人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第46回 株式会社ZOZO

Profile

矢野 晶也氏

人自(じんじ)本部 人自部ディレクター

2008年、株式会社ZOZO入社。フルフィルメント本部、WEAR事業部等を経て、2018年より人自部ディレクター(部長職)として人自部にかかわる業務を統括している。


ファッションEC『ZOZOTOWN』を知らない人は、まずいないだろう。株式会社ZOZOは、2022年6月末現在8,500ブランド以上、年間1,060万人以上のユーザーが利用するファッションEC『ZOZOTOWN』や、日本最大級のファッションコーディネートアプリ『WEAR』などを運営する企業だ。若い世代が中心となって次々に新しい展開を打ち出してくるZOZOには、独自のカルチャーが根づいている。人自(じんじ)本部人自部ディレクターの矢野晶也氏に、ZOZOの企業風土を中心に、採用方針、人材育成、福利厚生などについてうかがった。

人事は「人自(じんじ)」、仕事は「自事(しごと)」

──最初に、株式会社ZOZOについてご紹介をお願いします。

矢野 ZOZOは1998年に創業し、2004年からファッションEC『ZOZOTOWN』を運営してきました。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を企業理念に、アパレルをメインの商材に据えながら、幅広いブランドを取りそろえるだけでなく、ファッションとテクノロジーを掛け合わせた新しい体験や出会いの創出をめざしています。
 最大の特徴は、凝り固まった視点を持たないことで、「ソウゾウのナナメウエ」をキーワードに、ZOZOらしさを追求しています。例えば、インターネットで服が売れないと言われていた時代にファッションECを立ち上げたり、『ZOZOGLASS』や『ZOZOMAT』、3D計測用ボディースーツ『ZOZOSUIT』といった計測技術を開発したりと、ファッションが好きなZOZOだからこそできる、世の中をワクワクさせたりアッと驚かせたりすることを、楽しみながら行っています。

──2022年から2023年にかけて、新しい取り組みがあればお聞かせください。

矢野 2022年5月に、経営戦略の「MORE FASHION × FASHION TECH」に新たに「ワクワクできる『似合う』を届ける」を追加しました。より多くの方にたくさんの笑顔を届けていくために「似合う」を探求していきたいと考えており、今後、ワクワクできる「似合う」を体験いただけるオフラインの取り組みも実施予定です。

──人事本部を「人自本部」と表記していますが、どのような意図があるのでしょうか。

矢野 ZOZOでは、人事を「人自(じんじ)」、仕事を「自事(しごと)」と表記しています。
 「人自」に関しては、人のことも自分のことのように考えられる人事でありたいし、会社でありたいというコンセプトで「人自」と呼んでいます。「自事」に関しても、「スタッフ一人ひとりが他人のことも自分のこととして考える」という意味と、「仕事=仕えること」ではなく「自事=自然なこと」だという意味が込められています。仕事を「仕えること」と表記すると受動的なイメージになってしまいます。しかし、生活をする上で働くことは自然なことですし、ZOZOのカルチャーの根底には「楽しく働く」があります。楽しく働くためには「仕える」のではなくて、自ら主体的にやりたいことを選んでほしい。このように「自分らしく楽しもう」という思いも込めて「自事」と表記しています。
 これは私たちがとても大事にしているカルチャーで、当時の経営陣がいろいろな思いを込めて話し合い、決めた背景があります。私たちのカルチャーは、「競争」ではなく「共創」することです。共創とは、「人を蹴落とすのではなく手を取り合って協調しながら、一緒にみんなで成長していこう」というものです。例えばみんなでキャンプをする場合、火をおこすのが得意な人や魚釣りが好きな人、キャンプは初めてだけどテントを張りたいという人もいるでしょう。それぞれの得意分野や興味のあるところで役割を発揮できると、キャンプがさらに楽しくなると思うのです。そしてもし自分が釣りから戻ってきたときテントを張るのに苦戦している人がいれば、みんなでキャンプを楽しむために、自然と手伝う。そんな関係をめざすのが、ZOZOのカルチャーです。

ビジネス部門の新卒は入社後10ヵ月のジョブローテーション

──新卒採用とキャリア採用ではどちらを軸にしていますか。

矢野 採用人数の規模感で言えば、今はキャリア採用が多いです。実は新卒採用は2018年から3年ほど休止していたのですが、2021年度入社から再開しました。2022年4月入社は、ビジネス部門と開発部門(エンジニア・デザイナー)合わせて50名弱、2023年も同規模を想定しています。

── 新卒採用での内定者フォローや新入社員研修について教えてください。

矢野 まずは内定後に全体で内定者懇談会を実施します。そして内定式のあとも懇親会を開き、改めてZOZOの制度や理念を紹介して、正式な研修が始まるのは入社後になります。4月の入社後には新入社員研修を約1ヵ月間実施し、ZOZOの理念やビジネスについて学んでもらうほか、外部講師を招いたビジネスマナー研修なども行います。新入社員研修後、ビジネス部門は10ヵ月間のジョブローテーションに入ります。開発部門に関しては、その後約1ヵ月、専門知識を深める研修や、チームに分かれて開発を行う「開発研修」を実施し、その成果を社内に向けて発表するなどしています。

──ビジネス部門は1年目にジョブローテーションで複数の部署で経験を積み、正式な配属は2年目から、そしてその後も2年ごとに複数の部署をローテーションするそうですね。

矢野 その通りです。新卒がジョブローテーションで配属になるのは基本的に物流拠点を担う「フルフィルメント本部」、お客様からの問い合わせ対応などを行う「ホスピタリティ本部」、ZOZOTOWN出店ブランド様のサポートを行う「EC推進本部」の3部署で、ビジネス部門のスタッフとして必要不可欠な知識が身につく部署を3ヵ月ごとに3ヵ所まわる設計です。2年目以降もジョブローテーションは戦略的に実施していく方向で、2年目に本配属となったあとは適性や経験値、習熟度などを見ながら、財務部、総務部、人自部などの部署も含め、幅広く配属していきます。
 こうしたジョブローテーションを経て、新卒社員は入社から10年前後でブロック長、つまり他社でいう課長レベルまで育てていく計画です。

求めるのは「素直で変化を楽しめる人」

──キャリア採用はどのような方針で臨まれていますか。

矢野 年間の採用計画に基づき、幅広いポジションでキャリア採用を行っています。
 採用ルートに関しては、求職者の中でも「ZOZOやサービスが好き」という方には当社の採用ページで募集案内を見てエントリーしていただいています。これを自社採用と呼んでいます。一方、専門的な職種などはエージェント経由でも採用を行っています。その他、ビジネス部門と開発部門の両方で、リファラル採用にも力を入れています。

──キャリア採用の選考で大切にしているのはどのようなことですか。

矢野 キャリア採用でも新卒採用でも共通しているのは、やはり「人柄」です。わかりやすい表現でいうと「素直で変化を楽しめる人」かどうかを重視しています。
当社では状況に応じてスピーディーな経営判断を行うこともあり、新しい挑戦にも多く取り組んでいるので、時には「右じゃなくてやっぱり左」という方向転換もあり得ます。そうした場合も、変化に柔軟に対応しながら仲間とともに同じ方向を向くことができる、そういった素直さと変化を楽しめることが大切だと考えています。

「ソウゾウのナナメウエAWARDS」で年1回表彰

── 新入社員研修以後の教育研修制度について教えてください。

矢野 全社的な取り組みとして、管理監督者向けマネジメント研修の実施や、グループのスケールメリットを活かした多種多様な研修のほか、階層別研修などを行っています。また、週1回、上司と部下で「1on1ミーティング」をすることも制度化しています。ユニークなものとしては、「ソウゾウのナナメウエAWARDS」という表彰を実施しています。これは社員が1年間を通じて行った、ソウゾウのナナメウエを行くような発想の取り組みを自薦・他薦問わず集め、社長・取締役・執行役員による審査を行い、その中で優秀だった人を表彰するというものです。
 人自部としては今後も時と場合に応じて、必要なタイミングの研修や場を提供していきたいと考えています。

──2019年からZホールディングスグループの一員となりましたが、教育研修などへの影響はありますか。

矢野 Zホールディングスグループ各社と密に連携を取るようになりました。その一環で、私もZホールディングス主催の『Zアカデミア』という企業内大学に研修1期生として参加してきました。
 企業の壁を越えて多様な人たちが集い、ディスカッションを行い発表することで、ロジカルシンキングなどいろいろなことを学ぶ研修です。事業では、グループ企業とのコラボレーションやグループ間の横の連携によるシナジー効果、ノウハウの共有といった、新しい動きが活発になっています。

自事とプライベートをバランスよく充実させる福利厚生

──人事評価や昇級・昇格などについて教えてください。

矢野 ビジネス部門においては、いわゆる全社統一の評価制度はなく、本部ごとに評価指標を設定しています。例えば等級1から等級2に昇級する際の条件は全社統一ではなく、本部のミッションを達成するために各等級で求められる資質や条件を各本部で設定し、「各本部の評価軸で等級1のレベルを満たしたから等級2へ」という形でキャリアアップします。

──人事評価などを各本部に任せるのはユニークですね。

矢野 そうですね。実は約10年前に全社統一の評価軸の導入を検討したことがあります。各本部のマネジメント層が集まり、意見をすり合わせて評点を決めたのですが、人間ですからそれぞれの思いが違いますし、業務内容によっても異なります。競技スポーツでも水泳、柔道などいろいろな種目がある中で、それぞれの採点方法を同じにしようとすると、なかなか評価のレベル感が合わないですよね。そうした認識合わせにものすごく時間がかかってしまったのです。そもそも人事評価は実際に評価対象者と向き合う評価者しか決められないと思うので、統一の評価軸を決めるのは非常に難しい。であれば、上司と部下が面と向かって話し合い、「この目標をクリアできたら評価する」という基準を決め、部内でグリップがしっかり握れていればいいのではないか。そんな考えで全社統一評価をなくし、各本部の評価軸に任せるようになりました。

── 開発部門の人事評価も同様なのですか。

矢野 開発部門の評価制度には統一したものがあります。2021年10月に子会社だった株式会社ZOZOテクノロジーズを吸収分割し、開発部門とビジネス部門が一緒になった結果、ダブルスタンダードの運用になりました。これをまさに今、経営層と議論を重ね統一に向けて動いている最中です。両部門のいいとこ取りをしつつ、今の時代に合った制度に刷新していこうとしています。

──福利厚生でユニークなものがあればご紹介ください。

矢野 ビジネス部門には「自学手当」といって、自ら学びたいという意欲をサポートする制度があり、毎月2,500円の支給額は勤続年数に応じて増え、最大で10万円を支給しています。それを資格取得に向けた受験費用の足しにしたり、知識を深めたい分野の書籍を購入したりと、自らの能力を伸ばすために使うことができます。
 もう1つ、地域の活性化とBCP(事業継続計画。Business Continuity Plan)の観点から、当社の各拠点近くの指定エリア内に住むと手当がつく制度もあります。千葉とつくばは月5万円、宮崎は月3万円を支給しており、約7割の社員がこの制度を利用しています。一方、開発部門については、国内ならどこに住んでいても就業可能な「全国在宅勤務制度」を導入しています。

──地域の活性化にもつながる制度を導入されているのは素晴らしいですね。

矢野 ありがとうございます。さらにZOZOらしい制度として、「家族時短」というものがあります。自事とプライベートをバランス良く充実させるために、介護や育児はもちろん、ペットや同居人などを含めた社員自身にとっての「家族」のサポートが必要な場合に利用できる制度で、1日最大2時間の時短勤務が可能です。飼っている犬が体調不良でケアが必要だというときにも、家族時短を活用してお世話をすることが可能、というユニークな制度です。
 働き方の面では、コロナ禍の影響でまだ本運用には至っていませんが、ビジネス部門で「週2日出社、週3日リモートワーク」の実現に向けて、現在トライアルを実施中です。ZOZOのカルチャーは人と人とのコミュニケーションから生まれてきたものが多いので、フルリモートに振り切ることなく、リアルコミュニケーションを大事にしていこうということで、ベストミックスを模索中です。

ワクワクしながらやりたいことに飛び込もう

──新卒採用では応募者が学生時代に取得した資格をどのように評価していますか。

矢野 資格があるからというその1点だけでプラスの評価をすることはありません。私たちはZOZOに対する情熱や愛をとても大事にしているので、それがあった上で「資格もあればなお可」という判断になります。選考時の面接等において、資格取得のために打ち込んだことなど、取得までのプロセスや経験を評価することはあります。
 キャリア採用ではポジションによりますが、業務に活かせる資格をお持ちである場合は、スキルレベルの判断材料として考慮する場合があります。ただし基本的には、資格がなくても、これまでのご経験や努力されてきたことなどを含め総合的に勘案し、判断していますね。

──資格取得やキャリアアップをめざしている読者にメッセージをお願いします。

矢野 資格を取得するためにがんばっている皆さんの努力と、自分で決めた軸を持って臨む姿勢は素晴らしいと思います。何かをめざすときに発揮する「達成に向かう力」は、今後必ず自分のためにも人のためにもなるでしょう。
 同時に「何のために資格を取得するのか」という明確な目的意識を持ってがんばると、企業選びも自分の将来も、ワクワクしたものになるはずです。「この資格を取得したら、この業界に入らなければいけない」という固定観念は持たずに、自分が本当に好きなこと、愛を注げること、やりたいことができる場に、素直に飛び込んでいってほしいと思います。

[『TACNEWS 』2022年11月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     株式会社ZOZO
設立     1998年5月21日
代表者    代表取締役社長兼CEO 澤田 宏太郎
本社所在地  千葉県千葉市稲毛区緑町1-15-16

事業内容

ファッションEC「ZOZOTOWN」などの運営

従業員数

1,466名(平均年齢33.1歳)※グループ全体(2022年6月末時点)

URL
コーポレートサイト  https://corp.zozo.com
サービスサイト    https://zozo.jp