タックス ファンタスティック! 第83回テーマ デジタル遺言は日本人の死生観を変えるか?Part.3
猫編

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。前回は、日米の死生観の違いを通じて、デジタル遺言が生み出す文化的変化を考察した。今回は少し趣を変えて、“猫”という存在を通して死生観を考えてみたい。猫は文学の中でも、人々の暮らしの中でも、どこか生と死のあわいに生きるような存在として描かれてきた。そんな猫のような「遺言のかたち」から、士業として私たちが何を支援できるのかを見つめてみたい。
監 子 「何でも薄暗いじめじめしたところでニャーニャー泣いていた事だけは記憶している」ブツブツブツ…
税 太 先輩、あの後輩である自分が言うのもなんですが、いくら失恋したからって子猫みたいに鳴くのはちょっとみっともないのではないかと思うんですが…。
監 子 ちょ、ちょっと失恋したって勝手に決めつけないでよ!たとえしたって子猫ぶったりなんかもうできないし!
襟 糸 吾輩は失恋してもニャーニャー泣くことはないが、ニヤニヤ笑うことはあるかもしれんな。
監 子 先輩、あの後輩である自分が言うのもなんですが、こわっ!性格悪っ! いやなに、この間クライアントのオーナー社長さんが「遺言を書いた」っておっしゃるので、なぜか『吾輩は猫である』が急に読みたくなってさっき読んでいたんですよ。さっきのつぶやきは冒頭の箇所。猫って、どこかこの世とあの世のあいだをふわふわ歩いてる感じがしない?
襟 糸 確かに、日本では猫は「死を予感する存在」として描かれることも多い。近代文学でもそうだし、民間信仰にもそのイメージはあるな。
税 太 ああ、うちの実家でも「猫が仏壇の前に座ると…」とか言っていましたね。冗談かと思っていたけど、意味深ですね。
田久巣(横から登場) 猫はね、「今を生きて、あとは風のように去っていく」存在なんだよ。人間のように執着せず、準備も語らず、それでも何かを残す。それって、実は “新しい遺言” のヒントかもしれない。
監 子 そうそう。「言葉にしないけど伝わる」、そんなメッセージの遺し方。私は “猫的遺言” って呼んでる。
AI税太(耳が三角) にゃにゃにゃ〜ん!私はその名もAI猫税太。無口だけど、気持ちはきちんと伝えますにゃ!
税 太 ……いつのまに着ぐるみモードを搭載?
AI税太 遺言が文字だけじゃなく、声や動画や行動の記録になる時代に向け、猫のような “静かな発信力” を参考にするにゃ。
税 太 でもそれって、士業としてどう関われるんでしょうか? 猫的すぎて、人間の理性代表の士業としてはちょっと手が出せない気も…。
田久巣 そこがむしろ士業の出番だよ。遺言が多様化する今だからこそ、「法的に有効な部分」と「気持ちの部分」の橋渡し役として士業が求められているんだ。士業は、理性はもちろんのこと、感情もそれ以上に理解できないと務まらないと思っている。
襟 糸 例えば、法的効力をもつデジタル遺言の設計と同時に、「動画メッセージ」や「写真アルバムへの一言」などを家族にどう残すか、依頼者と一緒に考える。そうした支援も実務になっていく時代が来るかもしれない。
監 子 それって、遺言を「書く」から「編集する」「伴走する」っていう感じですね。
田久巣 まさに。士業は、猫のように「言葉少なだけど気持ちの深い遺言」を、法と感情の間で形にしていくナビゲーターになれる。相続や死にまつわる “恐れ” をやわらげ、依頼者にとっても “ウェルビーイングな最期” を実現する支援ができるんだよ。
AI税太 にゃにゃっ!私は士業の皆様に寄り添う “よろず猫” として、全国行脚を予定していますにゃ。
税 太 全国行脚って…。それ本当にデジタル遺言アプリのキャラのセリフ?
襟 糸 いや、むしろ一周回って真理をついてるかもしれないな…。
【今回のポイント】

猫のように、静かに、しかし確かに “想いを残す” 遺言が、今後のデジタル時代には増えていく。士業はその『言葉にならない気持ち』を見つけ出し、法的に意味あるかたちに昇華するプロフェッショナルであるべきだ。そうした “猫的感性” を持った士業が、これからの時代に求められていくだろう。
[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2025年6月|連載 ]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。
