動機で勉強に励んでいるケースが多いだろう。一方、資格を取得することで自身のステイタスを確立し、それを人生のセーフティネットに、リスクを回避してさらなる新しいことに挑戦していくという生き方もある。公認会計士の資格取得をきっかけに自らの可能性を広げていった中島氏の生き方を知ることで、資格取得の「もうひとつの意義」を見つけてほしい。

高校3年で日商簿記検定2級、大学3年で公認会計士資格を取得

 高校3年のとき、周囲が大学受験に向けて猛勉強している中で、指定校推薦で夏には進路が決まり、物足りなさを感じていた中島悠太氏は、その時間を活かそうと簿記の勉強を始めた。知識ゼロの状態から順調に学習を進めて11月の試験で2級に合格すると、「この調子で合格できるのでは」と、会計系資格の最高峰である公認会計士(以下、会計士)の資格取得へのチャレンジを考えるようになった。そして大学入学から間もない5月には、TACの講座に申し込み勉強を始めた。朝の早い時間からTACに行って自習に励み、大学には授業のあるときだけ通い、授業が終わったらまたTACへ戻るという日々を送っていたという。「大学ではテニスサークルに入ったのですが、大学1年の終わり頃から勉強中心のスタイルに変えたので、自然と足が遠のきましたね。大学2年になってからは大学にいる時間よりTACにいる時間のほうが長かったと思います」と、当時を振り返って中島氏は言う。そんな毎日のコツコツとした努力が実り、大学3年のときに会計士の試験に合格することができた。

 合格をきっかけに上場企業の経理でアルバイトを始めた中島氏。会計士事務所でのアルバイトも考えたが、あえて 一般の企業で社会経験を積むことにしたという。
「時給はあまり高くなかったのですが、お金よりも経験を得ることを目的に、大学4年の1月まで経理のアルバイトを続けていました。社会人になる前に、PCスキルや経理実務の流れをひと通り身につけられて、当初の思惑通り良い経験ができたと思っています」

 大学卒業後は有限責任監査法人トーマツへの入社を決め、監査の実務経験を積んだ。そして2年9ヵ月勤めて25歳になったとき、自分の可能性を試せる新たな場所を求め始めていた。

「優秀な人と仕事がしたい」運命を導いた“ある出会い”

 勤め先に不満はなかった。国内事業部に配属され、上場企業の内部統制監査や財務諸表監査、自社のリクルート業務も任せられ、やりがいもあった。国際的な会計基準であるIFRS導入企業の監査も経験した。入社後わずかな期間で貴重な経験を豊富に体験し、充実していた。

 そんな忙しい日々を送る中であるとき先輩から言われた印象的な言葉があるという。
「『お前の働いた時間にかかっている費用は、すべてクライアントに請求することになるということをわかっているか』という一言でした。どんな仕事でも“いい経験をした”なんて自己満足で思っているだけではダメだとわかりました。限られた時間でクライアントの要望をヒアリングし、的確なアウトプットを出さなければならない。プロとして行動することが厳しく求められていることを強く感じましたね。そのために専門的な知識はもちろん、様々な経験で得たものをすべて活かして、質の高いアウトプットができるプロにならなければならないのだと思いました」と中島氏は言う。

 先輩の言葉に刺激を受けた中島氏は、「若いうちにもっとチャレンジして、レベルアップしたい」と思うようになった。

 転職先の候補は外資系コンサルタント会社や、大口の個人または法人顧客に代わって金融取引を行う投資銀行だった。大きな結果を残す仕事がしたい。自分がどこまでできるか試したい。それには優秀な人たちが集まる場所で仕事をしたい。そう考えていた。そんなある日、とある人物が新しく起業をするという話を聞く。その人物は久保裕丈氏といった。東京大学を卒業し、過去にはモデル・タレントとして活躍、アパレル関連の起業もしていて、数年後その会社を17億円で売却すると、フリーのコンサルタントに転身。30代で相当な資産を築き、華々しくチャレンジングな人生を歩んでいる。そんな人物が、新しい会社を設立し、家具や家電のサブスクリプションを行う「CLAS(クラス)」というサービスをスタートさせるという。久保氏のことをテレビで観て、その経歴や実績も知っていた中島氏は、久保氏が新しく立ち上げるという会社のホームページを探し、採用案内のページを見つけると、迷わずエントリーのボタンをクリックした。久保氏のチャレンジングな姿勢に、自分と共鳴する部分を感じたのだろう。

 中島氏は、会計士の資格を持っていれば、たとえ失敗してどこかでつまずいても食いっぱぐれることはないと考えていた。それなら少し冒険もしてみたかった。「若いうちにもっとチャレンジがしたい」。そんな想いを持っていた中島氏にとって、久保氏の立ち上げる事業は、とても刺激的に思えた。採用面接のときに久保氏と話をすると、その思いはさらに深くなった。思考のスピードが矢のように早く、事業のアイデアが想像以上に考え抜かれている。それに飛んでくる質問も鋭くキレる。「優秀な人と働きたい」と思っている自分が求めていた人物はこの人だと確信した。
「この人と一緒に働くことによって、大きな化学反応が起こせるかもしれない。自分自身ももっとレベルアップできるはずだという手ごたえを感じましたね」

 すでに転職活動で数社の著名なコンサルタント会社の最終面接まで進んでいた時期だったが、このスタートアップ企業で久保氏と会社を創っていくことの魅力は、それをはるかに上回っていた。

スタートアップ企業への参画 刺激的な毎日

 2018年の4月に設立された株式会社クラスは、そのときまだ社員は数名でサービスも開始されていない状態だった。「そんなスタートアップ企業に加わるなんて『チャレンジ』だと言う人もいましたが、久保にとって起業は2度目で、1度目の経験があるぶん成功する確率も高いだろうという目算もありましたし、何事もゼロから体験できるのでとにかくやりがいがありました。当時は社員も少なかったので、自分の仕事がそのまま会社の意思決定につながるということもありましたね。そういう経験はなかなかできるものではないので大変勉強になりました」と中島氏は語る。現在、管理部のトップとして経理、財務、労務、法務、人事と幅広く業務をこなす中で、経験したことのない仕事もまず専門書を読んで常に知識をインプットし、同時に仕事にアウトプットしていく。そんな刺激が絶えない毎日を送っているという。
「入社して3年目になりますが、現在ではサービスもスタートし正社員も50名を超え、アルバイトも含めると100名近い組織になっています。私のチームも私を除いて6名のスタッフが動いており、組織のマネジメントについても考えるようになりました。現在ではデット・ファイナンス(※1)とエクイティ・ファイナンス(※2)の双方含めた資金調達や、内部統制、採用や組織開発を含めた人事全般を中心に携わっています。会計士資格取得のために学んだことも、様々な場面で役立てられるようになってきました」

 監査法人時代に携わっていた大企業・中堅企業での常識が、ベンチャー企業、それも創業間もないスタートアップ企業では全く通じないことも数多くあり「ここまで違うのか」と驚いたこともあったという。監査の仕事で、企業のことは十分見てきたつもりだったが、実際は風景のごく一部を見ていただけだったことを実感した。

(※1)借入や社債の発行など、負債(デット)の方法で資金調達をする方法。
(※2)株式発行など、資本(エクイティ)の形で資金調達をする方法。

資格取得をひとつのステップに自分の可能性を広げていく

 会計士の資格を得た場合、どこかの監査法人や会計事務所に所属して働くか、そのあと自分で開業するという道へ進む人が多い。しかし、中島氏の場合は違った。会計士の資格を取得して、それをひとつのステップとして別のさらに広い世界へ羽ばたこうとした。資格というものは、人生において「できること」の可能性を広げていく礎にもなるのだ。
「会計士には保守的な性格の人が多いと感じていますが、会計士の資格があるからこそ、資格をセーフティネットとして様々なことに挑戦し、自分の可能性を広げていくことができると思います。ある意味、それこそが本当の保守につながるのではないでしょうか。資格を取得したら、それを武器にいろいろなことにチャレンジしてもっと自分をレベルアップさせる。それもひとつの資格の活かし方だと思います」

 今は上場に向けて、会社の中で「自分の役割をしっかりやり切る」ということを大切にしているという。そんな中島氏には、将来に向けてさらなる展望がある。
「今の会社で経験できることはすべてやりきって、将来的には好きなことをやりながら社会貢献できるような仕事がしたいと考えています。そのためには日々の研鑽と、好奇心を持ちながら何にでも果敢にチャレンジしていく姿勢が大切だと思うので、それらのことを意識しながら日々を過ごしています」

 最後に読者へ次のようなメッセージを送ってくれた。
「ずっと同じ業界で働いていると、良くも悪くも自分と同じ考えや経験を持った人たちに囲まれて過ごすことになるので、視野が偏りがちになります。もちろん、その中で専門的なことを学べる機会も多いですが、もっと様々な分野の多彩なキャリアを持った方々と、年齢も立場も関係なく交流していくことが自分の将来の可能性を広げることにつながると思います。視野を広げて、いろいろな話を聴くようにしてほしいですね」

 好奇心を持って、常に新しい刺激を求めていく姿勢。中島氏はそれに会計士という資格の翼を携え、未来に向けて大きく進化を続けながら羽ばたこうとしている。

[『TACNEWS』2022年1月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]