タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第39回テーマ 税理士がテレビドラマに登場しないのはなぜか?

監 子 税太君、Help!


税 太 監子さん、先月号と同じセリフですが、ま、まさか?


監 子 今では私の生活もあらゆる意味で変わってしまったの。自立心もぼやけて消えちゃった。時々とても不安になるの。今までわからなかったけど、あなたが必要なの!


税 太 先月号に続きビートルズの『Help!』 の歌詞を畳みかけてくるとは!しかも今度は2番の歌詞!というか、なぜビートルズ??


監 子 しつこくてごめんね。来年はデビュー60周年だし、お客様世代にはビートルズファンが多いから簿記と同様必修科目なのよ!あのね、昨日テレビ局のスタッフの方から電話があって「相談したいことがある」って言われたから、さっきまでテレビ局で打ち合わせだったの!ああ、私どうしたらいいかしら…!


税 太 それはすごいじゃないですか!?ひょっとして出演依頼ですか?


監 子 フフフ、「ミス会計士」の美貌、テレビ局が放っておくわけないわ!


襟 糸 監子君、ヘルプを頼んでおいて思わせぶりは良くないぞ。会計や税務面での監修依頼が来ていると正直に言えばいいではないか。しかも「ミス会計士」なんて称号聞いたことないぞ。名乗るのは勝手だが、読者を勘違いさせてしまうから、頭に「自称」をつけたらどうだ?


監 子 く~、また後から入ってきて夢を壊すようなことを!でもそういった「勘違い」を正しく専門家の目で見て指摘するようにと言われているのが今回のお仕事。あーあ、でもやっぱり女優デビューしたかったなぁ。


税 太 そういえば、税理士ってあまりドラマには出てこないですよね。同じ士業でも弁護士が主役のドラマはたくさんあるのに…。


襟 糸 フフフ、それは『富嶽百景』さ。


監 子 所長!襟糸先輩が謎めいた言葉を発しています!Help!


田久巣 いやいやビートルズの話は終わったよね。でも確かにこれは難問だ。『富嶽百景』って太宰治の小説で、教科書にも載っているものだったなぁ。たしか「富士には、月見草がよく似合ふ」って文章が有名で…。ん?ひょっとして税理士は月見草だからってことか?


襟 糸 さすが所長です。税理士はお金周りで困っているお客様から本当に頼りにされています。決して華やかな富士山のようなスター性はないですが、その富士山と「立派に相対峙し、みぢんもゆるがず、なんと言ふのか、金剛力草とでも言ひたいくらゐ、けなげにすつくと立つ」月見草こそが税理士だと思うんです。ドラマに登場して目立つことはなくても、今回監子君が頼まれた仕事のように陰から支える仕事はできる。日は当たらなくても陰から人を支えることができる税理士の仕事が、僕は好きなんです。


監 子 あら、襟糸先輩、たまには良いこと言う!確かに今をときめく大企業にだって、それを陰から支えている税理士がいるはず。そっと富士山に寄り添う「月」見草のように、お客様のために今日もがんばろう、そう考えれば「ツキ」が回ってくるかもね!

【今回のポイント】

我々税理士は、あまり業界を知らない人たちから地味、暗い、数字とにらめっこしている、税金の話をボソボソ難しく話す、AIに取って代わられるなどネガティブなイメージを抱かれることが多い。税理士に助けてもらった人や税理士本人に聞けば、それはただの偏見とわかるし、ポジティブなイメージも多く出るのだが、なかなかテレビドラマのように華やかな世界のストーリーとは結びつきにくいのかもしれない。しかし実際の世の中の多くは、月見草のような「目立たないけど陰から社会を支える」仕事で成り立っている。だから、もし税理士がテレビドラマに登場したら、縁の下の力持ちのような税理士の仕事ぶりに共感する視聴者も多いことだろう。ドラマのタイトルは、太宰の名作になぞらえて『税理士月見先生』なんてどうだろうか。


[『TACNEWS』 2021年11月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ副代表/代表社員パートナー。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ入社。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。

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