読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #40

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『公認会計士「試験」「仕事」「キャリア」のすべてがわかる本』


『公認会計士「試験」「仕事」「キャリア」の
すべてがわかる本』

 著者  :武田雄治、平林亮子
 出版社 :日本実業出版社
 初版  :2023年


カッキー 萌さん、すみません……。

萌さん 断る。

カッキー え、何をですか!?

萌さん だって、絶対めんどくさい話が始まるトーンじゃない。

カッキー そんなこと言わないで聞いてくださいよ。確かにちょっと重たい話になるんですが、僕、監査法人を辞めようかと思っているんです。

萌さん へえ。この前、カッキーが企業のCFO(最高財務責任者)に憧れるっていう話をしていたから『CFO思考』って本を薦めたけど、その影響とか?

カッキー 影響してなくもないですね。自分のキャリアプランについて真剣に考えてみたら、現状のままでは成長できないんじゃないかと思い始めちゃって。もっと監査以外の仕事もしたほうがいいんじゃないかと。

萌さん ふーん。私はまだ辞めないほうがいいと思うんだけどなぁ。じゃあ、今度はまた別の本を紹介するわ。

カッキー 萌さんは毎回本を出してきますけど、監査法人を辞めさせない本なんてあるんですか?

萌さん そのものズバリじゃないけどね。ほら、この本。

カッキー 『公認会計士「試験」「仕事」「キャリア」のすべてがわかる本』ですか――」。

【目次】

1章 公認会計士を目指す
 ―「公認会計士」について知る

2章 公認会計士に合格するための勉強法
 ―“極める”勉強法を捨て“受かる”勉強法を身につける

3章 監査法人への就職
 ―ピラミッドの底辺の修業時代

4章 会計監査の素晴らしさ
 ―“リスク・アプローチ”は20世紀最大の 大発見だ!

5章 監査法人で経験すべきこと
 ―監査法人での仕事を続けるか、転職・独立するか

6章 公認会計士が事業会社で働く
 ―組織内会計士、社外役員としての働き方

7章 公認会計士が独立して働く
 ―組織に属さず自立して生きる・働く

8章 公認会計士が会計以外の分野で働く
 ―無限の可能性がある公認会計士の仕事

(目次より章タイトルを抜粋)


カッキー 会計士や監査法人のことが色々書かれている本なんですね。

萌さん その中には【監査法人を辞めた時の役職】が書いているページもあるわよ。



カッキー これを見ると、ほとんどがマネージャーになる前に辞めているんですね!辞めた割合の約3割が僕と同じ“スタッフ”ですよ。

萌さん 【監査法人を辞めた理由】のグラフもあるわ。



カッキー 一番多い「経験の幅を広げたかった」という理由は僕と同じですね。2番目の「他にやりたい仕事があったため」や4番目の「独立するため」はわかりますけど、3番目の「仕事内容にやりがいを感じられなかった」はちょっと悲しいですね。

萌さん まあ、誰からも感謝されにくい監査業務の宿命とも言えるかしらね。それでも監査法人で得られることは大きいのよ。

カッキー どういうことですか?

萌さん 著者の一人である武田先生は以前、大手監査法人のシニアスタッフから相談を受けたそうなの。「監査法人を退職し、コンサルティングファームに転職し、コンサルティングの技術・ノウハウも身につけたいと考えているが、この選択は正しいのか」って。

カッキー 仕事の幅が広がりそうですから、正しいんじゃないですか。

萌さん さらによく聞くと「いまの年収は500万円だが、コンサルティングファームに転職した同期の年収は600万円」というのが転職の理由だったの。

カッキー 新しい経験値が増えて、年収もアップするんですから、良いことずくめじゃないですか!

萌さん でも、武田先生のアドバイスは違ったわ。「年収が500万円から600万円に上がることなんて、10年先、20年先には誤差だと思いますよ。そんな目先の利益を追い求めて、監査法人にいないと得られない大きな利益を捨てるのですか。監査実務をすべて経験し、巨大企業のインチャージ(主査)も経験すれば、自分のバリュー(価値)は600万円どころか、その何倍にもなるはずですよ」と。

カッキー なるほど……。

萌さん カッキーもまだ監査法人でやり残したことがあるんじゃないかしら?

カッキー たしかに僕もインチャージの経験はまだないですし、巨大企業のクライアントとかにも関わったことがないです。

萌さん でしょ?だったら、まずは監査法人の中で幅広く仕事をしたほうが、将来のためになるんじゃないかしら。

カッキー たしかに……。

萌さん 監査法人にいるといいことも沢山あるわよ。



カッキー 多くの上場企業を見ることができるとか、役員・部長クラスと対等な議論ができるとかは、他の職種にはない経験が得られるポイントですね。

萌さん そうね。それと、「監査的なモノの見方・考え方が身につく」というのも、私は好きだなぁ。

カッキー 一体それは何です?

萌さん いわゆる「リスク・アプローチ」よ。監査論で習ったでしょ?

カッキー は、はい。財務諸表監査において、伝票を一枚ずつチェックしてすべての仕訳が正しいのかを確かめるのではなく、財務諸表全体を見てリスクが高いところを重点的に見る手法のことですよね。

萌さん そう。このモノの見方って監査独特でもあるのよね。監査法人に勤めていると徹底的に叩き込まれるし。

カッキー 1年目から、仕事はまさにこればっかりですよね。試査とか分析的手続きとか。

萌さん 武田先生が仰るには、「監査業界における20世紀最大の大発見」だそうよ。ことわざの「木を見て森を見ず」とは逆に、監査人はみんな、森(財務諸表全体)から枝(各勘定科目)、葉(科目内訳)へと掘り下げていく考え方を基礎として身に付けているからね。

カッキー これは物事を大局的に俯瞰的に見ることにも繋がりますよね。。

萌さん そうね。きっと他の業界でも応用が利くはずよ。だからカッキーも、ちゃんと監査人としての基礎能力を身につけてから転職を考えてもいいんじゃないかしら。

カッキー あっ、僕はまだ基礎能力が身についてなかったんですね……。

[『TACNEWS』2024年3月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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