LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #49

  
Profile

坂根 崇真(さかね たくま)氏

新宿税理士事務所
代表税理士

1992年1月26日、愛知県豊田市生まれ。愛知県半田市育ち。中学校時代は学校の成績が悪く、高校卒業後に働くつもりで地元の商業高校へ進む。ところが、商業高校で行われる簿記の授業に興味を持ち、卒業を前に簿記の知識を活かして税理士になろうと決心する。商業高校卒業後は専門学校へと進み、3年間をかけて21歳のときに税理士試験の官報合格を果たす。その後は、大手税理士法人で実務経験を積み、20代で独立。SNSも積極的に活用するなど、活躍の場を広げている。

新宿税理士事務所    ▶会社設立新宿

【坂根氏の経歴】

2010年 18歳 高校卒業後、日商簿記検定1級に合格。専門学校に入学し税理士の勉強を始める。
2013年 21歳 税理士試験に官報合格。専門学校卒業後、総合型税理士法人山田&パートナーズ名古屋事務所に入社。
2014年 23歳 東京のデロイトトーマツ税理士法人に入社。上場企業グループの法人税申告などを経験。
2018年 27歳 独立し、現在は「新宿税理士事務所」を経営。早くから積み重ねた経験と若さを武器に、独立開業後も同年代のクライアントを中心に信頼を集めている。

勉強に興味を持てなかった学生が商業高校で学んだ簿記をきっかけに、
税理士への道を切り開く!

 自らを「高卒税理士」と称する、新宿税理士事務所の代表 坂根崇真氏。中学時代は勉強に興味が持てず、高卒で働こうと考えていたという坂根氏だが、商業高校に進学し簿記に出会ったことがきっかけで税理士をめざすことに。平均年齢60歳以上の税理士業界で、早くから積み重ねた経験と若さを武器にして、独立開業後も同年代のクライアントを中心に信頼を集めている坂根氏に、資格取得から現在に至るまでのエピソードやこれからの展望についてお話をうかがった。

勉強にまったく興味が持てず成績は低迷し商業高校へ

 愛知県の半田市で育った坂根氏。小学校低学年では母親に勧められて空手を習い、高学年になるとドッジボールのクラブに入った。中学では卓球部に所属するも、1年ほどしか続かず退部。勉強のほうも授業はほとんど聞いておらず、教科書はただ開いているだけで目もやらず、必然的に成績は低迷した。「運動にしても勉強にしても、何かに一生懸命に取り組むタイプではありませんでしたね。そんな状態でしたので、このときは将来自分がどんな人間になりたいのかなど、想像したこともなかったです。卓球部をやめたあとはオンラインゲームにハマり、勉強にも一層身が入らなくなりました。学校の成績は当然悪く、卒業を控えて進路を決める際には、とりあえず高校には進学して、卒業後は社会へ出て働こうと考えていました」と坂根氏は当時を振り返る。中学を卒業した坂根氏は、偏差値40台の地元の商業高校に進むことにした。
 高校へ入っても相変わらずオンラインゲームに夢中だったが、商業高校には簿記の授業があり、それだけは興味がわいた。「簿記の勉強は考え方など、他の科目とは少し毛色が違っていて、おもしろそうだと興味を持てました。実際に勉強してみると、簿記は自分に向いていると思いましたね」と坂根氏は言う。簿記では電卓が必須となるため、坂根氏は高校の部活動で珠算部に所属した。電卓の早打ちが得意で、県大会で優勝するほどの腕前だったという。順調に学習を進め、高校2年生のときに日商簿記検定2級を取得し、高校卒業後18歳のときに1級も取得することができた。

高校卒業を前にして将来を考え簿記の知識を活かした仕事をめざす

 高校卒業後は企業に就職して働くつもりだった坂根氏だが、通っている学校の卒業生には良い条件で就職する人があまり多くなかった。坂根氏は、卒業を前にしてこれからの人生のことを考えた。大学へ進学するための勉強を始めるには今からでは間に合いそうにない。小・中学校からしっかり勉強に取り組んできた人たちと同じ土俵で戦うのは難しいだろう——。
「だったら、自分が得意とする簿記を、人生を切り開くためのカードとして使えないかと考えたのです。簿記の知識を活かせる仕事でパッと頭に浮かんだのが税理士でした。もちろん一筋縄ではいかないことはわかっていましたが、例えば東京大学に合格するよりは得意な分野で勝負できるのでチャンスがあるだろうと。そう思ったら、挑戦してみたいという思いが強くなってきました」
 高校卒業後はゲームで遊ぶことを一切やめ、4年制の専門学校に入学して税理士の資格取得をめざすことを心に決めた坂根氏。「これまでろくに勉強をしてこなかったのだから、この際思い切り取り組んでみよう。いっそのこと2年間集中して勉強して、20歳で合格しよう」。坂根氏は、そんな目標を立てた。朝は6時、早ければ5時には起きて予習したあと、9時から18時までは専門学校で授業を受ける。授業が終われば学校の自習室が閉館になる22時まで勉強した。さらに移動中などスキマ時間を見つけてはテキストに目を通す。これまでの学生生活では考えられないくらい、勉強一本の日々を送っていた。「これだけやっているなら合格しないわけがない」と自信が持てるまで懸命に取り組んだと坂根氏は言う。
「規則正しい生活を送りながら、朝から晩まで勉強していました。記憶力を高めるには睡眠時間は6時間必要だと聞いたことがあったので夜ふかしはしすぎず、睡眠時間はしっかり確保するようにしていましたね」
 そんな勉強漬けの生活だったが、簿記が好きだったからか、勉強は苦痛ではなかった。これが英語や数学の知識を問われる試験なら、子どもの頃からしっかり勉強に取り組んできた人たちには敵わないが、税理士試験の内容は、基本的に誰もがスタートラインは一緒であり、ハンデはない。自分にも勝ち目があるということが坂根氏のモチベーションにもつながっていた。税理士になるには合計5科目に合格する必要がある。坂根氏の当初の計画では、1年目で簿記論、財務諸表論、消費税法の3科目、2年目に法人税法、相続税法に合格するつもりだった。しかし、1年目は計画通り3科目に合格できたものの、2年目は法人税法がわずかに合格基準点に届かず、不合格になってしまった。
「どの科目も模擬試験ではクラス内で常に上位にいて1位争いをしてきたほどだったので、自信はあったのですが、結果は法人税法のみ不合格。2年目での官報合格は叶いませんでした。そのときは悔しくて大泣きして、あまりのつらさに夜も眠れませんでした」
 今でも当時のことを鮮明に覚えているという坂根氏。悔しい思いを乗り越え、3年目で確実に法人税法に合格するためには、受験指導校に通ってさらに実践的な勉強をするべきだと考え、TACの通信講座も併用した。TACのテストは本番の試験を想定した実践的な内容だと聞いていたからだ。「もう、この1年間を棒に振りたくない。絶対に合格してやる!」と一層勉強に熱を入れた坂根氏は、3年目に法人税法の試験をクリアし、21歳にして念願の官報合格を果たした。

大手の税理士事務所で実務を経験し20代にして、独立開業へ

 専門学校を卒業すると、まずは地元の大手税理士事務所に就職して、短期間実務を経験した。その後、23歳で東京へ出る決心をし、いわゆるBig4と呼ばれるデロイトトーマツ税理士法人(以下、デロイト)に入った。売上数千億円規模の外資系企業や上場企業グループへの法人税申告などの実務を体験し、税理士としての基礎を固めた。
「大手なので取り扱う案件の規模が大きく、正直、独立後に直接的に役に立つような経験は多くはありませんでした。ただ、法律の条文を読み込む仕事が多いので、税法の専門家としてのスキルは身につきました。また、組織としての働き方を知ることができたのは大きかったです」
 坂根氏は、3年半ほどデロイトで大手企業の実務を経験し、独立の道を探し始めた。独立したいと思った理由は、収入を増やしたいという考えもあったが、それ以上に「自分がやりたいと思う仕事に集中して取り組みたい」というのが一番だった。組織に所属すると、当然ながらやりたくないと思う仕事でもやらざるを得ないケースもある。坂根氏は、デロイトで一定の経験を積んだことで、「もっと自分の税理士としてのスキルを磨けて、応援したい企業の成長を支えられるような仕事がしたい」と考えるようになっていった。
 その後は将来の方向性を模索する期間を経て、2018年に27歳の若さで独立。事務所を立ち上げてから軌道に乗せるまでには苦労も多かったが、“20代税理士”ということもプラスに働いているという。
「税理士業界は平均年齢が60歳以上であり、30代が10%、20代にいたっては1%もいない業界です。税理士の数が飽和していると言う人もいますが、現役世代の税理士は不足しています。実際に、前任の税理士の先生がご高齢で廃業されたことによる引継ぎで受け請う案件も増えています。また、同世代の税理士のほうが相談しやすいと考える20〜30代の若手経営者も多いです。20代の税理士は人数が少ないので、そういった方々から多くご支持いただいていますね」
 現在、税務の他にも税理士試験に合格するためのノウハウの公開や、SNSを通じた情報発信を行っている坂根氏。これから資格をめざす人たちに対して、こんなアドバイスを送ってくれた。
「税理士業界はAIに置き換わる代表的な仕事として挙げられていますが、実際はそんなことはなく、業界全体で優秀な人材が常に不足している状態です。そのため、資格を取れば基本的に安定した仕事を得られると思います。また、税理士受験生が減少傾向にあるため、これから勉強を始める人はむしろチャンスではないでしょうか。今は科目合格者でも、実務経験がある程度あれば多くの事務所が人材を奪い合っているほどの売り手市場ですからね。
 昔は業務量が多い割に給与水準が低い事務所が多かったですが、今はワークライフバランスを重視する事務所や高い給与を提示する事務所が増えてきました。万が一、独立して失敗をしてしまった場合でも、どこかの税理士事務所に所属してやり直すこともできるので、独立のリスクも少ないと思います。平均年齢が高い士業なので、30代くらいから資格取得をめざしてみるのもいいと思いますし、40代だって、この業界では若手です。きちんと努力すれば結果につながると思います。
 私は勉強が苦手でしたが、高校時代に簿記と出会ったことで税理士という道に進むことができました。何かひとつでも興味を持てることや得意な分野を見つけることで、道は開いていけると思います。簿記や税理士の勉強は、義務教育で習うような科目の勉強と違って、みんなと同じスタートラインに立てます。学校の勉強はさぼってばかりだったという人や、勉強に苦手意識がある人にもチャンスがあります。ぜひ挑戦してみてください」

[『TACNEWS』 2023年2月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]