特集 「差別化」を叶える
ダブル・トリプルライセンスのススメ

大河内 薫氏
Profile

平子 剣士(たいらこ けんと)氏

青山REAX取締役
平子司法書士事務所代表
司法書士・不動産鑑定士・宅地建物取引士

早稲田大学在籍中の2008年に司法書士試験合格。卒業後は都内の2つの司法書士事務所に勤務し、不動産登記・商業登記業務に従事。司法書士として働きながら不動産鑑定士試験に挑む。資格取得後、2016年に不動産会社CBRE株式会社に転職し、不動産鑑定評価・コンサルティング業務に従事。2019年5月、司法書士・不動産鑑定士の個人事務所を開設。翌年不動産鑑定士事務所機能を不動産会社青山REAXへ移し、参画。同年宅地建物取引士資格を取得し宅建士登録。2021年同社取締役就任、トリプルライセンスを活かした不動産ビジネスを展開。

「司法書士」と「不動産鑑定士」という2つの国家資格を手に独立開業した平子剣士さん。いずれも難関と言われる資格試験だが、この2つを選んで挑戦した理由について、「希少性の高い組み合わせのダブルライセンスを持つことで、ビジネスフィールドにおける差別化をしたかった」と語ってくれた。大学在学中に司法書士試験を突破。大学卒業後に司法書士として経験を積む中、不動産鑑定士資格を取得し、大手不動産企業CBRE株式会社へ転職。不動産鑑定・コンサルティング部門で実績を重ねたのちに、司法書士・不動産鑑定事務所を開業、さらに都内不動産会社「青山REAX」へ鑑定事務所を移転し同社取締役に就任。着実にキャリアを拡大し続ける平子さんに、めざすビジネスの展望と、複数資格の活かし方についてうかがった。

在学中に司法書士試験に合格

──複数の国家資格を手にご活躍中の平子さんですが、学生時代はどのようなキャリアプランをお持ちでしたか。

平子 学生時代は法学部に進学したので、入学当初は弁護士をめざしていました。当時はちょうどロースクール制度ができた頃で、ロースクールへ進学すれば7~8割方司法試験に合格できると言われていたため、私もそのルートで弁護士になるつもりだったのです。ところが大学3年でロースクール進学をリアルに考える頃になると、実はロースクールの合格率が前評判ほど高くないことがわかり、迷いが生まれましたね。せっかく学費と時間をかけてロースクールへ進んでも、万が一司法試験に合格できないまま社会に出ることになったらどうしようかと悩んだ結果、一般企業の就職活動を行い、内定をいくつか手にしてから今後のキャリアを考えることにしたのです。当時は就職状況が良い時期で、内定をもらった中の1社が「入社パス」を出していました。このパスは、内定後3年間、いつでも好きなときに入社できるという、当時流行っていたシステムです。無事内定も取れ、今後3年間いつでも好きなタイミングで入社できるのであれば、最長3年間はいろいろなチャレンジができるはずということで、司法書士試験の勉強をすることにしました。それまでは漠然と弁護士資格を取ることを考えていましたが、自分が本当に叶えたいことは何かと考えたとき、「弁護士になりたい」というよりは「開業したい」という気持ちのほうが強いと思ったので、受験資格がなく挑戦しやすい司法書士を目標にすることにしたのです。

──同じ法律系資格の中から、司法書士を選んだのですね。

平子 はい。司法書士試験の勉強は、過去問題集の演習をメインに進めましたね。そうして無事在学中に合格を果たすことができたため、内定をいただいていた企業への就職はせず、大学卒業後は司法書士事務所に入ることにしました。

──事務所選びはどのように行いましたか。

平子 司法書士会の求人ページを見て探しました。面接にうかがったところ「明日から来てほしい」とお声がけいただいたので、入所することになりました。最初に勤めたこの司法書士法人では、会社登記や不動産登記業務、債権回収業務などを担当しました。ただ規模が小さい法人でしたので、もっと幅広い仕事がしたいと思い、2年間勤めたのちに転職しました。2社目は西日本で一番大きな司法書士法人です。この法人に4~5年勤めて、一連の司法書士業務をひと通り経験させてもらいました。

「強み」をどう身につけるか

──そこから司法書士として働きながら、不動産鑑定士(以下、鑑定士)をめざされた経緯を教えてください。

平子 大学在学中に司法書士試験に合格し、社会に出てろいろな経験をさせてもらいましたが、20代でまだまだ若いのだから、もっと他にも資格を取って視野を広げてみたいと考えていたのです。もともと士業として独立したい気持ちがあったので、もう1つの武器を何にするか、幅広く資格を検討していました。最初に勤めた司法書士法人では会社設立を2,000件位扱い、税理士と司法書士は業務上の融和性が高いと知ったので、税理士資格の取得を考えたこともあります。もちろん、同じ法律系資格という視点から、改めてロースクールへ通って弁護士をめざすという道も視野にありました。こうしてどの資格を取るか決まらないまま日々の業務が不動産どっぷりになっているうちに、不動産ビジネスに興味が湧いてきたというわけです。
 加えて、登記業務で扱ってきた不動産が、実際どのように動いているのかを知りたいという思いもありました。2社目の司法書士法人は、仕事の大部分が金融機関のお客様の決済業務という、不動産登記がメインの事務所でした。決済数にすると年間200件位は扱ったかなというくらい、ほぼ毎日決済をするような業務でしたが、2年ほど経ったときに、ふと「自分は不動産について何も知らないな」と思ったのです。もちろん不動産の登記手続業務に関しては、充分詳しくなったと思います。ですが手続きに入る以前の、不動産が決済を迎えるまでの業務については何も知らなかった。そのまま司法書士として決済部分を突き詰めていくという道もありましたが、私は案件がどうやって最後の契約現場まで来るのかを知りたいと思いました。そこで不動産業界へ足を踏み入れることにしたのです。司法書士事務所で働きながら転職活動を始めたのですが、当時はちょうど不動産業界の景気が良くなくて採用や求人数も少ない時期でした。であれば何か不動産に関する資格を取ったほうが入社しやすいだろうと考えましたね。

──司法書士業界から不動産業界へと活躍のフィールドを変えるために、資格取得を考えたということでしょうか。

平子 そうですね。ただ正直に言うと、鑑定士資格は司法書士の業務とあまり融和性は高くありません。私も司法書士を7年やって、鑑定士の先生とご一緒した仕事は1件あったかないか。「不動産」という業界で隣接はしているのですが、業務上の接点は少ない資格です。

──あえて接点が少ない資格でのダブルライセンスを狙おうと思ったのですか。

平子 その通りです。私は意図してそのような組み合わせを狙いました。一般的には、ダブルライセンスを取得する場合は、業務上の融和性が高い資格を組み合わせるケースが多いですね。例えば「税理士×鑑定士」とか、「弁護士×鑑定士」などは比較的メジャーなダブルライセンスの組み合わせだと思います。「司法書士×土地家屋調査士」などもそうですね。「今持っている資格にプラスしてこの資格があれば、お客様の要望にもう少し踏み込める」「この資格があれば他社へ業務を振らなくとも自社で完結できる」という、資格のシナジー効果を狙った組み合わせです。でも私は、もう1つプラスする資格を、他ではあまりない組み合わせで取ろうと思いました。そうすることで独立したときにビジネスの差別化ができると考えたからです。この意味で、「司法書士×税理士」のダブルライセンスを持っている方は少なくありませんので、ここは狙わないことにしました。では何と組み合わせようかと考える中で、「司法書士×鑑定士」のダブルライセンスを有する人がどれくらいいるかを調べてみたところ、ゼロではないけれど全国的にかなり少数でしたので、希少性という価値もあると思いました。私は法学部に在籍していましたから、鑑定士がいわゆる文系の三大国家資格(弁護士、会計士、鑑定士)と称されることは知っていましたし、試験内容についても大まかにですが知っていました。こうして、不動産業界へ行くなら鑑定士だと考えて受験することに決めたのです。

「やりたいビジネス」のイメージをモチベーションに

──働きながら、どのように受験勉強を進めましたか。

平子 私は「これ」と決めた教材を徹底的にやり込むという勉強方法が自分の性には合っていると思っていますので、最初の年は、TACのテキストで勉強しました。基本教材を徹底的に全部覚えるということをやり切れば、短答式試験はクリアできると思います。そうして1年目に短答式試験を、2年目に論文式試験を受けました。手ごたえを感じて「これは受かったかな」と、11月の合格発表まで勉強せずに過ごしたのですが、結果は不合格でした。今思い返すと、手ごたえがあったというのはただの思い違いでしたね(苦笑)。それで最終年はプロの講師にきちんと指導を受けるために、TACの講座に申し込んで勉強しました。仕事をしながらでしたが、事務所が東京の八重洲にあってTACの校舎と近かったので、自習室へは毎日のように通いました。当時は朝1~2時間勉強してから出社していましたね。昼休みも好きな時間に取ることができましたので、16~17時頃になったとしても絶対に昼休みは取るようにして、60分休みのうち40分は勉強時間に充てていました。2回目の論文式試験を受ける頃からは22~23時頃に帰宅する状況だったので、帰宅後から深夜まで2~3時間勉強しました。勉強はとにかく愚直にテキストをしっかり覚えることを重視していましたね。覚えていないことはアウトプットできませんから、徹底的に覚えるということを一生懸命やりました。

──毎日遅くまで働きながら、3回の受験で合格とは素晴らしいですね。

平子 ありがとうございます。ただ、初めからTACの講義に通っていたら、おそらく1回で合格できたのではないかと思います。TAC八重洲校で高橋先生の答練(答案練習)の解説講義を見たとき、論文答案をどう作ればよいのかについての核心を突いた説明を聞いて、素晴らしいなと思いました。講義では、独学のときにはまったく意識できていなかったポイントを当たり前のことのように教えてもらえる。人に知識をわかりやすく教える才能を持った人が、資格試験に合格するために必要なことを分析して伝えてくれるのです。そのときに使われる教材自体ももちろん分析の結実ですから、自力で何年もかけて勉強を続けるよりも、プロによって分析された核心を聞くほうが、圧倒的に効率が良かっただろうと思います。

──受験期間中はどのようにしてモチベーションを保ちましたか。

平子 意識したのは、あまり無理しない、追い込まないということですね。日々仕事をしているので業務上でトラブルを起こすわけにはいきませんから、無茶は禁物と思っていました。合格者の体験記などを読むと、皆さん平日3時間、土日12時間とか勉強なさっていて凄いと思うのですが、私は仕事第一でしたし、毎日勉強するように習慣づけてはいましたが、土日まで勉強するのがつらいと感じたときには無理せず休むようにしていましたね。モチベーションを維持する方法としては、「鑑定士資格を取ったらこういう仕事ができるはず」とビジネスのビジョンを描くようにしました。司法書士資格に加えて鑑定士資格もあれば、今まで誰もやっていない、こんなサービスを開拓できるはずだとイメージしながら、書き出してみるということをしていましたね。
 一般的に、ダブルライセンスに挑戦する場合、すでに1つ目の資格で仕事が成り立っているので、絶対に2つ目の資格を取らなくてはいけないという必然性はありません。そうなるとどうしてもモチベーションが下がることがあります。だからこそ「資格を取ればこれができる」という向上ビジョンを描くことが私にとってとても大事でした。

世界最大の事業用不動産サービス会社で働く

──鑑定士資格取得後、不動産大手のCBRE株式会社への転職を選んだ理由を教えて下さい。

平子 実は、私は鑑定士資格を取ってからもキャリアに迷っていました。鑑定士の転職先としては、不動産会社に勤めてキャリアを築くか、不動産ファンドでアセットマネージャー(投資目的での不動産形成や運用戦略を担当)になるケースが多いのです。働きながら鑑定士資格を取る人は、不動産ファンドに転職希望という人が圧倒的多数だろうと思います。私は司法書士としてずっと不動産案件を扱ってきましたが、住宅系の不動産では高い物件でも2億円位でしたから、アセットマネージャーになって数十億、数百億円という大規模な物件を扱う世界に関心はありました。一方で、独立するというのは昔から持っていた希望ですし、開業したい気持ちもありましたから、どのような経験が自分のキャリアにプラスになるかを考えていました。鑑定業務もしたいけれど、仲介売買などの不動産ビジネスにも興味がある。そこで、鑑定部門を持っている不動産会社を転職先に選びました。採用面接で鑑定部門から他の部門へ行けるか聞くと、どの企業も行けるという回答でしたが、中でもCBREは仲介もアセットマネジメントも自社内に部門があるということで、選べるキャリアの幅が広いだろうと思い転職を決めました。

──入社時はどの部門に入られたのですか。

平子 鑑定評価・コンサルティング部門ですね。不動産の鑑定評価が主業務で、社内で扱う仲介案件に関して、「鑑定したらこれくらいの価値になる」という仲介のサポート業務も行っていました。CBREにいた約3年間で、ほとんどの業種の施設を鑑定したのではないかと思います。老人ホーム、病院、太陽光発電、トランクルーム…、世の中には多種多様な不動産があります。

──CBREに勤めている間、司法書士の仕事はどのようにしていましたか。

平子 実は鑑定業務に就くときに司法書士の登録をやめたので、資格を持っているだけの状態になりました。でも登記等に関して社内で聞かれることは非常に多かったですね。鑑定士を含め不動産会社の人達は、登記簿はあまり見慣れていない。そこに、司法書士の私は詳しいということで重宝されたということはあります。
 CBREでは大型物件の鑑定を数多く手掛けました。司法書士として1億、2億円規模の物件を扱っていた頃は、数十億、数百億円規模の物件を扱うのは一体どのような世界なのだろうかと思っていましたが、鑑定士として大量に物件を扱っていると金額の大きさにも慣れてきます。取引の現場であればまた違うだろうと思いますが、現場に私が直接入って行くことはできませんから、そうなると性格的にもっと違う仕事を経験したいと思うようになりました。飽きっぽいのですね(笑)。

──向上心だと思います。そこで独立を考えたのでしょうか。

平子 そうですね。もちろん会社内部でキャリアを変えるという選択肢もありましたが、それは今でなくてもできると思いました。CBREは外資系企業ですから、一旦社外へ出たあとでまた戻って来る人もいます。社内に人脈もできましたし、もう一度鑑定士としてCBREに入り直すことはできるだろうと思いましたので、それを踏まえた上で、開業するタイミングは今しかないと考えました。

──「まずは一旦独立してみよう」というのは新しいキャリアの考え方ですね。

平子 「生涯をかけた独立開業」みたいなスタンスではなかったですね。トライして駄目ならまたキャリアチェンジすればいいと思えるのは、ダブルライセンスの強みかもしれません。鑑定業でうまくいかなくても司法書士がある、不動産業でうまくいかなくても鑑定業、司法書士業がある。そういう意味で、資格はリスクヘッジになりますね。

徹底的に差別化した事務所を作る

──開業準備はどのように進めましたか。

平子 開業しようと決めてから、半年ほど独立準備を進めました。ホームページを作ったり営業活動を始めたり、士業の交流会やセミナーへ行き人と会って独立する予定だということをアピールもしました。それから事業計画の策定や、資格の相乗効果でこういうサービスができるだろうという展開を考えました。開業は令和元年(2019年)5月1日、自宅のすぐ近くにオフィスを構えました。ちょうど開業1ヵ月前にふたり目の子どもが生まれたこともあり、職住近接が良いだろうと考えてのことです。

──司法書士・不動産鑑定事務所を開業されたあと、どのように顧客開拓しましたか。

平子 それがお恥ずかしい話ですが、コネもなく始めたので開業後しばらくは毎日営業しかやることがありませんでした。半年間考えたサービスも、机上の空論が多かったです。私がやろうとしているビジネスは、まだ誰もやっていない新しいビジネスだと自負していましたが、誰もやっていないのはニッチだからなのですね。それでも自分の勝負したい分野は、他の事務所とは少し違うところにある。やっぱり鑑定事務所に営業の軸を置きたいし、鑑定や不動産ビジネスに近いところで徹底的に他と差別化した仕事を取りたいという気持ちが強くありました。ただ、そこまでの訴求力を持たせられなかったというか、お客様に私の事務所の強みを伝えきれなくて「国家資格を2つも持っていてすごいですね」で話が終わってしまうのが難しい部分でしたね。

──仕事が軌道に乗るまでどれ位かかりましたか。

平子 半年位です。元の職場のつながりなどから、徐々に仕事が貰えるようになりましたね。CBREで仲の良かった人が「鑑定の仕事はないが、登記の仕事だったらある」と言って登記案件を集めてくれたり、お客様が他のお客様をご紹介くださったりしたことで何とか食いつないで、開業資金が底をつく前に事務所経営を安定させることができました。

──手ごたえを感じた案件はありましたか。

平子 徐々に士業の方から重宝がられるようになってきた頃に、ある債権案件で弁護士の先生から大量の査定を依頼されたことです。債務者である不動産会社の全物件を至急査定してほしいという話でした。基本的に良い物件はなく、残債が担保の評価債権額より上回るものばかりでしたが、中に1つだけ担保が付いていない物件があったのです。ただ、調べてみるとその物件はすでに「売約済」になっていました。普通の鑑定士ならそこで終わりと諦めてしまうかもしれませんが、司法書士の立場から見ると、実際の決済は1ヵ月後だからまだ謄本が動いていなければ法的処置が取れると考えられます。それで実際に債権を回収できたということがありました。弁護士の方は不動産以外にも数多くの案件を担当しますから、不動産法務に精通するというのはなかなか難しいところがある。でも鑑定士と司法書士のダブルライセンスがあれば、こんな仕事もできるのだと知っていただけた案件でした。

ビジネスパートナーとの出会い、不動産会社取締役に

──不動産会社青山REAXに参画するようになった経緯を教えて下さい。

平子 もともと青山REAXから鑑定のお仕事をいただいていたのです。CBRE時代に仲のよかった同僚が青山REAX代表と同窓だった縁で紹介してもらいました。青山REAX代表はデベロッパー系不動産会社出身で、上場企業の取締役を務めた上で会社を興した人物です。その彼が鑑定士試験に挑戦したことがあると言うのです。仲介の実績が非常に大きい方なのだから鑑定士資格は必要ないでしょうと言うと、「不動産業の枠を超えたい。不動産事業者は利益確定型のビジネスになりがちだが、自分はコンサルティング的な問題解決型のビジネスをしたい」という答えでした。そこで、私の鑑定士事務所機能を青山REAXへ入れましょうかという話になったのです。私自身も開業当初から、ただ事務所を経営していくというのは違うと考えていました。ちょうど開業して1年が過ぎ、事務所経営に困らない程度仕事をいただけるようになった段階で、次の一歩を考え始めたときだったので参画を決めました。

──新たな活躍の場を見つけられたのですね。

平子 そうですね。司法書士事務所もゆくゆくは拡大するつもりですが、今は不動産ビジネスを主力にしています。そのために私は2020年、宅地建物取引士(以下、宅建士)の資格も取りました。

──鑑定士資格を持ちながら、さらに宅建士資格も取得したのですね。

平子 「司法書士、鑑定士と取得して、最後に宅建士試験に挑戦したの?」と、よく驚かれますね。事務所で勉強していたら「司法書士と鑑定士、2つの難関試験に合格しているのだから、宅建士試験は何も勉強しなくても合格できるでしょう」と言われましたが、勉強しないと受からないです(笑)。ひと月しっかり勉強して合格しました。現在は、司法書士業が2割、不動産会社の役員として不動産の買取りと仲介案件といった宅建士の仕事が4割、そして鑑定業務が4割といったバランスで仕事をしています。
 実際、2020年から2021年にかけて、鑑定業務からスタートして不動産取引まで行うことができたという案件があり、このときに自分の考えたようなサービスができたと手ごたえを感じました。不動産業界には鑑定したからといって解決しない問題が多いです。この案件も、当事者双方が弁護士を立てて係争状態だったところへ鑑定の立場で入っていって、解決策として当社での買取りを提案して成功した事例でした。今後さらに、不動産の価値を伸ばす提案ビジネスをしていきたいと考えています。

──最後に、資格取得をめざしている方や、キャリアを模索中の方にメッセージをお願いします。

平子 資格を持っていると、言い方は卑近ですが食いっぱぐれがありません。私は「負けないビジネスをする」ということを自分の信条にしていますが、士業はその点に強いので、人生のリスクヘッジになると思います。そして負けないビジネスをしていれば、思い切ったチャレンジもしやすいというメリットがあります。
 うちの会社にも宅建士を持っている人や鑑定士試験の勉強をしているような人に入って来てほしいと思っています。知識を持っている人は持っていない人より実務の覚えが早いですから、合格していなくても資格受験の勉強自体が人生におけるリスクヘッジになっている部分もあると思います。そして、日々働いているだけでもキャリアは積み上がりますが、キャリアをどう安定化させるかというときに、資格はきっと役立つはずです。ぜひ挑戦してみてください。

[『TACNEWS』 2021年12月号|特集]