タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第19回テーマ 税理士って資本的支出?

監 子 税太君、ちょっとお願いがあるんだけど…。

税 太 今非常に嫌な予感がしました…襟糸先輩じゃダメでしょうか?

監 子 ダメ。絶対ダメ。今夜クライアントのお知り合いの計らいで出会いの場としての合コンをセッティングされちゃったの。でも急遽M&Aのお仕事が入っちゃったのよ。

税 太 ひょっとして代わりに行けなんて言わないですよね?そもそも僕は男ですよ?女性の監子さんの代わりだとしたら相手の男からドン引き間違いなしですよ。しかも僕はそもそも妻子ある身ですし。

襟 糸  フフフ、監子君、聞こえてるぞ。私が行ってあげようじゃないか。私は独身だし、1人分女が男に変わったくらいでそう変わるまい。それに私が行くとなれば、ただ欠席の穴を埋めるだけでは済まさないぞ。監子君が出席できた時の盛り上がりを100点とすれば、襟糸様が代理出席した時の点数は150点になるだろう。

監 子  あ、あのう、全くもって結構です。税太君が行ったら100点のままですけど、襟糸先輩が行ったらむしろ20点に下がりますし。

襟 糸  なぬ!なんだと!?そんな差があるわけないじゃないか!

田久巣 まぁまぁ、毎度なんでいつも代表の私が君たちの喧嘩をおさめなきゃいけないんだ。今のはしかし、税務的には大事な話だ。税太君が監子君の代わりに行けば最低限穴は埋められる、ということは、つまり税太君の行為は「修繕費(=費用)」的なものと言えるだろう。一方襟糸君が代わりに行くことで盛り上がりが150点になるということは、立派な価値の上昇、つまり襟糸君の行為はいわば「資本的支出(=資産)」的なものと言えるだろう。

監 子  さすが、代表!例えが税務の専門家ならではです。失礼を承知で言えば、代表に私の代わりに行っていただきたいくらいです!でも残念ながら襟糸先輩の動きはマイナスの資本的支出ね。全然空気読まないで自分のエリート人生を自慢しそうだし、ぶち壊しそうだから。

襟 糸  う、うるさい!むしろ女性陣は私に魅了されるという意味で壊れてしまうはずだ!

税 太  そういえば僕が以前働いていたシステムの会社でも同じような話がありました。僕が働いていたある時期のSEとしての時間が、開発行為なのか保守行為なのか、微妙なものがあって。前者なら資産、後者なら費用。結局、将来の収益を獲得するための開発時間と認定されて晴れて資産になりました。

田久巣  税太、その例えはかなりいい線いっているぞ。同じことは税理士の仕事についても言えるね。部下が担当している月次顧問先の社長のもとへ、上司が部下に代わって訪問した場合、その行為は上司の動き次第で資本的支出になるか修繕費になるかが変わるんだ。普通の上司は部下と同じ動きになってしまって修繕費にとどまる。しかし、できる上司は社長の目を見張る有効な提案をして、追加で報酬を頂くため資本的支出としての動きをするのだ。ところで襟糸君、資本的支出の3つの例示のうち最初の1つを言ってみたまえ。

襟 糸  はい、(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額。です。法人税法基本通達7-8-1からです。

田久巣  素晴らしい。完璧、その通りだ。それで元に戻るが、監子君の最初言っていたことが分かったかね?

襟 糸  はい、てっきり私が代わりに行けば、上記で言う(1)の避難階段みたいな存在になって、災害級の気まずい空気になっても私が救えると思っていましたが、今気づきました。災害を起こしてしまうのは他人ではなく自分であることに。監子君、許してくれ。

監 子  ここまで改心できるとは…代表のお言葉ってまさに資本的支出です!

襟 糸  でもその合コンに行かないとは言っていない。いざ自分が災害を起こしたとしても税太に避難階段になってもらえばいいのだ。だから税太、一緒に行くぞ!

監 子  ひゃぁ~、だれか襟糸先輩を修繕して~!

【今回のポイント】

資本的支出と修繕費。これは法人税の実務上の論点だけでなく、あらゆる人生活動でも論点になりやすい。「今日の自分の活動は資産だったか、費用だったか」という意識は大事だ。確かに税理士も実際には修繕費のような仕事も少なくはないが、顧客にとって将来の重要な意思決定を支援することも多いので、資本的支出としての役割が大きいのだ。受験生諸君にとっても、今の勉強は「試験合格」という近未来だけでなく、「税理士人生」という遠い将来まで役立つことがありうる。そう思うと、今の勉強にかかる時間やお金は、れっきとした資本的支出と言えるだろう。


[TACNEWS 2020年3月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。また情報戦略本部長としてプラットフォームの構築も担当し、2019年7月「Mochi-ya」をリリース。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)