日本のプロフェッショナル 日本の弁理士|2017年5月号

工藤 一郎氏
Profile

工藤 一郎氏

工藤一郎国際特許事務所 所長
特定侵害訴訟代理業務付記弁理士

工藤 一郎(くどういちろう)
1959年生まれ、兵庫県出身。1984年、大阪大学工学部卒業。同年、NEC関西(関西日本電気株式会社・当時)入社。開発研究部に配属、薄膜磁気ヘッドの開発に従事。その後、同社の特許センターへ異動。1996年、弁理士登録。1998年、NEC本社知的財産部渉外部に異動。特許権の行使、他社からの侵害警告対応、ライセンス交渉などに携わる。2000年4月1日、工藤一郎国際特許事務所設立。2004年、特定侵害訴訟代理業務試験合格。2016年4月、YKS特許評価株式会社を設立。

知的財産を売買する市場を作りたい。その実現のために弁理士になりました。

 弁理士の仕事といえば、特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産を守るために権利化をサポートする、手続代理業務というイメージが強い。ところが、そんな弁理士のイメージとはかけ離れて、企業の成長や価値向上に活用するために特許権を独自の評価方法で価値評価する「弁理士らしくない弁理士」がいる。工藤一郎国際特許事務所の所長弁理士・工藤一郎氏だ。工藤氏は、特許という無形資産の価値評価をすべく弁理士となり、「特許の価値評価を柱に、知財を売買する市場を作りたい」と、特許価値評価の第一人者となってビジネスを展開する。工藤氏の活躍から、弁理士の新たな挑戦を探求してみよう。

無形資産のディーリングビジネスを発想

 21世紀は知的財産の時代と言われる。知的財産の創造・保護・活用によって、企業の成長や利益の確保、価値の向上をめざす知的財産戦略がクローズアップされ、戦略を誤ると企業の存亡そのものが危ぶまれるとまで言われている。この時代を「企業の時価総額中に占める無形資産の割合は増大していて、無形資産が盛衰を決する時代であると言っても過言ではない」と表現するのは、工藤一郎国際特許事務所(以下、工藤事務所)の代表弁理士、工藤一郎氏だ。
有形資産の代表的なのものは株式、設備、不動産など。一方の無形資産といえば知的財産、人材、営業力、技能などが挙げられるが、無形であるからこそ、その価値を算定するのは難しい。「無形資産をうまく活用するには、その価値を的確に評価する必要があります。もしできなければ効率的な投資やM&Aを行うことも、資産を管理することもできません」と話す工藤氏の最大の特徴は、無形資産の価値を正確に評価できる点にある。特に無形資産の中でも特許権の独自の評価手法を開発し、特許を取得して、先手必勝の戦略を展開しているのである。
 兵庫県出身、今年58歳になる工藤氏が弁理士をめざしたのは、新卒で入社した大手電機メーカーに技術開発者として勤務している時だった。落合信彦氏の小説の中に出てきた、情報の売買でお金を稼ぐシーンに感銘を受け、自分もその主人公のように情報の売買をやってみたいと考えたことに端を発している。
 技術開発者として社会人のスタートを切った工藤氏だが、実は高校生の時から株や為替、情報の売買に大いに興味を持っており、経済学部に進学して為替ディーラーか、あるいは株・債券ディーラーになるという進路を考えていた。ところが技術者として活躍している父親の強い要望で理系に進学することになる。こうして大阪大学工学部に進学した後も、為替取引や株・債券ディーリングへの興味はなくならなかった。「知的財産の取引や流通」に関わりたいと思ったのも、憧れていたディーリングというビジネスが投影されているような気がしたからだ。
「自分自身が携わることができ、公開しても価値が損なわれない情報があるとしたら、それは特許権だろう。普通の財産であれば売買する市場があるのに、特許にはそれがない。なぜないのか。まだ時代が追いついていないからだろう。きっといつか特許を売買する市場ができる。そんな知的財産の流通事業を自分はやってみたい」という思いが、無形資産の価値評価を始める原点となった。「理系でもディーリングビジネスができそうだ」と閃いた瞬間である。
  「知的財産権を仕事にしているのは、どのような職業だろう」
 調べてたどり着いたのが、特許を専門とする資格「弁理士」だった。
 弁理士といえば特許出願が主たる業務で、申請のための膨大な明細書を書くのが仕事というイメージがある。特許権の流通事業を考えついた工藤氏は、過去に国家資格の取得を考えたことなどまったくなかった。むしろ逆輸入的に「特許権の取引をするならおそらくこれが一番近い資格だろう」と弁理士にたどり着いたかたちだ。将来的に特許権の市場ができる、それに関わりたいという思いから弁理士に。全国で1万人強いる弁理士の中で、このような経緯で弁理士となった人物は工藤氏の他にいないだろう。しかも、受験勉強を始めた当時はまだ世の中で知的財産が注目を浴びることはほとんどなかったし、ましてや特許権の取引という概念など、世の中にまったく存在しなかった。そんな中で弁理士試験にチャレンジした工藤氏は、ちょっと珍しい国家資格のめざし方で、前人未到の領域に踏み込もうとしたと言っていい。
 こうして弁理士試験の受験勉強をスタートしたのは1989年のこと。メーカーの開発研究部門で勉強を始めた工藤氏は、効率的な合格をめざして特許センターへの異動願いを出し、特許センターで働きながら8回目の挑戦で弁理士試験を突破した。

特許の価値評価で特許取得

 弁理士試験に合格した工藤氏は、「すぐに独立!」と思っていた。大手メーカーが知的財産の取引業務や価値評価をすることなど、まずないだろうと考えていたからだ。仕事のあてはなかったが、「新世紀にスタートしたい」と、2000年4月1日、工藤一郎国際特許事務所の看板を出した。
 といっても、当時は知的財産の取引業務や価値評価の仕事などほとんどない時代だ。工藤氏は前職で1996年に弁理士登録した後、1998年から知的財産部渉外部に異動となり、特許権の行使、他社からの侵害警告対応、ライセンス交渉・契約などに携わっていた。そのため「知財交渉や契約を得意とする弁理士」という触れ込みで、独立開業セミナーで知り合った人からライセンス契約のサポート業務を受け、それが最初の仕事になった。その後は当時ブームだったビジネスモデル特許に関する書籍を出版した反響で、特許出願案件も増えていった。事務所はゼロからのスタートながら、ライセンス契約サポートとビジネスモデル特許でうまく流れに乗って船出した。
  そして開業3年目、満を持して政府系ファンドから特許価値評価の大型案件依頼を受ける。いよいよ「特許の価値評価」業務の幕開けである。
「とにかく会う人会う人に『特許価値評価をやっています』と言い続けていました。そもそも、当時は特許の価値評価ができる弁理士は他にいなかったんです」と、工藤氏は話す。まだそれほど規模の大きくなかった工藤氏の事務所にこうした大型案件が舞い込んだのは、他に価値評価ができる弁理士がいなかったという側面があったのかもしれない。  ちなみに、特許の価値評価とはどのようなものだろう。わかりやすく噛み砕いて説明していただくと次のようになる。 「特許は、非常に価値があるかもしれないと言われながら、外からも内からもわからない知的財産のひとつです。企業にとってバランスシート上に載っていない隠れた資産ですね。企業が社外から買った特許についてはバランスシートに載せられるのですが、自社で開発したものは日本の会計基準では載せてはいけないことになっているので、バランスシート上に載ってこないんです。もしかすると、公表されている数値より財産価値のある特許を持っている企業があるかもしれません。そこでこの『目に見えない金脈』を明らかにして、潜在的な企業価値を顕在化させるのが特許の価値評価です。
 なにしろ、世の中の商品や財産の中で取引がほとんどされていない最後の財産が知的財産ですから、最後のフロンティアだと思っています」
 算定にあたってはかなり複雑な算定方法がある。最初の大型案件で使用したのは、工藤氏が作り上げた独自の特許権の評価手法「PQ手法」だ。その後、「YKS手法」も独自に開発し、知的財産を客観的に評価できるこれらの仕組みによって、特許という形のない資産を社会が認知する尺度を作ったのである。
 特許価値評価の算定方法の発明について、「度量衡というか、秦の始皇帝が中国統一した時に単位を揃えたのと同じで、判断できる尺度によって取引対象をはかれるし、それによってマーケットができてくる」と、工藤氏は話す。
 難解な手法についてわかる範囲で紹介してみると、PQ手法は一個一個の特許について価値評価する手法で、特許権がいかにキャッシュフローを生むかという観点から、特許権の金銭的価値を算出する。例えば、優れた技術であっても事業化の予定がまったくない特許などは、どれほど進歩性が高くても金銭価値はゼロと算定される。逆に、進歩性は低いけれど、すでに事業化されて多額の利益を生じている特許は高く評価する。ただし、特許には特許が無効になるリスク、技術が陳腐化するリスク、代替技術が出現するリスクなど、事業リスクとは異なる特有のリスクがある。これらのリスクについて特許から生じる将来のキャッシュフローを割り引くことで、現在における特許の金銭的価値(Present Value)を算出するのがPQ手法だ。PQ値の価値評価は、エンジェル投資家や金融機関からの信頼を得たいベンチャー企業や、融資の際の信用照会としてメガバンクに利用されている。
 一方、どこの企業が強くてどこの企業が弱いのか、自社全体と競争相手をベンチマークしてどこを強化すれば勝てるのか等々の戦略に使うのがYKS手法だ。PQ値が個別具体的な価値評価案件に適用する手法であるのに対して、YKS手法は総括的に日本の全特許を価値評価する時に適用するという、アプローチに大きな相違点がある。YKS手法の特徴は、まず特許の価値を「技術的に高度であるか」という観点ではなく「事業上、経済的な価値があるか」という観点から評価している点だ。また財務情報等を用いずに特許情報のみから作成し、特許ごとに第三者のアクション、または権利者のアクションをひとつずつ抽出してそのコストを集計しているため、緻密な評価ができる。さらに特許庁発行の情報をプログラムで分析して算出しているので、主観に左右されず常に客観的な評価ができる。そのため「特許力の観点から企業の競争力を評価」「優れた特許を持つM&A対象企業の選定」「投資、融資決定時の資料」「特定の技術分野における企業間の特許シェアの分析」「企業特許戦略の分析・改善」などに活用することができる。
 もっとも使われるのは知財部の活動を評価するために他社とのベンチマークをする、あるいは自分たちの活動が実際に投入した資源に対して充分な成果を挙げられているかを評価する時だという。海外の投資会社から投資の判断材料として株価の先行指標を知りたいという依頼もある。
「私の開発したYKS手法のように日本の全特許の価値を評価することは、過去に誰もしたことがなかったと思います。日本の全特許を毎月YKS手法で評価しているのです。このYKS値は経済的指標という性質を持っていて、例えば株価の先行指標や日銀のレポートでデフォルト率の推計指標になったり、売上高成長性の先行指標になったり、いわゆる企業の成長度や衰退を先んじて読む指標となっています」
 このYKS手法はWeb利用から端末型や紙ベースでの利用も可能なので、事業会社の知財部門への提供、大学や企業の就職情報としても使用することができる。企業の成長度合いがわかるので、特に大学への情報提供は学生にとって「今、有名でなくてもこれから成長する企業」を見つけられる有力な情報になる。この情報を大学の就職部やキャリアセンターが活用して、大学における「推薦企業リスト」の冊子を配っている大学もある。加えて、このYKS値は2007年に出願し、特許も取得しているので誰も真似することはできない。
「日本で同じようなことをしようとしている人はいないんじゃないですか。アメリカではYKS手法はかなり進んでいると考えている学者もおり、少なくとも私のような発想はアメリカでもないようです」と、工藤氏は自信のほどを見せる。
  さらに工藤事務所は株式会社QUICK(以下、QUICK)と共同サービスを展開し、株価の先行指標としてYKSのデータを提供している。工藤事務所が開発したYK値(企業技術競争指標)とQUICKが算出するQK値(YK値を時価総額で除した値)というふたつの指標から企業特許評価指標が構成されるという。
 特許の価値評価。この強みを持ったことで工藤事務所の特徴はわかりやすくなり、知名度は上がった。「まだまだ発展途上」と言いながら、高校時代の憧れだったディーリングへの思いがひとつのかたちになったと言っていい。
「技術を整理して価値をうまく伝える。有名な検索サイトがネット上で情報を整理して地図などをわかりやすく見やすくしていますね。あれを技術の世界で実現したいんです」と、目を輝かせる。次なる目標は「特許だけでなく技術が皆にわかりやすく理解できるような媒体となること」だ。

未来指標型YKS手法で世の中に影響を与えたい

 工藤事務所の業務内容は、PQ値・YKS手法の価値評価、M&A・技術移転サービス、出願・コンサルティング、大学・教育機関向けサービス、IFRS対応サービスと多岐にわたる。大学での就職情報サポートなど、これまでの弁理士業務からは想像もできないサービス展開に、「あまりにかけ離れていて皆さんの参考にはならないかもしれませんね」と笑顔で読者を気遣う。
 現在は出願業務や裁判関連業務といった弁理士業務が価値評価系よりも断然ボリュームは大きいが「今後は価値評価が大きくなるよう広げていきたい」と、工藤氏は話している。
 特許をベースにした、これまで考えられなかった新しいサービスの開発とも言える就職情報も学生からは好評のようで、「弁理士はこんなこともできるんだ」と感服してしまう。
「客観的に企業を評価する指標としては事業規模や財務状況といったものしかないのですが、それらは過去の活動の指標であって先行指標ではありません。これまでの信用情報は帝国データバンクなどが出している指標でしたが、これも過去の数字がもとなんですね。特許は先行指標になるので、学生にとって非常に貴重な情報だと思いますし、金融機関が取引先を決める際に活用する信用情報としては実に有用と言えます。
日本銀行では経営者の資質という帝国データバンクから出している指標と私たちの指標、そこに税務データを入れて『デフォルト率の推計指標』としてどれが役立つのかを分析してみたそうです。デフォルト、つまり倒産の可能性を見極める一番良い指標は何か。一番は銀行預金です。銀行預金がたくさんあると、倒産しないんですね。そして2番目に役立った指標が私たちのYKS手法でした。その他にも営業利益、棚卸資産、負債等々、いろいろな財務データがあるのですが、そうした種々の財務データを抑えてYKS値が2番手に来たということです。帝国データバンクの『経営者の資質』も健闘しましたが、YKS値にはかなわなかったのです」
 YKS値の指標としての信頼性はお墨付きなのである。
顧客は大手企業中心かと思いきや、「顧問先に上場企業もありますが、特許部や知財部を持っている規模の企業とは価値評価ではあまりお付き合いはありません。特許出願は中堅・中小企業やベンチャー企業規模で、社長やナンバー2の方たちと直接お話しできるレベルの企業とやっています。大手企業から依頼があればもちろんウェルカムですが、大手に対して全体をふわっと包むような私たちの総合的なサービスは相当難しいと思いますね」
 今後の事務所の目標について、価値評価に関しては、もっとメディアとしての機能を充実できるようにするのが目標で、特許分野としては顧客企業全体の成長をお手伝いしていくことが課題だという。そして今後さらにYKS手法で世の中に対する影響力を広めていきたいと抱負を語る。
 こうして実務に忙しい日々を送る中で、工藤氏は自分が弁理士だという意識をあまり持っていないという。「当面の目標はまずお客様がいかに事業で成功できるように援助するか。可能な限りお手伝いするのに、資格にこだわってはいない」という。
 弁理士をめざした当初の目標は知的財産の流通、特許の売買市場を作ることだった。その思いを実現すべくまい進し、今後の適用が進んでいく国際財務報告基準(IFRS)も視野に入れているが、ここに来て無形資産の価値評価における課題も見つかってきた。
 「IFRSを検討している中での大きな問題は活発な市場がないこと、そのせいで資産の再評価ができないことがあります。市場ができない、流動性が上がらない一番の理由は、知的財産が財産であると言われながら担保に差し出せない、換金性がないことです。本当に財産であるなら、銀行は知的財産を担保に融資をしてくれるはずなのに、知的財産は担保にはしにくいわけです」
 IFRSを導入すれば日本基準では計上されていなかった無形資産についても、一定の条件のもと資産計上しなければならなくなる。これまで以上に無形資産の価値、研究開発投資の意義を強く意識しなければならない。厚い壁に阻まれながら、工藤氏はIFRSの課題から活発な特許の売買市場を作りたいという思いが改めて強くなり、特許売買のためのファンド組成を提案中だ。

仕事を通じて社会にどう貢献するか

 現在、事務所の陣容は、総勢20名(弁理士5名、弁護士1名含む)。事務所の規模にこだわってこなかった工藤氏は、「意図的に大きくしてきたわけでも、小さくしようとしてきたわけでもない」と言う。今後も必要に応じて人を採用し、自然の成り行きに任せていく。
 裁判案件に対応するため、現在は弁護士を積極的に採用しているが、弁理士を採用する際には「ストレス耐性が強い人」を選びたいと話している。
「特に特許出願は時間の期限があるので、仕事が積み上がりがちです。そうすると相当なプレッシャーになる。他の特許事務所もそうでしょうけれど、仕事量が増えてくると精神的に圧迫されるのでストレスに強い人がいいと考えています。
 価値評価のほうで期待される素養は、社会構造を知っていることですね。技術一本で社会のことがわからないではなくて、文系の頭というか、『現状はこういう企業がこういうことをしている』とパっとわかるような方です。特に全業種に渡って企業活動についてある程度の常識を持っている方が理想です。特許が絡むのは基本的にメーカーなので全メーカーの分析ができることを期待していますが、それには相当なカバレッジが必要です。実際には弁理士でも全業種がわかる人はあまりいません」
 売上規模的には、現在は特許と価値評価が3対1の割合となっているが、「価値評価をもっと成長させていこう」と、企業成長を主軸に据えている工藤氏は、2016年に「YKS特許評価株式会社」を設立した。将来的に価値評価はすべてそちらに移行し、特許事務所と完全に棲み分けしていく方向で動いている。今後、価値評価の事業規模が大きくなるのを見越してのことである。
 高校時代に憧れていたディーリングの世界を弁理士となって実現してきた工藤氏から、これから弁理士をめざす若者が工藤氏のように新たな展開をしていきたいと考えた時、果たしてできるのかどうかを聞いてみた。
「新しい着想は大事です。そして、社会の仕組みに興味を持っていると、何かしら新しい仕事につながるのではないでしょうか。私の場合は真逆で、先にやりたいことがあって、資格を取ったので、そこは発想が違うかもしれませんが」
 工藤氏個人の業務比率は、実務98%、マネジメント2%未満。そう言ってのけるほど、今も実務中心の生活をしている。「今、元大手カメラメーカーの特許事業部長をやっていらした方に来ていただいて、毎週スタッフ全員と面談してもらっています。あえて言えばそれがマネジメント。上位概念的な仕事の話はそこでやってもらうのです」
 20名規模の組織で所長がマネジメントをしないという話は聞いたことがないが、それが工藤流マネジメントらしい。
 担当者に割り振れない仕事は休日に出社してこなし、お客様との打ち合わせが土日になることもある。特許の仕事も納期が短いものについては休みも関係なくこなすので、工藤氏の土日出社率は高い。
「他にもM&Aや技術移転といった業務はスタッフに全面的には任せられないので、土日にお客様に来ていただいて打ち合わせをしています」と屈託なく笑顔で答える。本当に実務が好きで仕方がない。そんな工藤氏の一面が垣間見れる。
 M&Aや技術移転といった対外的な業務を、工藤氏はよく「ふわっとした仕事」と表現する。ただし「ふわっと」していても技術的な内容もあるので技術と理論の融合領域と言える。仕事が増えてきている昨今、事務所に来る「ふわっとした業務」をすべて一人でこなしていくには、そろそろ限界かもしれない。「自分の代わりを探したり、育てないといけないんでしょうね」と、つぶやいた工藤氏の一言が印象的だった。
 『TACNEWS』の読者にも価値評価と同様、厳しいが将来を明確に分析して指標となるメッセージをくれた。 「資格が最終目標ではつらいです。弁理士は、ただ儲かるからやるではちょっと大変な仕事です。やはり資格の先にある目標を思い描きながら、自分が好きな仕事がその先にあるんだという目標に向けてがんばっていただきたいですね。
 弁理士という仕事の領域にはまだまだこれから広がる部分、成長の余地はあると思います。そこで弁理士の資格領域にだけ固執していると発展成長は難しいでしょう。特許出願の明細書を1000枚書いたら一人前と思い込んでいてはダメです。今後はAIがどんどん出てくるので、そうした領域は成長領域ではなくなってきます。その時、何かに長けているというのは、やはり新しい発想ができたり、何かを変えることが大事だと思います。『経済的に発展するのが本当にいいことなのか』は疑問で、経済的に発展することしかめざしていないために、お金のことを追求しすぎている企業もあると思います。もっと企業価値や企業の社会的意義、社会に与える影響を考えることが社会における存在理由になるのではないでしょうか。それは究極的に人間の幸せは何かに行き着きます」
 仕事を通じて社会にどう貢献していくのか。そこで貢献することが自分にとっての幸せであることと「ニアリーイコール」であれば、それが一番いいと工藤氏は表現している。資格取得をめざす読者にとっても、最終的にはそれが一番の幸せのはずだ。そう思い描きながら、自らのゴールを決めて欲しい。

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