LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #08

  
Profile

金子 秀一(かねこ しゅういち)氏

都内工務店設計部門勤務
一級建築士

1978年2月福岡県生まれ。千葉県出身。2002年、国際基督教大学教養学部理学科卒業後、千葉大学工学部都市環境システム学科に編入。2004年卒業後、広告代理店に入社。飲食関連企業を経てリフォーム会社に転職。同社在職中、2級建築施工管理技士の資格試験の合格をきっかけに一級建築士の資格取得をめざし、2017年に合格。2018年から現職。

【金子氏の経歴】

2000年 22歳 国際基督教大学在学中に米カリフォルニア大学デイヴィス校(UCDavis)に留学。建築や都市計画などの空間計画に興味を持つ。
2004年 26歳 千葉大学工学部都市環境システム学科卒業後、広告代理店に入社。
2015年 37歳 リフォーム会社在職中に2級建築施工管理技士の資格を取得。一級建築士の資格取得をめざす。
2017年 39歳 一級建築士試験に合格。翌年、工務店に転職。建築士デビューを果たす。

「雲の上」の資格を手に入れ、夢が広がった

 広告代理店から飲食業界を経て、建築業界へ。回り道をしながら、長年希望してきた建築士の仕事に就いた金子秀一さん。やりたいことを実現するために、一つひとつ扉を開けてきました。「一級建築士」という鍵を手に入れ、開いた扉の向こうには、どんな未来が見えてきたのでしょうか。資格に対する思いと、「これから」について、お話をうかがいました。

目標に向かって体系的に学べる。資格は興味ある分野への「近道」

 金子さんは現在、都内の工務店で、主に戸建ての分譲住宅の設計と、その設計図通りに工事が行われているかをチェックする工事監理に携わっています。「建売住宅は、より多くの人々に好まれるデザインやスタイル、誰もが心地よいと感じる空間を提案することが大切です。独創的な図面より、世間一般のトレンドやニーズを踏まえた図面を描く力が求めらます。一級建築士の製図試験で身につけた知識やスキルが仕事に大いに役立っています」
 金子さんにとっての資格とは、キャリアアップの武器であるとともに、興味のある分野を効率よく学ぶための「近道」です。一級建築士のほか、二級建築士、宅地建物取引士、マンションリフォームマネジャー、2級建築施工管理技士、さらにはインテリアコーディネーターやキッチンスペシャリストまで、建築や住宅設備に関する複数の資格を持っています。「資格試験は学ぶべき項目が網羅され、体系的にまとめられています。また、目標を持って取り組めます。ただ何となく勉強するより、はるかに効率のよい方法です」
元々、大学では生物学を学んでいた金子さん。アメリカ留学中に園芸やランドスケープ(景観)の授業を受けたことがきっかけで、建築や空間に関わる仕事に興味を持ちました。帰国後に就職活動を始めるも、「やりたい道に進むなら、関連する学部を卒業したほうがいい」と、千葉大学工学部都市環境システム学科に編入学をしました。
卒業後は広告代理店と飲食業界で、情報発信や人が集う空間づくりといったソフト面から地域活性に携わるうちに、「設計をやりたい」という思いを募らせていきます。そこで、宅地建物取引士や二級建築士など建築に関わる資格を「取れるだけ取ってしまおうと」ほぼ同時期に取得。資格を携え、建築業界の戸を叩きました。
 新しい職場では、マンションリフォームの施工管理や積算などの経験を積みながら、2級建築施工管理技士の資格試験に合格。「この勢いで、一級建築士の資格もとれるのではないか」と新たな可能性が広がりました。そして、「雲の上のような資格だった」という一級建築士試験に挑戦。建築士の資格試験には学科と製図の試験があり、学科に合格すると3回まで製図試験の受験資格が得られます。金子さんは、学科試験を1回でパスし、製図試験に臨みました。
 しかし、2年続けて敗退。行き詰っていた時、勉強仲間を通じてTACの講師と知り合い、製図試験の図面を見せると、「表現力が弱い」と指摘されました。「要するに、“汚い”図面だったんです。誰も言ってくれなかったことをズバリと指摘され、もやが晴れました」。この出会いをきっかけにTACに通い、表現力を身につけました。講師の指摘を意識して努力を重ねた結果、3回目の製図試験に合格。「手ごたえはありましたが、些細なミスが心配で、合格がわかってほっとしました」と振り返ります。

資格への挑戦は、自分を知り、変えるチャンス

 資格取得後、設計の職を求めて転職活動を始めた金子さん。一級建築士の資格は強力なアピールになりました。「書類審査に通る確率はかなり高かったですし、条件面の話も有利に進められました。実務経験の乏しさを資格で補うことができた。試験に挑み、合格したことを評価し、ポテンシャルを買ってくれたのだと思います」
実際、「一級建築士」の肩書があることで、社会的な信用が増したと実感する場面も多いと言います。経験豊富な社員が同席する打合せでも、時折、顧客から確認を求めるような視線を向けられ、「頼りにされている」と感じています。
 入社して初めて設計を任された家が完成した時、「図面に描いた家が、現実に目の前に建っている。家ってこうやってできていくんだなと、いい意味でギャップを感じました」と感慨深げに語る金子さん。資格で身につけたプランニングの基本や無駄のない思考回路、表現力は実務に生きています。また、合格をめざして共に学んだ勉強仲間や講師とのつながりも、大切な財産です。
 「資格取得は自分を知り、変えていくチャンスです」と金子さんは強調します。「私の場合は、大雑把な性格がそのまま図面に表れていました。資格をめざすことで弱みを知り、克服することができた。得難い体験でした」。今後も、機会を見つけて興味のある資格に挑戦したいと言います。「一級建築士の資格は引き出しのひとつとして、いずれは国内で地域活性や町おこし、または海外での活動に携わってみたい」と夢は広がります。「雲の上の資格でも、立ち向かってみれば、意外にそれほど遠い存在ではないと気づくと思います。とりあえず『やってみる』と口に出すことで、仲間が見つかり、道が開ける。迷っている人は、まず口に出してみることをおすすめします」

[TACNEWS 2019年4月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]