タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第47回テーマ 路線価否認の最高裁判決、今後どうなるか?

監 子 『アセアセ』!


襟 糸 どうした監子君、今流行っている若者言葉を無理に使っているみたいだが、『大丈夫そ』?


監 子 襟糸先輩こそ言い慣れていない言葉で無理に切り返してメンバーに失笑されていますよ。この空気、『きまZ』!


襟 糸 流行語の応酬で気を引かせようとした作者の魂胆を見抜いた読者に愛想をつかされて、連載が打ち切りになるのは納税猶予が打ち切りになる以上に嫌なので、ここは先輩として大人の対応をしておこう。で、『アセアセ』してるのはなぜなんだい?


監 子 相続税の話です。相続税の算出基準のひとつである「路線価」を基に算定したマンションの評価を国税当局が例外的に否認して、不動産鑑定評価を基に追徴課税した件、最高裁が国税当局の処分を適法とした判決がニュースになっていましたよね。現金よりも不動産のほうが課税評価額を抑えられるから、マンション購入は富裕層の節税対策のテッパンになっていますけど、それが封じられて今後不動産業界は打撃を受けるんじゃないかって、監査クライアント先の不動産業界がとても不安がっているんです。実際に株価が下がっている不動産会社もあって、そうなると決算において粉飾リスクが高くなって監査もよりシビアにやる必要が出てくると思うと、私自身も焦ってくるわけです。この忙しい中、『チョベリバ』なわけです。


税 太 横から口出しして失礼しますが、『アセアセ』しすぎていつもの強気な監子さんらしくない変な言葉遣いになってますよ!しかも最後の『チョベリバ』は26年前の流行語で、Wikipediaによれば廃語です!


襟 糸 まあ動揺するのも無理もない。しかし今回の相続は私の専門分野だ。結論から言うと焦る必要はない。むしろ『チョベリグ』だ。


税 太 え!?“理由”が気になります。“流”行語なだけに。


襟 糸 一言で言えば、今回は特殊事例だからだ。マンション購入者の年齢は90歳代、相続人は納税額を0円で申告、目的も相続対策と記録があり、実際、相続が発生したあとすぐに売却している。最高裁としても租税回避的にしか見えず見過ごせなかったわけだ。普通は「このマンションがほしい、住みたい」と思う気持ちと、「節税したい」という気持ちが混じっていることが一般的で、その場合は原則的に路線価ベースの評価でも問題ないことが多い。今回の事例は、そういった一般的なケースまでが否定されるような納税者にとって厳しすぎる判決内容だったとは私は思わない。なので、不動産業界にとってはピンチではなく、むしろ専門家との連携を強めることで他社と差別化できるチャンスだと思っている。フフフ、たまには私も良いことを言うものだ。


田久巣 君たちおもしろい話をしているね。そこまで考えられるようになったなんて、襟糸君は随分と腕を上げたな。ただ、どういう場合が“特殊”でどういう場合が“一般的”なのかその線引きは難しい。『ファジイ』(1990年流行)というやつだ。


襟 糸 贈与税などの税法には「“通常”必要」とか「“社会通念上”相当」とか、常識を前提とした表現が多々ありますよね。『ダイバーシティ』(2010年代流行)化が進むことで、ますます線引きが難しくなる部分が増えていきそうですが、そうした部分をどう考えて対応していくのかが、税理士の腕の見せ所だと思っています。


田久巣 襟糸君は知識におぼれて世間知らずなところがあるから、最近は常識がある税太君にお株を奪われることが多かったが、今回はキレキレで一味違うね。


襟 糸 『そだねー』(2018年流行)。


監 子 うわっ、第2回2018年10月号『論より焼香』のときに使った所長の鉄板ネタを、所長の前で引用してくるとは、なんて『あざとい』(2020年頃流行)!

【今回のポイント】

今回の最高裁の判決は非常に注目を浴びた。筆者が代表を務める税理士法人でも複数の新聞社から取材があり、社内でも議論をすることが多かったという。今回の判決の根拠となった財産評価基本通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」というルールは、今に限らず昔から士業や関連業界でよく議論の的になっている。そして襟糸君の言う通り、こういった解釈が難しい曖昧な領域をどう判断していくのかが専門家たる士業の腕の見せ所なのだ。この問題は「流行語」のようにすぐに廃れるものではなく、時代を問わず普遍的なテーマであり続けるだろう。


[『TACNEWS』 2022年7月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版)、『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。
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