人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第62回 株式会社はせがわ

Profile

石田 あかり氏

人事部 人材開発チーム


2014年、新卒で株式会社はせがわに入社。営業店にて店舗営業に従事。入社5年目に入院により1年間休職。2019年10月に復帰し、人事部人材開発チームの配属となり現在に至る。


「お仏壇のはせがわ」というと、テレビコマーシャルを思い浮かべる方が多いだろう。株式会社はせがわは1929年に福岡県で創業し、個人事業者の多い仏具業界にチェーン展開という新風を巻き起こした。「仏壇」「お墓」と聞くと旧態依然とした古い企業体質をイメージしがちだが、「はせがわ」では主体的・自発的に創造できるチャレンジングな人材が活躍している。「人」を大切にする「はせがわ」は、どのような人材観を持って人を育てているのだろう。採用から教育研修制度、資格支援制度まで、人事部人材開発チームの石田あかり氏にうかがった。

供養領域外の新たな事業も展開

──「お仏壇のはせがわ」はコマーシャルが有名ですが、改めて株式会社はせがわについてご紹介をお願いします。

石田 株式会社はせがわは、1929年に福岡県直方市で創業しました。以来90年以上、お仏壇やお墓、供養に関係する商品を提供しています。これまでのお客様は、ご家族が亡くなられたあと、供養のためにお仏壇やお墓を求めて来られる方がほとんどでした。これからはご家族が亡くなられる前から、お客様のお悔みごとに対する不安や悩みを解決しようと、2022年からPLS(ピースフルライフサポート)事業を始めました。不動産や遺品整理といった相続関係のお困りごとや、人がひとり亡くなったあとに発生する様々な手続きなどに対して、当社が間に入って提携先の専門家をご紹介するサービスを提供しています。
 2019年からは「手を合わせて『いただきます』をする文化」を守る目的で、飲食雑貨事業にも進出しています。また花屋さんと提携して、お仏壇にお供えする仏花のサブスクリプションサービスも始めました。今後ご供養以外の領域で、さらにお客様の心豊かな生活を支援し、お亡くなりになる前からご来店いただけるようなサービスを提供していきたいと考えています。
 供養業界自体は年々縮小傾向で、日本人が供養ごとにかける金額も年々少なくなっています。とはいえ当社のミッションは、大切な方を失った方々の思いに寄り添い、「心の平和と生きる力」を実現することですので、お亡くなりになった方を弔い手を合わせる、ご先祖様を大切に思う文化自体を繋いでいく使命も持ち合わせています。それを途絶えさせないためにも、お仏壇やお墓といった既存事業に加えて、PLS事業、食のサービスなどにすそ野を広げ、来たる100周年を迎えたいと考えています。

新卒採用をメインに、「はせがわ」らしい教育研修を実施

──新卒・中途採用の方針について教えてください。

石田 当社は全国130の販売店で、営業職として全域型総合職と勤務地域限定型総合職の2職種を募集しています。新卒採用が中心で、2023年4月は16名、2024年4月は17名の新卒社員が入社予定です。中途採用は年間5~10名の採用を計画しています。総勢約1,200名の社員の半数が正社員、残りの半数が店舗で働くパート従業員と契約社員です。

──2023年4月の入社式と新入社員研修はどのように実施しましたか。

石田 2023年の入社式は例年通り都内のホテルで対面で実施しました。2024年も同様に行う予定です。
 入社1週間前には入社前研修として集合研修を行い、ビジネスマナーや仏教の歴史と成り立ち、宗派の種類といった当社ならではの専門知識と企業理念などをお伝えしてから、入社式を迎えていただきました。
 入社式後は創業時からお付き合いのあるお寺様に法話をうかがいに行く研修を実施し、この仕事への向き合い方や扱っているものの意義、お客様がどのような思いで来店されるかを学んでいただきます。単にお仏壇を「モノ」として販売するのではなく、供養のために使う大切な場所として付加価値を持って捉えられるような教育研修を行っているのが特徴です。

──新卒社員は入社後、どのような実務から学びますか。

石田 まずはしっかりとお客様に向き合うため、1年間は店舗営業を経験していただきます。入社から2週間は、座学だけでなく実際にお仏壇を保管している倉庫や霊園見学ツアーで当社が扱っている商品を学び、その後4月中旬に店舗配属になります。
 入社2、3年目以降は営業担当として外回りのポジションに就き、5~6年目でお店をマネジメントする店長になり、営業店でキャリアを積んでいく社員が圧倒的多数です。
 一方で入社2、3年目以降、特性に合わせて本社管理部門などに配属される社員もいます。美術大学を卒業し「祈りや供養といった個人の思いを形として表す商品を開発して世の中に広めたい」という志望動機で入社した女性は、2年目から商品開発部に配属になり、「推し壇」という商品を開発してSNSで大きな話題を呼びました。彼女は、手を合わせるという行為そのものが自分の平和や心の安定につながると考えて、手を合わせる対象をご先祖や故人ではなく、フィギュアモデルやアニメのキャラクター、好きなアイドルといった「推し」にした商品を考案したのです。仏壇屋というと古めかしいイメージがあるかもしれませんが、「はせがわ」はこのように若手社員も柔軟な発想で活躍できる、チャレンジングな企業風土が特徴の会社です。

──新入社員研修後にはどのような研修制度を用意していますか。

石田 入社後1年間は、月1~2回の集合研修を実施しています。4月はお線香や小物類など日常遣い品について、5月・6月はお盆の時期に向けお盆という行事の意味や提灯を使う目的についてなど、季節に応じた知識を補充していきます。
 こうした教育と並行して実施しているのが、新入社員たちによるグループプロジェクト活動です。毎年入社する20名弱を4つのプロジェクトチームに分け、1年かけて自分たちで課題発見から課題解決のための企画立案、実行まで行ってもらいます。「店舗交換研修」の制度は、ここから実現しました。これはエリアや店舗による違いを認識し、他部署との交流によって横のつながりを広げるために、新入社員同士で配属先の店舗を交換する企画で、この3年間毎年行っています。自分たちの発想でやりたいことを企画運営していけるので、新入社員は生き生きと取り組んでいます。
 2年目以降は、別の教育体系としてその都度必要に応じた階層別研修を用意していて、2年目には後輩指導のためのコーチングやティーチングを学びます。最近では入社4年目以降の若手社員を対象に、マネージャー育成研修も始めました。お墓や商品部署、管理部門の部長、課長が講師となって、営業部では普段学べないような店舗運営に必要な商品知識や労務管理などをレクチャーし、次期マネージャー職に必要な素養を身につけてもらっています。

──独特の研修体制が揃っているのですね。求める人物像についてはいかがでしょうか。

石田 接客業なので、まず対人対応力を第一に重視しています。その上で、自発的・主体的に課題を見つけていける課題形成力、店舗にいる6~8名のメンバーに対して啓発できる人材活用力、現状維持だけでなく次のステップへとより自己成長していけるチャレンジングな取り組み姿勢。この4つを重視しています。

イメージギャップを埋めるため店舗見学も実施

──新卒採用の採用フローを教えてください。

石田 まずエントリーした方全員に、会社説明会に参加していただきます。その後、1次面接ではテーマに沿ってグループディスカッションを行い、相手とのやり取りを通じて対人対応力を見極めます。その後オンラインの適性検査を挟み、営業接客に対する職務適性とストレス耐性を見る2次面接(課長職)、さらに最終面接(役員面接)と、2回の個人面接で内定に至ります。

──採用のミスマッチを防ぐために工夫されていることはありますか。

石田 当社の企業理解ができているかどうかが一番重要なので、まず応募者が持っている「はせがわ」のイメージと当社の実態が合っているかを確認するため、面接での対話を重視しています。
 何しろ仏壇屋自体、利用したことがない方がほとんどです。中には「仏壇屋はそんなに忙しくないだろう」「来店したお客様は絶対に買ってくれる。黙って見ていればお客様が自分で決めてくれるだろう」といった誤った認識を持った方もいます。そのあたりの認識を合わせてもらえるようご説明したり、どのような活躍をしたいのかをお聞きしたりしていきます。多くのお客様にサービス提供したいという理念的なことを語る学生もいれば、こんな商品開発に携わりたいという具体的なキャリアイメージを持っている学生もいます。そのため面接ではお話をうかがいながら「当社なら、こういう形で実現できますよ」とお伝えしています。
 また選考には影響しませんが、イメージギャップを埋めるために任意の店舗見学も実施しています。その際は若手社員のいる店舗を選定し、先輩の話を聞くことでミスマッチを減らせるように配慮しています。

──入社までの内定者フォローはどのようにしていますか。

石田 まずeラーニングでビジネスマナーと新社会人としての基礎知識を学べる環境を用意し、並行して会社の成り立ちや社内知識を学べる冊子を用意してレポートを書いていただきます。入社後は「販売資格」という自社で販売する商品の知識を測る社内資格制度がありますので、試験に向けて仏壇・仏具、仏教・宗教、墓石についての単元別テキストを配付し、学習していただいています。
 年2回実施しているこの試験は、昇格の要件にもなっています。この資格を取得していないと昇格できないしくみですが、やはり第一線で活躍している営業成績の良い社員は商品知識も豊富なので、ほとんどの方が合格しています。

自ら価値ある仕事を創造する、自律的・創造的人材を育成

──独自の試験で理解度を深めているのですね。教育研修で注力されているものもありますか。

石田 当社ならではの理念教育には特に力を入れていて、お寺での法話やお寺のお掃除など、他社にはない研修があります。また課長職や部長職などマネジメント層に向けては、人格面に磨きをかけるため、知識やスキルとは別に、はせがわ美術工芸という関連会社にも協力してもらい、理念研修を実施しています。仏具やお寺の内装工芸品を作る会社が実際に手がけた作品を見に行くのも、日本の伝統文化を伝えていくことを大事にしている当社ならではの研修です。

──「はせがわ」らしさが表れていますね。人事制度についてはいかがでしょうか。

石田 当社は、上司に指示されるのを待つのではなく、自分で新しく創造的な仕事を作っていける人材を求めています。従来型のトップダウンでは新しい発想が生まれないので、社員が自分自身で今後のキャリアパスを考えられるように、年1回の自己申告制度を設けました。上司を通さずに直接人事部に希望を提出できる制度で、「社内のこの仕事がしたい」「新規事業でアイデアを出したい」といった思いを伝えられます。
 また、2022年からスタートした制度に「社内インターンシップ制度」があります。特定の期間(2023年は1~2月の2ヵ月間)、立候補した社員が希望する部署で職場体験できる制度です。この制度を通じて、例えば「この部署の仕事をしてみたいと思っていたけど、いざ働いてみたら、こうした勉強をしてからでないと活躍できないとわかった」といった気づきも生まれます。実体験から自分のキャリアを前向きに捉えていくことを目的とした制度で、足りない部分を補足するための自己学習は支援制度を活用できます。このサイクルに乗って、社員一人ひとりがキャリア開発できることをめざしています。

──社内インターンシップで部署や店舗を交換できるのはおもしろいですね。

石田 ありがとうございます。それをさらに発展させた「役職体験制度」もでき、今期初めて役職交換もしてみました。「店舗で働いていると、上司がどんな仕事をしているのかわからない」という意見が出たので、課長職の会議に同席してもらうなど、横のつながりだけでなく役職のような上の広がりも体験できるようにしたのです。本当は「やりたい」と挙手してくれた社員全員に体験してもらいたいのですが、受け入れ側の部署の都合もあるので、今は申込制で選考しながら制度運用しています。今後はより発展させて、部署側から「○○さんのこの能力が必要だから、うちの部署に来てほしい」といったドラフト制度のようにすることも検討中です。
 実は社内インターンシップ制度も役職体験制度も、私の発案で始まりました。制度が充実していくと、社員が自分のやりたいことをより明確に意識するようになって、前向きに自己学習していく風土が広がると考えています。そんなワクワクするしくみをどんどん作っていきたいですね。

──福利厚生面についてもご紹介ください。

石田 一般的な制度はすべてありますが、アピールするとしたら社員寮貸与制度と社宅が整っている点です。他社では寮や社宅を利用できる年齢に制限がある場合も多いと思いますが、当社では条件なしで利用できます。というのも、当社は関東圏、東海、九州にある130店舗でエリア限定と全国転勤OKの社員を募集しているため、ときに通勤しにくい地域の配属になることもあるからです。社員が生活しやすいように、何歳になっても、家族ができても、寮や社宅に住めるようにしています。

階層別に150の資格支援コースを用意

──必須の資格や資格取得支援制度はありますか。

石田 今は必須資格はありません。どちらかというと社員一人ひとりが必要だと思う資格を自発的に学習してほしいと考えています。最近社内で増えているのはグリーフケア資格認定試験を受ける社員です。故人の家族の気持ちを癒すための接し方などを学ぶ社外資格で、多くの社員が取得しています。それ以外にもPLS事業が始まったことによって、FP資格を取得するために「自己啓発支援制度」を利用して勉強する社員が非常に多くなりました。会社が進もうとしている方向に、自己啓発という形でキャッチアップしようとする社員が多いのは、うれしい限りです。

──自己啓発支援制度ではどんなものが補助されるのでしょうか。

石田 資格学習のテキスト代や受講料を補助します。受講開始時点で半額を補助し、修了時点で残りの半額を補助する申込型制度です。部署や階層によって学んでいただきたい推奨コースが違うので、正社員とパート社員向けに階層別で150コースほどを提示しています。

──新卒採用では、応募者が学生時代に取得した資格をどのように評価していますか。

石田 資格を取得したこと自体を評価するより、その資格を使って何がしたいのかをお聞きし、そのストーリーによって、例えば簿記取得者を経理部のメンバー候補にするなどしています。

──伝統的なイメージの強い「はせがわ」ですが、お話をうかがってきて、新しいことに果敢にチャレンジしている姿に驚きました。

石田 お仏壇はあくまで地域や習慣に根ざしたものなので、圧倒的に個人商店が強い業界です。今でこそ「お仏壇のはせがわ」として知名度が高くなりましたが、そもそも仏壇業界でチェーン展開してきたという当社の成り立ち自体、非常にチャレンジングです。会社としては古くさく見られがちですが、伝統を残したいからこそ新しいことに挑戦していく姿勢を大切にしています。この思いに共感してくれる社員が集まり、成果を出していくことを期待しています。

──最後に、資格取得やキャリアアップをめざす方に向けてメッセージをお願いします。

石田 新しいことに挑戦するときには、絶対に自分の中で足りないものが出てきます。それを補うために資格取得に向け勉強をして知識を身につけようとされるのは、とてもすばらしいしことです。ぜひがんばっていただきたいと思います。

[『TACNEWS 』2024年4月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     株式会社はせがわ
創業     1929年9月
設立     1966年12月
代表者    代表取締役社長 新貝 三四郎
本社所在地  東京本社/東京都文京区後楽1-5-3 後楽国際ビルディング7階

       福岡本社/福岡市博多区上川端町12-192 はせがわビル

事業内容

仏壇仏具事業、墓石事業、屋内墓苑事業、飲食・食品・雑貨事業

従業員数

1,191名(2023年3月期)

URL

https://www.hasegawa.jp/