特集 共同代表が経営する相続特化の税理士法人

大塚 英司氏、角田 壮平氏
Profile

大塚 英司(おおつか えいじ)氏(左)

税理士法人トゥモローズ
代表税理士 行政書士


角田 壮平(つのだ そうへい)氏(右)

税理士法人トゥモローズ
代表税理士 行政書士

税理士法人トゥモローズHP

大手税理士法人勤務時代の同期だったふたりが、自分たちの夢を追って独立開業したのは2015年。開業当初に打ち出していた事業承継業務から、相続業務だけに絞った特化型事務所に進路変更して以来、相続税申告や相続対策の依頼は毎年200件を超えるようになった。角田壮平氏と大塚英司氏は、どのような思いで税理士をめざしたのだろうか。その経緯から勤務時代、そして相続特化型事務所としての地位を揺るぎないものにした現在まで、ふたりの軌跡を追った。

めざすのは相続コンサルティングのリーディングカンパニー

──おふたりが共同代表を務める税理士法人トゥモローズについて、ご紹介ください。

角田 税理士法人トゥモローズ(以下、トゥモローズ)は、相続特化型の税理士法人として2015年に設立しました。相続税申告や遺産分割だけでなく、将来的には不動産や資産運用といった相続にまつわるすべてのサービスをワンストップで提供できるグループをめざしています。
 私たちは「トゥモローズウェイ」=「相続コンサルティングのリーディングカンパニーを作る」というミッションステートメントを掲げています。このミッションのもと、日本でトップの相続コンサルティングカンパニーをめざしています。

大塚 私たちの理念は「お客様の思いを幸せな明日へ」です。遺産はもちろん、相続にまつわる「思い」を相続人につなげて、「相続といえばトゥモローズ」と言われるようになることをめざしています。

角田 相続の中で思いを「つなぐ」場面で困っている方のサポートをしたいと考えているので、相続発生前であっても、相続額が少なくても、少しでも相続に不安を感じたり悩みがあったりするのであれば、ご相談いただきたいと思っています。

──2015年当時、相続税専門を謳う税理士法人はすでにあったと思います。そのような中で、あえて相続に特化した法人としてスタートした理由をお聞かせください。

角田 私たちが開業した当時、まだ本当の意味で相続にまつわる様々な案件を丸ごと抱えられる法人はあまりなかったと記憶しています。相続税申告件数で見ても、大手法人でも全体の1%のシェアを取っているところはほとんどありませんでした。ということは、自分たちの特長さえ打ち出せれば、相続の分野で大きな成長が見込めるのではと、相続特化に舵を切ることを決断したのです。
 以前は、相続案件は相続が発生したあとで金融機関などから紹介されるケースがほとんどでした。しかし最近では、相続に関する情報収集を積極的に行う相続リテラシーの高い相続人の方が、ご自分でWebサイトから税理士を探すようになっています。トゥモローズはWebサイト経由での集客をメインにしているので、今後さらに依頼が増えると想定しています。

大塚 Web検索で来てくださる相続人の方と面談すると、あれこれ調べた結果として「相続ならトゥモローズに頼みたいと思った」と言ってくださる方が大勢いらっしゃいます。角田が執筆した相続についてのブログ記事を読んで「ファンになったから」という方も相当数います。

──Web検索からの依頼者は、どのような調べ方をされているのでしょうか。

大塚 「相続税専門税理士」で検索されることが多いようです。小規模宅地特例や名義預金で検索してトゥモローズの記事がヒットして、「もっとじっくり話を聞きたい」と来社されることが多いですね。

──数ある税理士法人の中からトゥモローズが選ばれる理由をどうお考えですか。

角田 ずばり私たちの特色である「人」です。人間力と専門性で相続コンサルティングのリーディングカンパニーを作っていくことがミッションステートメントなので、採用でも「性格のよさ」や「人間性」に焦点を絞っています。現在、事務所にいるメンバーも、性格のいい人しかいません。新しく入ってくる方も、性格のいい人の集団に飛び込むので、変にひねくれたりもせず性格のいい人になる。すると事務所の雰囲気はさらによくなります。実際に来社いただき担当者と話すことで「この事務所なら安心」「この人になら任せられる」と安心感を抱いていただけることが、選ばれる理由のひとつではないかと思っています。

直接会えることも重要な要素

──トゥモローズは日本橋オフィスの他に新宿と横浜に拠点があります。拠点展開は最初から計画されていたのですか。

角田 そうですね。最近はオンラインによるご相談も増えていますが、相続は家族内のデリケートな話もしなければならないので、すべてオンラインで済ませるのは抵抗があるというお客様もいらっしゃるはずです。直接会ってから依頼する税理士を決めたいというニーズもかなり多いので、拠点は非常に重要だと考えています。
 横浜支店は2022年6月に立ち上げたばかりですが、開設をWebサイトで知ってご来社くださる方が大勢います。新宿支店を開設した経緯も、「トゥモローズは日本橋にあるからちょっと遠い。新宿など近くにあれば頼みたいのに」という声があったからです。日本橋オフィスは江東区や墨田区、東京の東側、千葉県の方にとっては比較的アクセスがいいのですが、東京23区外や世田谷区など東京の西側の方には遠いイメージがあるようですね。
 このように相談しやすいエリアに拠点があることが集客の重要な要素になっているので、将来的には全国に拠点を広げて、直接お会いできる体制を築いていきたいと考えています。

──ワンストップで相続を見ていくとのことですが、どのようなグループ体制をお考えですか。

角田 グループ化によって、相続に関して必要な部門はすべて社内に設置していこうと考えています。2021年に不動産事業部を立ち上げたので、すでに不動産のプロフェッショナルは社内に在籍しています。今後は司法書士や行政書士をメンバーに加え、資産運用、生命保険などの業務も一括でできる体制をめざしていきます。

──角田さんと大塚さんも、行政書士登録をされていますね。

大塚 遺産分割協議書を作るにあたり行政書士資格が必要だったので、2018年にふたり同じタイミングで登録して行政書士事務所の看板を出しました。実は、不動産登記以外の名義変更や預金の名義変更などを依頼されるケースも多いので、今後は行政書士を採用して行政書士法人を設立する予定です。

社会で生き抜く「武器」を得るため税理士をめざす

──もともと、大塚さんはなぜ税理士をめざしたのですか。

大塚 学生時代は、通っていた高校が大学付属の一貫校だったので、高校・大学の7年間は全力を注いで勉強する機会がありませんでした。しかし就職活動期を迎える頃、時代は就職氷河期の真っ只中です。「何か武器になるものがないと戦えないのでは」と感じていたとき、周りに公認会計士(以下、会計士)をめざしている友人がいたので、自分も資格取得にチャレンジしようと考え、1科目ずつ取得できる科目合格制の税理士にチャレンジすることにしたのです。
 大学3年から受験勉強を始め、卒業後は1年間、受験に専念しました。その後、医業専門の会計事務所で働きながら受験勉強を続けましたが、一度は大手税理士法人で働いてみたいと思い、2008年に新日本アーンスト・アンド・ヤング税理士法人(現:EY税理士法人。以下、EY)に転職しました。税理士試験の合格状況としては、簿記論、財務諸表論、消費税法に合格してからEYに入り、入所1年目に法人税法に合格。その後、相続税法に合格し、税理士登録したのが29歳のときでした。
 EYでは、上場企業や外資系企業のクライアントに対してプロジェクトチームで対応する仕事の魅力を知りましたね。実は角田はEYの同期で、彼は事業承継専門の部署、私は公益法人部門と、配属は違うものの2つ隣の席で仕事をしていました。

──大塚さんは公益法人部門の配属だったのですね。

大塚 そうです。私たちの入社した時期はEYの大量採用時代で、同期だけで60名いました。ちょうどEYで新人を対象にした教育制度が導入された年でしたので、まずは様々な部署からアサインされた仕事をこなしていくことで経験を積みました。私は英語があまり得意でなかったので国内系事業部を希望し、公益法人部門に入りました。EYではずっと公益法人の業務に従事しました。

──角田さんと大塚さんの間で「共同代表で税理士法人を設立しよう」という話が出てきたのはいつ頃ですか。

大塚 角田が先にEYを出て相続専門の税理士法人に入っていましたが、その後も同期何名かで集まる機会があると「何かやりたいね」という話をしていました。角田と一緒に税理士法人を設立しようと具体的な話になったのは2014年頃です。税理士は独立できる点が魅力だと思っていたので、いつかは独立したいという思いがある中、独立するならこのタイミングだと決断しました。

── ひとりで独立開業しようとは考えなかったのですか。

大塚 独立して成功している同期や先輩がたくさんいたので、独立そのものに対する不安はありませんでしたが、当時はひとりで独立するイメージを持てなかったのです。もし自分だけで独立していたら、今のような相続専門特化型の事務所ではなくて、よろず相談所のような街の会計事務所になっていただろうと思いますね。


角田 壮平(つのだ そうへい)氏
東京都江戸川区生まれ。大学4年から税理士をめざし、卒業後2年間受験に専念。2科目合格で会計事務所に入所。その後、税理士法人に転職し法人顧問業務に従事。2008年、新日本アーンスト・アンド・ヤング税理士法人(現:EY税理士法人)に転職。入所後、税理士試験合格。事業承継・資産税部門で実務経験を積み、2011年、税理士法人チェスターに転職。2012年、同法人専務役員就任。2015年、税理士法人トゥモローズを設立し代表に就任。2018年、行政書士登録。

士業の家系で育ち税理士へ

──角田さんはどのような経緯で税理士になられたのですか。

角田 私の親族には士業が多く、父は弁護士、父の兄弟はみな会計士や税理士でした。母方の兄弟も医師と専門家ばかりの家系だったので、私も何かの専門家になるんだろうなと小さい頃から思っていました。
 そうして大学4年になったあるとき、「自分も弁護士になろうと思う」と父に話したのですが、すぐに「やめたほうがいい」と言われました。私の素行を見て、遊んでばかりで机に向かって勉強するタイプではないと思っていたのでしょう。「弁護士がダメなら、伯父さんと同じ会計士にする。だからTAC会計士講座の受講料を出してほしい」と言うと、これも「やめたほうがいい」と言われました。最後に「税理士をめざす」と言ったら、やっと「がんばってみろ」と言ってくれました。おそらく父は、税理士試験は科目合格制だから1科目ずつ時間をかけて受験することもできるし、もし合格できなくても、ある程度勉強していれば伯父の会計事務所で働くこともできるはずと考えたのでしょう。

──すると税理士をめざしたのは大学4年からなのですね。

角田 はい。大学時代はサーフィンに熱中していて、みんなの就職活動が終わった大学4年になってから、初めて資格を取りたいという話を父にしました。弁護士をめざす人はほとんど全員が大学1年から司法試験の勉強をしますから、「なめてるのか!」と言われても仕方ないですよね(笑)。
 こうして就職活動もせずに、卒業後2年間は受験勉強に専念。その間、簿記論と財務諸表論に合格し、法人税法には2回失敗しました。3回目の本試験後の9月からは渋谷の会計事務所に入り、その年の12月に法人税法と固定資産税に合格して税理士法人に転職しました。そこでは法人顧問をメインに担当し、2年後、一度は「Big4」と呼ばれる大手税理士法人で経験を積んでみたいという思いからEYに転職したのです。

──EYではどのような仕事を担当されましたか。

角田 先ほど大塚の話にもありましたが、私たちが入った年にEYでは新人を対象にした教育制度が始まりました。私たちはその1期生として、申告書作成業務をメインにいろいろな部門から業務をもらい、基本的に3年間で自分のやりたい分野を探すことになったのです。事業承継や資産税の仕事をやりたかった私は、いろいろな部門から来る業務の中でも特に事業承継部門の業務はきちんと取り組もうと決めました。そこでハイパフォーマンスを出して一定の基準値を超えれば、職階がワンランクアップしてシニアになれます。こうして選択と集中で取り組んだ結果、事業承継部門に配属してもらえました。

── なぜ、事業承継に興味を持ったのでしょうか。

角田 20年、30年後には、中小企業経営者の後継者問題により大相続時代になる。すると相続のニーズは想像を超えて大きくなるだろうし、団塊の世代の大廃業時代も来るだろうから事業承継ニーズは絶対に増大するだろう。そう考えていたからです。もともと、税理士になるからには何か専門分野を作りたいと思っていたので、特化する分野を事業承継と資産税に決め、Big4の中でも事業承継・資産税部門があるEYを転職先に選びました。
 EYの事業承継部門には業務未経験で入ったので、2年間、ひたすら非上場の大企業の事業承継に絡む株価評価や財産評価をやっていましたね。そして、相続や事業承継をもっと深く学びたいと、相続特化型のチェスター税理士法人(以下、チェスター)に転職しました。

──相続専門の税理士法人の中でもチェスターに転職した理由を教えてください。

角田 代表の会計士・税理士の福留正明氏、荒巻善宏氏のふたりに面接してもらったとき、ふたりの目がとても輝いていたのを見て「ぜひ自分も一緒に働きたい!」と熱い思いに駆られたからです。私はその面接で「パートナーとして雇ってほしい」と提案しました。初めて会って1~2時間ですから、自分でもとても生意気な提案だったと思います(笑)。にもかかわらず、驚いたことにふたりは「考えさせてほしい」と言ってくれました。当時のチェスターは5名程度の組織で、これから伸びていこうというタイミングでしたから、実務を任せられる人材が必要だったのでしょう。

── お返事はいかがでしたか。

角田 最初からパートナーは無理だが、勤務税理士として1年間、働き方や性格を見させてほしいとのことでした。私としては願ったり叶ったりです。そして1年後、パートナーになりました。
 パートナーになってからは、300件を超える相続税申告と並行して専務理事という肩書きで組織マネジメントや人材育成に注力しました。パートナーとしての働き方は毎日刺激的で充実した日々でした。やる気もそうですし、税理士法人のパートナーは無限連帯責任を負いますから、何かあれば自分の財産を失う可能性があります。だから必死でしたね。

──念願だったパートナーに就任したにもかかわらず、2015年にトゥモローズを設立されました。そのときの気持ちの変化やタイミングについてお聞かせください。

角田 正直、ずっとチェスターにいてもまったく問題なかったと思っています。ただやはり、チェスターは福留氏と荒巻氏の会社です。私もゼロから自分の会社を作りたかったので、大塚との共同代表の道を選びました。


大塚 英司(おおつか えいじ)氏
埼玉県所沢市生まれ。大学3年から税理士をめざし、卒業後1年間受験に専念。2年間の中規模税理士法人勤務を経て、2008年、新日本アーンスト・アンド・ヤング税理士法人(現:EY税理士法人)入所。入所後、税理士試験合格。7年間、公益法人部門に在籍。2015年、税理士法人トゥモローズを設立し代表に就任。2018年、行政書士登録。

「事業承継」から「相続のみ」に方針転換

──設立当初はいかがでしたか。

角田 顧問先も何もない状態で、レンタルオフィスを借りてずっとふたりでやっていました。
 業務に関しては、私が相続のプロ、大塚が法人のプロという建て付けで事業承継を打ち出したのですが、鳴かず飛ばずでした。Webサイトで集客したり、紹介を求めて交流会に参加したり、金融機関を回ったりしましたが、仕事にはつながりませんでしたね。
 また、事業承継の場合にはこの業務をこなせる人材が少ないことから組織を拡大することは難しいと考えました。それにWebサイト経由では企業相手の事業承継案件はなかなか獲得できません。そうなるとやはり個人相手の相続案件を専門にしたほうが世の中に価値を生み出せるし、組織も大きくできると考えて、2年目に潔く事業承継は諦めることにしました。

大塚 大手士業法人ならいざ知らず、私たちのようなベンチャー法人で大きな案件を扱える優秀な税理士を集め、良い案件を集め、リスクを抑えながらやるというのは、本当に難しいことでした。結果、事業承継税制が始まる頃までは扱っていましたが、ほとんど事業としては成立しませんでしたね。逆に事業承継業務をやめる決断をしてから、一気に相続の依頼と事務所内の人数が増えたのです。

──相続案件に絞る際、Webサイトでの集客方法などは変えたのですか。

大塚 相続案件については事業承継と同時並行で、主に紹介で相続税申告の依頼を受けていました。ですからやり方を変えたというより、2年間毎週1本ずつWebサイトにアップしていた相続特集記事が徐々に読まれるようになって、Webサイトも少しずつリニューアルして、その積み重ねに加えてWebサイトで事業承継を取り下げて相続を全面に打ち出したタイミングがよかったのでしょう。

── 相続専門に舵を切った段階で、スタッフは何名でしたか。

角田 当時は雑務を担当する事務スタッフだけで、税務実務を担うスタッフはいませんでした。税理士を採用し始めたのは2019年からです。

大塚 2019年は相続案件が増えたこともありましたが、事務所を成長させるためにコンテンツマーケティングや営業活動にも積極的に取り組もうとしていたので、スタッフを増やすタイミングでした。
 2022年7月現在、税理士法人だけで20名(うち、税理士6名)になりました。年々仕事が増えている状況ですから、今後も人は増やしていく方向です。

角田 毎年年初にその年の目標を決めるのですが、ここ3~4年は毎年目標をクリアできています。
 年に1回、6月決算を終えたら、毎年オフサイドミーティングと称してスタッフの昇進や決算賞与、向こう1年間の事務所の方向性などを決めるために、大塚と地方に出て2日間ほどホテルに缶詰めになって話し合います。2020年は博多、2021年は大阪でした。実は私の趣味はランニングで、年間1,500kmほど走っているのですが、旅先でも走りながら、どんな街か、拠点を出す価値はありそうか、金融機関の場所や税理士法人はどのあたりにあるのかなどをチェックして回ります。博多や大阪は将来支店開設を考えている地域なので走り甲斐がありました。

──おもしろいやり方ですね。今後に向けて、新たな目標はありますか。

角田 実は私の個人的目標として、相続業務ができる相続税理士や相続コンサルタントを育てたいという思いがあります。そこで、部門編成の中で社内に『トゥモローズ相続大学』を作りました。私が学長として部門長を務め、今いる30歳前後の若手税理士志望者や税理士4名を集め、次世代の相続業界のリーダーを育成する目的で、日々切磋琢磨しています。

大塚 私の目標は、2022年のうちに支店を1つ増やすことです。ここ数年は毎年支店を作ってきているので、ぜひ実現したいと思います。あとは、目標増員数達成と売上目標の達成ですね。

──事務所内で、おふたりはどのように役割分担されているのでしょうか。

大塚 営業面では私が取引先の士業や紹介先の開拓担当で、角田がデジタルマーケティング担当ということで棲み分けをしています。地上戦と空中戦のイメージですね。

角田 実務面では大塚が人事マネジメント、私が品質管理をする審査部の部門長を担当していて、基本的に私がすべての案件に目を通すようにしています。ただし私たちが手を動かすような手持ちの案件はできる限り減らし、スタッフにメインで顧客を担当してもらっています。

相続分野はAIでは解決できない

──人材採用の際、資格の有無や科目合格の数は条件にしていますか。

角田 必ず資格を持っていなければいけないということはありませんし、資格の取得をめざしていなくても採用しています。もちろん資格を持っていればなおよしですし、科目合格で税理士をめざしている方もウェルカムです。事務所内には税理士受験生もいるので、資格取得は応援するスタンスですね。スタッフは、残業がある勤務形態か、残業がない勤務形態かを選べますし、自己裁量でテレワークも可能です。受験生は周囲もサポートするので受験勉強しやすい環境が整っています。

──今後、幅広い士業を取り込んでいくとのお話がありましたが、グループ全体でどのくらいの規模を想定していますか。

角田 直近の目標として、5年で少なくとも100名規模にはしていきたいと考えています。

大塚 支店も現在の3ヵ所から6~7ヵ所にしていきたいですね。

──共同代表として、良い関係を維持できている秘訣を教えてください。

角田 やはりビジョンの共有が最も大事ですね。そして報酬もまったく同じにしています。最後はお互いに対する敬意と感謝しかないと思います。

大塚 長年一緒にいますが、私たちはケンカもしたことがないんです。ふたりとも争いを好まない性格ということもあるかもしれませんが、お互いの意見をすり合わせて、角田の考えていることはこんな感じだろうなという方向に向かって、自分も動いていくイメージです。

角田 私はお客様に会う業務がなければテレワークで週5日在宅勤務でもいいと思っているのですが、それは大塚を信頼しているからに他なりません。人事マネジメントは大塚に任せておけば間違いない。私が現場にいなくてもいい。これはとてもありがたいです。

大塚 背景には、実際にスタッフが順調に育ってきていることもあります。2~3年かけてジュニアからシニアに育ったスタッフが、今、中間管理職としてスタッフをまとめてくれるしくみができつつあります。スタッフの成長はすばらしく、みんな素直でときには苦しみながらも楽しそうに仕事しています。

角田 私も人が育っていくのが何より楽しみですね。初回面談後の受注率が私よりも高い税理士も出てきています。
 税務に関しては、『トゥモローズ相続大学』で相続の知識をすべて伝えたいという気持ちで教えています。あとはスタッフにも経営者マインドを持ってもらいたいので、私の思っていること、経営者として考えていることを、週1回のミーティングで素直に伝えています。

──最後に、資格取得をめざしている読者にメッセージをお願いします。

角田 士業の仕事がAIに取って代わられると言われるようになり、資格取得をめざす若い人が少なくなっていますが、だからこそ、今は逆にブルーオーシャンだと思っています。税理士や会計士は世の中に必要な仕事で、AIには担えない部分がたくさんあります。まさに相続などは、人の感情面や気持ちの面をどのようにしてすり合わせるのか、そこに我々がどのように入り込んで解決していくのかといった、AIには解決できない要素がたくさんあります。ぜひ若い方に税理士業界に入ってきていただいて、一緒に解決してほしいと願っています。

大塚 相続における「人間の感情の部分」は、AIには解決できない、人間だからこその力を発揮できる分野だと思います。若い方が20代から相続に特化し、30~40代でさらに専門性を磨いていけば、第一線で活躍できる相続の専門家に成長できるはずです。ぜひ、がんばってください。

──ありがとうございました。

[『TACNEWS』 2022年11月号|特集]