読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #28

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

「節税」の超・裏ワザ


『「節税」の超・裏ワザ』

 著者  :根本和彦
 出版社 :SBクリエイティブ
 初版  :2021年


カッキー 萌さん聞いてください!友達が事業を始めるそうで、今度相談にくることになったんですけど……。

萌さん 何か不安なことでもあるの? 監査法人で働いているんだから、会社や会計のことなら何でも答えられるでしょう。

カッキー それが個人事業なんですよ。それで税金のこと、特に税務調査のことが心配で仕方がないそうで……。

萌さん あっ……、それは困ったわね。

カッキー 僕ら会計監査人と税務署員では、人様の帳簿を見るという点では一緒でも、そのベクトルは真逆じゃないですか。

萌さん そうね。私たちは会社に対して「利益の水増し」を疑う視点で監査をしているけど、個人課税部門の税務署員は個人事業に対して「利益の圧縮がないか(税金を少なくしていないか)」を疑う視点で調査をしているからね。

カッキー でも、友人は内部情報というか、節税的な裏情報を僕にとても期待しているみたいなんですよー。萌さん、助けてください!

萌さん これは、本を読んで一夜漬けの勉強で戦うしかないわね。そうそう、この本なんていいんじゃない? 表紙にも『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』って書いているわ。

カッキー 元税務署員の方の本なんですね。

萌さん 紹介文にはこう書いてあるわ。「税務調査において、税務署は、あの手この手を使って納税者を攻めてきます。無防備でいたら、本来、支払う必要のない税金まで持っていかれる可能性があります。じつは、税務署員には“弱点”があるのです。その弱点を逆手に取れば、合法的に最強の節税対策ができるようになるのです」。

カッキー すごくそそられるじゃないですか! まさにこういった裏情報を求められてるんですよ!

【目次】

序章 税務調査は「グレーゾーン」が9割
    元税務署員が明かす、知られざる現場のウラ側
    「税務調査」の実態
    「追求する」か「見逃す」かは、税務署員次第  ほか

第1章 最強の節税術は、税務署員を“知る”ことから始まる
    納税者は何を見られ、何を狙われているのか?
    税務署員には「ノルマ」がある
    納税者を惑わす「ウソ」と「脅し」のテクニック
    「手ぶら」で帰れないから「重加算税」を狙う  ほか

第2章 e-Tax、電子帳簿、持続化給付金──、「新設制度」のグレーゾーンはどこか?
    デジタル化で何が変わる?
    「不正発見のため」の税務調査はやらない
    「マイナンバー」によって起きた変化  ほか

第3章 「経費」が落とせるかどうかは「この準備」で決まる
    元税務署員の超・節税術①
    まずは、節税の「目的」を明確に
    節税の基本は経費の積み上げ
    税務署員は「細かい領収書」を見ない  ほか

第4章 「経費」のストーリーはこうつくれ!
    元税務署員の超・節税術②
    「自宅兼仕事場」の家賃なら8割落とせる
    10万円以上のパソコンを「消耗品費」で落とす方法
    「消耗品費」で洋服代も落とせる  ほか

第5章 「副業」で余計な税金を払わないようにするノウハウ
    副業のグレーゾーンを正しく知るべし
    「暗号資産」で落とせる経費
    「転売」や「せどり」の確定申告の必要性
    「副業」を始める人が陥りやすい落とし穴  ほか

第6章 税務は激変の時代に突入する
    変わりゆく節税ノウハウと税務調査
    クラウド型」会計ソフトを使えば税理士は不要?
    「税理士契約がない会社」の税務調査は時期が決まっている
    個人事業主は「マイクロ法人」の設立で節約できる  ほか

(目次より主な部分を抜粋)


カッキー で、さっき言っていた「税務署員の弱点」って何なんですか?。

萌さん せっつかないでよ。詳しくは本を読んでほしいんだけど、たとえば、税務署員には「ノルマ」があるって話とか。

カッキー えーっ、ノルマですか!? 営業マンでもないのに。僕らの職業にはノルマがないのでよく分からないのですが……。税務署だって、売上競争とかシェア争いとかありませんよね?

萌さん 表向き、税収のノルマはないそうなんだけど、年度当初に作る事務計画で税務署の各部門に税務調査の件数が提示されて、その件数が実質的なノルマになるそうよ。

カッキー なるほど。でもホッとしました。件数だけなら、数をこなせばいいんですから、税務調査が厳しくなるノルマじゃないんですよね。

萌さん 残念。「税務調査によって、納税額が増えるかどうか」もポイントになるそうよ。つまり、その部署の前年度の実績を超えたら評価が上がって、下回ると評価が下がる。税務署員には件数をこなすとともに、納税額を上積みするというノルマが課せられているってわけ。

税務署員が上司から評価されるポイント

① 税務調査の割り当て件数(=ノルマ)をしっかりこなすこと
② 税務調査をしたときは、修正申告を取って、追徴税額を出すこと
③ 意図的な所得隠しを発見し、多くの追徴税額を出すこと
④ 納税者とはトラブルを避けスピーディーに調査を完了させること

(P37~P38より抜粋)


カッキー なんだか、サラリーマンと変わんないですね。

萌さん そのようね。わざわざ税務調査に入って何も見つけられないっていうわけにはいかないから、どんな小さな金額であってもせめて修正申告は出させるみたいね。個人事業主の税務調査の85%は、納税者に何らかの修正申告をさせているそうよ。

カッキー たしかに僕も、何日も監査に入って、一つも修正点をコメントできなかったら恥ずかしいです。

萌さん コイツ給料泥棒だな、って周りに思われるもんね。

カッキー 萌さん、僕のことそう思っていたんですか!?

萌さん まあ、アンタのことはさておき、こういう評価基準の逆のことをされると税務署員はとても嫌がるって、まずは覚えとけってことよ。

カッキー 逆のこと?

萌さん たとえば、「修正申告に抵抗する」「意図的な所得隠しだとは絶対認めない」。

カッキー ええっ、それは、かなりのモンスター納税者ですね。

萌さん そうかしら。やましいところがあれば、もちろんモンスターだけど、身に覚えがないなら徹底的に抵抗したほうがいいわ。税務署員が脅しのような手を使って修正申告をさせようとしたり、意図的な所得隠しだと認めさせようとしても、ぜーったいに従わないこと! そうすれば、調査期間が伸びていくから……どうなる?

カッキー 納税者とのトラブルや調査の長期化は避けたいから、強引なポイント稼ぎのほうをあきらめてくれる。

萌さん そう。ちなみに税務調査で取れる追徴税額よりも、所得隠しなどで取れる重加算税(※)のほうが上司の評価が高いそうよ。


(※)重加算税……意図的に納税額を少なくした場合にかかるペナルティ。本来支払うべき税金「本税」に35~40%の税金が加算される。

カッキー 「重加算税」って、名前からして悪いことをしてそうですね。金額よりも、悪質なのを見つけたほうが評価が高いってことは、税務署員は単純ミスよりも悪質な脱税を探しに来ているってことですか。

萌さん だから、納税者に重加算税を認めさせるために、「脱税をする意思があった」と言わせて、取り調べの調書である「質問応答記録書」に署名捺印させようとするらしいの。

カッキー そんな覚えがなければ、認めちゃダメです!

萌さん そうね。いったん重加算税が課されたら、税務署のブラックリスト入りだからね。翌年以降も税務調査に入られやすくなるわよ。「重加算税を認めやすい会社」だってね。

カッキー しょっちゅう税務調査に来られては仕事になりませんよね……。

萌さん 本には他にも、どういった会社が税務調査の対象になるか、といった話もあるわよ。

カッキー それ知りたいです!

税務署員が調査対象を選ぶ際にチェックするポイント

 ① 毎年黒字を計上し、売上げが増加していた
 ② 例年と比べて、極端に売上げが増えた
 ③ 過去にないような経費の金額の増加があった
 ④ 決算期末の近辺で一気に経費が増えていた
 ⑤ 脱税を助けているような業者と取引があった

(P53より抜粋)


カッキー 月比較や期比較をして異常値があったら注目する――僕たち会計監査人と見るポイントが近いですね。

萌さん そうね。怪しいことを見つけるプロフェッショナルという点では、税務署員と私たちは一緒ね。だから、カッキーの友人には「怪しいことはするな。どうせ僕たちみたいなプロが見抜くから」というアドバイスが一番賢明なのかもね。

[『TACNEWS』2023年1月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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