読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #14

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかった
お金に支配されない13の真実


『MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかった お金に支配されない13の真実』

 著者  :クラウディア・ハモンド
 出版社 :あさ出版
 初版  :2017年

カッキー 萌さん、僕、友達とか親戚からお金の専門家として相談を持ち掛けられることが多いんですけど、アドバイスすると大抵ガッカリされちゃうんです。どうしてなんでしょう。

萌さん あー、それはつまり、監査で指摘するようなノリでやっちゃうからなんじゃないの。相手が求めているものと違うんじゃない?

カッキー なるほど……どうしたらいいでしょうか。ガッカリされるとやっぱり傷つくんです。

萌さん うん、だからさ、カッキーにそうした“気持ち”があるように、相談する人にもお金の相談事に絡んだ“気持ち”があるわけじゃない。そこを気を付けてみたら?

カッキー ええ~、お金の話に感情を入れたら、冷静な判断ができないじゃないですか。

萌さん そんなカッキーにおすすめの本があるわよ。『MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかったお金に支配されない13の真実』。

カッキー あ、この本知っています。数年前にはやったやつですよね。

萌さん そう。で、メンタリストDaiGoさんのYouTubeで参考書籍として何度も取り上げられたから、今また人気になっているのよ。

カッキー へえ~、じゃあメンタリスト的っていうか、心理学の話なんですか?

萌さん ん~、たしかに著者はイギリスの女性人気心理学者なんだけど、心理学だけじゃなくて、神経科学とか行動経済学とか、あらゆる角度から書かれている感じね。

カッキー 面白そうですけど……正直、僕、お金に支配されていると思ったことないんですけど。

萌さん じゃあさ、カッキー。1994年にイギリスのあるアーティストが1億6千万円分のお札を燃やすパフォーマンスをしたんだけど、どう思う?

カッキー 全部燃やしたんですか!?

萌さん そうよ、灰になるまでね。

カッキー うーん。芸術なのかもしれませんが、なんだか不快になるというか、腹立たしいですね。

萌さん でしょ? 単に紙を燃やしているだけなのに、嫌悪感があるわよね。実際に当時のイギリスでも、めちゃめちゃ世間の反感を買っているわ。

カッキー そうでしょう、そうでしょうとも。

萌さん 認知神経学者の研究によると、人は偽札を破る様子を見ても何とも思わないけど、本物が破られると不快に感じるそうよ。

カッキー ほう。

萌さん その際の脳の働きをスキャンしてみたんだって。すると、脳の活性化された部位から察するに、人が不快に感じたのは、紙幣が物理的に破損されたからではなく、失われた潜在能力を思ってやりきれなかったからなの。

カッキー そのお金があったらもっと有意義な使い方ができたのに、ってことですね。他人のお金なのに、不快に感じるのは不思議ですね。

萌さん 他のモノと違って、お金にはどうしても特別な感情が湧くということね。「お金に支配されない」っていうよりも、人間とお金の強烈なつながりを分析する本って考えてみて。

【目次】

Prologue 100万ポンドを燃やした夜

Chapter1 人とお金の関係はいつから始まるのか?

Chapter2 お金への愛着について

Chapter3 心の会計と銀行の会計

Chapter4 一度つかんだら離さないワケ

Chapter5 価格に適正はあるか?

Chapter6 お金でやる気は引き出せる?

Chapter7 賞金とお礼

Chapter8 お金はいくらあっても困らない?

Chapter9 貧困がもらたすもの

Chapter10 お金のダークサイド

Chapter11 お金と善意と幸福と

Chapter12 お金が貯まる心の持ち方

Chapter13 お金を使う喜び

萌さん ビジネスに関する章だと『Chapter5 価格に適正はあるか?』が面白いかな。

カッキー 価格が適正かどうかって、商品によって違うというか、人によって違うんじゃないですか?

萌さん それが、それだけじゃないのよ。ある心理学者の実験なんだけど、「6歳の女の子が屋台で自家製レモネードを売っている。値段は1~3ドルの間でお客が自由に決められる。その看板の文章の違いで、通行人が足を止める頻度と支払う金額がどう変わるか」というのをやってみたの。

カッキー 面白そうですね。

萌さん 1回目の文章は「少しの時間を使って、C&D(女の子の名前の頭文字)のレモネードをお楽しみ下さい」。2回目は「少しのお金を使って、C&Dのレモネードをお楽しみ下さい」。3回目は「C&Dのレモネードをお楽しみ下さい」。

カッキー 時間か、お金か、超シンプルか、の違いですね。どうなったんです?

萌さん 「時間」の場合の価格は平均2.5ドル。一方、「お金」は1.38ドルだった。

カッキー 差が付きましたね……。

萌さん 足を止めた人数も、「時間」のほうが「お金」の倍だったの。超シンプルな看板の時は、価格も人数もだいたいふたつの中間だったそうよ。

カッキー つまり、「お金」を前面に出すと人はドン引きする、ということですか。

萌さん 逆に「時間」という言葉を使うことで、血の通わない金銭取引ではなく、女の子による“おもてなし”になったんじゃない? 同じ商品でも、同じ人でも出す金額が変わる好例ね。つまり、人の適正価額の認識というのは、感情によって簡単に変わる、ということじゃないかしら。

カッキー たしかにそうかもしれませんね。

萌さん こういう実験がこの本ではたくさん紹介されているんだけど、この本の良いところは、それを元に「お金とつきあうヒント」も紹介されている点なの。

お金とつきあうヒント

人は死を思うとき、お金を使うことより持っていることで慰められる。

クレジットカードで何かを買う時、ATMで同じ金額を引き出すところを想像する。そして、キャッシュで支払ってもいいと思える時だけカードで支払うようにする。

頭痛が本当に辛いなら、痛み止めは割高なブランド薬を買う。安いジェネリックと成分は同じと分かっていても、そっちの方が実際に効き目が早いことがある。

フリーマーケットや何かの屋台を出す時は、看板に「少しの時間を使って下さい」と書く。そうすればお客の適正価額の認識が変わり、売上も上がるはずだ。

割引がパーセントで表示されている時は、ちゃんと計算して金額を把握する。決して相対思考にだまされてはいけない。

11 インセンティブで子供の成績を上げたいなら、具体的な課題を達成することにお金を払い、課題のやり方を明確にする。単に良い成績にお金を出すのは間違い。

13 寂しい時、物質主義に走ってお金で心の穴を埋めようとしても少しも幸福にはならないが、ささやかな贅沢を楽しむことで幸福を感じることならある。

(本文から一部抜粋)

カッキー 資格受験生は気になると思うんですけど、「11」の成績を上げたいなら良い成績にお金を出すのは間違い、ってどういうことなんですか? お金のために勉強を頑張れ、っていうニンジン作戦はダメってことですよね。いい方法だと思うけどなあ。

萌さん これはアメリカの5都市に住む小中学生にお金を与える実験なんだけど、お金がもらえる基準は地域ごとに次のように違っていたの。
・テストで良い点数をとる
・勉強時間
・素行、出席、宿題提出で高い評価を得る
・指定図書から好きな本を読む
といった感じでね。

カッキー テストで良い点数を取ったらお金がもらえるなんて、モチベーションが上がりますよね。これが一番効果がありそうですね。

萌さん ううん。効果があったのはそれじゃないわ。

カッキー えっ。

萌さん “読書”にお金を出した都市だけ、テストの成績が上がったの。あとは全部いまいち。

カッキー えーっ、そうなんですか。まあでも、読解力は全ての勉強の基礎ですから、大事だってことですよね、うんうん。

萌さん あとさ、読書って、他と違って努力すれば誰でも達成できるじゃない。ここがポイントなのよ!それならみんな取り組んでみようと思うでしょ?

カッキー たしかに、他は高い評価を得た子供しかお金がもらえませんね。そもそも自分には無理だと思った子はやらない。

萌さん うん。つまり、課題が具体的で、明確で、自分の努力次第でどうにかなるような内容じゃないと、人はたとえお金が絡んでも動かないってことなんでしょうね。こういった心理学は、受験勉強にも取り入れることができるんじゃないかしら。いつか得られるお金を目指して、というよりも、いま達成できそうなことを具体的に目標にしていくとかね。

カッキー そうですね。僕もお金に対する人の気持ちをこの本で学んでから、お金の相談に乗ることにします!

[『TACNEWS』2021年7月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

YouTubeはこちら
Twitterはこちら