特集 「手に職」をめざせる電気工事士の魅力

三原 政次先生&徳永 智明先生
Profile

三原 政次(みはら まさじ)先生(左)

TAC電気工事士講座 講師

1950年鹿児島県生まれ。東芝テクノネットワーク(株)を経て「オフィスみはら」として電気工事や家電製品についての講師業を開設。現在は大学非常勤講師、企業講師としても活躍。

徳永 智明(とくなが ともあき)先生(右)

TAC電気工事士講座 講師

1957年熊本県生まれ。NTTなど通信系企業を経て、現在は大学の電気主任技術者関連実験担当、無線技術士や電気通信工事士資格塾講師としても活躍。

私たちの日常生活に欠かすことのできない「電気」。その電気に関連した資格として、資格の学校TACでは「電気主任技術者試験(電験三種・電験二種)」講座を開講しているが、より多くの電気関連業務に精通した人材を育成するために、電気にまつわる幅広い作業と工事を担う「電気工事士」講座を2020年8月より新規開講した。電気工事士資格の概要と試験内容、電気主任技術者との違い、身につくスキル、取得後に活躍できるフィールドについて、TAC電気工事士講座(第二種)で講師を務める三原政次先生と徳永智明先生にお話をうかがった。

「電気」にまつわる幅広い作業に必要な国家資格

──電気工事士とはどのような資格か、教えてください。

三原 今、私たちの身の周りにあるものは、ほとんどが電気を使うものばかりです。電気工事士は、住宅・店舗の配線工事やビルの電気設備管理をはじめ、鉄道に関する電気の取り扱いまで、電気にまつわる幅広い作業・工事の際に必要な国家資格です。電気関連の設備・管理・修繕をするのに必要なので、私たちが住んでいる空間のありとあらゆる場所に関わりのある、インフラを支えるためには必要不可欠な資格といえます。
 以前は生活の中で電気を扱う範囲というのはもっと限られていたため、電気工事士の資格も電気工事業や工務店といった特定の職種や仕事で使う資格でした。しかし電気が日常のあらゆるところで使われるようになった今では、幅広い仕事の現場で必要とされる資格になりました。最近では、一見すると電気にまったく関係ないような仕事をしている人が取得しているケースもよくありますし、理系・文系問わず幅広い層の方が取得する資格になっています。

徳永 電気工事士は、第一種と第二種に分かれています。第二種が扱える範囲は「一般住宅」「小規模な店舗・事業所等」「家庭用太陽光発電設備」などの一般用電気工作物といわれる600ボルト以下で受電する電気設備で、第一種は、第二種の範囲に加えて最大電力500キロワット未満の工場、ビルなどの自家用電気工作物などの工事も可能となっています。
 簡単にいうと、第二種は皆さんが住んでいるマンションや一戸建ての分電盤からコンセントへの工事ができる資格です。第一種はさらに、大きなビルや商店の中で使う自家用電気設備の工事もできます。第一種の作業範囲は最大電力500キロワット未満の工場やビルと法律上決められていますが、一般的にビルや大規模の工場などは電力会社から6,600ボルト以上で受電している場合が多いので、最大電力が500キロワットを超えた場合は、第一種電気工事士ではできません。この場合は、電気主任技術者の指導・監督のもと、電気工事士が工事を行うことになっています。

──今のお話に出た電気主任技術者は、電気工事士とどのような違いがありますか。

三原 学習内容では重複するところもありますが、電気主任技術者はあくまでも保安・監督のための資格です。その指示のもと、実際に工事現場で手を動かして作業するのが電気工事士です。例えば、電気主任技術者が現場をチェックして絶縁体に不具合があると判断したら、電気工事士が実際に修繕箇所を見つけ工事をすることになります。

──電気工事をするために国家資格が必要ということは、自宅のコンセントが壊れた場合に、電球を替えるような感覚で素人が自分で直そうとしてはいけないのでしょうか。

徳永 コードの修繕はしてもいいのですが、一般家庭の電源用ケーブルの配線やコンセントなどの取り付けは、電気工事士でなければしてはいけません。延長コードを自分で作ったり、機器のコードを直したりする場合は誰でも扱えますが、壁に付いているコンセントやスイッチはケーブルにつながっていますから、有資格者でなければ触ってはならないと定められているのです。

三原 最近のコンセントは差し込み方式なので何となくいじってもいいような気がしてしまいますが、差込線の太さには条件があります。例えばエアコンの「渡り線」という、室内の壁に取り付けられたエアコン本体と家の外にある室外機とをつなぐ線は、通常直径2mmの太さのケーブルを使用するようにと決められています。ところが過去には「細いほうが値段が安いから」ということで直径1.6mmのケーブルを使い自分で取り付けようとする素人の方がいたのです。差し込みは2mmに合うように作られていますが、1.6mmでもエアコンが動くことは動きます。ただ、1.6mmのケーブルでは圧着度が弱くなってしまうので、10年ほど経つとそこが熱を持ってボヤなどの事故につながってしまうおそれがあるため、危険性を考慮して、10年ほど前に経済産業省から、特にエアコンを据え付けるときは有資格者が設置するようにとの通達が出ました。こうした安全性に対する意識の差が、素人とプロの違いになってきます。
 電気はエネルギーです。その電気エネルギーが暴れ出したら、火災や事故につながってしまいますから、ケーブル工事は有資格者でなければできないということなのです。

筆記試験は約60%、技能試験は約70%の合格率

──電気工事士試験の概要についてお聞かせください。

徳永 電気工事は、誤った施工を行うと電気火災などの原因になるなど、危険を伴うものです。そこで学習内容として、安全な電線の接続方法やコンセントなどの器具との結線方法、金属管などを使用した場合の配線方法などを学びます。
 数学的知識のレベルは、通常の四則演算と分数の計算ができれば大丈夫でしょう。強いていえば、複素数と三角関数等について少し知っていると、交流の勉強がわかりやすくなります。微積分などの知識は不要ですね。
 試験は筆記試験と技能試験が年2回実施され、筆記試験は約60%、技能試験は約70%の合格率で推移しています。筆記試験は電気に関する基礎理論や電気工事の施工方法に関するマークシート方式で2時間50問です。筆記試験に合格したあとは、実際にケーブル配線と電気機器接続を行う実技試験が行われます。この技能試験では、機器類やケーブルは提供されますが、工具は自分で持参します。そして第二種の場合は、技能試験に合格するともらえる合格証を自分が住んでいる都道府県庁に申請して免状に代えてもらうことで、電気工事士として仕事ができるようになります。

三原 第一種の場合は、試験方法は同じですが、学習内容に高圧電力がプラスされます。そして試験合格後は、原則5年間の実務経験を経なければ、第一種の免状をもらうことができません。免状がなければ実務ができないので、第一種までめざす場合には、先に第二種を取得して、第一種の免状が交付される要件となる実務経験を積みながら、第一種試験の合格をめざす、という流れが必要ですね。

──第二種で学ぶのはどのような内容ですか。

徳永 電気回路やオームの法則といった電気の基礎的内容です。加えて、電気の施工に関する「このコンセントにはどの程度の太さのコードをつけなければいけないか」「ブレーカーの取り付けはどう処理しなければいけないか」「このケーブルには何アンペアの電流を流すことができるか」といった、工事の概要全般と配線の方法が出題されます。わかりやすく言うと、ブレーカーのある配電盤から先の工事は第二種で扱うことができるので、その部分に関する問題と電気理論を学びます。

三原 電気設備の技術基準で、電流の大きさによって使用するケーブルの太さが決められています。壁の中にある電気ケーブルも、20アンペアなら大丈夫でも、30アンペアの電気が流れたらそこに熱が出ます。すると火災の可能性が出てくるわけです。そこで「火事にならないためには最低これくらいの太さでなければいけない」「このコンセントで流せるのは何百ワットまでである」などと決められています。その危険性をわかっていただくために、この試験があるのです。

──筆記試験の内容は暗記が多いですか。それとも計算が多いですか。

三原 実際の仕事に関する部分や工事に絡むことは暗記がほとんどなので、私は8割は暗記だと捉えています。また電気工事士試験では電卓が使えないので、計算問題は手計算で解答できる中学生レベルです。ちなみに第一種の筆記試験も電卓は使えませんが、多少面倒な問題があるので中学生レベルというと厳しいかもしれませんね。また、電気主任技術者試験になると筆記試験で電卓を使うので、そこは数学的知識がある程度必要になってきます。

適切な試験対策が必要な技能試験

──お話をうかがっていると第二種は比較的取り組みやすそうですね。

三原 第二種の筆記試験に合格するためには、最低でも過去の試験問題を2年分、つまり全4回分しっかりと勉強することが大事です。多くても4~5年分の全8~10回分に取り組めば十分ですね。100点満点は取れなくても、合格ラインを越える70~80点は取れるはずです。例えばオームの法則に関して過去どのような問題が出たか、そこを3年6回分解いておけば傾向がわかるようになります。私も講義の中では3~4年分の試験問題を分析した上でお話ししています。
 講義はテキストではなく問題演習から入ります。まずは問題集を解いて問題に慣れ、答えがわからなかったときに初めてテキストを使うという流れです。最初は30~40点しか取れなかった人でも、4回以上繰り返して取り組めば、70~80点は取れるようになるでしょう。過去問題集にしっかり取り組めば大丈夫ということです。
 暗記するボリュームはかなりありますが、出題内容はほとんど決まっていますし、合格ラインは60点ですから、「満点は取らなくていいから、6割以上取れるようにしよう」と受講生には話しています。練習問題で70~80点取れるように勉強しておけば、まず本試験で60点は取れます。毎回新しい問題が1~2問出てきますが、それは捨ててもいいでしょう。満点を取ろうとして重箱の隅をつつくような勉強をする必要はないので、必要なことを最低限しっかり覚えて合格すればいいのです。

──電気工事などの経験がまったくない方は、TACなど受験指導校に通う必要がありますか。

徳永 私は35年間ずっと通信系の仕事をしてきたので独学でもなんとか攻略できましたが、技能試験もありますので、初めての方は一度しっかりと体系立てて勉強したほうがいいですね。無理に自力で何とかしようとするよりも、TACのような受験指導校を利用してプロのノウハウを頼ったほうが、遥かに早く確実で、効率的に身につきます。

三原 私の同僚のような例もありますよ。彼は職場で電気工事に関連する仕事をしていたので、技能面には変に自信を持っていたようです。そのため筆記試験対策ばかり一所懸命に勉強して、技能試験は何の対策もしないまま第二種を受験し、結局技能試験に2回不合格になっていましたね。ただその後、しっかりと講義を受けて、第二種はもちろん、第一種電気工事士も1回で合格しました。やはり試験に合格するためには、正しい技能対策が必要です。どのような基準でチェックされるのかを知らなければ、ひとりよがりの回答になってしまいますからね。

徳永 技能試験は約7割の方が合格する試験です。例年1月頃には出題候補問題13問分の配線図が公表されて、本試験ではその13問の中からいずれか1問が出題されますので、事前にしっかりとした対策をすれば、十分合格できるはずです。

三原 技能試験は地域別に土曜日または日曜日にわかれて実施されます。以前は同じ曜日の試験では全国一律で同じ問題が出ていましたが、現在は同じ曜日でも受験会場によって出される問題が異なっています。数年前、「本番の試験ではこの候補問題が出るのでは」という噂がインターネット上で流れ、実際にその問題が出されたことから、以降は「東京は4番の問題、神奈川は1番の問題、…」といったように、試験会場によって出題を変えるようになったのだと思います。ですから受験生はひととおり13問すべてをできるように準備しておく必要がありますね。

──技能試験では機器類やケーブルなどのみが提供されて、工具は自分で用意するということでしたが、どのような工具が必要なのですか。

徳永 指定工具は、ペンチ、ドライバー(マイナス・プラス)、ナイフ、スケール、ウォーターポンププライヤー、リングスリーブ用圧着工具(JIS C 9711:1982・1990・1997適合品)となっていますので、必ず準備してください。

三原 文系の方にはなじみのない道具もあるかもしれませんが、一度TACの講義を受けてから自分で復習や練習をすれば、苦手なところや注意して作業しなければならない点がわかると思います。まったく電気に絡んだことのない人が、専門的な対策をせずにゼロから独学で合格をめざすのはかなり大変でしょうから、しっかり対策しておくことが大切ですね。

実務経験を重ねてスキルを磨く

──第二種は、合格後に申請をすれば免状がもらえて仕事ができますが、第一種の免状の申請には、一定期間の実務経験が必要ということでしたね。

三原 そうですね。自動車の運転免許を考えてみても、免許を取得できたら公道に出て運転していいということにはなりますが、だからといって、すぐに正確かつスムーズに運転できるかというと、そうではないですよね。あくまで「運転していい」という許可が出ただけですので、まず家の近所で乗って、徐々に高速道路へ、そして遠くへとなるわけです。
 これとまったく同じで、試験の合格はあくまで「最低限の知識と技能の基礎はあります」ということを示すものなのです。合格したからといって、どんな仕事にも対応できる技能が身についたということではありませんので、そこは注意が必要ですね。

──電気工事士の学習で身につく最も重要なことはどのようなことですか。

三原 工事をする際は、事故を起こしてはいけません。人命に関わりますから、まず火事を起こさないようにすることを学びます。これは「最近よく家のブレーカーが落ちると思って調べたら漏電していた」といったように、身近なことにも役立つスキルです。
 熱が出てボヤになることが最も危険です。実はネジも、ただ強く締めればいいというものではありません。例えば、ブレーカーのネジの締付はトルク管理して締めなくてはならないと決められているのですが、それを力いっぱいに締めてしまう人がいます。きつく締めれば締めるほど「しっかり締めたから大丈夫」と安心感があるような気がするのでしょうね。ですが必要以上に強く締めてあると、ずっとネジ山が引っ張られている状態になり、金属疲労が発生し、そこを電気が通ると温まってネジが少しずつ緩んでしまうのです。このように過剰にトルクを締めすぎた結果、8~10年ぐらい経った頃に熱が出てボヤになるといったことがあります。
 私自身も以前、電気温水器の電線を締める箇所でボヤが出た事故を見たことがあります。事故箇所をエックス線で調べてみると、実はネジの締めすぎが原因でした。こうした力加減についても、経験を積み、身につけることが必要です。やはり経験は大事だということです。

定年後のニーズも高い電気工事士

──電気工事士の魅力とはどこにありますか。

三原 電気にまつわるいろいろな仕事をするときに持っていなければいけない非常に大事な資格だということと、お客様の要望に対していろいろ応えられることが魅力だと思います。電気店の販売員の方は、接客する中でお客様が何を欲しているのかわかるので、そこに資格を持っていればプラスアルファの仕事ができます。コンセントをつけてほしいと言われたときも、ただ定位置につけるのではなく、そのお客様がお年寄りであればちょうど立った状態で扱える位置を考えて設置するといった工夫もできます。このようにお客様に喜んでもらえるサービスができるのも、電気工事士ならではのやりがいだと思います。

──電気の仕事というと男性が多いようなイメージですが、女性も活躍できますか。

三原 先日、電気工事士協会の会報に、女性が独立して女性だけの電気工事会社を立ち上げたという記事が載っていましたね。また、ひとり暮らしの女性などから、女性の電気工事士の方に来てほしいという依頼を受けることもあって、女性電気工事士の仕事は広がっています。今は大型トラックも女性が運転する時代です。昔はトラックのハンドルが重くて男性でないと長時間の運転が難しかったかもしれませんが、今はパワーステアリングのハンドルですから、力はいらないわけです。電気工事も同様で、力が必要な部分はインパクトドライバーなど電動工具がアシストしてくれますから、時代が変わって男性も女性もまったく関係なくなりました。第二種は男女問わず、また文系の方も多く受験していますね。

──資格取得後はどのような働き方ができますか。

三原 経験がなければ対応できない仕事もありますので、未経験者が資格を取得してすぐに独立することはなかなか難しいと思います。先ほど安全面についての話をしましたが、そういったいろいろな場面における危険性も職場で教わらなければわからないので、自営業になる前に、最初はどこかに勤めて経験を積むことが大事ですね。

──定年後の60~65歳から始めようという人や、40~50代から手に職をつけたいという人がめざしてもニーズはありますか。

徳永 電気工事業法では、第二種電気工事士の方が自営業として開業するには3年の実務経験が必要だと定められています。自分で始めるには3年の要件を満たして都道府県に届け、電気工事業の登録をする必要がありますが、登録に年齢制限はありませんから、合格後にどこかで最低3年勤めて技能を習得すれば、本人次第で定年後も働けるというわけです。
 また、電気工事士はAIに取って代わられることはありません。AIには自宅の電気配線はできませんから、人間がやるしかないこの仕事は、ずっとなくならないと思います。

三原 金槌を持ってケーブルを張るような工事は電気店や電気工事業の仕事です。一方で古くなったコンセントやスイッチを取り換えるといった、もっと身近な細かい仕事がたくさんあります。ですから定年後、60~65歳で取得した方がビル管理会社などで再就職をするなら、電気工事士を持っているか否かでまったく待遇が違います。商業施設の管理会社では定年後の有資格者が大半だったりするので、ニーズは大変高いといえます。
 実は、1988年に電気工事士法が改正されて、それまで1種類しかなかった電気工事士の資格が第一種と第二種の2種類になりました。そのとき、従来からの電気工事士のほとんどが経過処置によって第一種電気工事士になったのですが、今はその人たちがどんどん定年になってきているので、高齢化によって特に第一種の人数はかなり不足しているのが現状です。第一種までめざそうという方は、40代、50代から第二種でスタートしておけば、第一種としての活躍が見えてくると思います。

──先のお話で女性が女性専門の電気工事業を始めたように、自営でやっていく切口を見つけてお客様を獲得できれば独立できるということですね。

三原 そうですね。独立するだけならいつでもできますが、仕事の依頼が来るかどうかが一番の問題です。ですから、例えば量販店のエアコン据付会社に入ってそこからのれん分けをしてもらい、独立して仕事を受けていくといったように、おそらく大半の方は、最初はのれん分けで始めると思います。信頼関係がなければ仕事の依頼は来ませんから、こうしたやり方が定番ですね。

自宅でも使える電気工事士の知識

──おふたりが電気工事士の資格を取得した経緯を教えてください。

徳永 私は通信系企業に勤務していたので、交換機や光ファイバ通信設備、ルーターやスイッチなど弱電を扱ってきましたが、55歳で定年退職になったとき、太陽光発電システムの販売会社を自分で立ち上げる際に取得しました。発電システム販売そのものには必要ないのですが、電気工事士の資格があれば、自分でシステムの設置ができるからです。現在は大学の実験を担当しているので実務はやっていませんが、自宅マンションの簡易な電気工事は無償でやっていますし、TACでの講義には大いに役立てています。

三原 私が電気工事士に関わったのは1964年の電気事業法施行前です。伯父が電気店をやっていて、中学生だった私は手伝いで新築の家の電気工事をひとりでやっていました。その後東京に来て、専門学校に通いながら電気店でアルバイトをしようと思ったのですが、その際に必要だったのが自動車運転免許と、今はもうない通産省認定カラーテレビジョン受信機修理技術者試験、そして電気工事士の資格でした。私の場合は趣味と資格がほぼ一致していたので、楽しく勉強できた記憶があります。それから東芝の関連会社に入社して、家電の修理をしながら工事のノウハウや人脈が広がっていきました。現在は電気工事や家電製品についての講師業や大学での非常勤講師、企業講師をしていて、個人で工事に携わることはありません。こうした経歴なので講義では現場の話ばかりしています(笑)。

──どのような方に電気工事士資格の取得を勧めますか。

徳永 例えば、家電製品の販売員の方が持っているとプラスになると思います。単相200ボルトのエアコンと三相200ボルトのエアコンの違いなどを理解しておけば、明確にお客様にアドバイスできますね。

三原 実際、以前から電気工事士の講習をさせていただいている家電量販店がありますが、2~3年前からは店頭に出て接客を行う販売員にも電気工事士資格取得のための講習をするようになりましたね。電気製品を売るには電気工事士の知識が必要だと社長が判断したそうです。電気工事士が社内にいれば、外部に設置を依頼せずに済むという点も大きなコストカットになります。
 また、家の中で「ここにコンセントがあれば便利なのに」と思ったとき、電気工事士の免状を持っていれば、自分でつけることができますよね。そういう意味では、DIY好きな方やセルフリノベーションに興味のある方にもお勧めです。

──最後に、電気工事士をめざしている方やスキルアップを考えている方に向けてメッセージをお願いします。

徳永 資格があってさらに技能経験があれば、年齢に関係なくずっと働けるのが電気工事士のメリットです。電気系の勉強が初めてであれば、第二種から始めて第一種や電気主任技術者へとレベルアップを考えるのもよいでしょう。第一種と第二種、電気主任技術者はどれも高齢化が進んでいて有資格者の数が大変不足しているので、リタイア後でも潤沢に仕事はあります。85歳の電気主任技術者の方で、現役で電気設備の定期点検をされている方もいますから、ぜひ挑戦していただきたいですね。

三原 電気工事士は、身体が動けば一生できる仕事です。ハローワークなどで求職活動をする際にもとても有利なパスポートになります。リタイア後のセカンドキャリアとして、マンションの管理人になることを考えている方もいるかと思いますが、電気工事士の資格を持っておくことで、共用部分のコンセントを直せるなど、強みを増やすことができますから、宅地建物取引士や管理業務主任者などの資格とのダブルライセンスもおすすめです。
 また、今はガス会社や水道会社などが電気とセットにしたプランを打ち出すなど、他のエネルギーも電気と一体になってきています。私たちの暮らしの中で電気を使わないものはほとんどありませんから、何をするにしても電気工事士の資格を持っていれば大きなメリットがあることは間違いありません。興味を持った方はぜひ挑戦してみてください。

[『TACNEWS』 2021年3月号|特集]