読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #41

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

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『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』

 著者  :森智幸
 出版社 :中央経済社
 初版  :2023年


カッキー 萌さん、僕、ここのところずっと進路について悩んでいたじゃないですか。

萌さん そうねえ、CFOになりたいだの監査法人に残るだの、まるで骨のないことを言っていたわね。

カッキー 骨はあるんですが、選択肢が多くて悩んでいたんです。でも、やっと決心がつきました。僕は、僕は、修了考査(※)が終わったら監査法人を辞めて独立しようと思います。一人前の会計士として、自分の力でどこまでできるかやってみたいんです!
※修了考査‥‥公認会計士資格を取得するための最終試験で、2年間の実務経験と3年間の実務補習制度を経た後に受験する。

萌さん そう、頑張って。

カッキー ええーっ、随分とあっさりですね。もっと僕に関心を持ってくださいよ。

萌さん 面倒ねえ。じゃあ、独立して何をするのよ?

カッキー 会計士登録をしたら、税理士登録もして、税理士として開業しようと思うんです。会計士として得意分野があるわけでもないですし、コンサルティングとかもできないんで。税理士なら小さくても自分の事務所が持てるかな、と。

萌さん そう。だったら、この本を読むといいわ。

カッキー ――えーっと、『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』ですか。


【目次】

第Ⅰ章 登録・開業編
 1   税理士登録は早めに
 3   登録前の税務相談は無料でもやらない
 7   会計・税務ソフトはよく吟味してから
 9   取材商法には乗らない
  11  HP・SNSには制約がある

第Ⅱ章 税理士法・綱紀編
  17  名義貸しは絶対ダメ
  21  税務でやらかすと会計士法でも処分
  24  業務広告には多くの制限がある
  27  研修は受講しなくていいわけがない
  31  税理士資格に更新手続はない

第Ⅲ章 税務編
  34  重要性の基準値は存在しない
  37  保守的な処理はかえってリスクになる
  48  書面添付制度で監査の経験を活かす
  49  信用できるのは国税庁HPだけ
  57  会計上の見積りの理想と現実を感じる
  58  独自の「税務会計」の存在を認める
  59  棚卸資産は監査の感覚で検討しない
  60  固定資産の減損はほぼ出てこない
  62  修繕費は会計と逆の発想になる
  63  給与のイメージを改める
  70  消費税はとにかく恐ろしい

第Ⅳ章 クライアント編
  80  前任税理士からの業務の引継ぎはない
  82  資料はなかなか出てこない
  83  資料を見せてくれないことがある
  87  顧問先は監査クライアントとは全く違う
  98  「それは私の仕事ではありません」は禁句

(目次より小見出しを抜粋)


カッキー 監査法人を辞めて独立する公認会計士のための税理士実務の本なんですね。

萌さん 著者が言うには、税務は税法に基づいて行うので非常に厳格。会計監査の感覚で税務を行うと場合によっては大失敗に至るそうよ。

カッキー それは恐怖ですね。これまでは失敗しても、上司が何とかしてくれていましたが、独立すると全部自分の責任ですし。

萌さん あと税務では、そもそも会計理論とはかけ離れた“税務会計”が出てくるわよ。

カッキー 何ですかそれは?

萌さん 中小企業では会計基準よりも税務申告書の作成が優先されて、法人税法とかで定められているやり方で会計処理もされるからね。極論を言っちゃうと、法人税の計算が合っていれば良くて、会計処理は税金計算に影響がなければ問題ないの。

カッキー えーっ、本当ですか!?

萌さん たとえば、“固定資産売却益”は損益計算書上だとどこに書く?

カッキー そりゃあ、特別利益ですよね。

萌さん でも、税務実務では、営業外収益の“雑収入”でよく見るわね。

カッキー どうしてですか?

萌さん 特別利益だと“その年だけ”という感じになるじゃない。でも営業外収益の“雑収入”なら、しれっと利益に入れられて、その利益が会社の実力っぽく見える。

カッキー そんなことをしていいんですか?

萌さん いいのよ。税務だと「税金の額は変わらないから、特に問題ナシ」という感じね。いずれにせよ、勘定科目内訳書にその内容は記載されるから、税務署的にも把握できるし。

カッキー 要は、決算書の見栄えを良くするためのこうした行為はアリなんですね。

萌さん クライアントが有利になるような、実務上許されている“税務会計”は他にもあるわよ。

■有形固定資産の減価償却が計上されていない。 

■前払費用や長期前払費用が費用化されていない。

■法人税、住民税及び事業税」が、「租税公課」として販売費及び一般管理費に計上されている。
■毎事業年度、同じ金額の貸倒引当金が計上されている。
■賞与引当金が計上されていない。
■計上すべき評価損が計上されていない。

(P129より抜粋)


カッキー うーん。減価償却費が計上されていないとか、引当金がないとか違和感しかないです。

萌さん 棚卸資産の評価損も“災害による著しい損傷”とかじゃないと発生しないし、固定資産の減損もほぼ出てこないわ。

カッキー えーっ、監査ではあんなに議論しているのに。これって本当に合法なんですか?

萌さん 法人税法上は合法よね。利益が多い分には納税額も増える訳だから、税務当局も文句は言わないしね。

カッキー その辺が監査との一番の違いなんですね。監査だと“クライアントの利益を増やす動き”に警戒しますが、税務だと“クライアントの損失を増やす動き”に警戒しなきゃいけない。

萌さん そうね。税務では過剰な損失を見逃すと、脱税になるからね。

カッキー わかりました!じゃあ、税務の時は利益を多めにするような会計処理をしていけばいいんですね。

萌さん ダメよ。クライアントの了承を取らずに税金の過大納付をすると、今度はクライアントから損害賠償責任を問われるリスクがあるわ。

カッキー うわっ、どっちもダメじゃないですか。厳しい立場ですね。

萌さん そんな厳しい仕事だからこそ、監査とはまた違った社会貢献ができるというか、自身の成長に繋がるんじゃないかな。

カッキー そうですね、きっと。だから、僕が監査法人から独立して立派な男になったら、萌さんを必ず迎えに来ますからね。

萌さん ―――えっ!?

[『TACNEWS』2024年4月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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