タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第67回テーマ 公認会計士は相続の仕事に向いているのか?


監 子 税太君、決めた!私、もう監査はやめる!


税 太 どうしたんですか、監子さん。プロフィールに「会計監査をこよなく愛する」って書いてあるのに、いきなりその発言は!


襟 糸 フフフ、税太君、そのツッコミは単純すぎる。よく見たまえ、プロフィールには「会計監査とデューディリジェンスと恋愛をこよなく愛する30歳女性公認会計士」と書いてあるだろう。つまりきっと「会計監査」と同じくらい大事な「恋愛」で何か失敗したに違いない。それで会計監査も何もかもやめてしまいたくなったというわけさ。


監 子 なんで襟糸先輩が私の気持ちを勝手に分析してくるんですか?私は税太君に話してるのに!


襟 糸 フフフ。それとも「監査」君という人物がいてその人との恋愛をやめる、という意味かもしれないが。


監 子 ほんと、妄想甚だしいわね!ここでまた私が怒ると畳みかけてくるから、無視することにします!さて税太君、私、監査が嫌いになったわけじゃないんだけど、もう十分やってきたと思っていて。デューディリもいいけど、もう少し別の仕事をやりたくなってきたのよ。


税 太 そうなんですね。でもさすがに先輩を無視するのはよくないですよ。ほら、襟糸先輩もちゃんと謝りましょうよ。


襟 糸 アイムソーリー、髭そーりー。


税 太 …僕が間違ってたみたいです。監子さんの言う通り、ここは無視して話を進めましょう。


監 子 そうね。今、税太君は相続の仕事を結構やっているじゃない?私もそろそろ相続の仕事を本格的にやってみようかなと思い始めたの。


税 太 監子さん、会計士なのに税務も詳しいんですか?


監 子 私だけじゃなく、今の公認会計士受験生はみんな論文式試験で租税法を必ず受験しているわよ。つまり法人税・所得税・消費税については計算も理論も勉強しているってこと。それに補修所でも税務はがっつり勉強するわ。修了考査でも結構問われるしね。相続税は補修所で少しかじるくらいだったけど。


襟 糸  「かじる」くらいだと危険だ!刃がボロボロにかじられた髭剃りと同じくらい危険だ!


監 子 もう嫌!もう無視できない!


田久巣 はいはい、最近出番がないから仲裁に入るが、みんな仲良くしようね。この私も会計士から税務や相続の世界に入った身だから、ひとつアドバイスをしようかな。相続に関する士業の仕事の大半は、相続税法と民法の相続法を基礎としている。したがって税理士や法律系の資格者が相続の仕事をすることは、資格の勉強や実務を通して基礎が徹底的に叩き込まれているので難しくない。個人相手の仕事も多いしね。一方で会計士のアドバンテージとしては、会社法や金商法や経営学や管理会計も勉強してきていること。また監査を通じて俯瞰的に経営を見られる点や、監査をチームワークで仕事するときに培われるコミュニケーション力も役に立つ。つまり事業承継対策も考えているオーナー社長を顧客とした大型相続案件だと結構強い。「公認会計士は相続の仕事に向いているのか?」というと、ずばり向いていると言えるね。最後は意欲だけど。


監 子 なるほど!私はまだ意欲が中途半端かもしれません。でも向いていると思えると勇気が湧くわ。しばらく税太君に教わって体験してみようかしら。田久巣代表にも仲良くするようにとのことだし、襟糸先輩がさっきの髭剃りのサムいダジャレを上回るギャグを言ってくれたら、襟糸先輩を無視するのもやめるわ。


襟 糸 相続では公平「無私」の精神も大事だ。「無視」するのは「虫」が良すぎるぞ!


【今回のポイント】

公認会計士の仕事は、会計監査や内部統制監査から始まることが多い。監査の仕事は個人的には面白いのだが、中には顧客に役立っていないように感じられたり機械的な作業に思えたりするということで、新たなフェーズに進もうと考える人もいる。その際私がおススメする道のひとつが相続や事業承継を対象とする資産税実務だ。独立しやすいのもそうだが、人間力向上にも役立つ。仕事の中で顧客の人生や生死に対する想いをおうかがいするため、人間の成長において必要な精神性が醸成されやすいからだ。現に、公認会計士出身で相続をがっつりやってきた諸先輩方には、経営力と人道の両輪が備わった人間的に素晴らしい方が多い。税理士法人レガシィでも「公認会計士向けミートアップ」というイベントを 2/16(金)18時半から開催予定のようだ。具体的に資産税がどんな仕事なのか気になる公認会計士受験生や公認会計士の方は、参加してみるといいだろう。


[『TACNEWS』 2024年3月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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