日本のプロフェッショナル 日本の弁理士|2023年7月号

五味 和泰(ごみ かずやす)氏
Profile

五味 和泰(ごみ かずやす)氏

Authense弁理士法人 代表弁理士
cotobox株式会社 代表取締役CEO

1973年生まれ、神奈川県出身。1996年、早稲田大学理工学部卒業。2015年、アメリカ・南カリフォルニア大学ロースクール卒業。1996年、新卒で高砂熱学工業株式会社入社。2005年、YKI国際特許事務所入所、知財実務に従事。2008年、弁理士試験合格。2009年、弁理士登録。2015年、はつな知財事務所を設立。2016年、cotobox株式会社を設立。2017年11月、オンライン商標登録サービス「Cotobox」サービス提供開始。2022年11月、Authense Professional Groupに参画し、Authense弁理士法人へと改称。

「誰もが気軽に知財を扱えるようにしたい」という思いを、
弁理士法人とWebサービスで実現していきます。

 Authense弁理士法人の代表弁理士であり、簡単に商標登録ができるWebサービス「Cotobox」を提供するcotobox株式会社のCEOも務める五味和泰氏。「Cotobox」の累計利用企業数は5年間で4万社を突破し、弁理士法人としては出願件数が日本一となるなど好調な実績を残している。今回は、そんな五味氏が弁理士となるまでの道のりや、リーガルテックのスタートアップを起業した経緯、そして弁理士法人の成長とAuthense Professional Groupへの参画について、その軌跡を追った。

「知財立国宣言」にインスパイアされ弁理士をめざす

 AIの話題に事欠かない昨今。だが、2015年当時ですでに「AIを知的財産に活用してみたらどうだろう」というアイデアを持っていたのが、Authense弁理士法人代表の五味和泰氏だ。企業が商品名を考えるとき、最初に気にするのは「その商品名がすでに商標登録されていないかどうか」。五味氏は「類似の商標なし」か「類似の商標あり」か、わずか数秒で答えてくれるWebシステムを開発したのである。

 神奈川県横浜市に生まれた五味氏の中学・高校時代は、いわゆるバブル期だった。「みなとみらい21」の都市開発で高層ビルが次々に建っていく様を「カッコいい!」と眺めながら育った五味氏は、自然に「将来は建物を建てたい」と考えるようになり、大学では理工学部建築学科に進む選択をする。

「ところがスタートが遅れて、必須となるデッサンの受験対策が間に合いませんでした。それで建築学科はあきらめて、どの学科を受験しようかと調べる中で候補に残ったのが、つぶしが利いて募集人数も多かった機械工学科や電気工学科でした。そんな経緯で進学したのが早稲田大学理工学部機械工学科です。将来立派なエンジニアになろうとか、学業でトップをめざそうみたいな目標もない、いたって平凡な学生でしたね」

 学生時代の趣味は、バックパッカーとして世界を回ること。引越業や郵便局の仕分けの短期アルバイトで手銭を稼ぐと、リュックを背負って海外へ向かった。インドにあるマザーテレサが運営していた施設でボランティアに参加し、「インドを経験したんだから、世界のどこへ行っても生きていけるぞ!」という自信もつけた五味氏。向かうところ敵なしの気分で、アジアや中東も回った。

 卒業後は、業界第1位の建築設備会社に入社。そこに入れば「みなとみらい21」のような大きな建物に関われる。とてもチャレンジングだとワクワクしながら、エンジニアとして建物の空調など設備関係の設計と現場の管理マネジメントに奔走し、様々な建築プロジェクトに携わった。大きいプロジェクトに参加しスケールの大きい建築物を作れる。ハードだったが、魅力とやりがいある仕事だった。

 一方で、その忙しさからプライベートの時間はほとんどなかった。「20代、30代とがむしゃらに働いても、会社幹部になるまでの出世の道はまだまだ遠い。このままでいいんだろうか」と迷いが生じ始めた五味氏。30歳になる頃には、新しいことにチャレンジしたいという思いが膨らんできた。そんなタイミングで、当時の首相である小泉純一郎氏が打ち出したのが、いわゆる「知財立国宣言」だった。「モノづくり」から「知恵づくり」へ。新たな経済成長に向けた国家戦略の要となってきたのが、知財(知的財産)の専門家である弁理士だったのだ。

「このとき初めて弁理士という国家資格を知りました。当時は特許に関する仕事はまったくしていなかったし、会社の人に弁理士になりたいと話しても『弁理士って何?』と言われるような状況。ただ、社会人になってから建築関係の国家資格を複数取得していたこともあり、勉強自体に苦手意識はありませんでした。弁理士は、取得難易度の高い知財の最高峰の国家資格。取得できれば、いろいろな道が開けて、今とはまったく別の業界でもやっていけると思ったんです。そこから一気に受験に邁進していきました」

 資格を取得して新しい道を切り開こう。そう決めた五味氏は、弁理士試験の勉強に着手した。しかしいざ勉強を始めてみると、あまりのボリュームに「建設業界で働きながら合格をめざすのはハードルが高すぎる」と感じた。そこで五味氏は、これまでのキャリアから大きく舵を切って弁理士に転身することに決めた。特許事務所に転職し、実務と並行して受験勉強をこなす日々。初めてとなる特許出願業務で、明細書作成などの実務を一から学びつつ、同時並行で弁理士受験にチャレンジした。そして、4回目の受験で晴れて弁理士試験に合格。ここから弁理士としての道がスタートした。

リーガルテックのスタートアップを設立

 弁理士資格取得後、五味氏は事務所から派遣され、アメリカ・ワシントン大学に1ヵ月間留学した。そこで各国から来た留学生の弁護士と出会い、その自由な雰囲気に「自分が携わっている特許出願業務とは別世界だ」と感じたという。その経験が背中を押し、勤務10年目に今度はアメリカ・南カリフォルニア大学ロースクールに1年間留学した。

「周りからは驚かれましたね。驚かれた理由は大きく2つあって、1つは金銭面です。自費留学でしたし、事前学習にもお金をかけたので、蓄えを消費するだけなんじゃないかと心配されました。もう1つは、業界歴10年目で年齢も40歳だったことです。それだけ実務を経験していれば独立する選択肢もあるのに、そんな中で『なぜ今留学するの?』という意見はもっともですよね。それでも決意はゆらがず、予定通りアメリカに渡りました」

 振り切って飛び込んだ環境で出会ったのが、リーガルテックの世界だ。ロースクールで法律の授業を受けながらリーガルテックのコミュニティに参加した五味氏は、リーガルテックのピッチコンテストに出場。パラリーガルの学生を中心に、マーケター、デザイナー、エンジニアとプロジェクトチームを組み、アナログ業務をデジタル化してクラウドで管理するプロダクトで2位入賞を果たした。

 知財領域には定型業務や旧態依然としたペーパーワークが多い。加えて知財や特許法は、大手企業のビジネスには行き届いていても、一般人や中小企業以下のスモールビジネスには行き届いていない。そんな課題感を留学前から抱いていた五味氏。留学後、アメリカには、弁護士を雇わずに一連の法的文書を作成できるサービスを展開しているリーガルテック企業があることを知った。コンテストを経て「あらゆる人に知的財産権を気軽に利用してほしい」という思いを強くした五味氏は、その企業とコンタクトを取った。そしてひらめいたのが、AIによる商標登録Webサービスである。

 2015年に帰国する頃には、すでに頭の中でサービスの着想が具体化していた。帰国後すぐに特許事務所を退職し、同年に「はつな知財事務所」を設立。半年後の2016年2月にリーガルテックのスタートアップ企業cotobox株式会社を立ち上げ、新たな一歩を踏み出したのである。

メディアで注目された商標登録Webサービス「Cotobox」

 サービスのアイデアを携えて帰国したあと、五味氏は「起業時に商標登録のニーズがあるのでは」という仮説のもと、起業準備中あるいは起業したばかりの人を見つけては、次から次へとインタビューした。その1つが早稲田大学のAI研究チームだ。インタビュー中、サービスの操作画面のイメージ画像を見せながら、AIを使った商標検索機能の構想を話していると、その機能の開発を手伝えるかもしれないと提案された。そこから彼らを巻き込んで「短期間、低人件費、低価格でできるオンライン商標登録サービス」の開発が始まった。そうしてでき上がったのが、誰でも簡単に最短1日で出願できる商標登録Webサービス「Cotobox」だ。「Cotobox」は無料の商標検索機能を搭載しているので、ネーミングを思いついた瞬間に商標登録できるかどうか検索できる。しかも検索後、実際に商標登録する段階になればチャットで提携弁理士に相談できるので、出願者は特許事務所に出向く必要もない。

「当時は『Cotobox』をリリースすることが最優先課題だったので、その業務に全力を注いでいました。開発費用も人件費もかかるスタートアップでは、いつ資金がショートするかわかりません。サービスが立ち上がるまでは、弁理士業務の売上で補完しつつ、リリースに注力していましたね」

 弁理士法第75条(一部要約)では「弁理士又は弁理士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、商標等に関する特許庁における手続等についての代理や、これらの事項に関する書類等の作成を業とすることができない」と定められている。商標登録Webサービスは弁理士の独占業務に近しいサービスだったため、周囲からはその点を疑問視する声も上がった。そこで経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を利用して、利用規約の中で弁理士法等に抵触しないことをきちんと明記した。

 晴れて「Cotobox」がリリースされたのは2017年11月。リリース前の2017年9月、日本経済新聞が「AIが士業に取って代わる」特集を組んだ際は、AI時代での生き残りを図る士業の取り組みのひとつとして、「Cotobox」が紹介された。

「開発はどのレベルを完成形と考えるかが難しい。自分は弁理士でも開発者でもあるので、より精度の高いものを求めてしまい、キリがないんです。ところが、まだリリースしていない段階にも関わらず、日経新聞の反響が大きくて、掲載後に『いつリリースするのか』という問い合わせが殺到しました。サービスとしてはまだまだ調整しなければならないところがたくさんあったのですが、これだけ一気に名前が広まってしまったらリリースするしかないと腹をくくりました。

 そうして2017年11月にβ版としてサービスを世に送り出したのです。日経新聞での掲載がなかったら、まだズルズルと開発を続けていたかもしれませんね」

 日経新聞の特集後、メディアの注目度が一気に上がり、テック系やスタートアップ系メディア4~5社が取材に来て、そこからまた一気にアクセス数が伸び、ユーザーを獲得できた。マーケティング費用をまったくかけていないのにもかかわらず、口コミで知名度が広がっていったことはうれしい誤算だった。

弁理士はリモートワーク、地方在住で活躍

 こうして開業と起業にこぎ着けた五味氏だが、弁理士として経験してきた実務は特許と意匠案件のみで、商標登録の実務は経験がない。不安こそあったが、そこは特許庁に問い合わせたり、調べたり、知人に聞いたりしてキャッチアップしていった。2018年にはもう1人の弁理士が参画。2020年から事務スタッフが入り、弁理士の参画もさらに増え、現在は弁理士9名を含む総勢21名の陣容となった。スタッフが増えた経緯を、五味氏は次のように話している。

「当初、弁理士は徐々に増えてきたものの、サポートしてくれる事務スタッフがいませんでした。それがコロナ禍になっていきなり、事務スタッフが入ってくるようになった。そこから一気に増えて現在21名です。もともとペーパーレス化をめざしていたので、最初からリモートワークができる環境を構築してきました。『Cotobox』や他のツールを使って、オフィスに出社しなくても仕事ができることを前提に事務所を運営してきたことが、コロナ禍で功を奏したのです。コロナ禍の追い風はもう1つあって、リモートでの顧客対応ができない他の事務所のお客様がうちに多く流れてきたことも挙げられます」

 現在も弁理士法人ではリモートワークがメインで、出社して業務をすることはほとんどないという。

「事務スタッフは紙ベースでの書類の扱いや特許庁とのやり取りがあるのでローテーションで出社してもらいますが、弁理士は基本的にリモートワークです。そのため、今9名いる弁理士のうち3名は地方在住。富山県在住の弁理士、新潟県在住の弁理士、埼玉県在住で農家と兼業の弁理士と様々です。地方で独立開業するとなると、人脈や集客などをあらためて構築する必要があります。それはかなりハードルが高いので、地方にいながら東京の事務所でリモートワークできることは本当にありがたいと、彼らは言ってくれています。場所を選ばず多様な働き方ができるのも、この事務所の魅力のひとつなのです」

商標登録出願代理件数で全国1位を獲得

 小さな会社や個人事業主も気軽に使えるサービスをめざしてリリースされた「Cotobox」は、2022年11月、ローンチ5周年を迎えた。2020年以降のコロナ禍によるリモートワークの普及やDX推進の影響でニーズはさらに広がり、累積利用企業件数は4万社を超えている。

 さらに特筆すべきは、2021年と2022年の商標登録出願代理件数で、大手事務所の取扱件数を抜いて全国1位(出典:知財ラボ「2021年商標 事務所ランキング」「2022年商標 事務所ランキング」)を達成したことだ。

「当初めざしていたのは申込件数で月200件達成。開業当初、商標の申込件数1位の事務所が月200件だったので、まずそこを超えるのが目標でした。月200件はサービスをローンチして2年目に追いつき、その数字を超えたのが2019年です。また『Cotobox』は複数の提携弁理士事務所を束ねたプラットフォームサービスなので、『Cotobox』のシェアがそのまま“知財のDX”の進捗率だと言えます。結果的に現在特許庁に出願されている商標のうち約4%が『Cotobox』と提携する複数の事務所経由になりました。現在の目標はそのシェアを30%に引き上げることです。
 ただし、件数だけを重視するのではなく、今後は中小企業以外の中堅企業、あるいは上場企業に対してもシステムを使ってもらえるような戦略も視野に入れていきたいと思っています。市場を切り開きながらシェアを拡大する。知財のDXを実現するために、商標登録のオンライン化はマストです」

 とはいえ開発には莫大な資金がかかる。さらなる資金調達のため、cotoboxの上場も視野に入れていく。

「もっとも資金調達しやすいのは、ステークホルダーからの信頼を得ることができる『上場』の道だと思っています。上場を達成することで、上場審査に耐えうる堅実なビジネスモデルを特長として打ち出していきたいです」

 2015年にスタートしたはつな知財事務所は、2022年に弁理士法人化。同年11月、Authense法律事務所を始めとする、税理士法人、社会保険労務士法人、コンサルティング会社などが集ったプロフェッショナル集団、Authense Professional Groupに参画し、Authense弁理士法人へと名称変更した。

「グループ参画のきっかけは、当時は参議院議員を務めていた弁護士の元榮太一郎氏との出会いでした。議員をやめてビジネスにリソースを割く決断をした元榮氏の『多くのプロフェッショナルをそろえて最良なソリューションを提供するプロフェッショナルグループを作りたい』『より多くのテクノロジーを使って生産性を高め、より多くの人にリーガルサービスを使ってもらいたい』という思いに共感したんです」

 ただ、すでに全国1位の商標登録出願代理件数を保持し、組織も総勢21名になっていた段階だったため、「今さらどこかに属する必要はないのでは」という意見も出た。そんな中、五味氏はメンバー一人ひとりに「参画すればもっと大きなことが実現できる」と説得。思いをともにするメンバーは、納得してゴーサインを出してくれた。

「参画するメリットはいくつかあって、何よりお客様に対して提供できるソリューションの幅が圧倒的に広がるということが大きいです。商標登録の際は中小企業の経営者と対面でやり取りする場面が多くあります。グループには管理系、経営企画系の専門家が大勢いるので、会社の規模が大きくなったときに発生するような労務問題や財務の課題、社長個人の問題など、様々な問題に対応できる。オールラウンドにソリューションを提供できる点は、お客様にとってもメリットになりますし、私たちの強みになると感じました。
 逆に弁護士事務所や税理士法人のお客様からの知財に関する問題は、すぐに私たちにパスできる。そうしたシナジー効果も期待できます。オフィスが六本木ミッドタウンにあるので、ブランディングとしても最高の立地です。単体でやっていくよりみんなの力を合わせてブランド全体としての価値を高めたほうが、圧倒的に広がりがあると考えました」

 複数のプロフェッショナル集団によるいろいろなシナジー効果、そしてブランド力。この2つだけでも、事務所としての付加価値や業務の幅は大きく広がる。

「もう1つメリットを付け加えるならば、『刺激』ですね。弁理士は士業の中でもユニークなポジションなので、あまり他士業との交流がありません。今回のように他士業のグループに入れば、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士から、いろいろな刺激を受けられる。その点も魅力だと思いました」

 Authense Professional Groupの創業者・元榮氏は、法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を立ち上げた起業家でもある。そんなグループの一角を担う弁理士法人として、Authense弁理士法人の信頼度を獲得できているのを、五味氏は感じている。

特許登録、意匠登録のオンライン化も推進

 商標登録件数全国1位、そしてAuthense Professional Groupの弁理士法人。2つの冠をかぶる組織として、弁理士法人は今後どのような方向をめざしていくのだろうか。

「知的財産は商標だけではありません。今後は特許、意匠登録のオンライン化も進めていきたいと考えています。まずは特許専門の弁理士を入れて、特許部門を確立したいですね。そしてもう1つチャレンジしているのが、コンサルティング領域です。特許庁に対する定型的手続きがより自動化されるのは目に見えています。そのときどうするべきかを考えると、やはり専門知識を活かしてコンサルティング領域に挑戦していくしかないと私は思っていて、すでに実績も積みつつあります。そんな展望を見据え、人数規模も現在の21名から増やしていきたいですし、サービスとしても商標部分を拡充しかつ他部門も新しく立ち上げていく方向で考えています」

 体制が整えば、母数が圧倒的に多い商標案件から、特許案件の受注につなげていくこともできる。中小企業で開発した技術の特許相談に乗れたり、新しいデザインの意匠登録につながったりするのもメリットだ。また、既存のお客様にはスタートアップ企業も多いため、上場準備企業支援の一環として商標コンサルティングなども実施している。中には、実際に上場準備のフェーズまで進んでいる企業もあるという。

 なにより定型的作業を効率化してコンサルティング領域に入っていきたいというのは、Authense Professional Group全体のめざしている方向性でもある。

「Authense Professional Groupでは、まずはミッション、ビジョン、バリューを共有しスタッフ間で目線を揃える作業をしています。グループ内の連携とシナジー効果で最高品質のワンストップサービスを提供していきたいという点では、みな一致しています」

 弁理士法人とcotobox、両組織を行き来し忙しい日々を送る五味氏。とはいえ、弁理士法人では全体を束ねるパートナー弁理士が業務マネジメントなどの進捗を管理してくれているので、五味氏自身は実務に携わらずに両組織の全体を俯瞰することができている。

「弁理士法人は、しばらくは規模を拡大して総勢50名をめざします。3年後には新たな専門部隊がきちんと立ち上がって、ある程度の数をこなせるようになっているでしょう。そうなれば採用、教育・人材育成、人事労務といったバックオフィス系部門もきちんと体制を整えなければいけませんね。
 Authense法律事務所は現在200名規模で、20名、50名、100名といった成長フェーズをすべて経験しています。それをロールモデルに規模拡大を進め、将来的には日本でトップの知財事務所と言われる規模にまで成長したいと考えています」

 10年後を見据え、グローバルにチャレンジすることも視野に入れている。

「知財関係はクロスボーダー取引が多いので、『Cotobox』では国をまたいだ知財権取得にも対応していきたいです。実際今も、日本から中国やアメリカに商品を売りたいというお客様がいます。その際は海外向けの商標が必要になるのですが、現段階ではシステム上で解決できないため、現地の弁護士や弁理士に依頼するルートしかありません。これも『Cotobox』上で情報管理や効率化できる方法を開発中で、将来的にはすべてオンラインで完結するしくみを構築していく計画です。というわけで弁理士法人も、cotoboxという会社も、サービスも、まだまだ大きく育ってきていますので、やることは山積み。道半ばです」

 五味氏は、ある講演で辻・本郷税理士法人の創業者である公認会計士・税理士の本郷孔洋氏が「60歳、70歳になってからやっと経営の楽しさが見えてきた」と話していたのが印象に残っているのだという。

「私は今年で50歳。人生の先輩からそんな話を聞くと、モチベーションが上がって、これからもっとおもしろみが出てくるのかなと楽しみですね」

 そんなふうに意欲を見せる五味氏へ、最後に受験生へのアドバイスを聞いた。

「今後士業として活躍していきたい方は、資格以外にもう1つ別の強みを持つ人材をめざすことをおすすめします。士業には優秀な人材が多い中で、1つの強みだけでトップを極めるのはなかなか厳しいのが現実です。でも、資格以外の得意分野があれば、それを掛け合わせることでユニークなポジションを築くことができる。そうやって自分をブランディングしていくことも、これからの時代で成功するには有効なやり方だと思います。
 特に弁理士をめざす方は社会人経験者が多いので、前職での経験を活かしてもいいし、何か新しい経験やスキルを足してもいい。まずは資格を取得して実務を経験することが大事ですが、そこにもう1つ、拠って立つものを作れると、ビジネスチャンスが大きく広がります。また、AIに取って代わられることを不安に思うよりも、そうした新しいツールを使いこなす側になることが重要です。代替される業務があっても、それ以上に付加価値の高いサービスを提供できる人材になるんだという気概を持って臨めば、必ず活躍の場は広がります」

 「誰もが知財を平等に扱えるようにしたい」。その思いを貫き、オンライン化によって商標登録件数日本一に。さらに特許や意匠登録でのオンライン化、リーガルテックのコンサルティング領域と、挑戦を続ける五味氏。次々と新たなマイルストーンを設定していくその足跡は、資格の活かし方を模索している後輩たちに勇気と希望を与えてくれる。


[『TACNEWS』日本の弁理士|2023年7月号]

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