人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第87回 artience株式会社

Profile

保坂 勘介(ほさか かんすけ)氏

グループ人事部 人材開発グループ
採用チーム チームリーダー

2015年3月、立教大学社会学部卒業。同年4月、東洋インキSCホールディングス株式会社(現:artience株式会社)入社。その後、東洋モートン株式会社の営業部 営業一課を経て、2020年1月、東洋インキSCホールディングス株式会社のグループ人事部 人材開発グループ採用チームへ。チームリーダーとして新卒採用、経験者採用、一部研修、キャリア開発を担っている。

東洋インキからartienceへ。社名変更を節目に、
人事制度、教育制度の大幅な刷新を図っています。


 artience株式会社は2024年、130年近く続いた「東洋インキ」という社名から「artience」に変更した。「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」をBrand Promiseに掲げ、人事制度を含めた組織改革に挑んでいる。そんなartienceの人材採用、そして刷新された人事制度、人材教育体制について、グループ人事部 人材開発グループ 採用チーム チームリーダーの保坂勘介氏にうかがった。

変わっていきたいとの強い決意のもと社名を変更

──最初にartience株式会社(以下、artience)について教えてください。

保坂 artienceは、もともと印刷用インキの製造・開発でスタートした会社です。インキを製造・開発していく合成、分散のプロセスで、顔料と樹脂の開発までを自社で行ってきました。その知識・技術を発展させていき、現在は色材・機能材、ポリマー・塗加工、パッケージ、印刷・情報の4つのセグメントで多彩な事業を展開しています。こうした幅広い領域でグローバルに事業を展開する化学メーカーとして、2026年に創業130周年を迎えました。
 2024年には社会環境の変化の中で「世界の人びとに先端の技術で先駆の価値を届ける会社」に変わっていきたいという強い決意のもとに、グループを統括する東洋インキSCホールディングスは、artienceに社名を変更しました。それにともないグループ名もartienceグループとなりましたが、事業会社のひとつとして「東洋インキ株式会社」は存続しています。

​求めるのはチームワークや組織の雰囲気を大切にできるか

──artienceの「求める人物像」について教えてください。

保坂 当社が求めるのは、「チームワークを大切にしながら自分の熱意で新しい価値を創出し、粘り強く行動する人材」です。学生の方から「どのような人が活躍していますか」と聞かれることも多いのですが、この言葉を自分なりにかみ砕いて「自分の意見を持って発信できる人、周囲を巻き込める人、そしてそれを続けられるバイタリティがある人」と答えることが多いです。結局、チームで仕事を進めるうえでは「自分の考えを言語化して、周りとすり合わせながら動けるか」がとても大事で、それが成果にもつながっていくと思っています。

──経験者採用では、求める人物像に必要なスキル要件を加味しての採用ですか。

保坂 基本的には明確な募集要件に沿ってスキルベースで見ることが多いです。一方、他社で培った知見や視点を持つ方に入社していただくことで、当社や配属部門によい刺激が生まれるとも考えています。したがって、「その方が加わることで、組織の雰囲気が前向きに動くか」という点も大事なポイントです。

選考は「対話」を重視。個人面接でミスマッチを防ぐ

──新卒採用の選考フローについて教えてください。

保坂 選考は書類選考のあと、営業・スタッフ職や生産職は面接2回、理系大学院の技術職は面接3回の選考プロセスです。最終面接の前に適性検査(SPI)を受検いただきますが、面接との総合判断になります。また、面接は基本的に応募者おひとりとの個人面接です。面接官は職種によって異なり、人事が担当する場合もあれば、技術社員が担当する場合もあります。

──選考フローでミスマッチを防ぐために何か工夫していることはありますか。

保坂 面接の中で最低限は共通した項目を確認しますが、基本的には面接官の裁量で面接を進めるようにしています。応募者の回答に合わせて雑談のような雰囲気で対話を深めていく形にしていますね。
 こちらが一方的に見極めるというより、応募者の方とすり合わせをしながら進める面接なので、それが結果としてミスマッチ防止につながっていると思います。

内定後は「基礎力」を底上げ

──新卒の内定者に対してはどのようなフォローをしていますか。

保坂 当社では内々定後の8月に懇親会を開き、人事メンバーとの顔合わせや内々定者同士のつながりをつくってもらうようにしています。
 そのあとは、入社に向けた事務手続きを進めます。内定期間には、単なるスキル習得ではなく、自分自身の感性に向き合い、広げ、深めていくことを期待しています。学生生活の締めくくりとなるこの期間は、これまでの経験を振り返りながら、「自分は何に心を動かされてきたのか」を見つめ直したり新たな価値観や気づきを得られたりする、とてもよい機会です。せっかくのこの時間ですので、今しかできない経験も含めて、自分の感性を大事にして過ごしてほしいと考えています。
 一方で、ビジネスマナーやExcelなどの基礎スキルについても、入社後のスタートをスムーズにできるように、また不安を少しでも減らせるように補助的にご案内しています。あくまで入社前に完璧を求めているわけではなく、自分自身としっかり向き合い、考えを深めた状態で入社してもらいたいと考えています。

インプットより「主体性」を育てる

──4月1日の入社式後、どのような教育体制で新卒社員を育てていくのですか。

保坂 入社式の後は、約2~3週間の新入社員研修に入ります。会社全体の話に加え、理念体系や事業理解、社会人としての基礎を身につけることが目的です。研修の設計としては、インプット中心ではなく、チームワークを通じて主体性を引き出しながら同期同士のつながりを深め、配属後も支え合える関係を構築することを重視しています。4月の第2~3週目まで新入社員研修を実施し、そのあと各事業会社へ配属になります。配属後は配属先での研修があります。

──新卒社員が再び一堂に会する研修はありますか。

保坂 集合研修は、1年目の冬に1回、2年目・3年目にはそれぞれ2回実施します。4年目にキャリア研修を行い、集合研修は一区切りです。そのあとは階層別研修や部門別研修、手挙げ型の研修へ移行します。

──第二新卒を含めた経験者採用では入社時に研修を行っていますか。

保坂 経験者採用は経歴や経験が様々な方がいらっしゃいますし、入社の時期もバラバラですので一律な研修は設定していませんが、基本的には配属部門での導入研修を個別で実施しています。また、新入社員研修で行う、理念や事業理解の内容を社内のイントラネットで閲覧していただくようにしています。
 それ以降の手挙げ研修、選抜型研修は、新卒・経験者採用の差はありません。

学びをしくみにする「artience growth field」で成長を後押し

──教育・研修制度で特徴的なものを教えてください。

保坂 人材育成と風土改革を目的に、2007年に「東洋インキ専門学校」という企業内学校を開校し、育成・キャリア開発を進めてきました。教育体系の刷新の中で2024年に「artience growth field」に改称し、成長のフィールドを自由に駆けめぐり自らの可能性を広げていくという考えのもと、社員の成長意欲を高めるしくみを整備しています。
 また、スキル取得にとどまらず、主体的なキャリア形成・成長を促進し、世界水準で活躍できる人材となるよう、社員の成長を支援していきます。社員の成長が新たな価値創造の源泉となり、会社と社員がWin-Winの関係を築けると考えているからです。
 他には階層別・職種別研修に加え、選抜型研修の次世代リーダー育成プログラムやグローバル人材研修、新事業創出研修をはじめとする手挙げ型研修を展開しています。新たな教育体系の大枠は完成しましたので、運用しながら微修正しつつ、内容を周知していくのが2026年の課題です。

──今後は手挙げ式研修が増えていくのでしょうか。

保坂 現在は階層別研修・職種別研修が中心ですが、今後は意欲ある社員がスキルを身につけ、成長していけるように、手挙げ研修を増やしていく方向です。

挑戦を評価する人事制度「artience HR CANVAS」

──人事制度や社内制度でartienceらしい制度があれば教えてください。

保坂 2025年1月から「artience HR CANVAS」という、挑戦を促す人事制度をスタートしました。その中に「プラストライ」という制度があります。これは、社員が「これが必要だ」と自分で考え、自由テーマで好きなことにチャレンジできるしくみです。結果ではなく、行動やチャレンジそのものを評価し、行動と成果レベルに応じて最大10万円のインセンティブを支給します。就業時間内に行う任意の制度なので、基本的には上司に相談し、業務の効率化で生まれた時間を挑戦に充てる形になります。

──「プラストライ」は新しい取り組みですね。

保坂 そうですね。もうひとつ大きなポイントとして、当社はこれまで役割等級制度をベースにしながらも、グレード間の処遇に一部重なりが生じる、いわば年功的な運用を行ってきました。今回の新人事制度ではその点を整理し、グレードごとの役割の違いが処遇にも明確に反映される、階差型(グレード間で処遇の重なりがない)のしくみへと一部改定しています。
 具体的には、グレードごとに処遇水準のレンジと担う役割・責任を明確に区分し、上位グレードほど処遇が高まる設計としました。そのうえで、年齢や社歴に関係なく、役割と成果に基づいて処遇や昇格を判断する制度としています。これにより、早い段階から高い役割を担う社員や、継続的に成果を出している社員が、納得感をもって評価され、昇格や処遇に結びつく制度となります。

──昇格が早くなった例は出てきているのですか。

保坂 はい。制度開始後、従来よりも早いタイミングで昇格する社員が実際に出てきています。以前は、グレード間の処遇に重なりがあったこともあり、評価や昇格の判断がどうしても慎重になり、結果として評価が中央に寄りやすい傾向がありました。特に若手層については、差をつけにくいという側面があったと思います。
 しかし現在は、年次にかかわらず、上位グレード相当の役割を担い、成果を上げていれば、早い段階での昇格が可能になっています。若いうちから高い目標を掲げ、主体的に挑戦する社員が増えてきていることに加え、社内でも「担っている役割と成果で正しく評価しよう」という意識が定着してきました。
 努力や成果が正当に評価されなければ、社員のモチベーションは下がり、優秀な人材が流出してしまう時代です。だからこそ、活躍している社員を正しく評価し、昇格や処遇という形で報いる。そうした考えのもとで、制度を運用しています。

──若手社員、活躍したい社員がきちんと評価されるのですね。

保坂 もうひとつ、以前からある制度として、社員が自ら希望する部門に応募し、やりたい仕事にチャレンジできる「キャリアチャレンジ制度」という手挙げ式の異動制度があります。必ず希望が通るわけではありませんが、通常の評価であれば、上長に相談なしで応募できます。希望部門の審査に通れば、国内すべての部門への異動が可能です。これも当社らしい制度だと捉えています。
 キャリアという観点では、多様な人材がそれぞれの強みを発揮できるよう、2024年度より幹部社員に複数のキャリアコースを整備しました。従来のマネジメントを中心としたキャリアに加え、高度な技術力や専門性を武器に価値創出を担う「技術スペシャリスト」というキャリアを明確に位置づけています。技術を磨き続けながら事業や社会にインパクトを与えたい人材が、自分の志向に沿って成長し、長期的に活躍できる環境づくりを進めています。

資格取得は「ポイント5倍+一時金」で後押し

──福利厚生面で特徴的なものがあれば教えてください。

保坂 いわゆるカフェテリアプラン(選択型福利厚生制度)を用意しています。1人当たり年間7万ポイント(原則1ポイント=1円)が付与され、英会話や資格取得などの自己啓発だけでなく、育児、旅行、フィットネスジム、映画鑑賞など幅広く活用できます。
 特徴的なのは、資格取得などの自己啓発の用途では1ポイントが5円相当になります。最大限利用すれば、年間35万円分の補助が受けられる制度です。

──どのような資格が対象になるのですか。

保坂 対象資格は現在200ほどあります。簿記、語学といった一般的なものに加え、技術や生産、システム系の資格など、かなり幅広い資格が対象です。
 また、別制度として、資格取得一時金制度が適用される資格が70ほどあります。これは難易度に応じて、決められた金額(3~10万円)が支給されるものです。

──資格取得一時金制度の対象となる資格を教えてください。

保坂 公認会計士、弁理士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士などの国家資格のほか、甲種危険物取扱者や自主保全士1級、簿記やFP(ファイナンシャル・プランナー)も対象となっています。基本情報技術者・応用情報技術者やSAP認定コンサルタント資格(各種)などシステム系の資格も対象です。
 この一時金と5倍ポイントは併用できますので、制度をうまく使うと実質自己負担なしで資格取得をめざすことも可能です。年間400件程度の資格取得申請があり、そのうちの100件弱が一時金支給の対象となっています。言い換えると、一時金支給の対象外であっても、多くの社員が様々な資格を取得しています。

──学生時代に取得した資格は、採用ではどう判断されますか。

保坂 資格そのものはもちろんですが、どのような目標があって、どのような経緯で取得したのか。そのプロセスを重視しています。

──最後に資格取得や転職、キャリアアップをめざしている読者に向けてメッセージをお願いします。

保坂 資格取得は、目的ではなく手段です。資格を取得すること自体より、得られた知識を使って「何をしたいのか」「何を成し遂げたいのか」「どのような人材になりたいのか」をイメージすることが大切だと思います。
 また、幅広い知識は、将来のどこかで必ず役立ちます。目的意識と学びを同時に持つことが、自分の道を切り開くことにつながるはずです。がんばってください。

[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2026年4月 ]

会社概要

社名     artience株式会社
創業     1896年(明治29)1月
設立     1907年(明治40)1月15日
代表者    代表取締役社長 髙島 悟
本社所在地  東京都中央区京橋2丁目2-1 京橋エドグラン

事業内容

持株会社としてのグループ戦略立案および各事業会社の統括管理

従業員数

(連結)7,890名 (単体)389名 (2025年6月30日現在)

URL

https://www.artiencegroup.com/ja/

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