人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第58回 株式会社コロワイド

Profile

松原 茜氏

コーポレートサービス本部 採用教育部部長

新卒でレインズインターナショナル入社。「牛角」の店長を3年間務めた後、エリアマネージャー職4年、新業態開発部1年、マーケティング部4年を経て、レインズインターナショナルの採用と労務を担う。2020年、株式会社コロワイド コーポレートサービス本部・採用教育部に異動。グループ全体の採用から人材教育を一手に引き受けている。


牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、かっぱ寿司、ステーキ宮、大戸屋ごはん処、フレッシュネスバーガー――。誰もが一度は行ったことがある外食店ばかりだろう。これらを運営するのが、外食チェーン大手の株式会社コロワイドだ。食材の生産・調達から、商品開発、製造・加工、物流、店舗運営まで、「食」における6次(1次×2次×3次)産業化を標榜、20を超えるブランドを展開している同社には、多種多様な職種が存在している。グループ全体の採用から人材教育までを一手に引き受けるコーポレートサービス本部・採用教育部の部長・松原茜氏に、コロワイドの人材観、採用方針、人材教育についてうかがった。

「食の総合プロデュース会社」をめざす大手外食チェーン

──コロワイドは数多くの外食チェーンを運営されていますが、改めてどのような会社であるかご紹介いただけますか。

松原 採用で応募していただいた方には、「食の総合プロデュース会社」とお伝えしています。食材そのものの生産をする1次産業の側面、その食材を調達して店舗に卸すための一次加工品を作る2次産業の側面、そして店舗で販売するための流通業、小売業としての3次産業の側面という6次産業化モデルで事業を行っているためです。
 外食チェーンの仕事というと店舗店長のイメージが強いと思いますが、コロワイドではこの6次産業化モデルを推し進めるための専門分野を持った人材を積極的に採用しています。

──ただの大手外食チェーンではなく、「食の総合プロデュース会社」なのですね。

松原 はい。当グループでは現在、牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、かっぱ寿司、ステーキ宮、大戸屋ごはん処、フレッシュネスバーガーなど、国内外に2,640以上の店舗を展開し、うち400が海外店舗です。海外にある直営店は現在140店ですが、これを2030年には400店舗に拡大するなど、今後は海外での事業成長をより加速させていく方針です。また国内では給食事業を新たな柱として伸ばしていきます。海外事業と給食事業の成長により、当グループは2030年3月期に海外事業で1,500億円、国内事業で2,500億円、そして給食事業で1,000億円と、今期末計画の倍増となる計5,000億円の売上をめざす中期経営計画を立てています。
 まず海外進出では、生産年齢人口が増えている東南アジアや中東などへの新規出店を想定しています。欧米などの先進国と違い、これらの市場はまだ日本の外食産業が十分に進出していない地域です。外食への需要が見込め、かつ今後の経済成長が見込める地域に重点的に投資していきます。
 そして給食事業では、高齢化に伴って需要が増えるヘルスケア分野に着目し、病院や介護施設でのシェアの拡大を図っていきます。病院や介護施設向けの食事は“健康食”ではあっても、“おいしさ”という点で不満が残る部分はあると思います。そこに、味にこだわりのある外食産業としての強みを活かし、「大戸屋」の白身魚の甘酢あんかけや「牛角」の焼き肉弁当といった献立を提供できれば、きっと喜んでいただけると思います。私たちが給食の受託事業者として入り、管理栄養士・栄養士の監修によって“健康”と“おいしさ”を担保することで、お客様のニーズを満たしていきたいと考えています。このような事業展望から、2023年は約20名の管理栄養士・栄養士を採用しました。2024年も同規模の採用を計画しています。

新卒一括採用に加え多様な窓口で新卒採用

──求める人物像はどのようなものですか。

松原 ビジネス環境が激変している時代ですので、変化対応力や“レジリエンス”という復元力が高い人材を求めています。そうした方であれば、多様な考え方と多様な価値観で、既存の枠組みに留まることなく海外での事業展開も担っていけると考えています。

──新卒採用での採用方針をお聞かせください。

松原 新卒一括採用の他にも間口を広げ始めています。世の中の流れは今、新卒採用という要件自体が緩和され、大手企業の中には「約30歳までが新卒のカテゴリーに入る」と言っているところもあります。非常に間口が広がっていて、大学卒業後すぐに就職するのではなく、大学院や留学などで学問を深めてから就職するという方も増えていますね。大学院生に関しては28~29歳で卒業される方も多く、これまでは新卒にも該当せず就業経験もないため就職先がなかなか見つからないということがありました。あるいは「海外留学に挑戦してから就職したい」という学生も、就職時期のズレに苦戦するということがありました。こうした従来の新卒要件に合わなかった高度人材がこれからは必要になる時代です。そのためには4月に限って一括採用するという企業側の考えも変えていかなければなりません。

──採用の既成概念を変えていくのですね。

松原 はい。世の中の流れに合わせて、コロワイドも個々人のパーソナリティを見て採用する方針に切り替え、年次による4月入社一括採用に加えて、通年でいい人がいたらマッチングしていく採用に注力するようになりました。

 例えば、留学先として人気の高いアメリカの大学の多くは5月が卒業時期なので、その時期に合わせて語学力とともに適応能力のあるグローバル人材を採用するための「グローバル人材専門窓口」を設けました。このように今、新卒の中にも専門的ルートを設け始めていて、2024年度は10名ほどを採用する計画です。2023年度もグループの持株会社の経営企画部に直接採用した新卒がおり、すでに一括採用から多様な採用方針にシフトしています。

──一括採用以外の窓口が増えると、新卒・中途の区分けが難しくなりそうですね。

松原 新卒の定義は設けています。ただ、今までのように4月に入社した学卒生のみを新卒と区分けすることはしていません。中途の方も当然これからのキャリアにおいていくらでもチャンスはありますし、まだ仕事で結果が出ていないのに新卒だからというだけでキャリアパスが優遇されるわけでもありません。一人ひとりのパーソナリティや能力に応じて、今後のキャリアをご自身で考え築いていただきます。
 2023年4月からはジョブ型雇用制度も始まりました。年功序列型雇用とは違い、職務に応じて給与を決めており、年齢や勤続年数に関係なく意欲や能力の高い社員を評価していきます。多くの日本企業では、会社都合で異動が発生することが大半ですが、これからの時代は「あなたは何ができるのか」という個人のスキルを見て「仕事に人をつける」時代、「ジョブ型人材」の時代だと思っています。

採用から人材教育まで一括管理

──現在の新卒採用者と中途採用者の人数規模を教えてください。

松原 新卒約160名に対して中途400名と、人数規模では中途採用が倍以上です。とはいえ新卒採用は生え抜きを育てるシンボリックな面がありますので、引き続き重点を置いており、2024年は200名を採用する計画です。ただし、給食事業や海外事業の成長分野を展開していく上でより専門性の高い人材が必要になれば、新卒・中途こだわりなく採用枠を増やす方向です。

──新卒者の入社から配属までの流れを教えてください。

松原 新卒はコロワイドグループ50社で一括採用され、全員で5日間、グループの企業理念やビジョンなどについて研修を受けます。その後は各事業会社に別れ、事業会社ごとの理念やビジョンを教わりながら、まずは店舗配属されます。そこで接客やキッチンなどのオペレーションを学ぶ流れが数ヵ月間続き、その後店舗に本配属になります。先輩店長からより具体的な店長業務などを学ぶのと並行して、グループ横断的な理念を忘れないために、4ヵ月に1度、同期全員が集まってビジネスマナーなどを学ぶフォローアップ研修が行われるのが1年目の流れです。
 他にも、自分の仕事だけでなく管理職層レベルまで、ビジネス能力を高めるためのコンテンツをeラーニングでいつでもどこでも学べるようになっているので、自己研鑽として日々勉強できる環境が整っています。

──自ら学ぼうとする方には学ぶ機会がとても多いのですね。

松原 そうですね。さらに、選抜研修という教育制度も導入しています。これはベテランも入社数ヵ月の若手も関係なく、自身のキャリアの希望と学習意欲を踏まえ、「今後さらに成長したい」「より高い視座を得たい」という覚悟を持ったメンバーに対して実施する研修で、挙手制で毎月1回、1年かけて行う集合研修です。
 研修はともすると「やらされ感」が出てしまいがちなので、覚悟を持って学びたい方を対象に自分の意思で集まってもらうほうが、全員をボトムアップで教える研修よりも吸収度合いが高く、費用対効果が見込めます。本当に学びたい・自己成長したい人に、より手厚い研修機会を用意しようという考えのもと、スタートさせました。

──中途採用に関しては、各事業会社での採用になりますか。

松原 中途採用は専門職が多く業務特性によるところが大きいので、事業会社ごとに採用しています。グループ採用もありますが、どうしてもピンポイントの採用が多くなるので、今は個社の要望や個別のオーダーに応じて対応しています。

───アルバイト採用は各店舗で行うのでしょうか。

松原 採用計画は各店舗が作成し、グループ全体で採用費をかけて募集します。事業会社の営業部長たちの協力を得ながら、店舗の必要人員のオーダーをもらい、グループのスケールメリットを活かして媒体による一括採用を実施する流れです。スケールメリットを活かすという意味で私たちがハブになり、個社ごとの仕事のオーダーを聞きながらまとめて採用を行います。

──人材教育に加え、グループ内の全採用案件にもかかわっているのですね。

松原 以前は事業会社ごとに動いていたこともあったのですが、それぞれの採用の成功体験などが可視化・共有化されないため、ノウハウを横展開する目的で現在の一括採用になりました。

若いうちからマネジメントや計数管理を実践できる

──新卒内定者に対するフォローや研修はありますか。

松原 はい。新卒は内定から入社まで長ければ半年から1年近く時間がありますので、その間はしっかりと内定者研修を実施します。内容は「牛角の商品開発をやってみよう」「ターゲットとなるお客様像はこれだ」「どんな原価でどんな価格設定でどういうメニューを提供するか」といった課題をグループに分かれてプレゼンテーションするものです。そのアイデアが実際に学食のメニューとして実現することがよくあります。そもそも内定者は本物の学生ですので、その視点を活かして500円ワンコインでSNS映えするランチなどを提案してくれることも多くあります。学生時代の気持ちを忘れてしまった私たちには目から鱗の企画も多く、彼らのアイデアには大いに期待しています。

──内定後に店舗でアルバイトをする方もいますか。

松原 もちろんいます。私たちとしてはむしろ今後あるべき姿として、店舗運営に関してはすでにアルバイトをしてくれている方を積極的に社員登用したいと考えています。一方で専門人材は、大学で学んできた専門性を発揮できるような部署へ直接配置をしていくなど、その方に合わせた採用をしていきます。
 飲食業は労働集約型の働き方なので今の若い方たちからは敬遠されがちですが、現場上がりの私としては、これほどおもしろい仕事はないと思っています。入社して早い段階ですぐに店舗を任せてもらえたため、何十名ものアルバイトを部下に持ち、マネジメントを実践しながら学べたのです。
 店長になる以上は組織論も学ばなければなりません。例えば大型店舗だと、1店舗で1ヵ月の売上が2,000万円、年間で考えれば中小企業の社長と同レベルのお金を動かすことになります。ですから人に喜んでもらえることが好きであるのに加えて、現場のマネジメントや計数管理ができる素養のある方が活躍できるはずです。入社間もないうちは当然失敗もしますが、トライアンドエラーを繰り返しながら成長することを見越しているのがこの業界のあり方です。若いうちからこれだけ挑戦させてもらえる業界は、あまりないと思います。

キャリアップを支援する充実した社内制度

──コロワイドらしい社内制度もありますか。

松原 意欲の高い社員にキャリアアップの機会を提供する「キャリアチャレンジ制度」があります。これはグループ横断的な「社内公募制度」で、公募はメールでグループ全社員に告知され、書類審査や公募する部門との面談によって選考が行われます。ポジションを問わず、挙手すれば誰でも利用できる社内転職制度です。
 社員の能力開発や専門制強化を支援するための「資格取得支援制度」も設けています。弁護士や公認会計士、中小企業診断士、社会保険労務士、司法書士、税理士、行政書士、不動産鑑定士などの国家資格から、システム系資格、実践で活かせる調理師やソムリエといった飲食に関わる資格まで、バラエティに富んだ50~70資格が対象になっています。資格取得後に合格奨励金が支給されるほか、会社が定めた資格を保持し、関係部署において業務に活かしている場合は資格手当も毎月支給されます。

──福利厚生面で何か特別な制度はありますか。

松原 2022年から「奨学金返還支援制度」を始めました。新卒入社した方が申請すれば、毎月の奨学金返済額の半額を会社が支援します。
 また2023年から運用している「フレキシブル正社員制度」は、介護や育児で社員が退職してしまう問題を防ぐためにできました。本人が希望する店舗に「異動なし」の条件固定勤務で働ける正社員制度です。勤務時間も柔軟に対応しており、週4日勤務から正社員になれます。家庭の事情でフルタイム勤務が前提の正社員になるのが難しいという方も、この制度によって正社員としての保障や勤務条件が安定しやすくなるはずです。

──外国人採用も行っていますか。

松原 新卒の外国人採用比率は3割超です。インバウンド対応で外国人社員の言語力を頼りにしているところもあり、今後より強化していく予定です。

採用では資格取得のプロセスを評価

──多様な人財と働き方がある中、どのように評価を行っているのですか。

松原 ジョブ型雇用の評価軸は、職務要件定義書で決まっています。この軸に沿って上期下期のKPI(重要業績評価指標)を設定し、その達成度で評価が決まります。ジョブ型雇用の良さは、次のステップがはっきり可視化されている点です。キャリアアップのためにはどんな仕事をすればよいのか、何が求められているのかということがすでに定義されているので、キャリア形成もしやすいと思います。

──新卒者の応募書類に何らかの取得資格が書いてある場合はどのように評価されますか。

松原 資格試験の合否よりも、一度でも腰を据えて専門的な勉強をしたことを評価します。中でもコロワイドは事業の方向性としてグローバルに軸足を置いているので、TOEIC® TESTのスコアが高い方には専門人材としてのルートを提案することがあります。また経理部であれば、日商簿記検定1級や公認会計士、税理士試験に挑戦したことがある方に声をかけることもあります。

──最後に、キャリアアップをめざしている方々に向けてメッセージをお願いします。

松原 私は店長からスタートして、エリアマネージャー、マーケティング部、新業態部門を経験し、6年前に人事部に来ました。当初は右も左もわからない状態だったので、専門的職種に必要なベースとして社会保険労務士の資格を取得しました。資格を取得したことで視野が広がり、例えば労務手続きについても、事業会社の慣習なのか、社会的慣習なのか、法律に則ったものなのか、明確に判断できるようになりました。
 キャリアを歩む上で、資格は自分自身の視野を広げ、判断の拠り所となってくれます。ぜひがんばっていただけたらと思います。

[『TACNEWS 』2023年12月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     株式会社コロワイド
設立     1963年4月
代表者    代表取締役会長 蔵人金男
       代表取締役社長 野尻公平
本社所在地  神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1
       ランドマークタワー 12F

事業内容

飲食店の経営、各種食料品の仕入販売及び加工販売、煙草・酒類の販売、カラオケルームの経営

従業員数

16,113名(うち正社員4,227名・グループ連結)(2023年3月末日現在)

URL

https://www.colowide.co.jp/