特集 2022年度不動産鑑定士試験
全国1位合格者にインタビュー

高橋信也講師、高木遼太郎さん
Profile

高橋 信也(たかはし しんや)講師(写真左)

TAC不動産鑑定士講座

不動産鑑定士、宅地建物取引士。2003年、不動産鑑定士登録。TAC不動産鑑定士講座では専門科目である鑑定理論の統括講師を務めている。豊富な実務経験にもとづいた講義が特徴の人気講師。


髙木 亮太朗(たかぎ りょうたろう)さん(写真右)

2022年度不動産鑑定士試験合格者(全国1位)

1990年4月生まれ。千葉大学法経学部総合政策科卒業。勤務する金融機関での部署異動をきっかけに、不動産鑑定士試験の学習をスタート。2022年、不動産鑑定士試験合格。現在、鑑定事務所で実務修習中。

 2022年不動産鑑定士試験において全国1位の成績で合格を果たした、金融機関勤務の髙木亮太朗さん。2022年度TAC全国公開模試でも、2回連続堂々の全国1位という好成績を収めていました。仕事も家庭もある環境下で、どのようにしてトップの成績を維持していたのか。どのような努力と工夫があったのか。髙木さんが不動産鑑定士をめざした経緯や実践していた学習方法などについて、TAC不動産鑑定士講座の高橋信也講師がインタビューしました。

「圧倒的合格率」が受講の決め手

高橋 2022年度不動産鑑定士試験の合格、おめでとうございます。しかも、本試験の成績について国土交通省に開示請求したところ、1位合格だったと判明。すばらしい快挙でしたね。

髙木 ありがとうございます。高橋講師には「鑑定理論」の講義で大変お世話になりました。現在は金融機関での勤務を続けながら、鑑定事務所で実務修習を行っています。

高橋 髙木さんはなぜ不動産鑑定士(以下、鑑定士)をめざそうと思ったのですか。

髙木 きっかけは、勤務先の金融機関で、営業部門からルールを所管する部署へと異動したことです。鑑定部門のない金融機関なので、私の異動先の部署で不動産評価の決め方も定めています。ルールを作るだけでなく、若手行員に不動産評価方法を指導する立場にもなったので、まず私自身が専門的知識を身につける必要があると考えました。不動産評価に関する資格を探していた中で鑑定士の存在を知ったのですが、そのときは試験の難易度についてはまったくわかっていませんでしたね。

高橋 当初から受験指導校を利用しようと考えていたのですか。

髙木 はい。理由は2つあります。1つは、不動産の評価方法や考え方について体系的に理解するためには、独学では厳しいだろうと思ったためです。もう1つは、難易度が高く科目数も多い試験に働きながら挑戦するとなれば、少しでも効率的に学習したほうがよいと考えたためです。
 実は今回の受験よりも前、部署異動になってすぐの頃にも一度TACで勉強し、短答式試験に合格したことがありました。その後仕事が忙しくなってしまったためいったん勉強を止めたのですが、「やはりもう一度きちんと勉強しよう」と決心し、2021年6月に改めて「論文本科生」コースのDVD通信講座に申し込み、さらに途中から上級本科生にコース変更をして勉強を続けました。鑑定士試験は相対評価で成績が決まる試験です。受験生の中でもレベルが高いのは上級コースの人たちなので、そんな先輩たちと切磋琢磨したいと考え、途中から上級コースに変更したのです。

高橋 なぜ2回ともTACを選んだのですか。

髙木 「本試験合格者の7割がTAC生」であることが一番大きいですね。それも単年度だけの話ではなくて、以前からずっとTACは圧倒的な合格率を保持していました。先ほどもお話ししたように、鑑定士試験の合否は相対評価で決まるので、極論すればTAC生が解けない問題なら、自分も解けなくて大丈夫。とにかく自分以外のTAC生が解ける問題は、自分も必ず正答できるようにすることが合格への一番の近道だと考えました。また、自習室が職場と自宅の近くにあったこともTACを選んだ理由のひとつです。

2022年度TAC全国公開模試で2回連続全国1位

高橋 髙木さんはTAC全国公開模試でも第1回・2回ともに全国1位という文句なしの1位です。これだけの成績を出すには、絶対に何か秘訣があると思いますが、どんな工夫をしたのですか。

髙木 働きながら、子どももいる中での受験なので、学習時間の確保がカギになると考えました。そこで、受験すると決めた6月、まず家族に「最低限の家事・育児はやるけれど、1年間は受験勉強に集中させてほしい」と相談しました。妻にはずいぶん協力してもらって、平日は1日3時間から多い日は5~6時間勉強していました。土日も平均6~8時間は勉強し、丸1日使える日には10~12時間の学習時間を確保しました。往復約2時間の通勤時間もすべて勉強に充てていたので、その積み重ねで1週間に40~50時間ほど勉強時間を確保していました。

高橋 髙木さんは相当やりこんでいるほうですね(笑)。私は、社会人受験生であれば1週間の学習時間は30時間が目標と考えています。平日毎日3時間ずつ勉強すれば5日間で15時間になりますから、残りの15時間を土日に7~8時間ずつ勉強するイメージです。最終合格をめざすなら、それくらいの時間を捻出する必要があると思います。ちなみに、直前期はさらに学習時間を増やしたのですか。

髙木 直前期は、1週間で70時間くらいまで増えましたね。4月中旬から5月の短答式試験までと、7月中旬から8月の論文式試験までの直前期は、妻が子どもを連れて実家に帰省してくれたので、ひたすら勉強に集中させてもらいました。絶対に合格できるという確約もないのに協力してくれたわけですから、家族には感謝してもしきれません。

高橋 家族の協力あってこその合格でしたね。学習方法については、どんな工夫をしましたか。

髙木 2点あります。1点目は、単語帳アプリをフル活用したことです。覚えるべき定義や論点を登録しておくと、そのアプリが忘却曲線に沿って毎日自動的に問題を出してくれるので、暗記漏れ項目がゼロになるまで毎日繰り返し暗記しました。
 もう1点は、正答できなかった問題をデータベース化して復習の優先度を5段階に分け、優先度の高い問題についてのみ繰り返し答案構成の練習をするという方法です。
 この2つの勉強方法を学習初期から直前期まで継続したことで、アウトプットとインプット、両方の力がついたと思います。

高橋 もちろんスキマ時間もフル活用しましたよね。

髙木 はい。受験期間中、特に意識したのは「やらないことを明確にする」ということです。仕事、勉強、家庭以外のことは一切やらないと決めて、スマートフォンやタブレットに入れていたマンガアプリ、ゲームアプリ、ニュースアプリなどついつい見てしまうものはすべて削除しました。会社のデスクから会議室に行くまでのちょっとした移動時間も暗記に使い、子どもの寝かしつけ中もスマートフォンの単語帳アプリで定義を暗唱するなど、スキマ時間でも何か勉強しようと工夫していました。

自習室は「最も刺激をもらえる場所」

高橋 TACで学んだ感想はいかがでしたか。

髙木 TACの講師の方々は、学習内容だけでなく勉強の「やり方」や「心構え」もアドバイスしてくれるので、本当に頼りになりました。私は高橋講師の鑑定理論の講義を聞いて、勉強内容への興味が高まり、合格に向け努力することにものめり込み、気がつくと勉強が楽しくなっていました。
 教養科目に関しては、講義中にすべてを理解するのが難しい部分もあったのですが、質問や直前期の答練(答案練習)などを繰り返していくうちに、徐々に理解できるようになりました。今振り返ると、限られた時間の中で最小限の労力で合格できるように、最低限必要な部分に絞って教えてもらっていたのだとわかりました。専門科目の鑑定理論に注力できるよう、濃淡をつけてカリキュラムが組まれていたと感じます。

高橋 学ぶ環境としてはどうでしたか。

髙木 私はよく自習室を使っていましたが、綺麗でよく整備されていて、とても勉強しやすかったです。周囲には公認会計士や税理士をめざして朝から晩まで勉強している受験生が大勢いたので、そんな人たちの姿を横目で見ながら勉強するのが一番刺激になりました。

高橋 自習室は様々な資格をめざす受験生たちが本当に真剣に勉強している場です。日々のそうした積み重ねは絶対に差として表れると感じます。「自宅で勉強するほうが、教材がすべて揃っているから良い」という考えも一理ありますが、本当に自宅で集中して勉強できるのか、考えてみてもいいと思います。集中して学べる環境として、TACの自習室は最高だと思います。本科生であれば自由に使えるので、ぜひTACの自習室を活用してもらいたいですね。

オンラインイベントがモチベーションアップに

高橋 答練やテキスト、カリキュラムについてはどうですか。

髙木 テキストは、ふと疑問に思ったときに辞書的に利用して知識を補完していました。私はアウトプットに重きを置いた勉強をしていたので、『アクセス』や答練のほかに鑑定理論の『マスター問題集』、民法の『上級テキスト』、経済学の『総まとめテキスト』がとてもよかったです。
 カリキュラムについては、教養科目と『アクセスα』が並行して進む時期があって、その時期は大変でしたが、インプットしながらアウトプットすることに慣れるという意味では非常に力がついたと思います。

高橋 勉強中に困ったことはありますか。

髙木 通信講座で学んでいたのでメールで質問文を書くのですが、自分の理解が追いついていない時期は、そもそも聞きたいことを文章にまとめるのが大変でした。ちょうど講師の方に直接質問できるオンライン相談会があったので、そこで理解できていない部分を聞いて解消しました。

高橋 わからないことを解決するのはとても大事ですね。どんな方法でもいいので、遠慮なく質問すべきです。髙木さんのような通信講座受講生も、スクーリング制度があるのでいつでも教室受講可能です。教室受講生の雰囲気を知ってもらうことも大事だし、講師とコミュニケーションを取ることがモチベーションアップにつながると思います。
 フォロー制度やオプション講座は利用しましたか。

髙木 はい。スクーリング制度は使いませんでしたが、フォロー制度で特によかったのは質問コーナーとオンラインイベントです。質問コーナーで講師の方々と直接オンラインで会話できたときは、まるで芸能人に会ったかのようにテンションが上がってモチベーションアップにつながりました(笑)。オンラインイベントはいろいろな情報が手に入りますし、Q&Aでは他の受験生の悩みも聞けて参考になりました。
 オプション講座は、個人的には『アクセスコース』と『鑑定理論論文特効ゼミ』がおすすめです。初めて論文式試験問題を解いたときは、インプットは完璧だと思っていたのにまったく答案が書けなくてショックでした。そんな中でアクセスコースはアウトプットトレーニングとして非常に効果的で、時間も60分なので社会人でもこなせるのがメリットです。中でも『アクセスβ』の演習が時間管理などで非常に役立ちました。
 論文特効ゼミは自分の引き出しを増やし、それを使いこなしたい場合におすすめです。鑑定理論の理解度や答案構成力にかなり差が出てくると思います。

時期によって変わった苦手科目

高橋 論文式試験では民法、経済学、会計学、鑑定理論の論文と演習がありますが、得意科目はどれでしたか。

髙木 鑑定理論です。一番時間を使って徹底的に暗記したので、「なぜその基準になっているのか」をかなり深掘りできていました。その積み重ねが功を奏して安定して点数を取ることができました。

高橋 鑑定評価基準は暗記が相当必要ですね。髙木さんの基準暗記方法は、読む・書く・聞くのどれですか。

髙木 私は単語帳アプリに定義や論点を個別に登録して、1章まるごと暗記はせずに「更地の定義」のようにパーツごとに暗記しました。初めて暗記する項目やなかなか覚えられない項目は寝る前に確認して、翌朝復習することで定着させました。ですから「読む、書く、聞くのどれか」で言えば、「読んだ」が一番多いです。繰り返し読んで覚えて忘れて、また読んで、を繰り返しましたね。

高橋 一番苦手だった科目は何でしたか。

髙木 苦手科目は時期によってまったく違いました。最初は演習が苦手で、その後は会計学、経済学で、最終的に民法が苦手でした。順を追って苦手になっていったんです(笑)。

高橋 科目によってそれぞれ違った克服方法が必要になってきますよね。民法ではどんな対策を立てましたか。

髙木 私は民法という科目にあまり触れてこなかったので、最初にかなりの論証例を覚えたのですが、それだけでは問題はまったく解けませんでした。民法には問題提起→事例分析→論証例という型があるので、その論証例に辿り着くまでのプロセスがかなり大変でした。多くの問題をこなしたらある程度わかるようになってきましたが、それでも落としてしまう論点が、最後の最後までなくなりませんでした。だから最後は「この問題ならこういうことが出てくるだろう」といった推測のパターンを頭の中に溜めていって、「この条文が書いてあるから、この辺が論点だろう」と逆算的にはめ込んでいきました。

高橋 経済学はどうでしたか。私の中では、教養科目の中では経済学を苦手とする受験生が多いイメージがあるのですが。

髙木 経済学はテキストの暗記はせずに、「ここが重要」と言われた部分をしっかり覚えて、問題を解けるようにしました。

高橋 会計学についてはいかがですか。

髙木 実は一番苦手な期間が長かったのが会計学でした。会計学は鑑定理論の基準に近いと思うのですが、定義を正しく覚えなければなりません。ところが「損益」「収益」「費用」のような類似した単語が出てくるので、覚えるのに非常に苦労したのです。ただ、それが覚えられてからは急激に伸びた感じでした。

高橋 過去の本試験問題は解きましたか。

髙木 教養科目は経済学の令和3年度だけ本試験の2日前にやりましたが、他はまったくやっていません。相対的に見てTACの答練ができないほうがまずいと考え、そちらを完璧にすることを重視したので、過去問までは手が回りませんでした。

高橋 TACの答練をベースにしてすべての論点を吸い上げていったのですね。鑑定理論に関しては過去問でやらなければならない問題がかなりあるので、それは私たち講師が提示しています。教養科目はその年度の試験委員の傾向が強く反映されるので、過去問を繰り返す必要性はあまりない、とTACでは指導しています。
 髙木さんは講師の指導通りに取り組んでくれたのですね。不安になるとどうしても手を広げたくなりますが、私たち講師が言ったことをどこまで貪欲にやりきれるか、合格はその一点に尽きると思います。

「答案構成」が最も重要

高橋 論文問題を解く際は、まずは答案構成から入ります。髙木さんの場合は、解答を書き始めるまでの答案構成にかける時間は、1問あたりどれくらいですか。

髙木 本試験では1問3~4分以内で、骨格になることを殴り書きするような感じで答案構成をしていました。

高橋 骨格を作るのは、上から順番に構成していく方法ですか。それとも聞かれていることに対する解答をズバリこれだと決めて、それを述べるためにたどり着く方法で構成していきましたか。

髙木 私は最初に解答を決めます。上から下まで流れが決まっているパッケージ的問題もあるので、そういう問題は答案構成をしないで進めました。
 実は一時期、点数が伸び悩んだ時期がありました。大義を外しているなという感覚が自分の中にあったので、問題の中でメインとなる重要な部分に蛍光ペンを引いてから答案構成をするようにしました。蛍光ペンを引くと自然とそこに意識が向くようになるので、答案構成がしやすくなりました。

高橋 演習問題について、私は答案構成に15~20分と見込んでいますが、髙木さんはどうですか。

髙木 本試験では10~15分でした。すでに自分の中で書くことがすべて決まっていたので、その通りに書きました。

高橋 かなり速いですね。アウトプットトレーニングで論文式試験の答案構成や演習問題の仕込みをやろうというときは、もっと時間がかかっていますよね。

髙木 もちろん、そこはむしろ丁寧にやっていました。答案構成を本試験や答練以外で復習として行うときは、経済学、会計学、鑑定理論は1問30分、民法は1問60分と、かなりしっかり時間を使っていました。

高橋 私が20数年前に受験生だったときは、やはり答案構成が一番大事な受験勉強だと思っていました。答案構成がきちんとできなければ、いい答案なんて書けるわけがない。答案構成さえしっかりできれば、7~8割がた合格です。まずそこが論文式試験突破の肝ですね。

「穴を作らないこと」が最大の勝因

高橋 試験直前期はどのように過ごしていましたか。

髙木 直前期も基本は応用期と変わらず、単語帳アプリによる暗記と、今まで解いてきた問題の中でできなかったものの答案構成を繰り返しました。答練や模試、テキストの問題などの中で自分がまだ暗記できていない定義や理解できていない論点などがあった場合には、単語帳アプリに登録して、暗記サイクルに乗せて、インプットとアウトプットを繰り返しながら勉強していました。

高橋 本試験当日は緊張しましたか。

髙木 めちゃくちゃ緊張しました。マクロ経済学では今まで見たことのない問題が出てきて、その解答を捻り出す時に頭をフル回転させたら、試験終了したときにはめまいがしてしばらく動けませんでした(笑)。鑑定理論でも、どうしても基準が思い出せないところがあって、急遽、あとから追記できるように途中を数行開けて解答を書いたり、演習では答案用紙のホチキス止めすべき場所を間違えたり、それまでの模試や答練では起こらなかったことがいろいろ起こったんです。本試験の怖いところですね。一発勝負なのでとにかくパニックにならないようにと自分に言い聞かせながら解答していました。

高橋 それでも結果的にダントツのトップ合格ですから、すごいですね。振り返って、勝因は何だったと思いますか。

髙木 穴を作らなかったことが間違いなく一番大きかったと思います。鑑定理論も書けない部分はありましたが、TACの答練と模試の問題は絶対に大外ししないレベルにはなっていたし、民法は論証例であればCランク以外は覚えたし、会計学もテキストの基礎部分はほぼクリアしていたし、そういう意味では穴を作らなかったと思います。
 実は1回目の模試が終わったあとのオンライン相談会で、「鑑定理論の精度をさらに高めるか、教養科目の穴をなくすか、どちらにすべきでしょうか」と相談したときもらった答えが「教養科目の穴をつぶすこと」だったのですが、覚えていますか?確かに、高橋講師のアドバイスは正解でした(笑)。

講師に言われたことは素直に実践する

高橋 それだけ真剣に受験勉強に向き合って、1位という結果も叩き出して、考えられる最大限の努力をしてきた髙木さんだからこそ言える、「最低限ここまでやっておけば大丈夫」といった落としどころを聞かせてください。

髙木 講義の中で「ここは覚えて」と言われた部分は素直にきっちり覚える、ということです。覚えるべきところはしっかり覚え、その上で合格レベルの解答を書けるだけの理解力と引き出しを持っておくことが大事だと思います。
 受験勉強は自分との孤独な戦いです。不安になったり精神的に辛くなったりすることもありました。私はスクーリング制度も利用せずに勉強していたので、講師とのコミュニケーションもオンライン相談会だけでした。でも1回目の全国公開模試で1位を取ったあとのオンライン相談会で、高橋講師に「1位の髙木さんですね」と言ってもらえたのです。数いる受講生の中のひとりに過ぎず、教室講義にも参加していない私のことなんて知っているわけがないと思っていたのですが、1位を取ったことで、認識してもらえた。それが本当にうれしかったですね。

高橋 そう言ってもらえて私もうれしいです(笑)。今、「受験仲間がいなくて寂しかった」という話がありましたが、私はそもそも受験勉強とは孤独であるべきだとも思っています。受験仲間がいれば、不安も和らぐし、支え合えるという面もあるとは思います。でも、勉強するのは結局自分です。ですから本質的には受験勉強は孤独なものであって、自分自身としっかり向き合い努力できるかどうかが大事だと思います。
 通信講座で仲間がいない中で勉強する受講生も多いですが、自分の大まかな立ち位置はTACの答練や模試で確認できます。自分自身が努力してさえいれば、通信受講生だから、受験仲間がいないから、不利になるということは絶対ありません。逆に仲間がいれば、甘えが出てしまう部分もある。そのほうが私は怖いと思います。

髙木 おっしゃる通りです。私は全国公開模試で2回とも1位になりましたが、ずっと不安だったんです。自分の正確なレベルなんて、結局最後までわからないんですよ。答練などで順位が出れば、なんとなく自分が平均点を超えているなとか、いわゆる合格ラインに届いていそうだなというのはわかります。でも、その成績はあくまで自分が「自宅」という空間、言ってしまえば何でもできる環境の中で受験した結果です。教室で解答した人たちはもっと緊張感を持って臨んでいるわけです。そう思うと、あまり順位を参考にしてはいけないなと思いました。
 第1回の模試で1位になったあとの5~8月は、気持ち的にも焦りがありましたね。私が日中仕事をしている間、受験専念の人たちは毎日10何時間も勉強している。だから「絶対に抜かれる」「何十人にも抜かれて落ちる」「もっとやらないとまずい」という焦りをなくすためにも、夢中で勉強していました。それが結果として成績につながったのです。もし仮に受験仲間が大勢いて、みんなが「昨日は全然勉強できなかったよ」と話しているのを聞いたり、仲間からもてはやされて「その成績なら絶対合格できるよ」と言われたりしていたら、全然違う結果になっていたと思います。

高橋 教室に通って勉強することができないとか、受験仲間がいないとか、そんなことはハンデキャップでもなんでもないです。そこを私は強く言いたいですね。
 最後に、髙木さんから受験生の皆さんにメッセージをお願いします。

髙木 鑑定士試験は長期間継続的な勉強が必要な試験で、社会人・学生・受験専念などのバックグラウンドを問わず、皆さんいろいろなものを犠牲にしながら勉強されていると思います。この試験で重要な暗記は、一朝一夕に身につくものではありません。試験当日、今までの勉強生活を振り返ったときに、「これだけがんばってきたのだから大丈夫」と自信を持って思えるように勉強してほしいですね。これからの1日1日に何ができるかを常に考え、自分が置かれている環境の中でベストなことを、日々積み上げていくことが大事だと思います。がんばってください。

[『TACNEWS』 2023年4月号|特集]