LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #38

  
Profile

清水小綾(しみず さあや)氏

1992年5月生まれ、神奈川県横浜市出身。商業高校在学時に日商簿記検定1級に合格。卒業後は立教大学経営学部に入学。大学2年時にアルバイトで税理士事務所にて働いたことがきっかけで税理士に憧れを抱きTACの税理士講座に通う。在学中に4科目合格を果たし、大学卒業後、税理士事務所での勤務を経て25歳で官報合格。現在は都内の税理士事務所に勤務し、中小企業を中心とした会計業務、法人化サポート、相続業務、非上場株式の評価などの業務に取り組んでいる。

【清水氏の経歴】

2010年 17歳 商業高校3年時に日商簿記検定1級に合格。
2011年 18歳 立教大学経営学部入学。2年時から始めた税理士事務所でのアルバイトをきっかけに税理士を志しTACで勉強を始め、在学中に4科目に合格。
2015年 22歳 アクタス税理士法人へ入社。1年5ヵ月務めたあと、勉強に専念するために退社。
2017年 25歳 法人税法に合格し、官報合格を果たす。翌年、加藤正英税理士事務所に入所。
2020年 28歳 TACで知り合った税理士の男性と結婚。35歳までに独立開業し、夫婦で税理士事務所を開設することをめざしている。

「25歳で税理士」をもたらしたのは
コツコツとストイックに積み重ねた努力。
自由な働き方"旅する税理士"を夢見て
パートナーと独立開業をめざす。

 発明家・起業家のトーマス・エジソンの名言に「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」という言葉がある。実際、「頭が良くて優秀な人」と言われる人には、相当の努力をコツコツ積み重ねてきた人が多い。難関試験を突破し公認会計士、税理士といった士業として働く人の多くも同様に「努力を積み重ねてきた人」 だ。わずか1%未満とも言われる20代税理士として活躍する清水小綾氏もそのひとり。そんな清水氏に、結果につながる努力の方法、そして税理士となった今思い描く「理想の働き方」についてうかがった。

自分のペースでコツコツと仕事したい
経理職をめざし商業高校へ進学

 商業高校時代に日商簿記検定1級に合格。立教大学在学中に税理士試験4科目に合格。卒業後25歳で税理士試験の官報合格(5科目合格)を果たし、現在は都内の税理士事務所で活躍している——。そんな経歴を持つ清水小綾氏を「頭の良い優秀な女性ですね」と一言で片付けるのは簡単だが、彼女がこうした結果を出せた背景には地道な努力の積み重ねがある。自らの努力によって結果を生み出してきた清水氏の歩みを、学生時代から追っていきたい。
 「私は真面目で完璧主義。コツコツと自分のペースで仕事ができるような職業に就きたいと、子どもの頃から思っていました」と清水氏は言う。「手に職をつけるなら資格を」という両親の勧めもあり、性格的にも自分に向いていそうな経理職をめざすべく地元横浜の商業高校へと進んだ。
 入学後は少しでも早く資格を手にするため、積極的に簿記の授業を選択し、さらに放課後も簿記部で活動した。部活動では、ひたすら簿記の問題集を解き、年に1回ある全国規模の簿記大会にも出場。そして本命の日商簿記検定1級の試験に向けて、高校が提携している会計系受験指導校の無料授業にも参加した。清水氏は「簿記はスポーツだ」と教えてくれた先生の言葉の通り、野球の素振り練習のように、何回も同じ問題を繰り返し反復することで知識を身につけていった。アルバイトの時間以外は、学校の授業を含めてすべて簿記の勉強に注ぎ込み、その努力もあって、高校3年の春、2度目の挑戦で見事1級の試験に合格することができた。校内に2級や3級に合格する生徒は数多くいるが、1級の合格者はわずか2人。ストイックにコツコツと、結果を出すための努力を積み重ねてきたことでつかみ取った合格だった。

母に勧められて大学へ進学
アルバイトがきっかけで税理士をめざす

 1級合格の報を聞いた母は清水氏に大学進学を勧めた。「経済的に裕福ではなかったので、大学には進学せず就職するつもりでいました。そのときは『大学生=遊んでいる』という先入観があったので、もし進学するとしても将来の仕事に直結することを学べる専門学校を選んだほうがいいと考えていました」と清水氏は言う。悩んだ結果、最終的にはいろいろなことを学び、自分の視野を広げるために大学へ行こうという考えに至り、立教大学の経営学部に学校推薦枠で入学した。
 大学2年になると、高校時代に身につけた簿記の知識を活かしたいと、税理士事務所でアルバイトを始めた清水氏。税務のプロフェッショナルである税理士の人たちと一緒に働くのはとても刺激的だったという。
「豊富な専門知識や教養、実績と経験を活かし、様々な問題に悩むお客様に的確なアドバイスで応えていく。そんな所長や先輩方の姿に憧れましたね。日商簿記検定1級に合格していたおかげで、税理士試験の受験資格はすでにある。在学中に5科目合格できなかったとしても、科目合格制度があるから、何科目かでも合格できれば就職活動は有利に進められるだろう。そんな算段を立てて、『税理士をめざそう』と心に決めました」
 心に決めたらすぐに行動せずにはいられなくなる清水氏。アルバイトを始めてまだ間もない大学2年の3月には、TACの税理士講座に申し込み、4月から消費税法、さらに9月から簿記論、財務諸表論、消費税法の勉強をスタートした。
 大学の授業が終わったあと、週5日TACの校舎に通い、夜10時近くまで勉強した。そして勉強を始めて1年後、大学3年のときに受けた試験で簿記論、財務諸表論、消費税法に合格。翌年には事業税の試験に合格した。勉強漬けの毎日だったが、大学の授業で学んだストレスマネジメントや、趣味のひとつである旅行を息抜きに、モチベーションを維持してきた。
 そうして残り1科目という官報合格までリーチがかかった状態で大学を卒業し、税理士法人に入社。働きながらTACにも通って勉強を続けた。しかし、入社して1年目は新しく覚えなければならないことも多く、仕事も多忙だった。クライアントの前ではプロとしての対応が求められることへのプレッシャー。クライアントと上司の話す内容にはついていけず、訪問中に理解できなかったことは持ち帰って調べたり先輩に聞いたりして学ぶ日々。アルバイト時代に比べると仕事の責任も大きくなり、勉強の時間が思うように取れない時期が続いた。
「在職中、法人税法の試験には2回チャレンジしましたが、合格には至りませんでした。このまま働きながら受験を続けていても合格するのは難しいと思いましたね。幸い就職難の時期ではなかったので、一度仕事をやめて勉強に専念するのもいいだろうと思うようになりました」
 悩んだ結果、清水氏は一度退職し、残る1科目の合格に向けて全力を注ぐ決心をする。そして1年5ヵ月勤めた事務所をやめ、勉強に専念して1年後、念願の官報合格を成し遂げた。そして都内の税理士事務所に入所後、登録を済ませ正式に税理士となった。
「税理士登録前は入力業務を任されることが多かったのですが、合格し税理士となったことでそれはほとんどなくなりました。代わりにチェック業務や調べものなど、専門知識を必要とする、より頭を使う業務を任されるようになり、そのぶんいただけるお給料も上がりました。また、気持ちの面でも変化は大きかったですね。お世話になっていたクライアントの方にケーキを買ってお祝いしてもらって合格の実感が湧いたり、「先生」と呼ばれるようになって自信がついたり、仕事を俯瞰的に見ることができるようになって世界が広がったり。『税理士になったんだな』という実感とともに、より仕事に責任を感じるようになりました」
 「でも正直、ほっとしたという気持ちが一番大きかったです」と清水氏は言う。それだけ自分を追い込んでいたのだろう。「受験勉強中、嫌になってしまったことは何度もあります。でも、その度に大好きな旅行に行くことを考えて、気持ちを前向きに切り変えていました。『ここまでやってきたのだから、もう一度がんばろう』と思い直すことの繰り返しでしたね」と清水氏は振り返る。
 現在の職場では、個人事業主のお客様が法人化する際のサポート、非上場株式の評価、月次の税務監査などの仕事に追われている。
「税理士業界は平均年齢が高いので、20代の女性税理士ということで、若いというイメージが先行し、経験が浅いだろうと頼りなく思われてしまうこともあります。そういったときは、準備をしっかりして、クライアント一人ひとりに丁寧に向き合って仕事をしていく、日々勉強していくことで、信頼を得ていくことを大切にしています。  ただ、20代の経営者も増えていますし、同年代のクライアントからは『話しやすい、親しみやすい』と言っていただけることも多いです。他にも新しいツールを取り入れて効率化を図ったり、既存のやり方に固執せず新しいことにチャレンジしたり。そういった従来型の税理士業務の殻を破っていける部分は、若い税理士ならではの強みだと感じていますね」

夢はパートナーとの独立開業、
自由な働き方 “旅する税理士” の実現

 そんな清水氏には大きな夢がある。35歳になるまでに独立開業し、夫とふたりで税理士事務所を作ることだ。2020年に結婚したというパートナーは、TACで知り合った受験仲間だった男性で、清水氏にやや遅れて税理士試験に合格し、現在は別の税理士事務所で相続を専門に活躍している。お互いがそれぞれの場所で修業を積み、そこで得たスキルや知識を掛け合わせて専門性を高めた事務所にするつもりだという。
 現在、清水氏が務めている税理士事務所も、将来独立したいという希望を理解し、応援してくれている。この業界には珍しく、「直接受任推奨」という独立開業を支援する方針をとっている事務所のため、清水氏は将来の独立開業に向けて、クライアントの数を増やしつつ、特に設立支援業務に力を入れていきたいと語ってくれた。
 そして、もうひとつ夢見ていることがある。2020年の新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、リモートワークやワーケーションなど、新しい働き方のスタイルが生まれてきている中で、大好きな旅行をしながら働くというワーキングスタイルを実現することだ。「今はインターネットさえ繋がれば、どこにいてもお客様とデータのやり取りができますし、税理士法上の問題はありますが、物理的には海外からでも申告業務ができる時代なので、旅行しながら働くことも不可能ではないはずです。将来は1年のうち4分の1くらいは海外で生活しながら仕事をするのが理想ですね」と清水氏は笑顔で話す。
 そんな清水氏が思う税理士の魅力は「自由」であることだという。
「独立したら自分のペースで働けますし、北海道でも沖縄でも、場所にとらわれず自分の好きな場所で開業できます。資格さえあれば、どこへ行っても『税理士』。これが強力なアイデンティティになります。自分の意思で行動して仕事につなげて、その成果で生活していける。そんな可能性がある税理士はやはり魅力的です。
 大学時代、同級生のほとんどは一般企業への就職活動をしていて、在学中に税理士をめざすという人は珍しかったですが、比較的時間のある学生時代に、税理士などの資格取得にチャレンジするという選択肢も私は『あり』だと思います。周りが遊びやサークル活動で大学生活を謳歌する中で、勉強に打ち込むのはつらいと感じることもあると思いますが、社会人になってから勉強時間を捻出するのはそれ以上に苦労します。
 また、一般企業の文化とは異なり、会計業界では転職がポジティブに捉えられることが多いので、自分らしいキャリアを選択していきたい方や、働く場所や環境にとらわれない自由な働き方に憧れがある人にはぴったりの職業だと思います。学生の方には、ぜひ税理士をめざすことを進路の選択肢のひとつに入れていただけたらと思います」
 受験生に向けては、「息抜きを適度に入れながら、メリハリをつけてコツコツ勉強し続けることが大切」と自身の経験をもとにメッセージを送ってくれた。これからも持ち前の「コツコツと努力する」ことで、これらの夢の実現に向けても邁進していくことだろう。目標の「35歳」まであと6年。「旅する税理士」の誕生が待ち遠しい。

[『TACNEWS』 2021年12月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]