LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #52

  
Profile

宮原 里歩(みやはら りほ)氏

ReEMAコンサルティング 代表
中小企業診断士

1990年生まれ、千葉県出身。AVシステムの設計・設備工事会社、大手商社系SIerで法人営業を担当し、ハードとソフトの両面からIT産業に従事。その後デジタルマーケティングエージェンシーに転職し、Webマーケティングのコンサルティングを担当。在職中に中小企業診断士の資格を取得し、2022年に独立。ReEMAコンサルティング代表として、企業の経営、デジタルマーケティング支援、執筆業などに取り組む。また女性中小企業診断士3名のYouTuberグループ『診断士LABO』でも活動し、中小企業診断士について積極的に情報発信を行っている。

【宮原氏の経歴】

2013年 22歳 立教大学 社会学部を卒業。コンサルティング営業職を志望しAVシステムの設計・設備工事会社に就職。
2017年 26歳 大手商社系SIerに転職し、ソフトウェア開発やITの基本を学ぶ。より企業全体にかかわれる経営コンサルティングの仕事に興味を持ち、中小企業診断士の資格取得を決断。
2019年 28歳 新たなチャレンジを志し、デジタルマーケティングエージェンシーに転職。Webマーケティングの仕事に従事しながら資格取得をめざす。
2021年 30歳 2回目の2次試験不合格という結果を受けて、試験勉強の取り組み方を見直す。
2022年 31歳 3度目の受験で見事合格。営業経験を活かしたWebマーケティングの経営コンサルティングを強みに独立しReEMAコンサルティングを開業。

迷ったら「ワクワクするほう」へ!
3回の受験を乗り越え取得した中小企業診断士資格で
幸せに働ける企業作りをサポート

 経営コンサルティングに関する唯一の国家資格である中小企業診断士資格を持ち、前職の経験を活かしてWebマーケティング分野を中心に活躍する宮原氏。今や女性中小企業診断士3名のYouTuberグループ「診断士LABO」のメンバーとしても人気を集める存在だが、資格取得までの道のりは決して平坦ではなかったという。ストイックに「内省」と「努力」を繰り返し積み上げていったキャリアや、資格取得をめざした理由、これからのビジョンについてうかがった。

将来を模索する中で中小企業診断士をめざす

 転勤族で単身赴任が多い父と、家族を支えながら税理士事務所で働く母のもとで育った宮原氏。その苦労を見て、手に職をつけ場所に縛られない働き方をしたいと漠然と考えていたものの、学生の頃は「資格を活かして働く」という未来はまったく思い描いていなかったという。

「高校選びの基準は制服がかわいいこと。大学選びの基準はキャンパスがキレイなこと。そんな学生時代でしたから、就職活動の際も将来について明確なビジョンがあったわけではないんです。採用数が多いので営業職がいいなと思ったことと、その中でもモノを売るより、相手に合わせたサービスを売るコンサルティングセールスが向いていそうだという点で就職先を選びました」

 大学卒業後はAVシステムの設計・設備工事の会社で法人営業を担当し、会議室などの映像音響・ICT設備を提案する仕事に従事した。仕事はおもしろく、負けず嫌いな性格もあってトップクラスの成績を収めていたが、景気に影響を受けやすい商材を扱うことやハードな働き方を続けることに限界を感じ、4年ほどで退職。次は大手商社系のSIer(システムインテグレーター)に転職した。そこではシステム開発やソフトウェアについて学べる環境は整っていたものの、裁量権の小ささや親会社への営業を中心とした仕事に閉塞感を覚え、思い悩む日々だったという。

「1社目の仕事は激務でしたが、一緒に働く人たちは大好きだったんです。でも会社としての業績が上がらず停滞した空気は、どんなに営業をがんばっても払拭できませんでした。1社目をやめてからしばらく経ったあとに、もっと企業経営全般に関する知識を身につけていたら、会社を良い方向に進めていくお手伝いができたのではないかと感じるようになって、行きついた結論が中小企業診断士(以下、診断士)の資格を取ることでした。私は社会人になるまで専門的な勉強はしていませんでしたし、1つの分野を掘り下げてスペシャリストになることは性格的に向いていません。営業経験で培ったコミュニケーション能力を活かして複合的に企業をサポートするコンサルタントこそ、自分が輝ける理想の働き方だと思ったのです」

仕事も、資格勉強もチャレンジし続ける日々

 資格取得をめざすと同時に、28歳で再度転職を決意。新たな可能性を広げるため、デジタルマーケティングエージェンシーでWeb広告チームでの広告配信に携わった。デジタルマーケティングは未経験の分野ながら、前職での営業経験や実績に期待され、営業部門の立ち上げメンバーに抜擢。持ち前の吸収力と向上心の強さを発揮して、1年半ほどの間にMVPを何度も獲得した。その後もSEOやWeb広告、Google Analyticsなどを活用したWebコンサルティング、BIツールの導入支援など、Webマーケティング全般についての知見を深めていった。

「未経験だったので仕事を覚えるのは大変でしたが、資格試験の勉強も並行して取り組みました。入社当初から資格取得をめざしていると伝えていたことや、個人の成長を支援する企業風土もあり、周囲が応援してくれることが励みになりましたね。仕事でも勉強でも、新しい知識を得るのはとても楽しかったです。平日の夜は毎日4時間程度勉強し、日曜日はTACに通いました。『1・2次ストレート本科生』を受講し、TACのスピード問題集・過去問題集などを繰り返し解くことで知識を定着させていきました」

2次試験の不合格を機に「守破離」の大切さに気づく

 努力の甲斐あって1次試験は1年目で突破。だが、2次試験で不通過。次こそはと独学で臨んだ翌年の本試験はあえなく不合格となり、2年間有効な「1次試験合格」の権利も失ってしまった。

「合格発表の日は普通に仕事をしていましたが、お昼に食べたラーメンは全然味がしなくて…。結果を期待しないようにしていたものの、やはり相当ショックだったのだと思います。仕事帰り、職場のある御茶ノ水から自宅まで2時間近く歩きながら、これからどうしたらいいのかずっと考えていました。そこで気づいたのは、『自己流には限界がある』ということ。私は昔から人に教えてもらったことを素直にそのまま守ることが苦手で、社会人になってからもそれは同じでした。それで当時着任した部署の上司から、『まずは型どおりに業務を行い(守)、そこから自己流を取り入れてほしい(破)』と、『守破離』の大切さを教えていただいたことがあって。それを歩きながらふと思い出したんです。私はマークシートなど答えが明確なテストは得意ですが、診断士の2次試験のように絶対的な正解のない問題が出されるテストはもともと苦手分野。それなのに、今まで自己流で勉強していたのは結局遠回りだったと気づいたんです。基本に忠実に、型を守って、もう一度試験に向き合おうと決意しました」

 それまで2次試験対策は問題集のみで進めていたが、3回目の受験に向け、2021年1月から改めて受験指導校の講座を受講。理論の知識と整理、演習の実施と段階的に理解を深め、2次試験対策をやり直した。通学したことで同じ受験生の友人ができ、モチベーションも高まったという。再度受験する必要があった1次試験についても、過去問題集を中心に復習。苦手科目は単科生講座を申し込み、入念に対策した。かくして努力は実り、宮原氏は3年目で診断士試験合格を果たした。

経験と資格を活かし中小企業診断士として独立

 現在は独立開業している宮原氏だが、合格当初、独立は考えていなかったという。

「強く志望して入った会社でしたし仕事も楽しかったので、すぐにやめようとは思っていませんでした。でもちょうどそのとき社内で、マネジメントの道か、専門性を高めていく道か、進路を選ぶタイミングと重なったんです。マネジメントの道については、『勝ち』にこだわりすぎたり自由を求めてしまったりする自分の性格や、人を育てる難しさを感じていたこともあり、成功するイメージがわかず…。一方専門性を高めていく道では、会社の外でも学べることは多くあるはずだし、必ずしもここに居続ける必要はないだろうと。また、当時は非常に忙しく、会社で働きながら副業として診断士の仕事を両立するのは難しいという現実もありました。それらの考えのもと、もし失敗しても今の年齢ならまた就職できるというアドバンテージもあと押しになって、熟慮の末に独立を決意しました。
 独立後は、幸い過去の繋がりから仕事を紹介してくださる方も多く、現在まで独立診断士として継続して活動できています。独立したことで働き方や働く相手を自由に選べるようになり、体も心も健康になりましたね(笑)。また、ビジネスでは信頼関係を築くことが何よりも大切ですが、私のような30代の女性でも企業トップの方が提案を受け入れてくださるのは、診断士の資格があるからこそだと感じています」

 現在は、Webサイトの分析・改善提案やWeb広告の運用代行といったWebマーケティング系のコンサルティングを中心に、補助金申請系の仕事も請け負う宮原氏。近々法人化も予定し、さらに活躍の場を広げようとしている。

「中小企業の従業員がいきいきと働くためには、安定的な売上を作ることが何より重要です。勤務時代に身につけたWebマーケティングの知識と営業の知識を組み合わせて、集客から獲得、収益化までの一連の流れをサポートできるようなコンサルティングをしたいと考えています。全体を俯瞰し、どこにでもメスを入れることができる診断士の力を活かし、自分が関わる企業の従業員の皆さんが幸せに働けることを目標に、これからも価値を提供していきたいですね」

自由に進む道を選び、自分らしく働く

 最後に、資格取得をめざす方へのメッセージをいただいた。

「楽しいことや興味があることでないと、何事も続きません。診断士の友人と3人で運営しているYouTubeチャンネル『診断士LABO』も、純粋に私自身がおもしろいからやっていることですが、結果的にそこで私たちを知ってくださる方が増え、仕事にも繋がっています。自分がワクワクすることや興味が向く先に真っすぐに進んでいけば、道は自然と開けてくるのだと思います。特に女性は人生の様々なタイミングでキャリアに迷うこともあるかと思います。でもそんなとき、資格が自分の意志で道を切り開く鍵になってくれます。私は資格を持ったことで人生にゆとりが生まれ、出会う人にも恵まれるようになりました。新しい世界を広げるためにも、ぜひ資格取得にチャレンジしてみてください」

[『TACNEWS』 2023年7月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]