LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #33

  
平田 亮氏
Profile

平田 亮(ひらた りょう)氏

アクトライズグループ税理士法人アクトライズ 
行政書士法人アクトライズ 代表社員 税理士 行政書士

平田 亮(ひらた りょう)
1986年5月25日生まれ。同志社大学在学中、経営や簿記の学習を通して税理士という資格を知ったことをきっかけに税理士試験の勉強を始める。大学卒業後は会計事務所に就職し受験勉強との両立に苦戦しながらも実務経験を積む。その後一般企業の経理職に転職。挑戦10年目で税理士官報合格・登録を果たす。開業後、尊敬する税理士の先輩から誘いを受け、ともに税理士法人アクトライズを設立し、代表就任。翌年には行政書士登録し業務の幅を広げるなど「社長の夢を実現するサポーター」をめざして、日々業務に取り組んでいる。

【平田氏の経歴】

2005年 19歳 大学入学後、簿記の勉強や税理士の父を持つ友人との交流を通して、税理士の仕事に興味を持つようになり、大学2年からTACの税理士講座に通い始める。
2009年 23歳 大学卒業後、実務経験を積むため会計事務所に就職して勉強を続けるも、仕事と勉強との両立に苦戦。残り2科目の状態で不合格が続く。
2013年 27歳 一般企業の経理職に転職。結婚し守るものが増えたこともモチベーションとなり再度勉強に奮起する。
2015年 29歳 10年目の挑戦で、官報合格を果たし開業。
2018年 32歳 尊敬する税理士である松尾基宏氏に誘いを受け、ともに税理士法人アクトライズを設立。代表に就任する。

 10年の歳月をかけて税理士の資格を勝ち取り、子どもの頃の「社長になる」という夢を叶えた税理士法人アクトライズ代表の平田亮氏。まさに「継続は力なり」を体現しているが、現在に至るまでには挫折や失敗もたくさんあったという。そんな平田氏に、税理士をめざしたきっかけから、受験生時代の苦労、独立までの経緯、そして「社長の夢を実現するサポーターでありたい」という次なるビジョンについて語ってもらった。

「社長」に憧れた幼少期 大学時代のある出会いが転機に

  「子どもの頃は見栄っ張りで、かっこつけたがり。ただ『かっこいいから』という理由で、社長になりたいと思っていました」
 兵庫県高砂市で生まれた平田氏は、地元の大きな祭りにも積極的に参加し神輿を担いで回ったり、人前でコントを披露しておちゃらけて見せたりと、人と関わるのが好きな活発な子どもだった。高校では応援部に入部し3年生になると団長も務めた。
 大学は地元近くの京都にある同志社大学商学部へ進学。「自信がある受験科目が英語・国語・世界史だけだったので、選択肢が狭められていたという事情もありますが、子どもの頃からの『社長になりたい』という夢が頭の片隅にあって、無意識的に経営を学べる学部を選んだのかもしれません」と平田氏は言う。
 そんな平田氏が税理士という職業を意識するようになったのは大学に入ってからだった。大学で知り合った友人の父親が京都では指折りの税理士法人を経営しており、よくその活躍ぶりを聞かせてくれたのだ。その友人の父親は「息子の友人だから」と食事にも誘ってくれた。メニューというものが存在しないような風格ある京都市内の高級料亭。着物を着た給仕がてきぱきと働き料理を運び、そんな店で友人の父親の慣れた振る舞いは間違いなく常連のように思われた。
「仕事や経営の話などはまったくなくて、とりとめのない話ばかりをしていたのですが、息子の友人にまで高価な料理をご馳走してくれて、悠々としている姿がとてもかっこよく見えました。子どもの頃から憧れていた『かっこいい社長』のイメージとも重なりましたし、税理士はとても稼げる職業なのだと思いましたね。今でもその友人のお父さんは私の目標であり、年を重ねたらそんな存在になりたいと思っています」
 この頃から、「社長になる」という漠然とした憧れが少しずつ具体的に変化していった。

「パズルみたいでおもしろい」 簿記のおもしろさを知る

 大学の一部履修科目では指定の資格取得で単位が免除される制度があったため、平田氏は大学1年のときに日商簿記検定3級、翌年に2級を取得した。
「簿記の勉強を実際にやってみると案外おもしろく『自分には会計の仕事が向いているのでは』と思うようになりました。私は算数や数学が苦手でしたが、簿記は数字を扱うものの、項目に従って数字を当てはめていく行為がパズルのように感じられて、そこにハマりましたね。実際今でも決算書を作る作業などは好きです。
 会計の仕事に興味を持つと、友人の話を聞いていたこともあり『資格を取る』という選択肢はすぐに浮かびました。そこでTACのホームページで会計系の資格を調べてみたところ、税理士になるには5科目合格する必要があるものの、有効期限がない科目合格制度があり1科目ずつでも自分のペースで取得できるということを知りました。また、私は人と関わることが好きなので、クライアントから様々な相談を受けてそれに応えていくという仕事内容もおもしろそうだなと。会計系の国家資格であれば公認会計士という道もありますが、私は人と積極的に関わるような税理士の仕事内容に興味を惹かれましたね」
 こうして平田氏は2006年、大学2年のときに税理士の勉強を始め、翌年の試験で財務諸表論に合格。2度目の試験では結果が振るわなかったが引き続き勉強に励み、大学卒業後は勉強に専念。3度目の試験で簿記論と消費税法に合格した。
 試験のあと、2009年8月には実務経験を積むために会計事務所に入所し、働きながら残り2科目の合格をめざしたもののなかなか結果が出ない。不合格の結果を知る度に、働きながら資格を取得することの難しさを実感した。
「それまで自分としては調子よく進んでいるなと思っていました。でも、就職してからは仕事が忙しくなって勉強する時間を捻出するのが難しくなりました。また、多忙な仕事の反動もあってパチンコやオンラインゲームにハマってしまい、現実逃避している時期もありましたね」

「あと2科目」 仕事との両立にもがく日々

「このままではダメだ」
 ある日、自分自身を振り返ってそう思った。改めて、勉強時間を捻出するため、そして合格後税理士として独立することを見越して、経験を積むため他の会計事務所や一般企業の経理職に転職するなど環境を変えながら、残る法人税法と相続税法の合格をめざした。転職先を考えるときはTACの社会人受験生の先輩たちに聞き回り、近隣事務所のリアルな情報を集めていったという。
 27歳で結婚し、子どもも生まれ、守るべきものができた。自分は税理士にならなければならない。そんな強い思いが平田氏を奮い立たせていた。
「勉強が手につかず、2年ほど棒に振ってしまいましたが、やっぱり税理士になりたいという思いが沸き上がってきて、横道に逸れてしまうのを踏みとどまることができました。TACで出会った仲間たちの影響も大きかったです。一緒にがんばれること、そしてみんながどんどん夢を叶えていく姿を見たことで、自分も負けていられないとやる気がわいてきました」
 そんな努力が実を結び、平田氏は2014年に法人税法、翌年には相続税法で官報合格を果たし、10年間の受験生生活にピリオドを打った。合格発表日の朝、会社のPCでインターネットに公開された官報に自分の名前を見つけ「合格しました!」と報告すると、ずっと何年もがんばり続けてきたことを知っている同僚や上司たちが全員立ち上がって、平田氏を祝ってくれた。すぐ妻にも報告の電話を入れると、涙声で「長い間、お疲れ様」とひと言、今までの努力をねぎらってくれた。それを聞くと急に実感がわいて、自分も涙がこぼれそうになった。仕事と勉強のため、子育てを任せきりにしてしまった。これからは苦労に報いて、人一倍幸せにしてあげたい。合格のうれしさとともに、次なる覚悟が生まれた瞬間だった。

資格取得による環境の変化と新しい出会い

税理士になると会社での待遇が飛躍的に向上した。役職が2段階飛び級で上がり、給与も増えるという会社としても異例の昇進。税理士の登録費用も会社が負担してくれるという好待遇だった。資格を取ったことで周囲の反応も変わり、評価も変わった。「税理士」として会社に遇されたことで、改めて「資格」の影響の大きさを実感したのだった。
 試験に受かったらすぐに退職して独立しようと考えていた平田氏だったが、この会社の恩義に報いるため2年間は恩返しという形で会社に残ることにした。しかし、退職後のことも考えて副業として税理士業をスタートし、忙しい日々を過ごしていた。そんな折、税理士同士の会合で出会った先輩の税理士、松尾基宏氏(現:アクトライズグループ会長)から、独立するなら一緒にやらないかと声を掛けられる。
「松尾さんは、年齢がひと回り上のベテラン税理士で、私が思いもつかないようなユニークなビジネスアイデアを豊富に持ってる方です。何度か一緒に仕事もし、独創的なアイデアを企業にぶつける様子に感嘆していたのですが、 あるとき、『君と私はとても似ている部分がある』と言われました。実は私自身も、クラウド会計ソフトに早くから注目して取り組んでいる点など、仕事の方向性が似ているなと感じていました。地域の手ごわい競合になると思っていた人物でしたが、手を組めばやりたいと思っていることを倍速で進めることができるのではないかと思ったのです。そして東京で行われた経営セミナーに一緒に参加した日に熱烈なプロポーズを受けまして、こんな大尊敬する方のお誘いならと喜んで承諾しました」

めざすは社長の夢を実現するサポーター

 尊敬する人物からのラブコールに応えた平田氏は、2018年に松尾氏の事務所と合併する形で税理士法人アクトライズを創設。平田氏は32歳にして代表を任されることとなった。この法人名は「アクト=行動」「トライ=挑戦」「リアライズ=実現」の3語を組み合わせた造語で、平田氏が命名したものだ。2019年には行政書士登録を済ませ、行政書士法人を設立し代表に就任。現在税理士法人アクトライズは、松尾氏を会長とするアクトライズグループの一角として、株式会社アクトライズ、行政書士法人アクトライズ 、合同会社アークコンサルティングとともに、東京両国オフィスと兵庫県加古川オフィスで事業を展開している。
「『社長の夢を実現するサポーター』という役割が私たちのめざす仕事のイメージで、経営者の横を走る伴走者になりたいと思っています。経営者というのは本当に孤独な存在で、上の人から指示されたり怒られたりすることもないですが、逆に喜びを分かち合ったり相談に乗ってもらえる相手がいないことも多いです。なので、寄り添い支え、横道に逸れていたら一緒に立ち止まり、道を正していける羅針盤のような存在になることこそが私たちの役割なのではないかと。社長の思いを実現し目標達成するには、どんなサポートができるのか常日頃考えていますね。
 また、税理士法人アクトライズは、クラウドソフトのAIを駆使したソリューションについて、兵庫地域では最もノウハウがある会計事務所だと自負していますので、そこを今後も大きな売りにしていくつもりです。また士業という業界は行政と同じように縦割りで、税務、労務、法律など専門分野がはっきりと分かれていますが、アクトライズグループとしては、税理士だけの視点にとらわれず、いろいろな専門家から話が聞けるようなワンストップのサービスが提供できる組織をめざしています。『アクトライズグループに任せておけば安心』と思っていただけるようなトータルサポートを提供していきたいですね」
 組織をまとめる代表として、税理士法人やグループの展望を語る平田氏。10年間の苦労が確実に実り始めている。そんな平田氏は、これから税理士をめざす後輩たちにもエールを送ってくれた。
「税理士業界は年齢層が高く、平均年齢は60歳以上と言われています。ですから50歳になってから資格を取得しても全然遅くはないのです。10年間もかかってやっと合格した私ですが、20代の税理士は1%にも満たないと言われている業界ですから、29歳に税理士登録をしたときでも十分若いくらいでした。『継続は力なり』と言いますが、本当にその通りで、少し回り道をしても、挑み続ければ必ずゴールにたどり着けるはずです。これからチャレンジしようとしている方々には、ぜひともあきらめずにがんばってほしいと思います」
 そんな平田氏個人の将来の夢は、かつて自分がしてもらったように、自分の子どもたちや子どもたちの友人を「メニューのない店」へ連れていくことだという。そして、その夢がかなう日もきっと近いだろう。

[『TACNEWS』 2021年7月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]