特集 税理士インフルエンサーが挑む
「お金の教育」

大河内 薫氏
Profile

大河内 薫(おおこうち かおる)氏

ArtBiz税理士事務所 株式会社ArtBiz 税理士

1983年1月26日生まれ、愛知県名古屋市出身。日本大学芸術学部演劇学科卒業。大学在学中にフジテレビ主催のイベントお台場冒険王の『ウォーターボーイズ』に出演。フリーター期間を経て税理士をめざし、2011年、税理士試験合格。2013年、税理士登録。コンサルティング会社、税理士法人勤務を経て、2016年6月に株式会社ArtBizを設立。2017年2月に税理士として独立開業しArtBiz税理士事務所を設立。著書:『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』『貯金すらまともにできていませんが、この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)

•Twitter  •YouTube『大河内薫のマネリテ学園』
•Voicy  •オンラインサロン『大河内薫のマネリテ戦略室』

「スーツを着ない税理士」。税理士の大河内薫氏は自らをそう呼んでいる。幼い頃から「目立ちたい」一心で芸能人をめざし、「芸術学部出身の税理士」という異色のキャリアを持つ大河内氏は、クリエイターをサポートするために芸能・芸術系クライアントに特化した税理士事務所を展開する一方で、SNSやオンラインサロンで情報発信を行い「お金の教育を変える」ための活動にも注力している。その足跡を追いながら、税理士の可能性を探っていきたい。

「超短絡的」な理由で 税理士をめざす

──ご自身の税理士事務所経営に加え、YouTubeやVoicyなど、様々なメディアで情報発信をされている大河内さん。今回は、「新しい税理士」のロールモデルとしてお話をうかがえたらと思います。

大河内 ありがとうございます。僕はTACのおかげで知識ゼロの状態から4年間という短期間で税理士試験に合格できました。これから勉強を始める皆さんがこの記事を読んで「こんな税理士もアリなんだ」と思ってくれたらうれしいです。

──まず、税理士をめざすまでのお話を聞かせてください。

大河内 僕は物心ついた頃からずっと目立ちたがり屋だったのですが、サッカーやバンド活動をしていくうちに「目立つならやはり芸能界だ」と思いついて、大学受験をきっかけに地元の名古屋を出て東京に行こうと決めました。しかし親からは「国立大学しか認めない」と言われ1年目は浪人。2年目は初年度の学費を自分で払うという条件で、東京の日本大学芸術学部(以下、日芸)演劇学科に入りました。
 演劇学科では通常の授業の中でもお芝居をする機会がたくさんあります。また、夏休みはオーディションを受けてモデルや演劇にチャレンジしていました。

──税理士という職業は日芸で学ぶ分野からはかなり遠い存在に思えますが。

大河内 そうかもしれませんね(笑)。大学4年のとき、フジテレビの夏のイベント、お台場冒険王『ウォーターボーイズ』のオーディションに合格し、50日間ステージとそれに関連するテレビ番組にたくさん出演しました。日芸での生活の最後に一花咲かせた感じです。でもイベントが終わった時点で大学4年の夏は終わりますから、今後も夢を追うのか、追うんだったらアルバイトを続けるのか、名古屋に帰るのか、社会人になって働くのか、どこでこの夢を終わらせるのかなど、今後の進路を考えなければいけませんでした。
 といってもすぐに就職する気はまったくなかったので、そのまま学生生活が終わりフリーター生活に突入です。そこで「これはヤバイな」と気づきました。夢を追いかけて上京したのにそのまま名古屋に帰ったらカッコ悪い。でも働かないと家賃は払えない。かといって普通に働くのもカッコ悪い。プライドがあったので、せめて稼げる仕事に就こうと思って「人より稼ぐにはどうしたらいいか」と考えたとき、「難関国家資格を取得する」という選択が思いついたのです。そんな超短絡的な理由で、税理士をめざすことにしました。夢や目標というより、そのときは意地しかなかったですね。

──数ある資格の中で、税理士を選んだのはなぜですか。

大河内 当時僕が思いついた難関国家資格は、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士でした。このうち、弁護士は裁判で「異議あり!」を言う人というイメージがあるくらいで、それ以外の資格はほとんど何をやっているのかわからなかった(笑)。そして調べていく中で、税理士なら働きながら試験の合格をめざせるのではないかと。だから税理士がどういう仕事か、楽しいのか、難しいのか、なんてことはまったく考えずに、税理士をめざそうと決めました。

──とはいえ、今まで大学で学んだ分野とはかけ離れた選択です。

大河内 そうですね。当然ですが簿記も会計も法律も、何も知りません。ただひとつラッキーだったのは、大学で偶然経済学の講義を2単位取っていて、税理士の受験資格を満たしていたことでした。最初は受験資格を得るために日商簿記検定1級に合格しなければならないと思っていたのに、すでに受験資格を満たしていた。これはラッキーと思って、3級レベルの知識もない状態でいきなりTACの税理士講座の簿記論の講義を受け始めました。
 大学卒業後、アルバイトをしながら1年ほど身の振り方を考え、最終的に税理士をめざすことを決心したあと、こうして簿記論の勉強を始めたのが2007年の9月でした。

──簿記のボの字も知らないところから、わずか4年間での合格はすばらしいです。

大河内 2007年から簿記論の勉強を始めて2008年に簿記論と財務諸表論に合格。2年目に相続税法と消費税法に合格。3年目は法人税法が不合格で、4年目にもう一度法人税法を受験して合格しました。
 2回目の本試験までは会計系のコンサルティング会社に勤め、そのあと都内の大手税理士法人に転職しました。正社員としてフルタイム勤務をしており、残業も多かったので、限られた時間の中で合格できたことは、TACで効率よく学べたおかげだと思っています。また、コンサルティングや税務の仕事もすべて未経験で本当に大変だったのですが、社員としてお客様と接していると社会と交わっている感覚があって、新しい知識も得られるし、うまくいけば税理士にもなれる。何かすごく「生きている」という実感がありました。働きながらの受験は大変すぎて二度とやりたいとは思いませんが、あのときの苦労がなかったら今の自分はないと思います。

「努力×発揮力」が合格につながる

──受験の際にTACを選んだ理由を教えてください。

大河内 まず「いかにも学校っぽい」ところはイヤでした。あくまで仕事の合間を縫って通っている感じを出したくて、社会人受講生が多いTACを選んだ気がします(笑)。それに受講料もTACは良心的なほうでした。受講料がさらに安い受験指導校もあったのですが、TACのテキストを見ると、内容が充実していてちゃんと勉強すれば間違いなく受かる内容だと思いましたし、もし不合格だとしても「原因はTACではなく自分にある。それなら気持ち良く受験できるのでは」と思えたので、TACに決めました。

──仕事と勉強の両立はかなり大変だったと思います。どのようにして勉強時間を捻出したのですか。

大河内 満員電車が苦手なので、朝7時過ぎには出社して始業の9時になるまで2時間会社で勉強しました。夜は帰宅後に夜12時までの2~3時間、平日は合計5時間確保できればOKとしていました。土日は朝イチでTAC池袋校の入口に並んで、扉が開くと自習室に席を取って、夜10時に閉まるまでずっと勉強です。

──簿記を知らないゼロからのスタートで、どのようにして合格点まで到達したのですか。

大河内 根性と勉強量です。僕は「日本の全サラリーマンの中で一番勉強する」と決めていて、実際あの4年間は日本一勉強したと思っています。とにかく僕は簿記知識ゼロの状態でスタートしたので、人の3倍勉強することがスタートラインだと思っていました。
 ただし本番で成功するにはテクニックが必要です。TAC生の僕たちは同じテキストを使って勉強して、最終的にはひとつの答案に勉強してきたことを表現するわけです。でも試験当日は一発勝負なので、答練(答案練習)でいつも1位の人が本番でも絶対に合格点を取れるとは限らない。
 そんな中で、なぜ僕が合格できたかというと「当日発揮する力が強かった」、つまり「本番に強かった」からです。しかも、もともと本番に強かったのではなく「努力して本番に強くなった」のです。この方法を受験生にはぜひ試してほしいですね。

──どのような努力をすれば本番に強くなるのでしょうか。

大河内 ほとんどの受験生は「努力=勉強」という認識なので、合格のためにひたすら勉強をしているのですが、成果というのは「努力×発揮力」で生まれるものなのです。僕はこの発揮力を鍛えている受験生がほぼいないことに目をつけました。
 例えば、答練は予め出題範囲が決められていますが、僕はあえてそれを見ずに受けました。他の受講生たちが出題範囲に合わせて答練に臨む中、僕のやり方だと5月以降の直前期に10回程度ある答練で、毎回「どこが出題されるかわからない」という本番に近い緊張感で演習ができる。これだけで本番にメチャクチャ強くなります。
 あとは、本試験会場を下見したところ、試験を受ける席の机が狭いとわかったので、なるべく本番の環境に近づけられるように、普段から周りに本を立てて机を狭くして勉強しました。加えて、簿記論と財務諸表論を受ける年は本試験が朝から昼に実施されるので朝型のリズムに、相続税法と消費税法を受ける年は昼と夕方の実施なので夜型のリズムに変えるなど、生活リズムも調整して勉強していましたね。
 これは演劇の経験にルーツがある考え方なのですが、僕はとにかく本番が大事だと思っています。どういう環境で本番の試験を受けるのかを想定して、普段から同じ環境で勉強する。スポーツ選手が現地トレーニングをするのと同じで、本番と同じ環境に身を置いて練習するのは理にかなっていることです。
 「努力×発揮力」が合格を生む。僕は努力も3倍しましたし、他の受験生が持っていない発揮力を鍛えていたので、受かる自信がありました。試験当日は机が狭ければ狭いほど自分が有利なので、それでもう勝った気になっていましたね。他の受験生とはメンタルが違う。これが僕の強さでした。

アーティスト支援に特化して開業

──合格後の進路を教えてください。

大河内 科目合格を果たして税理士登録をしたのは大手税理士法人に勤務していた頃です。当時は大手企業の月次決算や法人申告がメインの業務で、個人事業主やひとり社長のオーナー企業のような小さい会社はクライアントになかったので、将来の独立を見越して、登録から4年後に規模の小さなクライアントを経験できる税理士法人に転職しました。
 対象を個人事業主やオーナー企業に絞ったのは、日芸の知り合いや同級生にフリーランスのクリエイターが多かったからです。彼らのサポートをしたいと思ったとき、所得税法は受験科目ではなかったし、所得税の確定申告もそんなに多くはやっていない。ましてや個人事業主から会社を作りたいと言われたときに、どうすればいいのかもわかりませんでした。転職は、独立後必要なこれらの知識やスキルを身につけるためのものだったので、「3年で独立します」と正直に言って入所させてもらいました。
 そのあと、まだ在籍中だった2016年に独立の第一歩としてArtBiz株式会社を設立し、入所から約2年半経った2017年1月に事務所を退職。そして2月にArtBiz税理士事務所を開業しました。

──事務所はどのようなビジョンを持ってスタートしましたか。

大河内 日芸出身のキャリアを活かし、芸術・芸能分野に明るい税理士としてスタートしました。アーティストとクリエイターに絞った事務所にしたかったのですが、最初はそうも言っていられないので、いろいろな案件を受注していました。
 実は高校が愛知県でもトップレベルの進学校で、自主性を重んじる校風から、自分で自らの人生を考えて夢や目標を持っている同級生がとても多かったのです。ラッキーなことに同級生の20名以上が経営者になっていて、彼らから「独立したらお願いするね」と言われていたおかげで、なんとかスタートダッシュできました。
 こうして日芸の先輩と高校時代の友人で5~10社のクライアントができると、そこから紹介も増えて1年ですぐに軌道に乗り、初年度からサラリーマンの年収を大きく超える収入を得ることができました。

── アーティスト支援特化型税理士事務所としての方向性はその後も継続したのですか。

大河内 開業1年目は法人化したい、会社を大きくしたいと思う時期もありました。でも法人化するには税理士が2名必要で無限連帯責任となります。お互いがお互いの責任を持つのはきついなと思ったので、大きくするのはやめて、当初の目的通りターゲットは広げずアーティスト支援中心で行こうと決めました。今もクリエイターや芸術・芸能系のクライアントに特化して、自称「日本一フリーランスに優しい税理士」として活動しています。
 業務としては記帳代行といった事務的部分はすべて外注し、申告書作成とお客様とのやり取りはすべて自分で行います。現在は会社設立や経営支援のほか、セミナー講師として大学で登壇することも多くなりました。週に2~3日を税理士業務、週4~5日はSNS・YouTubeやオンラインサロンで税理士以外の活動をしています。
 また、どんな仕事でも「スーツを着ない」ことをモットーにしているのは、今までの税理士のお堅いイメージを変えていきたいという思いからです。

「お金の教育を変えたい」 SNSで情報発信

──税理士業務以外の活動について教えてください。

大河内 自称「日本のお金の教育を変える人」として、マネーリテラシー、「お金の教育」の普及活動をしています。
 きっかけは2018年11月に『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)という本を出したことです。フリーランスのための税金の本を作ろうと思い、フリーランスがどういうところで税金に悩んでいるかをリサーチしたところ、想像以上にリテラシーが低くて、「日本ってこれでいいの?」と国の現状に衝撃を受けました。その原因は何かといえば、どう考えても義務教育で税金について何も教わらないからだと気づいたのです。なので「まずは税金の教育をしなきゃいけない」と思いました。
 本が出たあと、有識者と話す機会や一般の方たちと話す機会が増えると、税金だけではなく、そもそもお金の教育が教育課程のどこにも見当たらないことに気づき、日本人のマネーリテラシーの低さに危機感を覚えました。「気がついた誰かが先陣を切ってやるしかないな」と思ったのが、「お金の教育」を始めたきっかけです。

──どのような活動から始めたのですか。

大河内 2017年のTwitterから始まって、2018年3月に音声プラットフォームVoicyで『大河内薫マネリテ戦略室ラジオ』をスタート。2018年11月に本を出して、2019年にYouTubeを始め、2020年5月からオンラインサロン『大河内薫マネリテ戦略室』を始めています。

──Twitterを始めたことがそれ以降の活動につながっているのでしょうか。

大河内 そうですね。2017年当時、Twitterで税金の知識を発信している人はほとんどいませんでした。だから無料で税知識を発信したらどうなるだろうかと実験してみたところ、ちょうど仮想通貨の第一次バブルがきました。まだ仮想通貨の法整備はまったくされていない頃でしたから、その税金の知識がわかる人なんていません。ましてや仮想通貨の税金について情報発信している税理士も皆無だったので、ツイートはとても好評であちこちで拡散されました。あれよあれよという間にTwitterのフォロワー数は1万人を超えて、それがサンクチュアリ出版の目に留まり、一気に初の著書を出すまでになりました。

──現在、TwitterのフォロワーやYouTubeのチャンネル登録者はどれくらいになったのですか。

大河内 SNSを使って情報発信する税理士は当時も今もあまり多くないのですが、僕のTwitterのフォロワーは8万超、YouTube『大河内薫のマネリテ学園』のチャンネル登録者数は約29.4万人、Voicyの『大河内薫マネリテ戦略室ラジオ』のフォロワーが約4.3万人、オンラインサロン『大河内薫マネリテ戦略室』のメンバーは450人を突破しました。また、初の著書は18万部を突破し、税金本として歴史上一番売れています。(2021年9月現在)

──オンラインサロンのメンバーはどのような方たちですか。

大河内 「お金の教育を変えます」というスタンスを打ち出したのは、このオンラインサロンからで、それを見てお金の教育を変えていくことに共感してくれた方がメンバーになってくれています。僕の場合は、YouTubeやTwitterやVoicyなどで、お金や税金のことを学べるコンテンツを無料で発信し提供していますので、それらを活用してもらえれば、マネーリテラシーを無料で高められるようになっていますが、オンラインサロンはその延長にはありません。さらなるマネーリテラシーを向上させるコンテンツがあるわけではなくて、お金の教育を変える活動をしている僕が、今何を考えてどんなことをしているかという「ドキュメンタリー」を発信しています。例えば、2021年1月に税理士として史上初めて、東京国税局とYouTubeのコラボ動画を作成しましたが、そこに至るまでの何ヵ月もの道のりをオンラインサロンの中だけで発信しました。オンラインサロンでは「お金の教育を変えるにはどうしたらいいか?」という話題に限定しているので、そのぶん意欲のある仲間が集まってきます。例えば教師をしているメンバーが校長先生に交渉してくれて、学校の授業でお金の教育をする機会をいただくこともありました。今ではうれしいことに小学校、中学校、高校の授業でお金の教育ができるようになってきています。

──どのような内容の授業を行うのですか。

大河内 「義務教育だったらこういうことをやりたい」と僕が思うことを授業にしています。内容としては「多くの人がお金に操られているけど、スマホと同じでお金は便利に暮らすためのひとつの道具に過ぎない」と、まず教えてあげる。そして小学生の夢や目標を全部聞いてあげて、「それを叶えるためにお金の問題は避けて通れない。だから今日からお父さんお母さんとお金の話をきちんとしようね」と結びます。
 日本の教育はお金の話をするのは卑しいとか汚いというネガティブなイメージを植えつけています。マネーロンダリングなど悪い使われ方もしますが、それはお金が悪いのではなく、お金を使った人が悪いわけで。まだ考え方がフラットな子どもたちにお金について正しく伝えることで、今後悪いイメージを植えつけられないようにしています。
 今は毎月2回ほど学校で授業するようになって、今年8月からは許可を得て学校の授業風景をYouTubeにアップするようになりました。

老若男女、誰もが笑って学べる お金の漫画を出します

── 現在は税理士とマネーリテラシー教育の2本柱でお仕事をされていますが、今後どのような方向に注力していきますか。

大河内 方向性は今と同じ、お金の教育を変えることです。日本人が生まれてから社会に出るまで、また社会に出てからでも、真っ当なお金の教育を受けられるようにする。それは僕ひとりでは達成できませんが、がんばって一緒にやってくれる仲間を作って実現していきます。おそらく30~50年といった長いスパンがかかるので、これからも僕のメインの活動になるでしょう。
 僕がやっている税理士業務は他の税理士が代わることもできますが、お金の教育を変えるという活動は他の人にはできないことなので、僕がやるべきだと思っています。将来的には学校も作りたいですが、そうなると数億円規模の資金が必要になってくるので、そこに投資するお金も必要になるでしょうね。

── 今後も注力するのはマネーリテラシーの向上、お金の教育なのですね。

大河内 はい。ただ、どうすれば日本が変われるのか、何が正解なのかは誰にもわからない。教育関連の方や影響力のある経営者と手を組む方法もあるでしょうし、大学に研究室を持って、学会で発表してから動くのが効果的かもしれない。全部自分ひとりで試すのは難しいので、同じ志を持った人を、オンラインサロンを通じて探しています。お金の教育を変える活動が社会的に認知されて、学校やどこかで課題感が生じたときに「とりあえず大河内さんのところに頼めば誰かが授業に来てくれるよね」と言われるくらい、世間に浸透していくと良いですね。サロンメンバーを何千人にも増やして、その中の誰もが同じクオリティの授業を行えて、しかもそれを「すべて無料でやります」と言えるようなしくみを作ることが理想です。

──お金の教育は今後も無料で行うのですか。

大河内 ビジネスにするのは簡単なのですが、教育は無料もしくは圧倒的低価格でやらないと教育格差を生んでしまうので、「日本全体を変えたい」という目的を考えるとそういうわけにはいきません。僕が生きているうちにお金の教育を浸透させて、その礎だけでも築きたいです。「お金の教育はすべての日本人が向き合わないといけないこと」というメッセージを強く優しく訴えていきたいですね。2021年9月に出した本は『貯金すらまともにできていませんが、この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)と題した、老若男女、誰もが笑って学べるお金の漫画です。この本をきっかけに全国を回る地道な活動をしようと思っています。

── 「有名になりたい、芸能人になりたい」というところからの税理士になり、今はお金の教育を変えることに注力しています。振り返っていかがですか。

大河内 僕は物心ついた頃から根底に「目立ちたい」という思いがあるので、実はすごく今につながっているのだなと感じますね。
 正直に言えば、お金の教育を変えるのも以前は「誰が変えてもいい。早く変わればいい」と思っていました。でも心のどこかで「もしこの分野で歴史に名前が刻まれるのなら、それは僕の名前であってほしい。有名になって『情熱大陸』みたいなドキュメンタリー番組に出たい」って(笑)。目立ちたい気持ちはまだまだ消えていませんよ。
 税理士になっていなければ、世間のマネーリテラシーがこんなに低いということにも気づけなかったですし、本を出版することもなかった。やはり税理士をめざしてよかったと思います。

一般の人には 10あるうちの3伝えればいい

──最近は他の士業も含め、SNSを活用する専門家が増えていますが、専門知識がない人、一般の人に向けて情報発信するコツを教えてください。

大河内 それには2つあって、まず1つ目は、相手の言葉で喋ることです。例えば「源泉徴収」と言わずに「天引き」という相手が普段使っている言葉を経由して、自分が伝えたいことを伝える。これが非常に重要です。知らない言葉を2個以上言ったら、耳にフタをされると思ったほうがいいです。
 もう1つは、プライドを捨てること、同業者の目を気にしないことです。一般の人に喋るときは、同業者からの「全然説明が足りてない」「大して税金に詳しくないのでは」という視線を無視して、10のうち3を伝える。僕は同業者からビジネスセンスとか発信センスはあるなと思われても、税金の知識をきちんと持っているとは絶対に思われませんが、こういった同業者の視線を気にしないでいられたら、僕みたいになれます。これが一般の人に向けて伝えるということです。
 僕の本が売れた理由もそこにあります。10あるものを3しか伝えてないので知識としては不足していますが、それでも一般の人はお腹いっぱいになります。この感覚の違いを感じてうまく発信することができる人だけが、おそらくSNSの登録者数を伸ばしているのだと思います。税理士が普段相手をする人は、ある程度知識があるので専門用語を使っても問題ないのですが、そこを離れて一般の方にターゲットを向けたときはスイッチを切り替えないといけません。

──最後に税理士をめざしている方々へメッセージをお願いします。

大河内 ひとまず収入などはあまり考えずに、税理士になった先で何をやりたいのかを強く思い描いてほしいです。大きな税理士事務所を作るでもいいし、僕みたいに世間に向けて発信したいというのでもいい。税理士になってからどうなりたいのかだけは、受験生のときから強く思い描いてください。
 近年、お金や税金に世間も注目し始めていますし、税理士はとても社会的に意義のある仕事で、クライアントのお財布の面倒を見てアドバイスをする、非常にポジティブな職業です。試験は本当に大変ですが、そこをくぐり抜けた先の未来を見据えて勉強してほしいと思います。
 僕は税理士の試験直前と合格発表直後には必ずYouTubeに動画をアップします。それは試験にこれから立ち向かう人を応援するためと、試験がうまくいかなかった人を励ますためです。つらい受験期間を過ごしている今が未来につながるのだから、その時間をムダに過ごさないでほしいと伝えたい。それだけ僕は税理士試験と受験生、そしてTACにも思い入れがあります。受験生の皆さん、がんばってください。

[『TACNEWS』 2021年11月号|特集]