読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #22

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『税理士事務所に入って3年以内に読む本』


『税理士事務所に入って3年以内に読む本』

 著者  :高山弥生
 出版社 :税務研究会出版局
 初版  :2020年

カッキー 僕、税理士事務所で働きたいです!

萌さん 急にどうしたのよ。

カッキー 今すぐってわけじゃないんですが、大企業の監査もいいですけど、もっと小さな会社とかフリーランスの人とかにも喜んでもらえるような仕事もしてみたいんですよ。

萌さん 監査法人や大手税理士法人に勤める人によく起きる現象ね。「せっかく資格があるんだから、もっと身近な人の手助けをしたい、感謝されたい」って思うのよね。

カッキー そう、そうなんですよ。監査をしていて、監査先に感謝されることなんて滅多にないですからね。

萌さん でも、カッキー。税理士事務所で働くのも簡単じゃないわよ。私たちがいる監査法人とはまったく別の世界、まさに異次元なんだから。

カッキー えー、本当ですか? 同じ会計業界ですよ。

萌さん チッ、チッ、チッ。甘いわ。税理士事務所のルールを知りたいなら、この本を読みなさい!

カッキー ――『税理士事務所に入って3年以内に読む本』ですか。随分と期間限定の本なんですね。

萌さん 新人向けの本だからね。

カッキー 萌さん、ふざけてもらっちゃ困ります。僕だって、会計士試験で簿記や租税法は受かっているんですよ。今さら入門書を渡されても。

萌さん ふざけているのはアンタよ。監査だって座学と実務とでは違うように、税理士業務も座学と実務とでは全然違うっていうか、座学では習わないことが実務ではバシバシ出てくるんだから。

【目次】

4月
 税理士事務所の仕事の概要と年間スケジュール
 法人の年間スケジュール【3月決算法人】
 個人事業主の年間スケジュール

5月
 消費税納税義務の判定
 税込経理と税抜経理
 非課税と不課税、免税取引
 寄附金

6月
 申請書と届出書
 法人税・消費税の申告期限
 固定費・変動費・損益分岐点

7月
 源泉徴収に関する注意点

8月
 税理士試験

9月
 税務調査
 税務署からの連絡~事前通知~
 税理士事務所での調査前の準備

つづく(目次より前半を一部抜粋)

カッキー 本の構成自体が“1年間のスケジュール”っていうことですか。

萌さん そうよ。税理士事務所に4月に入所した新人職員の松木さんと竹橋君が教育係の梅沢先輩から教わりながら、1年間の仕事の流れを勉強していく、という会話形式の本なの。

カッキー うわっ。目次を見るだけでもやることがたくさんありますね……。源泉徴収とか税務調査とか、租税法の授業では習っていない話もありますし。

萌さん でしょう? たとえば「5月」に“寄附金”の話があるんだけど、政治家の政治資金パーティーのパーティー券を買った場合、パーティーに参加したら“交際費”になって、消費税は課税仕入れが取れるの。でも――。

カッキー はい。

萌さん パーティー不参加の場合は“寄附金”になって、消費税は不課税になるの。純粋に政治家への寄附とみなされるのよねぇ。

カッキー ややこしい! でもたしかに、めちゃめちゃ実務チックですね。こんな話は監査では見かけないです。

萌さん 他にも、「6月」に税務署等への“届出書”や“申請書”の提出業務の話が書いてあるんだけど――。

カッキー そういう作業って、会社側じゃなくて、税理士事務所がするんですね。

萌さん 会社に経理・総務の人がいない零細企業なんて山ほどあるからね。それで、書類の提出には期限日を守ることが一番大事なんだけど、期限日が土日だった場合ってどうなると思う?

カッキー 役所も休みなんで次の月曜日まで延長されるんじゃないですか?

萌さん ブッ、ブーッ。延長される場合とされない場合があるのよ。

カッキー いやいや、それじゃクイズの答えになっていないじゃないですか!

萌さん 所得税・法人税の多くは、国税通則法第10条第2項で翌日まで延長されるんだけど、出国する人の確定申告である「準確定申告」や「法人税の青色申告承認申請書」「消費税の簡易課税制度選択届出書」は条文の書き方の関係で期限日が土日でも延長がないの。

カッキー ま、紛らわしいこと、この上ないですね……。

【目次】のつづき

10月
 調査後から調査終了までの流れ

11月
 年末調整は確定申告のミニチュア版
 生計が一とは
 扶養控除と配偶者控除

12月
 税理士試験合格発表
 措置法・施行令・施行規則・通達

1月
 償却資産の申告
 給与支払報告書
 法定調書

2月
 確定申告義務者
 減価償却 法人税と所得税の違い
 個人の交際費は緩いのか厳しいのか

3月
 確定申告期限と振替納税

4月
 上場会社の子会社の決算

(目次より後半を一部抜粋)

カッキー ただ単に決算をして、税務申告をして、という仕事ではないんですね。

萌さん そうね。11月には年末調整、1月には償却資産税申告や給与支払報告書・法定調書の提出、2~3月は個人の確定申告が待っているからね。ただ、毎年のルーティンさえ覚えたら、だんだんと仕事は楽になるはずよ。

カッキー どんな仕事でも全体像がわかれば、やりやすくなりますもんね。

萌さん この本は税理士事務所界隈では結構評判のいい本なんだけど、個人的にはあとがきに書いてある“執筆動機”がグッとくるのよねぇ。

カッキー ほう。

萌さん 筆者が最初に入所した税理士事務所は正社員16人ほどの事務所で、10人くらいの先輩は勤続年数が長いんだけど、下の6人は入ってはすぐに辞めていく状態だったんですって。

カッキー ほうほう。

萌さん というのも、所長や先輩が忙しくて教えることが出来ず、でも新人であっても求められる税務のレベルは高く、給料は低く、残業は多い。だから挫折して、1年も耐えられずに辞めていく――。

カッキー うーん、厳しい業界なんですね。

萌さん 新人教育がどれくらい充実しているかは、事務所によって違うからね。だから筆者は、「あの頃の自分と同じ境遇の後輩たちが、3年を耐えるための本を書きたい」と思ったんですって。

カッキー なるほど、こういう本を出すことで挫折する人を減らせたら素晴らしいことですね。でも、やっぱり税理士事務所で働くのは大変そうですね……。僕はこの本を読んで、税理士事務所へ転職した気分だけ味わうことにします。

萌さん アンタ、挫折するのが早すぎるのよっ!

[『TACNEWS』2022年7月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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