タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第59回テーマ 2代目3代目の士業アトツギはどんな勉強をすると
いいのか?

税 太 監子さん、(声をひそめて)ちょっと相談なのですが…。


監 子 あら、税太君。最近やけにト書き(演劇の台本などに書かれた、セリフ以外の動作や行動、心情などを説明する部分)が多いような気がするけど、役者にでもなるつもり?ゲストに来ていた筆者の天野さんのYouTubeチャンネルで取り上げていた『リア王』の影響かしら?


税 太 前回と同じセリフで申し訳ないですが、天野さんなんて正直どうでもいいんです!動画の再生回数も少ないし!相談したいのは、この田久巣事務所の将来のことです。


監 子 税太君、試験前で疲れているのね…。最近毒づくことが多くて、誠実キャラが崩壊気味よ。編集者さんにセリフ直されても知らないから!しかも入所2年目で田久巣事務所の将来にまで首を突っ込むなんて、ちょっと早すぎやしない?


襟 糸 税太君、君もとうとう我が事務所の斜陽ぶりを憂うようになったか。たいしたやつだ。


監 子 そこ!だまらっしゃい!「我が事務所」って、あなたの事務所じゃないでしょがっ!


税 太 お二人とも違うんです。相談というのは田久巣事務所の後継者の話です。この間所長の娘さんが所長ご夫妻と事務所の見学に来ていて、ばったり会って話したんです。


監 子 所長の娘さんってそんなに大きいの?所長、まだ45歳なのに!


税 太 そうなんです。しかも娘さん、クレオパトラ並みの美人で頭もよさそうでした。今から事務所を引き継がれる準備をされているようです。


襟 糸 税太君、吾輩はいつもエリートボケ役で突っ込みはあまりしないのだが、その「クレオパトラ並みの」というたとえはどうかと思うぞ。普通はイマドキの芸能人を使うぞ。


税 太 (その突っ込みは一旦無視して)今大学4年生で、TACの公認会計士講座で勉強しているようです。事務所を引き継ぐからには経営を学びたいし、法人税も資金繰りの面で大事だから、経営学と租税法の2科目は将来の承継にも役立つ勉強になって楽しいとのことで。


監 子 私も本来は恋愛ボケ役なのに最近突っ込み役を求められているから言うけど、またト書きが出てきたわね!でもいいことじゃない。前向きで優秀な後継者がいれば、田久巣事務所は安泰よ!


税 太 (急に不安そうな様子で)だけど事業承継後が心配です。僕が最近面白くてハマっている相続実務や、以前の職場で磨いたシステムの技術が活かされる仕事は、今後も重視してくれるのか…。会計士の受験科目が好きな人だとあまり意識しないのかもと思って。


監 子 あら。会計士だって相続は修了考査で少し勉強するし、システムに関してはむしろ監査実務や経営コンサルティングやM&Aでも超大事だから、基礎は勉強するわよ。


襟 糸 吾輩が得意とする相続も、会計士がオーナー経営者と話すとき結構話題になるから、相続を究めたいというニーズは自然と出てくるぞ。


税 太 (霧が晴れたかのような明るさで)そうだったのですね!僕が浅はかでした。あれ、もしかしてそれであの質問をされたのかも!


監 子 なになに?もしかして好意を寄せる言葉かしら?まさか税太君を婿に?それともアトツギだけに、嫁(とつ)ぎ系?


税 太 (話の飛躍ぶりとダジャレは無視して)税太さんは何がお得意でいらっしゃるんですか?と聞かれたんです。元SEだと話したら喜んでいらしたので。


監 子 会計士の試験科目の監査論では、ヒアリングの重要性を学ぶわ。娘さんは従業員へのヒアリングを通じて、何がやりたいか・何ができるかも考えていたはずよ。経営学でもそのあたり学ぶし、娘さん、資格の勉強をフルに事業承継に活かしているわね!…それにしても頻繁に出てくる「ト書き」やら、「クレオパトラ」の話やらは、オチとして回収されるのかしら?


税 太 そこは、この下の「あ“とがき”」としてのポイントコーナーに譲ります!


【今回のポイント】

士業事務所も最近アトツギが承継する数が増えてきた。読者の中にも将来のアトツギ候補として勉強している人もいるだろう。今回の私の娘のように、将来の承継を意識しながら勉強すると楽しくなりやすい。会計士だけでなく税理士も、様々な税法はビジネスと密接に絡んでいるので承継後の経営プランのアイデアとして出てくる可能性がある。つまり意識次第で、受験勉強中もある程度承継準備ができることも多いのだ。ただ一方で、『もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったなら、世界の歴史は変わっていただろう』というパスカルの歴史的名言もある。変な自信を付けて鼻が高くなりすぎたり、逆に自信をなくして低くなりすぎたりしないことも大切だ。2代目3代目は、そんな「自分を客観的に見る勉強」も必要なのかもしれない。


[『TACNEWS』 2023年7月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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