読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #39

 

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『CFO思考』


『CFO思考』

 著者  :徳成旨亮
 出版社 :ダイヤモンド社
 初版  :2023年


萌さん アンタはさー、キャリアプランとか考えているの?

カッキー 将来の進路ですか

萌さん このまま監査法人に残るのか、それとも一般企業に転職するのか、とかよ。

カッキー そうですねえ。監査法人のパートナーというのもいいですが、やっぱり企業のCFO(最高財務責任者)っていうのも憧れますね。

萌さん どうして?

カッキー だって、CFOって響きが格好いいじゃないですか。それに会計士だったら、CFOとか簡単になれるんでしょ。

萌さん アンタ、CFOを完全に舐めているわね。

カッキー そうですか? 会計士試験のほうが難しいと思いますけど。

萌さん そういうことじゃないのよ。そもそもCFOの仕事自体を誤解しているわ。まずはこの本を読みなさい。

カッキー 『CFO思考』ですか――。

【目次】

はじめに なぜ今「CFO思考」が必要なのか
 ・「CFO思考」は、個人と経済が成長する鍵
 ・CFOという仕事の魅力と楽しさを、グローバルな経験から伝えたい

第1章 CFOは誰と向き合い、何を動かす存在なのか
 ・「君のオフィスの設定温度は何度だ?」
 ・投資家に自社を選んで投資してもらうのがCFOの仕事
 ・経理・財務担当役員は資本主義のルールを学ぶ必要がなかった
 ・「投資家の期待リターン」を知ることがCFOの第一歩
 ・アクティビストとの対話と一般投資家との対話
 ・CFOは、ステークホルダーと会社との結節役

第2章 CFOはどのような仕事をしているのか
 ・なぜMUFGは巨額出資を決断できたのか
 ・なぜニコンは半導体露光装置でシェアを奪われたのか
 ・「PBR1倍割れ」はROEが低いから? PERが低いから?
 ・目先の利益しか見ない「PL脳」に要注意
 ・ESG経営は本当に企業価値向上につながるのか?
 ・非財務価値を財務価値につなげるストーリーこそが大切

第3章 CFOが担う10の責任領域と役割
 ・米国のCFOは「経営スリートップ」の一員
 ・CFOが関与する10の責任領域
 ・取締役会は経営陣のアニマルスピリッツを刺激しているか
 ・リスクを取らないことを叱る米国企業の取締役会
 ・CFOが企業活動を活性化できる3つの理由
 ・これからの日本企業に求められるCFO像

第4章 CFO思考」で日本経済に成長を
 ・資本主義のダイナミズムを失いつつある日本経済
 ・行動経済学の観点からアニマルスピリッツを再定義する
 ・「企業の永続性」を「成長」より優先する日本の取締役会
 ・取締役会に投資家を招く「ボード3.0」という考え方
 ・業態転換よりも市場からの退出を求める海外投資家
 ・「過度の多角化は悪」との批判にどう答えるべきか

第5章 グローバルで活躍できるCFOへのキャリアステップ
 ・CFOを目指すべき理由
 ・生成AI「チャットGPT」と共存できるビジネスパーソンとは
 ・CFOへの中間点「FP&A」とは何か
 ・数字に強くコミュニケーション能力がある女性CFOが増加中
 ・40年前は、米国企業の6割がPBR1倍割れだった!
 ・CFOへのキャリアパスを描く ── 巻末「CFOチェックリスト」

(目次より主な見出しを抜粋)


カッキー CFOって決算書をつくって、決算短信出して、監査法人対応をちゃちゃっとすればいい仕事じゃないんですか?

萌さん それは随分と一面的な見方ね……。この本にある「CFOが関与する10の責任領域」はこんな感じよ。

CFOが関与する10の責任領域

領域1 経理
── ものさしである会計基準の上手な使い手に
領域2 予算
── 管理会計の分析結果を「企業価値向上」につなげる
領域3 税務
── 社会的義務と納税額最適化のバランスを取る
領域4−1 財務(負債)
── 金融機関との「選び、選ばれる」関係
領域4−2 財務(資本)
── 健全性・成長性・株主還元の最適バランスを追求
領域5 リスクマネジメント
── 温暖化の「機会とリスク」に責任を持つ
領域6 DX
── 効率化の推進と人材捻出
領域7 人的資本経営
── 人件費はコストではなく「将来への投資」
領域8 コーポレートガバナンス
── 「形」ではなく「実効性」が重要
領域9 IR
── 会社の「顔」として内外に影響を与える
領域10 経営戦略
── M&A・成長投資だけでなく事業撤退・売却が鍵


カッキー げっ、こんなにですか! 経理や財務はわかりますが、ちょっと多すぎません?

萌さん 多いだけじゃなくて、奥も深いわよ。たとえば、税務とか。

カッキー 税務って、納税額の計算をするだけじゃないんですか?

萌さん 日本企業のライバルである欧米企業は「税はコストであり管理可能なもの」という意識が強いから、ここでいうCFOの税務も「税務コンプライアンス遵守の範囲内で税務プランニングを行うことで、税引後利益およびフリー・キャッシュフローを最大化すること」こそが仕事なの。

カッキー レベルが高そうですね……。で、でも、予算は管理会計ができればいいんですよね。会計士試験で管理会計論を勉強しているから大丈夫です! 予実分析、頑張ります!

萌さん ふふっ。甘い、まったく甘いわね。管理会計は経営する上で必要な“ものさし”だけど、会計基準みたいなものがないから、それぞれの会社で創意工夫が自在にできるの。だから、CFOの仕事は“ものさし”である管理会計体系を自社の状況に合わせて創る、あるいは改変することなのよ。

カッキー うわっ、大変だ。それにしても、さっきから僕が思っているCFOよりも随分とアグレッシブな気がするんですけど……。

萌さん それはカッキーが、従来型の日本企業の経理・財務部長とかをイメージしているからじゃないかしら。

カッキー 経理・財務部長の英語名がCFOなんじゃないですか?

萌さん 全然違うわよ。そもそもの考え方もね。著者が言うには、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる企業価値保全を第一義とする考え方が「金庫番思考」で、企業価値向上をみずからの責務と考えるのが「CFO思考」だそうよ。



カッキー なるほど。CFO思考は大変そうですけど、地味な仕事という感じではなく、エキサイティングでやりがいは増えそうですね。

萌さん そうね。大変な分、権限も大きいわよ。欧米だとCFOはCEO(最高経営責任者)・COO(最高執行責任者)と並ぶ3トップ、「Cスイート」の一角だしね。

カッキー 日本企業と欧米企業では立ち位置が全然違うんですね。

萌さん 立場だけじゃないわ。社会的地位も違うし、その後のキャリアも違うわよ。欧米では、業種の異なる企業のCFOへ転職することも多いのよ。たとえば、2015年にモルガン・スタンレーの女性CFOだったルース・ポラット氏はGoogleのCFOに転じて、2015年の1年だけで3065万ドル(1ドル=120円換算で約36.7億円)の報酬を受け取ったんだって。

カッキー え、えげつない金額ですね……。

萌さん CFOからCEOになるケースも多いから、報酬はまさにうなぎ登り。

カッキー ぼく、これからCFOを目指します! この本を読んでCFO思考を学びます!

萌さん 随分と現金な話だけど、まあいいわ。第2章の「デジカメ市場が10年あまりで1/20に激減したニコンをCFOとしてどうやって復活させたのか」といった話とかめっちゃ面白いから、CFOのリアルをイメージしやすいんじゃないかしら。

[『TACNEWS』2024年2月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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