タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第7回テーマ M&A 〜その1〜
「M&Aと廃業、どっちが得?」

監 子 税太君、ちょっと相談があるんだけど。

税 太 あれ?監子さん、どうしたんですか、コソコソして。あ、ひょっとしてコイバナ?

監 子 しーっ、襟糸先輩に聞かれるじゃない!そーなの、そろそろ結婚したいなと思っててね、2人の男が候補なわけよ。

襟 糸 2人も候補がいるなんて、隅におけないな全く。で、ちゃんと2人の男に監子君の得意なデューディリジェンス(投資対象となる企業等の価値やリスクなどを調査すること。M&Aの実務でよく使われる。通称“DD”)はしたのかい?

監 子 あ、聞かれた!もう、ちゃんと結婚している税太君に相談しようと思ったのに!しかも男に対してDDだなんて、その表現は失礼じゃない!

田久巣 で、どっちにしたいんだい、監子君。

監 子 代表まで!完全に公開相談ね。。。仕方ないわ、1人はイケメンだけど貧乏、もう1人はブサイクだけどお金持ち、この2択で迷ってるのよ。

監 子 そうだ、2択といえば先日監査クライアント先からこんな相談をされたわ。相続した会社を廃業するか株式譲渡するか、どっちがいいのか?って言うの。

襟 糸 それは全く究極でもなんでもない簡単な質問だね。もちろんM&A(株式譲渡)が得だよ。なんせ廃業だと法人税、消費税、所得税、いろんな税金が持って行かれる。一方M&Aなら譲渡税だけで済む。だいたいさっきの男の2択だって簡単だ。イケメンでも貧乏じゃ食べていけないから幸せになれないぞ。絶対ブサイクな金持ち!

監 子 経済的損得で考えるのであれば、そうね。買い手が見つかってある一定の価格で売れるという前提が必要だけどね。でも損得でなくて、『どっちがいいのか?』って言われたのよ。

田久巣 フフフ、ここは税太君の番だな、答えたまえ。

税 太 うーん、僕としては廃業は廃業で悪くないなと思います。自分自身で最後までやりきって見届けることができるわけですから。M&A(株式譲渡)して買い手に引き渡すと、お金を得て嬉しい人もいるでしょうけど、買い手がその後事業をテコ入れして成長させるのを見ると、売らずにもっと自分で経営すればよかったかな、と後悔する人もいると思うんですよね。なので、オーナーのお気持ち次第かなと。

監 子 そうね、確かにオーナーのタイプによるわよね。ありがと!早速オーナーに聞いてみる!

税 太 ところで、さっきの男の2択、監子さんの『お気持ち』はどうなんですか?

監 子 ふふふ、私は3つ目の選択肢を探すことにしたわ!つまり、イケメンでお金持ちが狙いよ。きっと世の中いるはずよ!

襟 糸 えー、読者のみなさん、こういうのこそM&Aというのです。M(マジで)&A(呆れる)ってやつです。。。

【今回のポイント】

今回のテーマは廃業とM&Aだ。廃業は会社を経営者が自らの手で処分してつぶすこと。最近は後継者不足を理由に黒字でも廃業することが問題となっているね。一方M&Aは株式を譲渡することで第三者に会社を継いでもらい継続させることなんだ。税金だけ考えると、これは襟糸君の言う通りM&Aのほうが得なんだ。なぜなら廃業に向けていろんな資産を法人として処分するので、まず処分して出た利益に法人税がかかる。そして処分によって得られたお金があっても、それを個人の手元に移すには配当という行為が必要で、場合によっては所得税として半分近く持って行かれるケースもあるんだ。一方M&Aであれば株式の譲渡に係る税金はおよそ20%で済み、売却代金の約8割は手元に残ることになるんだ。だからこそ株主としての手取りとしては一般的にはM&Aの時のほうが多くなる。でも税太君の言う通り、一概に経済的損得だけでは判断できないのが世の常。会社を売ることができる状況だとしても、オーナーの気持ちとして、経済的には損である廃業を選択するケースだって中にはあることは念頭に置かないといけないね。ちなみにM&Aは『マジで呆れる』の略じゃなくて『Merger and Acquisition(合併と買収)』の略なので間違って覚えないでね!


[TACNEWS 2019年3月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)