読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #31

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

時間最短化、成果最大化の法則


『搾取されない! だまされない! 損をしない!
 20代からの働き方とお金のこと』

 著者  :みんなの働き方改革研究会
 出版社 :祥伝社
 初版  :2022年


カッキー ブラック企業をぶっ潰す……ブラック企業をぶっ潰す……。

萌さん パソコンを見ながら何ブツブツ言ってるの? 随分と穏やかじゃない物言いね。

カッキー 僕の後輩がブラック企業に入社しちゃったらしくて、相談を受けたんです。助けてあげたいと思ったんですけど、悔しいことに会計士受験で勉強した会社法の知識ではどうにも無力で――。萌さん、ベテラン会計士ですよね? どうすればいいですか? どうすればいいのか全くわからないんです!

萌さん シッ、シッ! 私に頼らないでよ。会計士は、ブラック企業から誰かを救える資格じゃないわよ。だいたい会計業界にだってブラック企業はあるじゃない。▲▲▲▲とか、●●●●とか……。

カッキー 何をムニャムニャ言っているんですか?

萌さん ブラック企業って、どの業種・業界にも一定数はあるってことよ。ブラック企業への対応策も、ネットで調べれば色々と出てくると思うけど、体系的に学ぶならこういう本がいいんじゃないかしら?

カッキー 『搾取されない! だまされない! 損をしない!』ですか……。これもなかなかパンチの効いた物言いですね――。

【目次】

プロローグ

第1部 会社の悪知恵と反撃方法

    1-1 悪知恵に対抗するための三つの鉄則
    1-2 雇う側の悪知恵は求人広告から始まっている
    1-3 労働条件に潜む悪知恵
    1-4 法の抜け穴をつく悪知恵
    1-5 職場のハラスメントは倍返しだ!
    1-6 解雇・退職の疑問、一気に解決!
    1-7 労働トラブル、いざというときの駆け込み先

第2部 悪知恵以前の基本知識「知らなかった」と損しないために
    2-1 まずは税金を知らないとやっぱりマズい
    2-2 社会保険でソンしないための豆知恵

第3部 ボクらも使える? お金に関するちょっといい知恵&悪知恵
    3-1 だまされない! 損しない! 正しいお金の増やし方
    3-2 取扱注意! グレーなお金の増やし方
    3-3 ダメ絶対! NGなお金の増やし方

エピローグ
    

(目次より一部抜粋)


カッキー 『会社の悪知恵と反撃方法』ですか……。目次を見る限り、僕らが学んできた会社法の知識とは、全くの別物のようです。

萌さん そうね。対ブラック企業でまず知っておきたいのは、次の3つの鉄則よ。

「悪知恵に対抗するための三つの鉄則」

① 「おかしい」と感じたら記録を残す!
② 社内規則より法令が優先される
③ 一番大事なのはあなたの命!


カッキー 1つ目の『「おかしい」と感じたら記録を残す』って、どういう記録を残すのですか?

萌さん 例えばさ、「タイムカードを押してから残業するように言われた」「給与明細をくれない」といった場合に、何も証拠を持たずに会社に訴え出ても、証拠隠滅されてしまえばそれまでじゃない。

カッキー たしかに、証拠は大事ですね。

萌さん だから、会社より先手を打って記録を自分の手元に残しておくのよ。社内サーバーにアクセスしないと手に入らないデータは、アクセス権のあるうちに入手する、パソコンの画面をスマホで撮影する、これらが大事。

カッキー そのデータを自宅のパソコンに転送したり、プリントアウトしておくこともリスクヘッジかもしれませんね。ただ、うちの後輩はパワハラ被害とかがヒドいらしくて。そのデータとかって難しいですよね……。

萌さん そのパワハラ上司とのメールを残したり、メモや日記に書いたりするのも証拠としての効力があるけど、効果バツグンなのはやっぱり会話の録音ね!

カッキー 録音ですか。でもパワハラ発言って、そんなに四六時中あるわけじゃないですよね。

萌さん だからICレコーダーや携帯の録音機能で、仕事の間ずっとレコーディングしておくのよ。

カッキー でも、無断で録音するのはルール違反なんじゃないですか? 裁判をしても証拠として扱ってもらえないとか聞いたことがありますよ。

萌さん それは、まったくのウソ。「自分と誰かとの会話の録音」自体は問題ないの。ハラスメントや違法行為の証拠を残す目的での録音は、実際の裁判でも証拠として扱われているわ。

カッキー そうだったんですね!

萌さん 仮に直接的なパワハラの録音がなくても、パワハラの現場に居合わせた人から証拠となるような言葉を引き出して録音するのも有効な手段よ。

カッキー どういうことです?

萌さん 例えば、こういうことよ。

上司Aから「なんでお前はそんな馬鹿なんだ!」と叱責された
後日、現場に居合わせた同僚Bに
「なぜAさんのことを注意しなかった?」と質問
同僚B「あの程度のことで、そんなに怒るなよ」
この会話を録音
パワハラの事実を証明する証拠に!



カッキー たしかに第三者の会話のおかげで、上司Aからパワハラがあったと客観的に推測できますよね。でもわざわざ録音しなくても、その同僚たちと一緒に訴えたらいいのでは?

萌さん 「パワハラをやめてもらうために手伝ってください」って声をかけて、その場では了承してくれても、いざ訴えを起こしたら援護射撃してくれず、孤立無援になる、なんてこともよくあるらしいわよ。

カッキー うーん、自分が会社に残るつもりなら、できるだけ会社と揉めたくないですしね……。じゃあ、結局は自分で録音しまくるしかないですね! まずはオフィスの至る所に盗聴器を仕掛けて――。

萌さん あー、「あらかじめ会議室などに録音機を仕掛けて他人同士の会話を録音すること」は盗聴行為だから、条件によっては証拠として扱ってくれない可能性はあるわよ。

カッキー そうなんですか……。じゃあ、証拠にならなかった音声データは、SNSに流して拡散しちゃえばいいですね!

萌さん 「なんでそうなるのよ! 不特定多数への公開は、ケースによっては名誉毀損などの罪に問われるから、やっちゃダメだからね!




カッキー さっきから訴える、という話をしてますけど、パワハラを受けた場合、具体的にはどこに言えばいいんです?

萌さん 会社の上のほうとか、労働組合とか、弁護士に相談とかね。あとは労基。労働基準監督署ね。

カッキー 労基ってよく聞きますね。でも、労基は「相手にしてくれない」「取り合ってくれない」といった話も聞くのですが……。

萌さん それは、ちゃんと理解ができていないからね。労働基準監督署は労働基準法などの法律の範囲内のことを監督する機関なの。対応できるものとできないものがきっぱりと分かれているのよ。

●「賃金の不払いがある」
●「最低賃金未満で働かされている」
●「8時間労働しているのに休憩が一切ない」
 →労働基準監督署へ
●「会社が雇用保険に加入させてくれない」
 →公共職業安定所(ハローワーク)へ
●「上司から執拗にハラスメントを受けている」
 →厚生労働省のハラスメント悩み相談室や弁護士、個人加盟の労働組合へ
●「納得できない理由で辞めさせられた」
 →都道府県の相談窓口・個人加盟の労働組合などへ
●「労働条件について、経営者と意見が対立している」
 →民法・労働契約法の範囲なので、弁護士などへ



カッキー なるほど、状況によって相談先も選ばないとダメなんですね。だから僕なんかに相談しても意味はないと……。

萌さん そうでもないわよ。困ったらまず、相談しやすい家族・友人・知人に話を聞いてもらうのがスタートだからね。

カッキー そうなんですね! 僕にも役割があったんですか!

萌さん そうよ。だからまず後輩に『僕みたいなダメ人間に相談するより、厚生労働省の総合労働相談コーナーへ』と連絡してあげなさい。

カッキー ――『ダメ人間』、いらなくないですか?

[『TACNEWS』2023年5月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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