日本のプロフェッショナル 日本の行政書士|2021年10月号

Profile

阪本 浩毅 氏

行政書士法人シグマ
代表社員 行政書士

阪本 浩毅(さかもと ひろき)
1978年宮城県桃生郡河北町(現:石巻市)生まれ、千葉県佐倉市出身。法政大学法学部卒業後、株式会社JTB入社。2年弱で退社し、大手司法書士法人にて商業登記業務に従事したあと、2011年に行政書士試験合格。2つの行政書士法人で許認可申請業務に従事。2013年10月に独立開業し、行政書士サカモト法務オフィス設立。2015年8月、事務所を法人化して行政書士法人シグマ設立。現在に至る。

運輸業と旅行業、古物商サポートに特化。
チームプレーのシグマはスタッフ全員が行政書士です。

 運輸業と旅行業と古物商に特化する戦略で成長を続ける行政書士法人シグマ。これらの業務の品質を高めるため、その他の業務はすべてアウトソーシングするほどの徹底ぶりだ。この戦略を推進してきた代表社員で行政書士の阪本浩毅氏に、行政書士になった経緯から、組織の現在と未来についてうかがいながら、これからの行政書士の可能性について探ってみたい。

「士」がつく職業への憧れ

宮城県石巻市に生まれた阪本浩毅氏は、父親の転勤で小学校を3度も転校している。やっとなじんだ頃に転校。そんな学校生活だったが、それでも特につらかった記憶はないという。
「父が千葉県佐倉市に家を建てたので、小学校5年の頃にようやく落ち着きました。佐倉市は成田空港に近いため、パイロットが大勢いて、弁護士が多く住んでいるような高級住宅街もありました。そんな場所で育った私はグレードの高い暮らし、カッコいい稼げる仕事、そんなイメージに憧れたのです。だから小学校の頃なりたかったのはパイロットと弁護士。その頃から『士』がつくようなプロフェッショナルな職業への憧れがありました」
 そんな阪本氏が行政書士になるまでには紆余曲折があった。まず、視力が足りずにパイロットは断念。そして弁護士をめざすために法政大学法学部に進学するも、受講した大学内の弁護士講座は何だかピンとこない。そのあとは、友人の影響で大学3年からTAC水道橋校の公認会計士講座に通ったが、就職活動と本試験の時期が重なり、資格取得は断念。最終的には旅行会社のJTBに就職を決めた。
「銀行員の父のおかげで安定した生活ができていた私は、大企業志向が強かったのです。自動車メーカーなど自分の興味ある会社を受けた中で、最初に内定をもらったのがJTBでした。当時文系大学生の入りたい企業トップで、選考の倍率も非常に高い人気企業。断る理由はありませんでした」
 JTBで社会人の第一歩を踏み出した阪本氏は、仙台市の団体旅行専門支店の配属になり教育旅行の企画・営業を担当。本丸である修学旅行の他に林間学校、遠足、合唱コンクールの送迎バス手配、さらに学校の先生たちの個人旅行手配まで、小学校、中学校併せて30校のあらゆる旅行を担当した。社会人1年目は張り切って営業に励んでいたが、2年目の頃から世間的に法令遵守が厳しく言われるようになっていき、今までの営業手法が使えなくなるなど、不自由さを感じることが多くなってきた。
 そこで「もともと弁護士など法律の仕事をしたかったのだから、法律に左右される側ではなく、法律を使って仕事ができる側になろう」と2年弱でJTBを退社。千葉県佐倉市の実家に戻って、再び士業の道を模索するようになる。

行政書士でも企業法務ができる

「JTBをやめたときは法律の仕事がしたいと思っていました。ところが弁護士は当時試験制度がちょうど変わった時期で、受験資格を得るためには多額の学費を払ってロースクールに行くのが一般的なルートだと知りました。そこまでの学費の用意がなかった私は、たまたま大学時代の友人が司法書士をやっていたことを思い出し、『司法書士なら何とかなるのでは』と根拠のない自信をもとに司法書士の勉強を始めたのです。ちなみにその頃は行政書士という資格を知りませんでしたね」
 ここから長い道のりになることを、当時の阪本氏はまだ知らなかった。
「中学・高校でも成績は良かったので、そこまで難しい試験じゃない、勉強すれば合格できると高を括っていました。ところが司法試験制度の変更で、一定の法律知識があって試験慣れしている旧司法試験組が司法書士試験にどんどん流れてきて、受験生のレベルが上がった時期に受験を始めたこともあり、予想に反してなかなか合格できず、何年もチャレンジし続けることになりました」
 2007年からは司法書士法人で働きながら受験を続けた。商業登記に強い事務所の補助者として会社設立や役員変更、契約書作成、株主総会の招集通知のリーガルチェックなどを担当していく中で、阪本氏はひとつの気づきを得ることになる。
「司法書士事務所の仕事の中でも、特に会社法や商業登記が好きだと気づきました。そして会社設立書類や企業法務なら行政書士でも携わることができると知ったのです」
 2004年に初めて司法書士試験を受けてから7年連続で受験。7回目の不合格のときには、すでに結婚も決まっていて、パートナーの不安を払拭するためにも「7回目がダメだったら司法書士は諦めよう」と考えていた。
「でも7年も勉強してきたのだから、司法書士試験で身につけたことを何か結果として残せないか。それが行政書士試験にチャレンジした理由です」
 2010年の夏、7回目の試験の不合格を機に司法書士試験は断念。一方その年に並行して受けていた行政書士試験では初めての受験にも関わらず220点の合格点を獲得した。この結果を受け、阪本氏は所属していた司法書士法人を退所して、行政書士法人に転職した。
 最初に入所した行政書士法人は総合型の行政書士事務所で、阪本氏は許認可部門の担当者として今に通ずる運輸業と旅行業の許認可手続き業務に従事していた。そしてさらに1年後には、この分野のスキルアップをめざして、大手行政書士法人に転職した。
「業法を遵守しつつ、『どうすれば適正に業務が運営できるか』という、お客様に寄り添った視点で許認可申請をサポートする姿勢に惹かれての転職でした。実際、業務品質は高いし、コンサルティング力に強みを持った期待通りの事務所でしたね。司法書士法人時代から品質に対する厳しい指導を受けてきたこともあり、私は厳しい業務品質にこだわった実務こそ、プロフェッショナルである士業の仕事のあるべき姿だと思っていて。だからこの事務所を選んで正解だったと思いました」
 この行政書士法人でも運輸業と旅行業をメインに、建設業、宅建業、風俗業、医療法人、NPO法人も担当。厳しくも幅広い経験を積ませてもらったことが、今につながっているという。

運輸業と旅行業に絞って独立開業

 2つの行政書士法人で実務経験を積んだ阪本氏は、2013年10月に行政書士サカモト法務オフィスとして独立開業を果たした。
「妻が病気になって半年間ほど入院したのをきっかけに、独立して池袋に事務所を構えました。業務はこのときから運輸業と旅行業の許認可法務に絞っていました。業界特化した理由は、勤務経験から行政や顧客とのやりとりでストレスを感じる分野はやらないと決めていたからです。候補として残ったのは建設業、宅建業、運輸業、旅行業でしたが、この中でも建設業、宅建業は扱っている行政書士が多いので、自分ではやらず外注の方向で考えました。逆に運輸業と旅行業は、本腰を入れている行政書士が少なかったので、きちんとやればおそらくその分野で一番になれるだろうと思い、この2つに絞りました」
 このときに決めた、専門分野を作り高品質にこだわるという事務所のスタンスは、今でもまったく変わっていない。そして実は開業当時、もうひとつトライした業務がある。
「当時始まったばかりの民泊の許認可申請です。実際に行ったのは準備段階の情報発信までですが、日経MJから取材を受けたり、東京ビッグサイトで開かれた地主対象セミナーでは講師を務めたりしました。ところが実際に来る相談は粗っぽい内容が多く、そうした相談を排除すべく取り組みましたがうまくいきませんでした。手間の割にフィーが取れず、リスクも高いので定型化しにくかったのです。しかも新人行政書士がどんどん民泊分野に参入してきたので、あまり利はないだろうと撤収することにしました」
 池袋で開業したあと、四谷や市ヶ谷への事務所移転を経て、2015年8月に法人化を果たしたのが現在の行政書士法人シグマだ。
「現在もともに代表社員を務める行政書士の泉谷守信とは、川崎の行政書士交流会で知り合いました。同い年ということもあり仲良くなって話していると、私は記帳など、総務的なバックオフィス系の仕事が苦手で実務だけやっていきたいタイプ、一方泉谷はバックオフィス系の仕事が好きで、できれば実務はやりたくないタイプだとわかったのです。お互いのやりたいこととやりたくないことが対照的だったので、うまく補完関係が成立。それが法人化に至った経緯ですね」
 現在も顧客対応と実務はすべて阪本氏、財務や経理、Webサイト、マーケティングといった事務所の運営はすべて泉谷氏が担っている。オフィスに置いてある販促用のはがきから事務所の資料や名刺デザイン、著作の進行管理や校閲はすべて泉谷氏の手によるものだが、泉谷氏は一切の実務に手を出さない。
「泉谷は手先が本当に器用。Webサイトなどは外注してもなかなかイメージ通りのものはできないですが、事務所のことをしっかり理解している泉谷が直接携わることで普通の事務所の5~6倍の速度で PDCAを回せるようになりました。そこはうちの事務所の強みですね。ここまで明確に役割分担ができている法人は珍しいと思いますよ。お互い信頼し合ってないとできないですから」

スタッフは全員行政書士

 そんな阪本氏だが、採用に関しては苦い経験をしたことがあるという。
「当初、行政書士として開業していた男性2名を社員にしたのですが、一緒に働く実務部隊として、ふたりとも私の求める業務レベルに達していなかったということがありました。向こうにしてみれば私が細かすぎたと言うでしょうけれど、私としては『独立している行政書士だったらこれくらいできるでしょう』と言いたかった。バッターボックスに立たせて、ど真ん中に球を投げているのに『ムリです。できません』と仕事を断られる。そういう行政書士もいるのだとわかりました。今シグマは7期目ですが、それに気がついたのは3期目のことでしたね。
 そこから採用方針を変えました。実務経験者であることにこだわらず、ポテンシャルの高い、資格を持っている未経験者を採用し、指導して育てることにしたのです。当然最初はできないことが多いですが、そのぶん成長を感じたときは私もうれしくて。そこにやりがいを感じ始めたのです」
 採用方針を転換してから育ててきた未経験の行政書士が、今シグマで活躍している内藤香織氏と小谷礼奈氏の2名だ。内藤氏は、シグマで出した『行政書士のためのマーケティングギア』(第一法規)という人気書籍を読み、シグマへの入社を決めた。そして『TACNEWS』2020年2月号の『資格で開いた「未来の扉」』に登場し、見事に成長したプロフェッショナルの姿を見せてくれている。
 「今やもう独立開業できるレベル。未経験からよくここまで育ってくれました」と、阪本氏はうれしさを隠しきれない。
 シグマには「スタッフ全員が行政書士試験合格者」というルールがあり、現在、代表の阪本氏と泉谷氏、そして内藤氏と小谷氏という4名の行政書士で構成されている。そこにこだわる理由は、顧客の属性として上場企業が多く、求めてくる業務品質レベルが非常に高いからだという。補助者を採用しないのも、品質へのこだわりが強いからだ。
「シグマのお客様は、初めて行政書士に依頼する有名企業や上場企業が多いのに、補助者を担当として行かせることはできないと思い、試験合格者というフィルターをかけました」  
 新規顧客は現状どうしても窓口が阪本氏になってしまいがちだ。しかし阪本氏は「ずっと実務の最前線にいるのは法人代表の役目ではない」と考えていて、窓口は委譲していきたいと言う。そのためには引き継ぎができる有望な行政書士の採用が必須ということになる。

新規顧問先の9割が Webサイトからの集客

 開業後最初のミッションは、顧客を探すことだった。ゼロスタートの中、阪本氏はどのようにして顧客を獲得してきたのか、そして上場企業の顧客はどのようにして集客したのだろうか。
「開業当初からWebサイトで集客をしていましたが、開業直後はそこからの集客が難しかったので、士業交流会などに参加して紹介してもらっていましたね。そこから徐々に顧問先が増えてきたので、交流会への参加を減らしてWebサイトだけに絞っていきました。今では泉谷中心にWebサイトメインの広報活動を活発化させており、万全な集客体制です」
 実際、2020年1年間の新規顧問先のうち9割がWebサイト、1割が紹介だという。電話での問い合わせも1週間で30件に上るが、それらもWebサイトを経由しているケースが多いという。そのうちアポイントメントまでつながった案件はクロージング率が高く、さらに見積もりを出した案件の9割は受注できている。現在顧問を務めている上場企業も、すべてWebサイトを経由した集客だという。
「実はひやかし電話がかかってこないようにWebサイトを工夫して作っています。役所に問い合わせるべき内容、単なる情報提供や相見積もり用の依頼といった内容を避ける工夫です。その効果もあってか、肌感覚では問い合わせの6~7割はかなり本気で相談したいという方が多いです。それがうちのWebサイト集客の強みですね。大手企業ほどWebサイトを利用して依頼先を探しますから」
 あえて依頼のハードルを高くするWebサイトの戦略は、どんどん磨きがかかっている。
「士業のWebサイトは『うちは建設業100%の専門特化型の事務所です』のような押し売りタイプがほとんどです。一方私たちは『旅行業の更新手続きが近いけれど、コロナの影響で更新要件をクリアできない。そんなお悩みありませんか。今こういう通達が出ていて、こんな解決策がありますよ』という記事を載せてみるなど、お客様の目線に立ったコンテンツにしています」
 専門的な内容で、かつ本当に必要としている相手の心に刺さる記事。しかも幅広い経験値と豊富な案件数を積んできた人にしか書けない内容にする。「そうして本気度を見せることでハードルを高め、フィルタリングをかけるようにしています」と、阪本氏は強調する。
「加えて報酬額も高めの設定です。例えば古物商許可申請ですが、他事務所が2~3万円のところ、8万8,000円からとしています。要は上場企業や外資系企業にターゲットを絞ったサービスで、報酬が高いぶん、業務品質には自信があることが伝わるようになっているのです」
 運輸業と旅行業にターゲットを絞って展開してきたシグマは、現在、古物商も含めた3本柱で構成されるようになった。それ以外の相続、ビザ、建設業などの案件が来た場合は、信頼できるパートナーに外注している。
「今後も運輸業、旅行業を極めたい。ひたすら今の分野の深掘りをしていきます」
 コロナ禍の影響で現在は旅行業が減り、運輸業5割、旅行業3割、古物商2割という割合になっている。中でも運輸業が忙しく、一般貨物、利用運送、倉庫業、レンタカーの問い合わせが多く寄せられている。ただし減ってはいても、旅行業はポストコロナを見据えて2021年7月頃から申請が増え始めたそうだ。
「2020年の緊急事態宣言以来、旅行業は少ないながらもずっと依頼はありました。ところが今年の春にそれまで動いていた申請をすべて終えて、案件をひとつも抱えていない状態になったのです。でも事務所のWebサイトのアクセス数はむしろ増えていたので、おそらく今はどの企業も様子見しているのだろうと気長に待っていたら、予想通り最近徐々に動き出しました」

チームプレーで案件をシェア

 順調に歩みを進めるシグマだが、今後の展開はどのように考えているのだろうか。阪本氏のビジョンをうかがった。
「法人化した当初は全国に拠点展開したいと思っていました。ただ、今は私がすべての案件に目を通しているのですが、規模が大きくなることでそれができなくなることにリスクを感じました。規模が拡大すると業務品質は担保できなくなるので、メンバーは増えても10名以内で、その人数に合った仕事量をコントロールするイメージで考えています。単に器を大きくして、それに合わせて多くの仕事をこなしていくという方針は取りたくないです」
 人を採用する際の条件は、行政書士であることの他にもふたつあるという。
「ひとつは素直さ、もうひとつは地頭の良さです。シグマはチームプレーで、案件をシェアしますし、ひとりで面談、書類作成、申請まで行うわけではありません。例えば私が車庫測量に行って写真を撮り、現場でパソコンからアップすると、それを別のスタッフが事務所で受け取り、現地の平面図をもとに図面を描き起こします。それができたら申請に行ってもらうといったように、スタッフ間で連携しています。ですから、我が強い人よりも他の人と協力して仕事に取り組める素直さがある人のほうがいいのです。内藤も小谷も、そうした素直さがあったので目覚ましく伸びてきました。
 また、かなりの量の条文を読み、条文を駆使して行政と折衝までするので、地頭の良さがないとキャッチアップできません。というわけで、素直さと地頭の良さ、このふたつの素養を大事にしています」
 では、この素直さと地頭の良さはどうやって見極めるのだろうか。
「見極めは難しいのですが、面接時に『持ち味カード』という市販のカードを利用しています。カードには『リーダーシップ』、『専門スキル』といったビジネスパーソンに必要な様々な要素が1枚ずつ書かれていて、この中から私たちが求めているものを事前にピックアップしておきます。そして面接を受ける方ご自身でこれらのカードをイエス(持っている)、ノー(持っていない)に仕分けしてもらい、イエスに仕分けられたものを『そのことについてアピールしてください』と投げかけて話してもらう。こんな風にゲーム感覚で面接をしています。事務所の風土に合わない人が入ってしまうとお互いにストレスになるし、何よりお客様に迷惑がかかってしまいます。それは避けたいので、このようなツールを活用しつつ、細々と、コツコツと採用していきたいですね」
 申請業務は一般的にひとりですべて担当する事務所も多い。そんな中でシグマのチームプレーは大きな特徴と言っていいだろう。
「メンバーには『私の頭と知識と経験を使って仕事してね』と言っています。私のスキルにメンバーのスキルを掛け合わせる。複数の視点があることで気づけることもたくさんあります。それに私より女性陣のほうが、コミュニケーション力が高いので、役所に申請に行ってもらうと、私だったら得られないような良い情報を持ち帰ってくるなんてことも度々あります。そうしたことも含めて適材適所。また、グループウェアを入れて勤怠管理からスケジュールまですべてを共有し、スマートフォンも支給し、チャットワークを取り入れてコミュニケーションを円滑にしています」
 未経験者を採用して育てていく方針に転換してから、仕事の進め方などシグマで働く上で知っておくべき内容をまとめた『シグマの教科書』という冊子も作成した。採用した人がスムーズにチームの一員として働けるようにするためだ。
 また、役所が休みにならない限り仕事ができてしまうのが行政書士だが、シグマでは特別休暇として年末年始を長めにしていて、2020年度は14日間の連続休暇となった。その他にも、バスケットボールチームの試合が観戦できたり、ドリンクコーナーのお茶は飲み放題にしていたりと、福利厚生面でメンバーの居心地の良さをアップする工夫もしている。

ひとつの許可を取得するためのコーディネーター

 阪本氏は行政書士の仕事について「お金をもらって、しかも感謝される。それがやりがいだし醍醐味だ」と言う。 「運輸業や倉庫業は、建築の部分から携わるので地図に残るような仕事ができます。最近運輸業にIT系企業の参入が増えたのですが、彼らはプレスリリースを頻繁に打ちますので、自分の仕事が記事に載ることも多くなりました。がんばった証が形として残るのはとてもおもしろいことですね」  ただし倉庫業に関しては倉庫ひとつで何十億円の投資となるので、その倉庫の登録が取れないと大変な事態に陥る。また非常に多くの許認可が必要になるという。 「貨物を預かるための国土交通省の倉庫登録は、保管する貨物によって、例えば危険物取り扱いのための消防法の手続き、冷蔵倉庫ならば高圧ガス保安に基づく許可・届け出が必要な場合があります。それを取るために私たちは建築基準法の建築確認を建築士に取ってもらうし、冷蔵倉庫であれば食品衛生法の届け出をします。農地に建てる倉庫なら農地転用手続きが必要だし、市街化調整地区だったら開発許可が必要になります。そこはすべてゼネコンの管轄なので、ゼネコンとやりとりして許認可を取ってもらい、そのコーディネートをする。最終的に取得が必要な倉庫業登録はひとつですが、そのためにはいろいろな許認可が必要になります。私たちは、それらをコーディネートして運輸局に倉庫業登録をもらいに行く旗振り役なのです」  たったひとつの許認可を取るためには、そこに至る様々なプロセスがあり、それが行政書士の仕事のおもしろみにもつながっているようだ。

受験時代から条文を読むクセを

 仕事が多忙な一方で、阪本氏はB.LEAGUEに所属するプロバスケットボールチーム、川崎ブレイブサンダース(以下、サンダース)のブースター(熱狂的なファン)としてプライベートでも充実した日々を過ごしている。
 2019年から事務所としてチームのスポンサー契約を始め、この秋に開幕する2021-2022シーズンで3期目になる。サンダースの話になると、阪本氏の弁は熱くなって止まらない。
「佐藤ヘッドコーチのコミュニケーション力がとても高いので、そこからチームを引っ張っていく力を学び、チームビルディングの勉強をさせてもらっています。何より試合でエナジーをもらえるのです」
 球技が苦手だった阪本氏だが、奥様から「一度観に行こうよ」と誘われたのがきっかけでサンダースにはまってしまったそうだ。
「試合の演出や音響もすごいし、見せ方がうまい。バスケットボールの人気を一層盛り上げようと努力して、2020-2021シーズンでは全クラブNo.1の観客動員数を実現しました。それを見ていて『このチームを応援したいな』と思ったのです。我々の仕事も見せ方が大事。そこも学ばせてもらっています」
 もうひとつ夢中になっているのがアメリカンショートヘアの愛猫ショウちゃんだ。
「ショッピングモールのペットショップにふらっと立ち寄ったとき、目が合ったのがショウでした。でもマンションはペット不可、飼うことはできない。そのあとショウが千葉の店に移動したと聞いて『実家も千葉だし、縁があるのかな』なんて思いながら、千葉まで会いに行きました。その日は帰りましたが、それからふたりともショウのことが頭から離れなくなってしまい、マンションのオーナーに交渉したらOKをもらえて。その日のうちにホームセンターでゲージなどを買い揃えて、翌日、迎えに行きました(笑)」  熱く語る阪本氏。仕事のみならず、プライベートも充実しているようだ。
 最後に受験生へのアドバイスをうかがうと、行政書士は条文を読む機会が多いので、受験時代から条文を読むクセをつけておくことを勧めてくれた。
「あとは勉強も大事だけれどコミュニケーションも大切。行政書士は単に手続きだけをしていればいいというわけではありませんし、許認可申請はまさにコンサルティングのプロフェッショナルが活躍するフィールドですので、対人能力を上げてから独立すると成功しやすいと思います。登録後は同業のつながりが結構増えるので、困ったことがあったら相談できる信頼関係構築が成功への近道ですね。
 2021年6月から行政書士ひとりでも法人を設立できるようになったので、今後は組織化する事務所も増えてくると思います。そういった独立の選択肢もあるし、勤務しながら成長していくキャリアプランもある。合格後の選択肢は様々です」
 紆余曲折の末、行政書士という職業にたどり着いた阪本氏の言葉には真実の重みがある。

・事務所

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[『TACNEWS』日本の行政書士|2021年10月号]