タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第28回テーマ おカネの切れ目が税理士のはじまり?

監 子 はろー、税太君、久しぶりのWeb会議ね。はぁ~。

税 太 あれ、そのため息、もしかしてまた恋の悩みですか?

監 子 あら、わかっちゃったかぁ。その人、性格が合うのだけど、少しダメ男なところがあって。お金がなくなると連絡してくる感じなのよ。おごっちゃう私も悪いのだけど。

税 太 それは少しと言うか、典型的なダメ男ですね…。『お金の切れ目が縁の切れ目』のはずなのに、逆に縁が始まっちゃっているじゃないですか!?お金のプロである会計士の監子さんの理性を狂わせるとは、恋って本当に罪ですね。

襟 糸 うむ、それはちょうどいい、この込み入った案件を監子君にやってもらおうではないか。

監 子 あのー、襟糸先輩、いきなり会話に割り込んできて、しかもその発言、ちゃんと私の話聞いてますか??

襟 糸 『我我を恋愛から救ふものは理性よりは寧ろ多忙である』——この名言に倣っただけだ。

監 子 あのー、えーっと、それはどなたの名言ですか??

襟 糸 ネットで調べたまえ。文学賞の名前にもなっている文豪の名言だよ。それはさておき、この案件、多忙にさせるだけでなくて、今の君にうってつけなのだよ。事業に失敗してお金に困っている男性に、親の相続が発生した。それまで親や兄弟とは人間関係がうまくいかず、距離を置いていたようなのだが、金欠になって今回の相続をきっかけにアプローチをしてみたそうなんだ。

監 子 相続の案件はあまりやっていないので自信ないけど、その金欠の男性、お金の仕事に携わっている身としてほっとけないわ。というよりダメ男をほっとけない私の性?

税 太 監子先輩、プライベートでの欠点が仕事において長所になる典型的な例ですよ!今回のケースは相続だけでなく、金欠になった原因の事業の失敗についてもコンサルティングしてほしいニーズがあるのかも。でも、くれぐれも恋愛対象にならないようにしてくださいね。

襟 糸 ただ、頼んでいるくせにこう言うのも何なのだが、その金欠の男性にあまりにも肩入れしすぎてもらっては実は困るのだ。というのは僕がその男性の親御さんの相続税申告について依頼を受けているからなのだ。その金欠の男性に感情移入して相続で少しでも有利にしてあげようとすると、他の相続人が損を被ってしまうからね。税理士は弁護士と違って、相続人の中の誰か1人に依頼されたからといってその人の利益だけのために全力で戦うというわけにはいかないのだ。

監 子 難しいわね。ということは遺産分割の際にも、事業で失敗したぶんを補填できるように彼の味方をしてあげることはできないわけね。うーん、どうしたらいいの?

税 太 でも他の相続人の方がご納得されれば、多めに相続しても問題ないわけですよね?だとすれば、今後は儲かる事業のために使うことをその男性は説明すればいいのではないでしょうか?

監 子 でも一度事業に失敗した人が「今度は儲かる事業だから」って話したところで、他の兄弟は絶対に鵜呑みにはしないでしょ?私ならいやだわ。

襟 糸 ダメ男に貢ぐ監子君でもそう思うのか、意外だな。

田久巣 おーい、君たち、さっきから何を暴走しているのだ?まだお客様に会って話してもいないのに憶測で考えてはいけない。もちろん仮説は立てていい。しかしきちんと話を聞いて情報を整理してから対策を立てたまえ。お金が不足して困っているときにこそ税理士に相談してもらい、税理士は寄り添わないといけないのだ。まさにこういうときこそ税理士の出番、「税理士のはじまり」なのだ。

監 子 さすが代表。お金の『切れ』目に立ち会う人は、『切れ』者でないといけませんね!

【今回のポイント】

世の中においてお金が大事なのは言うまでもないだろうが、時にはお金が原因で家族の縁までを切るような事態に至ることがある。代表的なのが相続だ。中でも今回の事例のように、相続人の中にお金に困っている人がいると、お金が欲しさに関係がややこしくなることがある。そういうときこそ、税理士や会計士の出番。お金の専門家として、税法などのルールや経済合理性を踏まえ、相続人みんなの感情に寄り添った最適なアドバイスをすることだってできるのだ。『お金っていうのは第六感のようなもので、お金がないと他の五感も満足に働かない』というイギリスの有名な作家による名言があるが、人間の五感の前提となるお金、そのお金に対するアドバイスを、税理士や会計士などがプロとして行えるわけだ。ぜひ『切れ』者をめざそうではないか!


[TACNEWS 2020年12月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。