特集 リタイア後の資格起業

寺田 淳氏
Profile

寺田 淳(てらだ あつし)氏

寺田淳行政書士事務所
行政書士

1957年、東京都生まれ。1980年、中央大学経済学部卒業。同年、電気機器メーカーに就職。1984年、行政書士試験合格。2009年、同社を早期退職し、独立準備に入る。2011年、寺田淳行政書士事務所を開設。

52歳で早期退職し、会社員時代に取得していた資格を活かして資格起業したのは行政書士の寺田淳氏。寺田氏はなぜ早期退職を選んだのか、そして資格起業の経緯は。自らが想定した業務を軌道に乗せるまでの苦労をはじめ、資格起業の先輩として、これからリタイアを迎える方や資格取得をめざしている方に向けて、真摯なアドバイスをいただいた。

営業のかたわら、行政書士試験に合格

──寺田さんは勤めていた会社を52歳で早期退職され、その後、在職中に取得していた行政書士資格を活かして独立開業されました。最初に、会社員時代の仕事内容について教えてください。

寺田 大学卒業後、電気機器メーカーに就職しました。会社員時代全体としては営業をしていた期間が長いのですが、入社後最初に配属されたのは人事部でした。
 ちょうど会社のしくみや業務の見直しを行っている時期でしたので、最初の1年間は各部署や工場など全国を回って聞き取り調査を行い、レポートをまとめました。若造でしたが、多少は会社のしくみがわかり、会社を俯瞰的に捉えられるようになりましたね。とはいえ入社当初から営業をやりたいという思いがありましたので、半年に1度、営業への異動の希望を出していました。

──どれくらいで営業に異動されたのですか。

寺田 入社2年半後でした。勤務先はホームステレオが有名な会社でしたので、当然そちらの部門かと思っていたら、カーステレオ、今でいうとカーナビゲーションの部門に配属されました。

──その営業時代に、行政書士の勉強を始められたのですね。

寺田 そうです。当時カーステレオは大人気で、飛ぶ鳥を落とす勢いで製品が売れていましたが、このままずっとうまくいくわけではないと思いました。会社に何かあったらどうなるのだろうと思い自分の履歴書を思い起こしてみたら、書いてある資格は自動車免許だけ。自分には何もないんだなと気づき、何か潰しが利きそうな資格はないかと探しました。そして候補に挙がったのが行政書士と司法書士で、資料を取り寄せて検討した結果、まずは通信教育で行政書士の勉強を始めました。

──仕事と試験勉強の両立はいかがでしたか。

寺田 当時は愛知県に赴任しており、三河地方を担当していました。客先で勉強会を行うため、宿泊をともなう出張が多く、夜のつき合いを控えたり、朝の時間を確保したりして勉強していました。試験の手応えとしてはぎりぎりかなぁと思っていたのですが、なんとか1回目の受験で合格することができました。1984年、27歳のときです。

──試験の勉強が営業の仕事をする上で役立つことはありましたか。

寺田 仕事に直結して役立つことはありませんでしたが、勉強を通じて知識を得たおかげで客観的に自分の仕事や会社を見ることができるようになりましたね。
 また、その頃は愛社精神もありましたし独立開業はまったく考えていませんでしたが、「もし会社に何かあっても、自分には資格がある、独立だってできる」という意識は常にありました。
 仕事内容としては、現場での営業から徐々に指導する立場に変わり、代理店の営業の教育や営業所長も務めました。その後、ホームステレオが下火になってくると、本社でホームステレオの人員再配置のための教育研修にも携わりました。

3年間食べていける蓄えが必要

──最終的には早期退職を選んで行政書士として独立開業されましたが、その経緯を教えてください。

寺田 私が早期退職したのは2009年です。その数年前から、会社では毎年のように早期退職者の募集が行われていました。最初は募集対象部門が限られていましたが、ついに全社対象となり、私も手を挙げることにしたのです。
 実際には、退職する1年ほど前から具体的なシミュレーションを行いました。行政書士として独立することは決めていましたが、いきなり仕事がもらえるわけではありません。最低2年間、できれば3年間食べていける蓄えが必要だろうと考えて、給与も最低限しか使わずに貯金しました。やめた年の早期退職者の募集では割増退職金があり、計算してみたらそれまでの蓄えと合計して3年分になることがわかったので、52歳で勤め人をやめました。

──事前にきちんとリタイア後の計画を立てられていたのですね。

寺田 3年間食べていける蓄えはありましたが、綿密な青写真ができていたわけではありません。なんといっても、退職したあとで、行政書士試験合格に有効期限があるかどうか確かめたくらいですから。試験に合格してそれっきりだったので、有効期限切れなどで無効になっていたらどうしようかと、あわてて電話で確認しました(笑)。

──退職後は、どのように活動されたのですか。

寺田 行政書士として活動するためには事務所が必要だということも、会社をやめてから知りましたので、急いで事務所を借りましたね(笑)。ただ、試験に合格してから約25年間、知識は塩漬けでしたので、思い立ったからといって、すぐに実務ができるとは思えませんでした。そこで、まずは業界を調べることから始めました。行政書士の主な分野である、建設・宅地建物・運送・渉外・風俗・環境などの業務で、これはと思える何人かの行政書士の方に話を聞きに行って、業務の様子から将来の展望まで、いろいろと教えていただきました。またそれ以外にも実務的なことも教えてもらいました。書類はどこに取りに行けばいいのか、窓口を回る順番はどうするのがベストかなど、ローカルルール的なことですね。

──いろいろな業務に携わっている行政書士の方々の話を聞いて、どう思われましたか。

寺田 はっきりわかったのは、既存の業務は飽和状態にありそうだということでした。そうした業務を仕事にするとすれば、果敢に挑むのか、軍門にくだって、おこぼれを頂戴するしかないなと感じましたね。
 行政書士として仕事を得て活動していくことの難しさを知った私は、行政書士として活動していくために諸先生の話を聞く一方で、別の選択肢としてハローワークにも通いましたし、人材バンクにも登録をして再就職活動を行い、何社か面接も受けていました。そこでわかってきたのは、私自身を含んだ同年代の市場価値でした。もし再就職をするのなら、この数ヵ月で決めなければ、今以上のオファーは出てこないだろう。それに改めて考えると、今さら宮仕えというのも少し抵抗がある。迷う部分もありましたが、再就職活動を通して今後のことを考えた結果、やはり行政書士として何か新しい分野に挑戦していきたいと決心することができました。
 こうして、名義的な開業後からの開店休業状態を脱却するまでに1年半〜2年近くかかりました。実際に行政書士としてスタートしたことをご案内したのは、2011年です。

自らを振り返り、同世代の課題を探る

──新しい分野への取り組みは、どのように進めましたか。

寺田 まずは自分自身を振り返ってみました。当時私は54歳、ひとりっ子で独身です。このまま自分が歳を重ねていって、亡くなったとしたら、残った財産はどうなるのだろうと考えました。自分が亡くなる頃には先に親は亡くなっているだろうから、相続人はいません。すると財産は国に没収されるとわかりました。それは嫌だな、例えば寄付はできないのだろうか、といった形で、自分の生活を振り返り、その中で生じた悩みや疑問を並べていきました。
 そこで気づいたのです。これらは私の同世代にも、子どもがいない老夫婦にもあてはまる共通の悩みなのだと。実際にリサーチしてみると、悩みがあってもどうしたらいいのかわからない、誰に聞いていいのかわからないと、そのままにしている人が多いことがわかってきました。

──そこから高齢者の分野に取り組んでいったのですね。

寺田 端的に言うと、「死」というものは誰も避けて通ることができない分野です。死にまつわる相談、死の前に必要となる相談であれば、必ずニーズがあるだろうと考えました。当時はまだ、人の死というものを正面に見据えての相談は、やはり忌み嫌われるからか、ほとんどありませんでした。そこに着目したのです。

──相続や遺言も「死」にまつわる分野ですね。

寺田 そうですね。自分なりに調べていくと、老夫婦などはお寺に行って、相続や遺言などについて話をしていることを知りました。そこで、お寺とタイアップして、月1回の法話の日に時間をもらい、「こんなことを知っていますか?」と財産の寄付や任意後見、お墓の手続きなどの話をしました。そしてお寺のホームページでも、法話とともに老後の知識についての話をしていることをPR材料に使ってもらいました。実際にそれがきっかけで問合せがあり、最終的にお寺で墓地を買われる方も出てきました。また逆に、法話にいらした方に事務所へ相談にお越しいただいた例もありました。

──お寺とは着想がユニークですね。

寺田 他にも同様のことができないかと考え、病院や高齢者施設にも、単身で身寄りのない高齢者の方への対応に関して、現状を聞きにうかがいました。私からは任意後見や死後委任契約などといった方法があることをお話ししたところ、それなら悩んでいる人がいるから相談に乗ってほしいということで、仕事につながっていったのです。

──自らいろいろな場所に飛び込んでいかれたのですね。

寺田 長年の営業経験がありますからね。ましてや行政書士という国家資格を持って話をしに行くのですから、ただの営業マンとは違い、ずいぶんと楽でしたよ。国家資格が持つ強みを感じました。

──ご自身が着目した分野に、手応えは感じましたか。

寺田 そうですね。いろいろと相談内容が膨らんでいきました。死の前段階の話になりますが、「遺産相続で悩んでいる」「実は兄弟仲が悪い」「隠し子がいる」など内容は様々です。もちろん弁護士業務は行うことができませんので、そこは気をつけて対応する必要がありますけどね。
 当初は、亡くなったら何をしないといけないのか、そのためには事前にどのような準備が必要なのか、誰に対しての準備なのかといった内容が多かったのですが、そこから徐々に、定年前に必要な準備についてや再就職、資格起業の相談へと広がっていきました。

想定外の歩みを経てたどりついたメイン業務

──業務展開は順調に進んだのでしょうか。

寺田 なかなか順調にはいきませんでしたね。そこで、会社員時代にはまったく関心がなかったFacebookやブログを通じての発信で、認知を広げていこうと考えました。ただ、1年目はほとんど売上がありませんでした。Facebookやブログの活用については、きちんと指導を受けたほうがいいと思いましたね。何をどう伝えればいいのか、デバイスごとの伝え方をどうするかなどは、おそらく私のように未経験の方が多いと思いますから。
 2年目になると、業務内容そのものよりも「早期退職して資格起業した」という私のプロフィールに着目していただけるようになりました。どうやって勉強したのか、行政書士を選んだ理由は何か、いつから会社を早期退職しようと考えたのか、決断のポイントは何か、といったことに興味を持った早期退職予備軍の方たちから相談を寄せられるようになったのです。また、思いがけずテレビや雑誌などから取り上げていただく機会もありました。そうこうしているうちに、相続問題などにつながる相談をしていただけるようになりましたね。

──予想とは違う流れで進んでいったのですね。

寺田 そうですね。さらに3年目には想定外の新しい依頼もありました。以前の取引先の社長がリタイア後に顧問を務めていた一部上場企業から、営業研修の依頼をいただいたのです。新人営業、中堅営業、管理職と3段階での研修を、全国で1年半〜2年かけて実施しました。

──会社員時代にも営業研修などは行われていましたね。そちらを本業にしようとは考えませんでしたか。

寺田 営業研修でお伝えしていたことは、私が実際に経験してきたこと、勤務時代に研修や指導をしてきたことがベースになっています。つまり机上の理論ではなく、経験に裏打ちされたものだということです。私自身の経験から出た考えや教訓だからこそ説得力があり、現役の皆さんの琴線に触れることができたのだと思います。ですがもし、営業研修を本業にするとなれば、経験してきた以上のことまでお伝えすることになり、机上の空論になりかねませんので、そうした考えはありませんでしたね。

──その後の展開について教えてください。

寺田 会社員時代の先輩や同期、後輩も定年を迎える年齢になってくると、私の仕事を知って相続から遺言、そして現在のメイン業務のひとつでもあるお墓の改葬の業務依頼が来るようになりました。
 先の営業研修の際も私は本音で話していましたから、あとから別件で個人的な相談を受けることがありました。「親が認知症気味なのでどうしたらいいか」「家庭内の問題を奥さんに押しつけたままでいいのだろうか」といった同僚や上司などには相談できない内容です。相続の相談もありましたね。

定年でのポイントは仕事面と家庭面の2つ

──メイン業務のひとつにお墓の改葬があるとのことでしたが、具体的に教えてください。

寺田 テレビや雑誌で「墓じまい」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんね。似たような内容なのですが、例えば、田舎から上京して以来ずっと東京住まいで、田舎にお墓があることは知っているけれど行ったことがないという方から、「両親も既に亡くなっており、最近ではずっとお墓に行っていない」「田舎のお墓をなくして、東京都内などにお墓を移したいけれどどうすればいいのか」といった相談を受けます。中には、田舎のお寺の住職が幼なじみだから、自分からは墓じまいのことを言えないという相談もありました。また、以前お墓があるお寺に話をしたら離檀料として高額な料金を伝えられて、そのままになっているというケースもあります。
 それらのケースでは私が手続を代行して、お寺に話をして、改葬許可申請を役所に提出し、改葬許可証を発行してもらいます。
 改葬許可申請を出す場合はローカルルールもあり、申請者とお墓に入っている人の関係の書き方などをきちんと確認しておかないと、やり直しになるケースがありますので、注意が必要です。

──定年、再就職や資格起業といった相談ではどのような内容が多いのですか。

寺田 まず定年というポイントでの相談は仕事面と家庭面の2つがあります。
 仕事面では、第二の人生をどう生きるか、雇用延長を選ぶべきか、在職中に転職を図るべきか、それとも独立・起業をめざすのかという、第二の生活での糧をどう選ぶかという問題になります。
 家庭の問題では、老親の問題、夫婦問題、相続、任意後見と多彩な内容になります。中には、旦那さんが定年後にやろうと考えていることに対して、奥さんが反対している場合もあります。その場合は、まず夫婦で話し合うことから始める必要があります。

──相談に来られる方の年代はどれくらいですか。

寺田 相談は50代、60代の方が多いですが、40代の方もいますね。具体的にこんなプランを考えているが、これでいいのかアドバイスがほしいという内容です。中には「来月定年になりますが、どうすればいいのでしょうか」という相談もありましたね。
 また以前、勤務時代の同期40名ほどに聞き取り調査をしたのですが、こうした悩みを相談できる先をあまり知らないという現実が浮かび上りました。

──同期の方たちは誰に相談しようと考えていたのでしょうか。

寺田 9割の人たちが弁護士に相談しようと考えていました。でも弁護士に相談するとなると最低でも2万円〜3万円の相談料が必要になる。それなら、まだ相談するには早い、本当に困るまで相談は必要ない、と問題をどんどん先送りにしていたんですね。
 私の相談は1時間無料であることを知らせると、それならと相談を依頼されたこともあります。

──相談先は弁護士、と皆さん考えているのですね。

寺田 そうですね。でも私は、行政書士は「町医者」だと考えています。だから相談の第一段階は自分たち行政書士であるべきだと思います。そしてこれは複雑な内容だとなったら、「総合病院」である弁護士を紹介します。そんな位置づけで捉えてもらえるといいのですが、医師にかかるときと一緒で、皆さん最初から総合病院に行こうとしますからね(笑)。その意識も変えていければと思います。

時間厳守の達成目標の設定を

──今後も、定年、再就職、資格起業、お墓の改葬といった業務をメイン業務とお考えですか。

寺田 そうですね。50代、60代の年齢層は今後増えていきますので、それらの分野を深く掘り下げていく予定です。
 実は私は行政書士の王道といっていい許認可業務をまったく行ったことがありません。行政書士としてそれでいいのか、という思いがまったくないわけではありませんが、電子申請などがさらに発達していくと考えると、王道がそのまま王道であり続けるかはわかりません。単なる書類提出代行や申請代行だけでは、いずれ手詰まりになるのではないかと思います。
 行政書士のいいところは、いろいろなことができるところだと思います。例えば資格起業の相談は、電子化はできないと思います。人対人でないと、できないアドバイスがあります。遺言の相談も同じです。法的に正しいだけの遺言なら、AIがもっと発達すれば、AIとの対話のみで作成できるかもしれません。ですが、遺言の作成には、作成者の思いが込められているかどうかが重要だと私は考えています。四角四面に法的な解釈を当てはめるのではなく、法律の行間の読み方のような、相手の気持ちを汲んであげられるアドバイスができることが重要なのです。

──リタイア後に資格起業を検討されている方へ、資格起業の先輩としてアドバイスをお願いします。

寺田 在職中のシニア世代の方へのアドバイスになりますが、会社規定の定年退職年齢まで務め上げるのか否かの選択がまずあります。定年後に資格取得をめざして、取得後に資格起業するのか、それとも50代で士業として独立開業したいのか。定年年齢によっては、決断の時期が10年近く変わってきますので、まずはその判断を早急にすることが第一です。
 私は在職中に資格を取得していましたが、早期退職を含めた退職後から資格取得の準備に入るのか、退職時には資格取得済みで、すぐに独立に向けての準備活動、営業活動に移れるのかどうかで話は大きく変わってしまいます。
 大切なのは、現在55歳の在職中の方であれば、どの資格で、いつ独立開業するのかを明確にすることです。仮に定年の60歳で独立をしたいのであれば、それまでに資格取得を済ませる必要があります。資格を取得できたら独立、と考えていたら、いつまでも取得できないまま、つまり独立できないまま、ということも考えられます。
 漠然とした期限ではなく、60歳なら60歳、58歳なら58歳と、時間厳守の達成目標とすべきですね。

──期限を決めた目標設定が必要なのですね。

寺田 その通りです。漠然とした目標ではダメだと思います。そして私の退職準備のシミュレーションでもお話ししましたが、資格取得まで、取得後の独立開業までの、家族を含めた生活を支える蓄えをいくらと想定するかも重要です。想定しているなら、現時点で想定額を用意できているのか。できていなければ、いつまでに用意できるのか、用意できるあてはあるのかも考えておくことが必要です。

──生活がありますから、資金、蓄えは欠くことができない項目ですね。

寺田 そしてこれから資格を取得しようという方は、資格取得に必要となる金額を調べておくことも大切です。例えば学習用の教材購入費用、個人用パソコンなどの機器費用、受験指導校の受講料の計算はできているでしょうか。仮に1回で合格できなければ、さらに費用は必要になります。
 そして無事資格を取得できたなら、次は独立開業資金が必要になります。事務所を借りる場合、その広さや想定家賃、机などの什器類、事務用品のリストアップや見積りはできていますか。

──独立開業が目的ですから、取得して終わりではなく、そこからが始まりで、始めるための資金も必要なのですね。

寺田 そうです。そして最後に、開業後のお客様、依頼者のあてがあるかどうか。開業してもお客様のほうから来てくれることはありませんから、集客のしくみを考えたり、依頼してもらえるような人脈を築くことも必要になります。
 そして士業としては初心者ですから、同業者や他士業者の人脈も必要です。依頼者はこちらが知っていることだけを聞いてくるわけではありませんし、いち士業だけでは解決どころかアドバイスすらできない場合もあります。
 こうした問題解決に「いつから取り組み始めるのか」が重要なのです。

──最後に、現在資格取得をめざしている方に向けてアドバイスをお願いします。

寺田 目的が、資格取得なのか、それとも資格起業なのか、明確に分類できていることが重要です。単に資格取得だけを目的にしていると、その後の資格起業には困難がつきまとうかもしれません。
 「この資格があれば、自分が思うことを仕事にできる」「資格がなければこの仕事に従事できない」「だから何が何でも資格取得をめざす」といったように、まずやりたい仕事ありきで資格取得をことが大切です。目的と目標を取り違えないように注意してください。
 そして独立開業や起業をするにあたっては、「まず独立開業、起業ありき」ではなく、お客様を見つけてから独立開業、起業してもいいと思います。何が何でもまず独立するのだとこだわる方がいますが、目的は「独立開業、起業」ではなくて、「その資格を活かして第二の人生を生きていくこと」「やりがい、生きがいを持って歩んでいくこと」にあります。ぜひ、がんばってください。

[『TACNEWS』2020年9月号|特集]