読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #2

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『会計の世界史』


『会計の世界史』

 著者  :田中靖浩
 出版社 :日本経済新聞出版
 初版  :2018年

カッキー またまたやってきました。書評コーナー『萌さんとカッキーの読書室』です。

萌さん 私たちもたまに露出しないと忘れられちゃうからねー。あと、今年(注:2019年3月号掲載当時)は記念すべき100周年だから、会計士として祝わなくっちゃね。

カッキー 初耳なんですけど、何の100周年ですか?

萌さん アンタ、会計士の卵なのにわからないの?

カッキー えーっと、100年前と言うことは1919年ですよね……大正時代にはまだ会計士制度はないはずだし……。

萌さん というわけで、無知なアンタにお勧めする本は……ジャン!『会計の世界史』!『帳簿の世界史』とか、会計の歴史本ブームがちょっと来ている中でも、この本は強烈よ~。

カッキー あー、僕は世界史選択じゃないんで苦手かもしれないです。そもそも歴史にあんまり興味がないですし。

萌さん ノンノン、歴史と言ってもそんなに堅苦しい話じゃないわよ。鉄道や自動車の創成期の話とか、プレスリーやビートルズといった音楽の話題もたくさん出てくるの。

カッキー つまり、フランス革命や第一次世界大戦、といった話じゃないんですね。

萌さん 一方で、レオナルド・ダ・ヴィンチやレンブラントといった美術史に出てくる芸術家も出てくるの。

カッキー ちょっと待ってください。本の全体像が全く見えてこないんですど、一体、鉄道や音楽、美術の話がどう会計に関係してくるんですか?

萌さん えー、コホンコホン。それをこれから説明するわよ。まず、この本には2つの特徴があるの。

カッキー 鉄道と会計の関係が気になったままなんですけど。

萌さん ポイントの1つ目はこちら!『会計の流れがバカでもなんとなくざっくりわかる』。

カッキー ……読者をディスってます?

萌さん ディスってないわよ。ただ、そもそもの流れがわからないまま会計を勉強している人のなんと多いことか、嘆かわしい!って話よ。

カッキー 流れって、何のことです?

萌さん 簿記が生まれてから、財務会計、管理会計、そしてファイナンスへと会計が拡大・進化していく、歴史の流れのことよ。

第1部 簿記と会社の誕生

「3枚の絵画」  15世紀イタリア 銀行革命
         15世紀イタリア 簿記革命
         17世紀オランダ 会社革命

第2部 財務会計の歴史

「3つの発明」  19世紀イギリス  利益革命
         20世紀アメリカ  投資家革命
         21世紀グローバル 国際革命

第3部 管理会計とファイナンス

「3つの名曲」  19世紀アメリカ 標準革命
         20世紀アメリカ 管理革命
         21世紀アメリカ 価値革命

(目次より抜粋)


カッキー 時代が変わっていくことによって、会計も変化してきた、ということですか?

萌さん そうよ。貿易が盛んになったことで銀行が誕生し、規模が大きくなったことで記録が必要となり簿記が生まれた。さらに大きな資金を集めるために会社が生まれ、会社の会計報告のために財務会計が生まれた――っていう歴史の流れよ。

カッキー そこまではなんとなく理解できますが、どこに鉄道が関係してくるんですか?

萌さん 焦らないで。鉄道会社の場合は土地買収からトンネル工事、機関車の製造など莫大な固定資産が発生するから、単純な決算では『投資時期だけは大赤字』になっちゃうの。だから、業績を平準化して安定した配当を出すために『減価償却』という処理が登場した、というお話。

産業革命による固定資産の増加

減価償却の登場

利益計算の登場

(166ページより)

カッキー 鉄道会社が会計に大きな影響を与えたんですね。

萌さん じゃあ続いて、ポイントの2つ目!『雑談が多い!』

カッキー 絶対に褒めてないですよね。

萌さん 壮大なる会計漫談、いやほぼ雑談と言い換えてもいいぐらい。雑談が多くて、その分、会計の話が少ない。

カッキー 100%悪口じゃないですか!

萌さん 違うわよ。会計の話ばっかりだったら、勉強にはなるかもしれないけど、本としては読みづらいことこの上なしでしょ。

カッキー そうかもしれませんが……。

萌さん ビートルズの音楽著作権が売買されたエピソードも面白かったし、支出したコストを重視する『オノ・ヨーコ的思考』、将来のキャッシュを重視する『マイケル・ジャクソン的思考』という対比で、会計とファイナンスを説明するくだりなんて、素晴らしい説明だわ。

カッキー なるほど。そんな感じで雑談から会計の話に入っていくんですね。

21世紀アメリカ 価値革命

1.マイケル・ジャクソンに学ぶ価値(バリュー)思考
  たった14分でアメリカにブームを巻き起こしたビートルズ
  自分の曲が「2000万ポンド」は高いか安いか
  ヨーコとマイケル、それぞれの言い分

2.企業価値とは何か?
  取得原価にこだわってきた会計の歴史
  産業シフトによって「隠れた資産」が増加した
  会社の買収は、その会社の「将来の収入」をまるごと買う行為
  M&A時代に注目されるファイナンス

(第9章より抜粋)

カッキー あれっ。そういえば、100周年って結局何の話だったんですか?

萌さん 管理会計よ。会計学のジェームズ・マッキンゼー教授が新しい会計講座をシカゴ大学で開設したのが1919年だったの。これが後の管理会計。

カッキー その後、有名なコンサルティング会社を作ったお方ですね。管理会計といえば変動費や固定費とかですが、そんなに大昔からあったものじゃなかったんですね。

萌さん 最後にこの著者、田中靖浩先生の話をすると、昔TACの人気講師だった会計士で、たくさん本も出されているの。『実学入門 経営がみえる会計』シリーズとかは名著だと思うわ。今回は400ページ超の大作だから、講談師のような面白さが特に引き立ったわね。

カッキー なるほど。そういえば、萌さんは何周年なんですか?

萌さん じゃあねー、まったねー、バイバーイ

カッキー えっ、ちょっと、逃げるんですか。萌さーん!

[『TACNEWS』2019年3月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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