LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #45

  
Profile

河野 大佑(こうの だいすけ)氏

ブラッシュメーカー会計事務所
代表税理士

1990年10月生まれ、愛媛県松山市出身。中学卒業後は松山市内の私立高校へと進学し、2年生時に商業コースを選択。高校卒業後は会計の専門学校に進学。卒業後に上京し、税理士法人古田土会計に勤めて2年目の23歳で税理士試験に官報合格。その後、デロイトトーマツ税理士法人で上場企業や外資系企業の経験も積み、2018年に独立・起業を果たした。現在はブラッシュメーカー会計事務所の代表税理士として、東京・神田に事務所を構える。ブラッシュメーカー株式会社の代表取締役、一般社団法人 全国第三者承継推進協会の理事も務める。
●事務所HP  ●『あんしん相続税』(オウンドメディア)

【河野氏の経歴】

2005年 15歳 高校の専攻別のクラス分けで商業コースを選択し簿記と出会う。勉強するうちに税理士や起業への興味を抱くようになる。
2008年 18歳 会計の専門学校へ進学。税理士の受験資格を取得し、税理士試験は4科目合格。
2012年 22歳 上京して税理士法人古田土会計へ就職。入所2年目で税理士試験の官報合格を果たす。
2014年 24歳 デロイトトーマツ税理士法人に転職し、上場企業や外資系企業を相手に業務経験を積む。
2018年 27歳 独立・起業。マーケティング支援事業と税理士を軸に活躍の場を広げている。現在は、相続・事業承継支援サービスを積極的に展開中。

資格取得で見えてきた独立・起業という夢。
ビジネスセンスを磨きながら税理士の枠を超えたサービスを展開する。

努力を続けるには目的意識が必要だ。言い換えれば「これだ」という目標を見つけることで人は大きく成長できる。現在、ブラッシュメーカー会計事務所の代表を務める税理士の河野大佑氏も、高校時代に簿記に出会ったことで、「税理士試験合格」という目標を得て、それまであまり興味の持てなかった勉強に必死で取り組むようになった。徐々に「独立したい」「起業したい」という思いが芽生え、合格後の自分の未来を切り拓いていった河野氏に、独立・起業までの道のりと、これからの展望について語っていただいた。

高校2年で出会った「簿記」に自分の適性と将来性を見出す

中学校時代は勉強があまり手につかず、高校受験は第一志望の公立高校を逃し、松山市にある私立の新田高校に進学した河野氏。2年生になるときに進路別のコースを選ぶことになり、文系、理系などいくつかあるコースの中から直感で商業コースを選んだ。そこで簿記を学んだことが、後に税理士になるきっかけとなった。「簿記は肌に合っていたというか、学んでいて楽しかったです。資格取得が狙えることも励みになりましたね。努力すれば税理士になるという可能性も広がっている。そんなところに魅力を感じました」と言う。簿記はどんな企業にいても役に立つはずだし、将来、もし起業することになっても必要な知識になるに違いない。河野氏は、簿記を通してそんな自分の未来を描き始めていた。
 高校卒業後は地元にある税理士の専門学校へ進学。税理士をめざして、まずは受験資格を得るための勉強を始めた。税理士試験には受験資格要件があり、当時は大学の単位取得などによる「学識要件」、簿記検定取得で得られる「資格要件」、2年以上所定の仕事に従事したことによる「職歴要件」のいずれかが必要だった。河野氏は、このうち日商簿記検定1級または全経簿記上級に合格することで受験資格を得ることをめざした。高校時代には人並みくらいしか勉強しなかったという河野氏だが、専門学校に在籍した4年間は「朝から夜までずっと勉強していた」という。1年目には日商簿記検定1級の取得に失敗してしまうものの、翌年の冬には全経簿記上級に合格することができた。これで税理士試験へ挑む準備は整った。
 税理士になるには、必須科目である簿記論と財務諸表論の会計2科目、そして税法の科目から選択した3科目の合計5科目に合格する必要がある。河野氏は、まず専門学校2年目の夏に簿記論に合格し、翌年には財務諸表論に合格。4年目の卒業を迎える前年夏の試験では消費税法と法人税法の合格を果たしていた。残すところ1科目の状態で専門学校を卒業することになった。

将来の可能性を見据えて東京で就職独立も視野に知識と経験を積む

 河野氏は卒業後、東京にある税理士法人古田土会計に就職した。
 残り1科目なら、働きながらクリアできるだろう。また、東京へ行けば上場サポートやM&A関係の案件にも携われる可能性が高いし、幅広い人脈にも巡り合えると考えての判断だった。「経験を広げて、人脈が築ければ、将来、独立するためのビジネスチャンスも多くなると思いました。それで東京へ行くことを決心しました」と河野氏は当時を振り返る。
 就職先の会計事務所は、就職情報誌を片っ端から当たって探したという。古田土会計を最初の就職先に選んだ理由は、中小企業に寄り添う姿勢と、定期的に顧問先の社長や経営幹部と会い、「月次の収支などが記載されたオリジナルの帳票」と「数百ページにわたるオリジナルの経営計画書」を示しながら経営アドバイスをしている点に惹かれたからだった。これは35年以上の歴史を持ち、社員も数百人を抱える事務所を一代で築き上げた所長のこだわりだという。そんな経営改善策や従業員のモチベーションの向上などについて話し、お客様と共に歩んでいく所長の姿勢に共感を覚えた。
「税理士の仕事だけにとらわれず、何か協力できることを探して提案していく姿勢が他の税理士との違いを感じさせました。自分も税理士としてやっていくなら、同じような姿勢で仕事の幅を広げていきたいと思いましたね」
 東京で働き始めた河野氏。平日は仕事終わりに、週末は終日を勉強に費やし、残す1科目合格に向けて勉強に励んだ。ところが入社して1年目のチャレンジは失敗に終わってしまう。精神的に落ち込み、合格発表から4ヵ月ほどは勉強が手につかなかったそうだ。
「さすがに働きながらの勉強は簡単ではなかったです。2年目からは仕事も忙しくなったので、昼休みも勉強して、夜遅く帰ってわずかな時間を惜しんでまた勉強という日々でした。特に最後の数ヵ月間は遊びとか他のことには目もくれずに集中して、何とか勤務2年目で合格を果たしました」
 河野氏の勉強のスタンスは「泥臭く」だという。最低限の知識を押さえる効率重視の方法ではなく、50点が合格ラインだとしたら70点くらいを狙って勉強をする。そうすることで合格の可能性を1%でも高められ、自信につながるのだそうだ。また、「習慣化」することが大事で、夜寝る前に歯を磨くように、習慣的に勉強することにより、仕事と両立させるという苦難を乗り切ったという。
 資格取得後、河野氏の心の中では「起業したい」という思いが強くなった。これからは資格を軸に仕事を自分自身で広げていくことができる。資格を取得し自信が生まれたことで、これまで漠然としていた将来のビジョンが「起業」という目標に明瞭化されていった。しかしこの時点では、まだ自分で事業を興すのではなく、色々な世界を見てみたいと思っていた。
「税理士試験に合格した直後から、大手税理士法人であるBig4の世界を見てみたいと思っていました。また、上場企業や外資系企業などの案件を経験したいという思いもありましたね。規模の大きさや意思決定のプロセスの違いによる対応の仕方なども学ぶことができるので、そこで働く意義は大きいと考えたのです。そこで、Big4のひとつに数えられるデロイトトーマツ税理士法人(以下、トーマツ)に転職する決意をしました」
 転職後は、期待通り上場企業、外資系企業の実務を経験でき、複数のM&Aの案件にも携われた。大手なだけあって周囲は優秀な人物が多く、あらゆる面で勉強になったという。将来の起業に向けて、吸収できるものはすべて吸収するつもりだった。同時に自己研鑽としてマーケティングに関する勉強も始めて、顧客に対し税理士の枠を超えた対話ができるようにしていった。

そして、独立・起業へ。税理士の枠を超え、マーケティング知識を活かしてビジネスを展開

 トーマツで3年弱の経験と知識を積んだ河野氏は、いよいよ27歳にして独立起業に踏み切る。最初の頃は税理士としての仕事はほとんど受けておらず、マーケティングに精通していた地元の幼馴染と一緒にWebマーケティングの仕事をしていた。インターネットを使った集客や商品の販売促進を行う仕事だ。こうした活動でビジネスのノウハウも学びながら、一方で税理士の仕事にWebマーケティングのスキルを活かして会計事務所を伸ばしていった。現在は税理士事務所として主たる業務は法人顧問としながらも、相続や事業承継にも仕事の幅を広げ、税金のことだけではなく、必要に応じてビジネスについても深く切り込んでサポートを行うようになった。顧問先は会社を設立して間もない会社も多いので、30代という若さは「話しやすい」という評価を受けた。一方で歴史のある会社には、長い時間を必要とする事業承継などについて経営者と真摯に向き合い、解決策を探った。
 河野氏は「お客様に気づきを与えたい」と言う。例えば事業承継や相続にしても、いずれ必要になる重要なことでも日々に流されているとなかなか準備に踏み切れず、いざという時にトラブルを引き起こしやすい。そんなトラブルを未然に防ぐためにも将来へ向けたお客様の「気づきのアドバイス」を河野氏は積極的に行っている。
 勤務税理士時代に、政府系企業再生ファンドのもとに行われたM&Aの実行支援や上場準備支援などの業務を担当していた経験があるからこそできるアドバイスがたくさんあると語っている。
 そんな河野氏にとっての今後の課題は、現在、自分と従業員2名で運営している会社を組織化していくことだ。
「小規模でも良いサービスが提供できて、きちんと収益を上げられるなら、それでもいいと思います。ですが、今のスタッフ数で対応できる数には限界がありますので、今後もお客様に対して税理士の枠を超えた柔軟な対応ができて、それに対するニーズを広げていけるような体制になったら規模拡大を決断しようと思っています。より多くのお客様に自分が考える理想的なサービスを提供したいという夢を持っているので、それが叶えられるようにがんばりたいですね」
 河野氏は、これから税理士の資格取得をめざす後輩たちに次のようなメッセージを送ってくれた。
「資格は看板みたいなものだと思っています。例えば、お客様が初対面にもかかわらず自分の会社の決算書を見せてくれるのは、自分に税理士という看板があるからです。もしこれが銀行員なら、融資の申請段階にでも進めなければ見せてくれないと思います。それだけの信用が『税理士』という看板を見せただけで得られるというのは、資格が持つ大きな力だと思います。ただ、そこでとどまっていてはダメで、さらに先が大切な部分だと思っています。与えてもらった情報から、税理士としての知識と経験をベースにした様々なビジネスの問題定義や解決策の提案などができてこそ、初めて本当の信頼関係につながると考えています。ぜひともそういった広い視野を持って将来のビジョンを描きながら、まずは資格取得のために日々の勉強をがんばっていただければと思います」

[『TACNEWS』 2022年10月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]