日本のプロフェッショナル 日本の行政書士|2023年12月号

湯田 一輝(ゆだ かずき)氏
Profile

湯田 一輝(ゆだ かずき)氏

行政書士法人タッチ
代表 行政書士

1992年、埼玉県戸田市生まれ。2015年、東洋学園大学人文学部国際コミュニケーション学科卒業。新卒で大手石油元売会社に入社。営業職として3年間勤務。2017年度、行政書士試験合格。2018年7月、ゆだ行政書士事務所として独立開業。2022年4月、法人化して行政書士法人タッチに名称変更、現在に至る。

めざすは「国際業務の総合化」。
オールラウンドに手を広げず、国際業務を深掘りしていきます。

 行政書士は、幅広い業務を行うこともできれば、専門特化して展開していくことも可能な士業である。行政書士の湯田一輝氏は、当初から国際業務に特化する想定で行政書士資格を取得。25歳で独立開業し、現在、開業6年目の31歳。年間相談件数1,000件以上、行政書士3名を含む総勢7名の行政書士法人タッチの代表行政書士として活躍している。湯田氏はどのような経緯で行政書士をめざし、国際業務に特化しようと考えたのだろうか。その軌跡と今後の展開についてうかがった。

海外への憧れから入管業務をめざす

「私は埼玉県戸田市に生まれ、小学校から高校までずっと野球部に所属していました。特に高校時代は甲子園をめざして真剣に打ち込んだのですが、結果は全県ベスト16。高校3年の夏に部活を引退後、チームメイトが大学受験に向けて追い込みを始める中、自分はなかなか気持ちを切り替えられず、ほぼ勉強せずに遊んでいました」

 そう生い立ちを話し始めた湯田氏は、燃えつき症候群になった高校3年のとき、ある本に出会った。藤原新也氏(写真家・作家)の『インド放浪』だ。外国人がめったに足を踏み入れないインドの小さな街で、数ヵ月にわたり地元民とともに過ごした経験を、写真とエッセイにまとめたものだ。数多くの若者たちがこの本のエネルギーに吸い寄せられてインドに渡った。湯田氏もそのときから海外に行きたいという思いが強くなり、大学進学時にはもともと興味のあった国際関係の学部がある大学を選んだのだった。

「進学後は海外放浪が始まりました。とにかくいろいろな国に行って、その国の文化や環境に触れて学んでみたい。それが大学時代のすべてでした。アルバイトをしては資金を貯めて、長期休みはアジア・アフリカ・中東と10ヵ国以上に行きましたね。初めは憧れのインド。次にアジアに行って、2年生のときに2ヵ月半アフリカに行きました。サファリを3泊4日で回ったのですが、関東地方ぐらいある広さで非常に興奮したのを、今でも鮮明に覚えています」

 中でも特に印象深かったのがアフリカだ。大学3年からはゼミでアフリカの部族問題や民族問題も専攻。就職活動がスタートし、「自分が将来何になりたいか」を真剣に模索する中で、エネルギーインフラと国際関係の仕事に携わりたいという思いが芽生えた。就職先に選んだのは、大手石油元売会社だった。

 入社後は広島支店の配属になり、営業職として商社や特約店向けの自社製品販売から新規開拓、特約店向け研修会の企画、販促担当、さらには中国地方の統一キャンペーンの企画運営と奔走した。湯田氏は当時を次のように振り返る。

「残業が少なかったので、だいたいいつも夕方6時には家に帰っていました。丸3年広島にいましたが、広島に住むのは初めてで、もちろん知り合いも友人もいない。本当に時間がすっぽり空いてしまって。そんな中で『40年後も自分は会社員として働いているのだろうか』と考え始めたら、漠然とした不安が募ったんです。それが『将来独立できる資格を取ろう』と考えた瞬間でした。調べていくうちに、行政書士が国際関係や入管業務を扱っていることを知りました。学生時代に現地でのビザ取得でかなり苦労した経験があったので、『入管業務をサポートしたい』と思ったことが、行政書士をめざしたきっかけです」

 こうして社会人2年目の6月から行政書士をめざして受験勉強をスタート。2回目の受験で、行政書士試験に合格した。社内では新規事業も始まり、魅力的な仕事もあったが、入管業務をやりたい一心で退社。「ゆだ行政書士事務所」を立ち上げたのである。

国際業務をWebマーケティングで集客

 失敗してもいくらでもやり直せるチャンスはある。独立に踏み切ったとき、湯田氏は25歳の若さ。リスクと言えるものは何もなかった。
 準備期間は約半年。その間、勤務しながらの開業準備として湯田氏がまず行ったことは、「入管業務で開業するならどの場所がベストか」という商圏調査だった。

「行政書士試験に合格しているとはいえ、当時は実務経験ゼロ、商品知識もゼロ。そのため、まずは入管業務専門でどれだけ勝負に出られるのかを知ろうと、商圏調査を徹底的に行いました。会社員1、2年目、徹底的に新設のガソリンスタンド設置場所の商圏調査をしていた経験が役立ちましたね。
 ガソリンスタンドの場合、元売りのブランドは違っても、お客様が入れるガソリン自体は一定の規格を満たした同等の商品です。だから立地が何より重要な要素。近隣にある競合他社の数、人口と車の利用者数、前面道路の1時間あたりの交通量といった周辺情報を徹底的に調べ、それをベースに商圏調査します。これを開業する際にも応用したのです。
 実際に入管業務の商圏を一から調べてみると、当時の広島は外国人が多くなかったので、やるのであれば関東圏だと判断しました。そしてWebマーケティングでの集客を考えていたので、どの地区で競合他社のWebコンテンツが充実しているのかを徹底的に調べました。まずは一番需要があるだろう都内を調査。都内の競合はコンテンツが非常に充実していて、入管業務の上位を占める事務所ばかりでした。それで『都内はライバルが強いからちょっと厳しいかな…』と判断して決めたのが、さいたま市の大宮でした。大宮は外国人の需要もありましたし、国際業務関連でWebコンテンツが充実している事務所は少なかったからです」

 こうして2018年7月、まずは埼玉県の実家で開業し、半年後に大宮駅近くのオフィスに移転した。実務経験ゼロなので、まずは専門知識をつけ、スキルを高めなければならない。そこで開業当初は日々Webコンテンツを更新するのと並行して、自己学習だけでなく国際業務専門の行政書士法人が主催する国際業務養成講座にも参加して、専門知識の習得を行った。

コロナ禍をプラスに捉える

 取り組みの結果、開業1ヵ月後からはWebからの問い合わせが徐々に入るようになり、開業した年の12月には月に10件ほど来るようになった。Webからの問い合わせは相談内容が幅広く、「とにかく情報が聞きたいだけ」もあれば、明らかに不法残留が発生していてどうすることもできないケースもあったが、半数弱は受任につながった。

 ただ、実は湯田氏は日常会話レベル程度の英語は話せても、ビジネスで英語が使えるレベルではなかったという。開業当初、「語学力のある事務所」という売りで仕事を取ろうとしなかったのはそのためだ。しかし英語ができなくても国際業務専門でやっていけると、湯田氏は主張する。

「お問い合わせくださるお客様は、日本に在留している外国人または日本人がほとんどです。つまりお客様の層としては、基本的に日本語ができる方たちなのです。例えば、日本人の配偶者から配偶者ビザについて問い合わせがあったり、外国人を雇用する企業から就労ビザの申し込みがあったりします。あるいは日本国籍を取りたい方から、永住権や帰化申請のご相談を受けることもあります。帰化申請は日本語能力が条件の1つになっているので、そもそも日本語ができないと帰化はできません。ほとんどのお客様が日本語堪能なので、語学力がないから対応できなかった、という例は過去にありませんでした」

 そうはいっても、「相談は英語や母国語でしたい」というニーズもあるため、現在は英語や中国語にも堪能なスタッフを内部に常駐させている。

 開業した年の年末に月10件ペースだった問い合わせは、翌2019年になると月数十件ペースに増えた。さらに時間が経つにつれて増加傾向に拍車がかかり、売上、取引先ともに順調に増えていった。しかしその後、青天の霹靂が起こる。新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言が発令され、海外どころか国内でも人がまったく動かなくなったのである。国際業務特化でやっていこうと決めた湯田氏の事務所は、新規入国がほぼストップした影響で、問い合わせや売上もガクッと落ちた。

「さあこれから伸ばしていこうという矢先のコロナ禍です。1回目の緊急事態宣言が出たときはお客様からの問い合わせがパタッと止まり、これからどうなるんだろうかと非常に危機感を覚えました。海外から人が来なくなったので、Webマーケティング施策もターゲティングを変更して、国内にいる外国人の在留資格更新や永住権、日本国籍取得といった、日本にいるお客様の需要向けの内容に注力しました。それに加えて、当時は海外在住の日本人と外国人配偶者が一緒に戻ってこられる機会が増えたので、その機会にスポットを当てたWeb広告やコンテンツを出したのです。これがかなり当たりました。そんなふうにあの手この手で、何とかコロナ禍を乗り越えましたね。売上は当初予定していた3~4年目の予想よりも緩やかな上昇になりましたが、2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行後から一気にまた人が動き始めたので、今後はより多くの外国人の方をサポートできるよう事業を拡大していきたいと考えています」

 コロナ禍という緊急事態に迅速かつ柔軟に対応し、湯田氏は最大ともいえる危機をうまく乗り越えたのである。

入管業務の増加を見越した事業戦略

 コロナ禍以前当時、中長期在留者数は過去最高を更新し、入管分野では特定技能者対象に新たな在留資格制度がスタートした。湯田氏はそうした状況から、今後の入管業務の増加を見越して、開業3年目には法人化したいと考えていた。コロナ禍によって予定より遅れはしたが、2022年4月、ゆだ行政書士事務所は「行政書士法人タッチ」として法人化を果たした。

「法人化の段階で社内の体制がきちんと整えられていたかというと、決してそうではありませんでした。そこで、コロナ禍で仕事が落ち着いている間に、きちんと体制を整備しようと考えました」

 現在、行政書士法人タッチのWebマーケティングによる集客は全体の7割で、残り3割が既存の顧客とその紹介となっている。その現在3割の紹介を増やすために、湯田氏は地道な努力を続けている。

「年1回のビザの更新時期が来たら必ずご連絡しますし、結婚して3年経ち、引き続き1年在留すれば永住申請が可能になるので、期限前に必ずお客様に案内を出しています。その他の集客活動としては、同業・他士業含めていろいろな資格者との交流を深め、紹介していただいたり、逆にこちらからご紹介したりと、士業とのコミュニケーションを大切にしています」

 業務的には入管関係、ビザ関係が事務所の業務の99%を占めている。それ以外の業務の依頼が来たら、専門の行政書士を紹介して自分では手を出さない。徹底して入管業務に特化するのが湯田スタイルだ。

「なぜなら入管業務の領域には、まだまだ広げられる部分があるからです。例えば技能実習制度と、2019年に新設された特定技能制度は、制度上目的の違いはあるものの、日本の労働力不足の補完という同じ目的で利用されているケースが大半です。技能実習制度は国際的な技能移転が目的という建て付けなので、在留期間が1号1年以内、2号2年以内、3号2年以内、最長5年になっています。一方、人手不足解消の目的の特定技能制度では、1号の在留期間は通算5年ですが、2号の在留期間は上限なしで、家族帯同、永住申請も認められています。
 政府も人手不足解消と経済力改善のためには長期就労可能な外国人労働者を増やすべきだと考えていて、特定技能2号の対象分野を拡大しました。また現在は、人材確保と人材育成のために技能実習制度の廃止と新たな制度設計を議論しているところです。そうなれば日本で長期就労や永住をする外国人が増加することになります」

 長期就労や永住がもっと広がれば当然、国際申請業務は増加する。それに対応するために、2022年、行政書士法人タッチは登録支援機関(特定外国人支援の委託先)として登録し、特定技能外国人の受け入れ体制を整えた。

「登録支援機関は、特定技能外国人を雇用する際の職場でのサポートから日常生活まで、安心して日本で働けるように支援する機関です。今後はこの特定技能外国人を雇用している企業へ、顧問的立場での支援委託業務を広げていきたいと考えています」

 特に特定技能1号で外国人を雇用している企業は、法律上いろいろな支援業務が定められている。それを自社でやるのか、それとも登録支援機関に委託するのか――。現実としては、生活面までの支援は、なかなか自社では難しいというのが中小企業の本音だ。そこを行政書士がサポートできれば、お互いにWin-Winの結果になると湯田氏は考えている。この分野は、それまでのビザや帰化申請、資格取得業務とはまた違ったコンサルティング領域になる。

「新たな分野として挑戦していきたいですね。加えて監理団体として、外国人技能実習生の受け入れサポートなども始めたので、リクルーティング分野も広げていきたいと考えています」

 めざすは「国際業務の総合化」。幅広い業務への展開も可能な行政書士の世界で、オールラウンドに手を広げるのではなく、国際業務という分野をピンポイントで深耕していく。湯田氏はその第一人者を標榜している。

中国語で発信し、すべてサポートする商品を展開

 行政書士法人タッチの依頼主である外国人の国籍は、中国、ベトナム、ネパールといったアジア圏が多い。これは日本に在留する外国人の国籍ランキングと比例している。事務所の中国人スタッフは、中国語で中国のSNSで発信し、アジア圏に向けてのアピールに注力している。

「中国本土ではYouTubeもGoogleも使えないので、WeChat(ウィーチャット/微信)やRED(レッド/小紅書)といった中国の媒体を使って、中国人スタッフと一緒に動画をたくさん撮って投稿しています。対象は中国の富裕層で、日本への移民を検討している方です。経営ビザで経営活動をしながら日本に住みたいというニーズに対して、日本での事務所選びからビザ取得まで、もろもろすべて中国語対応できるサービスに力を入れています」

 確かに日本語ができない外国人が、一から日本で事務所探しをするのは難しい。この事務所探しをビザ取得とセットで、しかも中国語に対応した商品として提供する。こうしてビザ申請から不動産業の領域まで裾野が広がったのだ。湯田氏は、お客様が何を求めているのかを常に考える中で、このような発想が生まれたと話す。

「ビザ申請と事務所探しだけでなく、日本での生活全般をすべてサポートするプランになっています。もちろん不要な方もいらっしゃるので、必要なものだけを厳選した少し安価なプランも作り、お客様の状況に応じて選んでいただけるようにしています」

 かゆいところに手が届くような、行き届いたサービス。これこそ、湯田氏のめざす「行政書士法人タッチだからできるサービス」なのである。

有資格者には行政書士として活躍してほしい

 開業6年目を迎えた行政書士法人タッチは、行政書士3名を含む総勢7名の組織に成長している。行政書士の1人には、湯田氏の双子の弟、湯田功輝氏も加わっている。

「私が行政書士試験に合格したとき、とても軽い感じで『おもしろいからやってみれば』と弟を誘ったら、本当に勉強を始めて翌年に合格したんです。最初は私と同様に個人で開業し、酒類販売や補助金関係の仕事をやっていました。彼が開業2年目のとき『今後さらに事業拡大していきたいので、うちの事務所に入ってくれないか』と説得しました」

 スタッフの採用としては、開業2年目に行政書士を採用したのが1人目の採用だった。とにかく行政書士を3名は揃えたいと考えて、1人目の採用は行政書士であることにこだわったという。

「当時から事務所を大きくしていきたいと考えていました。そのため、書類作成を手伝ってくれるパート社員を入れて一時的に楽になるよりも、中長期的目線で考えて、まず行政書士を採用して、事務所の柱となってもらおうと考えました。実務面はもちろん、採用面でも面接をしてもらうなど、一緒に拡大成長していける方のほうがよいと考えたのです。弟もそのために誘いました」

 拡大成長は、人的要因が最大の課題だ。行政書士法人タッチでは、今もスタッフを絶賛募集中だ。

「採用は、有資格者とパート社員に分けています。有資格者には基本的に行政書士登録をして行政書士として活躍してくれることを期待していますから、思考体力とリーダーシップと不断の努力のある方を求めています。
 思考体力のある方というと『要領がよくて利口な人』と考えがちですが、そこを求めているのではありません。入管業務ではどうしても行政裁量に広範性があるため、他の許認可のように『こういう要件を満たして、こういう書類を集めて申請すれば許可が降りる』というマニュアルは作れません。お客様個々の条件によって異なりますし、まったくやったことのない案件や、どうしてもお客様に不利な状況のケースも多々あります。どうすれば許可が出るのかをお客様のためにとことん突き詰めて考えなければいけないのです。
 ですから『利口な人』というより、『お客様のために突き詰めていろいろな方策を考えられる人』が、求める人物像になります。『考える』という行為は高いレベルの体力と気力を使います。そこを「思考体力のある方」と位置づけています。
 もう1つの『リーダーシップ』は、私たちは会社員ではなく士業であるということを重視した項目です。例えば上司から何か言われてやるのではなく、専門家として自らリーダーシップを発揮してほしいという思いを込めています。
 パート社員については、資格の有無は一切問いません。ただし語学ができる方は優先して採用していますね」

 2024年春までには行政書士1名、事務スタッフ2名を採用する予定だという。総勢10名の組織はもうすぐだ。

まずは行政書士6名、売上1億円規模をめざす

 法人化にともなって、湯田氏は拠点展開も視野に入れている。

「3年目に法人化を意識したときから支店設置は検討していました。2022年に入管業務のオンライン申請がスタートしましたので、地方にいても申請自体は問題ないという見方もあります。ただ、地方にいて安い家賃と運営費でコストを抑えられるメリットと、都内に事務所を置くことのブランディング的なメリット、この2つを比較してみて、東京に出すメリットが大きければ数年後には東京支店を検討したいと思っています」

 これまでは福岡市のお客様であれば、福岡市の福岡出入国在留管理局まで行って申請していたが、オンライン申請になってからは現地に赴くこともなくなったと湯田氏は言う。オンライン申請導入によって、入管業務の流れはガラッと変わったのである。

「おそらく今後は、国際業務を行っている資本力のある行政書士法人が、東京都内に事務所を持ちながら九州などにもWebマーケティングを展開し、お客様を獲得していく方向になるのではないでしょうか。今後はこうした大きな行政書士法人がマーケティングで優位性を発揮して、さらに強くなっていくと予想します」

 オンライン申請が導入されてからは、行政書士法人タッチもオンラインでの面談とメールでのやり取りでオンライン申請を行っている。お客様に一度も直接会わず、現地にも行かずに、入管業務を終わらせることもある。業務のIT化、迅速化は日々進んでいる。

「コロナ禍前は対面のお客様が7割以上だったのが、今は逆転しています。そう考えると、特定の商圏のお客様を取るためだけに支店を出すメリットは、徐々に薄れていると感じます。とはいえ、まだまだ対面で会って相談したいという層が根強くいますから、その層を取り込むには現地に事務所がないと難しい面がありますね。
 一方、東京には外国人を雇用している大企業が多く存在するので、そこに入り込んでいくためには、都内に進出したほうが圧倒的に有利だとも考えています。個人だけでなくBtoBのお客様も視野に入れると、東京圏は選択肢の1つになる。これは今後の検討課題ですね」

 行政書士法人タッチは現在7割がBtoCの顧客で占められているが、来期の事業計画ではBtoBの比率を上げていこうとしている。一方、埼玉県を出て群馬県に入れば、また多くの外国人が居住するエリアがあり、BtoCの顧客も拡大する余地も出てくる。どちらに進出していくのか、今後の支店計画をどうするか、事務所の方向性も含め悩ましい問題だ。

 そんな湯田氏は最終的に法人をどのくらいの人的規模まで拡大し、行政書士を何名抱えていこうと考えているのだろうか。

「2年後を目安に、まずは行政書士6名、売上規模1億円といった一定規模までめざしていきます。1億円を超えると、その後の方向性が変わってくるので、そこで一旦ストップして先を考えようと思っています」

 見据える先は、まずは行政書士6名、売上規模1億円。行政書士であるだけでなく、トップとしての経営力、マーケティング力がより問われてくるスケールだ。

行政書士の未来は明るい

 湯田氏は、行政書士として専門特化するメリットはいくつかあると言う。

「行政書士として幅広くやるのか、専門特化するのかによって、まず商圏が変わってきます。関東地方のように一定の商圏があるところであれば、絶対に専門特化したほうがマーケティングがしやすいでしょう。
 専門特化のメリットは、何よりもマーケティングがしやすいという点です。Webマーケティングでも、入管業務に関わるコンテンツを積み重ね、そこに対して広告を出していきます。リソースが限られている中、すべての商品の専門力を高めることはできませんので、1つに絞ったほうが圧倒的に専門知識がつきやすい。他社との競合優位性においても専門特化したほうが、商品力とマーケティング力で優位だと考えています。
 一方で、地方では専門業務だけでは需要が少ないことから、2~3種類の専門性を持って展開していくほうがよいと思います」

 『インド放浪』から海外に憧れて国際業務をめざし、国際業務に特化した行政書士として活躍してきた湯田氏だが、行政書士の仕事をどのように感じているのだろうか。

「何より自分の裁量と責任で仕事ができることに、今大きなやりがいを感じています。入管業務でお客様が行政書士に依託せざるを得ないような案件は、一筋縄ではいかないケースが多い傾向があります。そこでいくつかの問題をクリアして許可が取れると、お客様はときには泣きながら喜び、感謝してくれます。そこには勤務時代には味わえなかった、大きな責任とやりがいがあります。国際業務をやっていてよかったと心から感じる瞬間ですね」

 実務経験ゼロ、登録して即独立。それでも成長できたのは、最初に「国際業務」という一本の柱を立てたから。これは、間違いなく湯田氏の鋭い嗅覚による。

「日本に来る外国人数が増え、特定技能制度も整備されて、行政書士法人の求人も年々増えています。昔は開業しか選択肢がありませんでしたが、今は勤務行政書士としての道も考えられるようになりました。
 おそらく行政書士は、多くの人が仕事や子育てなどをしながら、いろいろな環境下でも取得をめざせる資格だと思います。それぞれ大変な状況でのチャレンジにはなると思いますが、日々の勉強を積み重ねてチャレンジしていけば合格できます。自分を信じて、がんばってください」

 行政書士の未来は明るい。そう湯田氏は締めくくった。


[『TACNEWS』日本の行政書士|2023年12月号]

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