タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第23回テーマ コロナ対策として会計事務所ができること

監 子 税太君、ちょっと相談があるんだけど。

襟 糸 なんだなんだ監子君、久々の登場ながらいつものセリフじゃないか。税太はまだ半人前だ。直接この襟糸様に頼みたまえ。

監 子 税太君に言ってるのよ!まあでもいいわ、じゃあ会計監査の仕事を手伝ってくれない?新型コロナウィルスの影響で棚卸立会いや海外の監査が制限されたり、会計上の見積の関係で検討しないといけないことが多すぎて大変なのよ。

襟 糸 そんなこと言われても困る。俺は税理士だ。監査が本業ではない。俺だって顧問先の資金繰りの相談対応で大変なんだ。なんで俺にお願いするんだ?

監 子 だから税太君に言ってるのよ!フン、そんな態度だとお客様の資金繰り相談だって本当に役に立てるのか甚だ怪しいわ!

税 太 監子先輩、そんなひどいこと言わないで。襟糸先輩も、自分から頼めと言っておきながらすぐ断るなんて子どもでもしないですよ。監子先輩、僕でよければ手伝いますよ。

監 子 さすが税太君!この歳で家族を養っているとなるとやはり違うわ。でも手伝ってほしいのは、まさに襟糸先輩が相談にのっている資金繰りと近いものなの。正確に言えば、利益計画の変更に伴う資金繰りの影響。私のクライアントは今回のコロナ禍で利益計画を大幅に下方修正したんだけど、それに伴ってキャッシュフローがどう影響を受けるかっていうのを一つひとつ手作業で確認して算出している状態なの。非効率だから何とかならない?

税 太 利益とキャッシュの関係の話ですね。予想利益の変更に従ってどうキャッシュが動くかはエクセルでも計算できます。前職のシステム会社では管理会計のソフトも作っていたのでイメージできてます。でも変ですね、利益が載っているPL(損益計算書)からキャッシュフロー計算書を作成する仕事は、上場会社ではいつもやっている作業なので慣れていると思うのですが。

襟 糸 フフフ、不景気を知らない世代だな、君たちは。リーマン・ショックのとき、俺はまさにこういった仕事をやっていたからよくわかるが、人間、不景気になると資金繰り計算を真剣にやるが、好景気のときは作ってもあまり見ないんだ。ほとんどの経営者は好景気では利益ばかり見ている。利益しか頭に入ってないものだから、急に不景気に入って利益が半分になったときに資金が枯渇するのかどうかがすぐにはわからないのだよ。そして正確にやろうとしてみるとわかるが、意外と数字の連携が難しく税理士・会計士のアドバイスが必要なんだ。

監 子 実績と予想は違うということ、そして普段から意識している資料なのかどうかがポイントってことね。珍しく今の「資金繰り」の説明は「しっくり」きたわ。

襟 糸 監子君、今のダジャレはあまり「しっくり」来ないな。

監 子 大きなお世話よ!その発言は「しくじり」ね!

【今回のポイント】

今回のコロナ禍は非常にショッキングな出来事だ。亡くなられた方には心よりご冥福をお祈り申し上げます。命の問題が一番大事だが、次に大事なのは経済だ。オイルショック、バブル崩壊から始まる失われた10年、リーマン・ショック…。不景気の波は定期的にやってくるものだ。不景気時、クライアントの悩みは深い。会計事務所は赤字の決算書や繰越欠損金を見ながら相談にのることが多い。今回のコロナも、政府の一時的な支援があっても、顧客の行動パターンは恒久的に変わる可能性もあるので、経営戦略をデジタル化含めてゼロベースで見直す必要があるだろう。だからこそ資金繰りをはじめ税理士・会計士には様々な相談が寄せられるだろう。でも不景気のときにこれだけ頼られる職業はないのではないか?今はまだ受験生だという読者も、すぐに頼られるときが来るだろう。世の中を少しでもよくするために、皆で前を向いてがんばろうではないか!


[TACNEWS 2020年7月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。また情報戦略本部長としてプラットフォームの構築も担当し、2019年7月「Mochi-ya」をリリース。 https://www.mochi-ya.ne.jp
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)