読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #26

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『ゼロからわかるファイナンス思考』


『ゼロからわかるファイナンス思考』

 著者  :朝倉祐介
 出版社 :講談社
 初版  :2022年


カッキー 萌さん、「ファイナンス」って一体何なんでしょうか……。

萌さん 急に何を言い出すのよ。

カッキー この前、大学の後輩と話していた時に「ファイナンスが大変でさぁ」って僕が言ったら、「先輩みたいにファイナンスに強くなるにはどうしたらいいんですか?」と聞かれてしまって……。僕はファイナンスに強いんでしょうか?

萌さん なんであたしに聞くのよ! 知らないわよ、そんなこと。で、カッキーはどういう意味で「ファイナンス」という言葉を使ったのよ?

カッキー いや、それはなんとなくというか、バリバリに仕事をしている感じを出したかっただけというか……。

萌さん 格好つけて横文字を使うから、変なことになるのよ。そもそも、どういう意味か知っている?

カッキー 一応、調べはしましたよ。「金融」とか「資金」「財政」「財務」「財源」「資金調達」のことですよね。なんだか幅広いというか、フワッとしているというか。

萌さん そうね。使う場所によって、意味は変わってくるでしょうね。会計士的には「デット・ファイナンス(有利子負債)」「エクイティ・ファイナンス(新株発行)」といった資金調達的な意味で使うことが多いかしら。

カッキー たしかに、みんなよく使っていますね。実務的には会計士より、会社のCFOや財務部の皆さんが頑張っているイメージですが。

萌さん ただ、「ファイナンス的な考え方」はもっと広い概念だから、一部署には限らないわよ。

カッキー その「ファイナンス的な考え方」は会計士にも必要ですか?

萌さん 会計士に限らず、すべてのビジネスパーソンにとって大事な素養よ。だって、「私たちが生きる資本主義のルールそのもの」なんだから。

カッキー 何ですか、その仰々しさは!

萌さん このベストセラー本にそう書いてあるのよ。アンタも読んでみなさい。

【目次】

プロローグ ある社長の深い悩み

第1章  株式会社には守るべきルールがある
 まず「資本主義の仕組み」「会社の仕組み」を理解しよう

第2章 PLとBSを知るのが、はじめの一歩
 PLとBSをざっくり理解する

第3章 PLとBSのつながりを理解する
 つなげて見るとPLとBSがもっとよくわかる

第4章 いよいよファイナンス思考の入り口、「企業価値」を知る
 そもそも会社の価値は何でできている?

第5章 銀行と投資家からお金を集める
 ファイナンスA 外部からの資金調達

第6章 事業を通じてお金を生み、それが次の投資の元手になる
 ファイナンスB 資金の創出

第7章 お金と資産を何にどう使うか、未来を見つめて考える
 ファイナンスC 資産の最適配分

第8章 ステークホルダーの理解と共感を集める
 ファイナンスD ステークホルダー・コミュニケーション

第9章 未来への成長にブレーキをかけるPL脳
 PL脳とは何か

第10章 PLは作れる、しかしキャッシュはウソをつけない
 キャッシュの軽視――PL脳の問題点1

第11章 集めたお金でリターンを上げるのは会社の責務
 資本コストの軽視――PL脳の問題点2

第12章 10年後もっといい会社になっているには?
 成長投資の軽視――PL脳の問題点3

第13章 GAFAと日本のトップ企業の時価総額差は何が原因?
 「失われた30年」で起きた、これだけのこと

エピローグ 社員たちの決意

(目次より主な部分を抜粋)


(漫画:千坂まこ)


カッキー こちらの本はストーリー漫画もあるんですね。

萌さん 入門書だからね。でも、著者はミクシィの元CEOで現役のスタートアップ投資家だから、バリバリの経営者が書いた本よ。

カッキー 実務を踏まえているんですね。

萌さん 漫画の舞台は、厳しい経営状態の中堅電子機器メーカーの月島電機よ。投資を控え、コストダウンを徹底させて持ちこたえてきたところに新型コロナショックで赤字に転落――といったところから話がスタートするんだけど、カッキーはどうしたらいいと思う?

カッキー 赤字が続くと困りますから、より一層のコストカットが必須ですよね。例えば、事業の撤退とか社員のリストラじゃないでしょうか。

萌さん あー、アンタ、全然「ファイナンス思考」じゃないわ。

カッキー どうしてですか!? 赤字が続くと、会社は潰れますよ。出費を減らすのも資金を手厚くするためのファイナンスじゃないんですか?

萌さん 全然ダメだわ。まあ、漫画に出てくる社長や古参社員もアンタと同じような思考をするんだけど、経営コンサルタントの深町はまったく逆のことを言うの。「企業価値を最大化するために行う活動」をしろ、と。

カッキー えっ?

萌さん だから、「企業価値を最大化するための――。

カッキー いやそれって全然意味わかんないですし、まったく逆でもないですよね。

萌さん まあ、今に私が言っている意味がわかるわ。じゃあ、まずはファイナンスの活動を説明すると、次の4つになるの。

ファイナンスの活動
A 外部からの資金調達
B 資金の創出
C 資産の最適配分
D ステークホルダー・コミュニケーション


カッキー Aは、いわゆる借入れや株式発行ですよね。

萌さん そうよ。貸借対照表の右側である負債の部、純資産の部に当たるものね。

カッキー Bの資金の創出は、一体何ですか?

萌さん 製造とか営業といった利益を生み出すための活動よ。

カッキー いわゆるプロフィットセンターの活動ってことですか。これもファイナンスの一部なんですね。そしてCですが、資産の最適配分って、わかるようなわからないような……。

萌さん 事業活動を続けていると、現金などの資産が増えていくけど、この資産を会社の成長に向けて再構築するのが、Cの活動よ。たとえば、現金を工場建設に使うのか、研究開発に投資するのか、M&Aに充てるのか、逆に使っていない資産を売却するのか――。

カッキー 経営者が頭を悩ませそうな難問ですね。

萌さん でもそれこそが経営だし、ファイナンス思考で大事な部分でもあるわね。

カッキー そして、Dこそ、何を言いたいのかがわからないのですが。

萌さん ステークホルダーっていうのは、株主や従業員・お客様・取引先・地域社会といった利害関係者のことよ。そのステークホルダーに、自社の状況や意思をより理解してもらう活動がDに当たるわけ。具体的には、株主向けのIR(インベスター・リレーションズ)やSDGsへの取り組みとかね。

カッキー でも、どうしてこれがファイナンスなんですか?

萌さん 企業がファイナンス活動を行うためには、ステークホルダーの理解と共感が大事だからよ。資金調達や投資で応援してもらいやすくなるからね。

カッキー たしかに悪評高い企業だと、株も買ってもらえないし、商品も売れないですよね。

萌さん こうした全社的な、長期的な、企業の成長を見据えた考え方が「企業価値を最大化するために行う活動」、すなわちファイナンス思考よ。そして、アンタがさっき言っていた、短絡的な経費削減リストラ思考が、ファイナンス思考とはまったく逆の「PL脳」なの。

カッキー ま、また新しい概念が出てきましたね……。「PL」が「損益計算書」だってことはわかりますが、「PL脳」って……。

PL脳の問題点
1 キャッシュの軽視
2 資本コストの軽視
3 成長投資の軽視


萌さん 増収増益が大事だ、といった売上や利益を重視しすぎる思考がPL脳よ。

カッキー 僕のことをPL脳だと言いますけど、表にあるようなキャッシュや成長投資を軽視したつもりはないですよ。

萌さん でも赤字と聞いて、すぐにコストカットとか言い出したじゃない。たしかにコストカットもダメじゃないけど、他に方法はないのかしら? たとえば、人員のリストラは人件費の圧縮になるけど、社内のモチベーションは下がるし、得てして優秀な人材ほど先に辞めるわ。そんなことで会社は長期的に成長できるのかしら。

カッキー 単純にコストカットで赤字を解消させるのではなく、ファイナンス思考でキャッシュフローも考えたり、成長投資も同時にしたりしないと長期的な企業価値は高まらない、ということですか。

萌さん そうよ。そして、表の2の資本コストは、「外部から借りている資金にも銀行利息や株主の期待値といったコストがかかっているから、それらを上回る収益を上げないといけない」という話。WACC(加重平均資本コスト)などのちょっと難しい話も出てくるから、詳しくは本を読んでね。

カッキー はい、本で勉強することにします! 本を暗記できるぐらい読んだら、ファイナンスに強いって言っていいですよね!

萌さん ……。実践での取り組み方が大事なんだから、そういうことじゃないんだけどなぁ。

[『TACNEWS』2022年11月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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